なんでも探偵部!

きとまるまる

文字の大きさ
上 下
181 / 330

181話「恋は知らないうちにやってくる③」

しおりを挟む

 部活を終え、帰りの支度を始める女子部員たち。狗山は帰る準備を始めることなく足早にコート内に立つと、手にしているラケットを新沼めがけてビシッと強く向ける。


狗山「よーし! 勝負だ、このやろぉ!」

新沼「はぁ...いつになったら勝てないって気づいてくれるのかな?」

狗山「うるせぇ! さっさとコートに立つっす! やるっすよ!!」

新沼「はいはい、わかったわよ。」


 新沼は小さなため息を吐き出しながらも、狗山の待つコート内へと歩を進めていく。綾小路はその姿をいつものごとくジッとニコニコと幸せそうに見つめている。


綾小路「あぁ、やっぱり咲ちゃんは可愛いなぁ...!」

綾小路(はっ!? いやいやいや、違う違う違う! 今日は、咲ちゃんを好きな人としてみるんじゃない! バドミントンが上手い人として見るんだ! そうすればきっと、さっき言ってた方向性がどうとかの答えがわかるはず...!)

綾小路「よ、よーし...!」


 綾小路は軽く自身の頬を両手で叩き、足早に体育館の二階へと駆け出していく。



ーーー



 十数分後、体育館内。二階席へと移動した綾小路は、瞬きすることなくジッと新沼たちのラリーを見続けている。


綾小路「す、すごい...!」

綾小路(いつも咲ちゃんしか見てなかったからわからなかったけど...咲ちゃん、さっきからラインギリギリに打ち分けてる...! すごいコントロールだ...!)

狗山「まだまだぁぁぁ!」

綾小路(狗山ちゃんは、どこに飛んでもすぐ追いついて全部返してる...! 僕だったら、絶対に追いつけないよ...!)


 狗山から返されたシャトルを、新沼はふわりと天高く打ち上げる。狗山はニヤリと笑みを浮かべ、シャトルを目で追いながら素早く落下地点へとステップを踏んでいく。


狗山「どりゃぁぁぁぁぁ!!」

綾小路(狗山ちゃん、スマッシュ速っ!? 男子と同じくらいじゃないか!? 僕とは比べ物にならないくらい速いよ...! いいなぁ、僕もあんなスマッシュしてみたいよ...。速くて力強いスマッシュを打つためには、どうしたらいいんだろ?)

狗山「よっし!」

新沼「ワンちゃん、息上がってるけど大丈夫? ペース落としてあげようか?」

狗山「うるせぇ! まだまだ全然余裕っすよ!」

綾小路(...スマッシュの打ち方も気になるけど...咲ちゃん、さっきからわざとスマッシュを打たせてる気がする...? なんでだろ...?)


 またも長いラリーが始まる。狗山はどれだけ左右上下に揺さぶられようと、諦めることなく足を動かしシャトルを拾い続ける。


綾小路(狗山ちゃん、ホントすごいなぁ...。どれだけ左右に打ち分けられても、全部拾ってる。あんなに動いて疲れないのかな...? でも、相手もあんなに打ち返されたら嫌だろうなぁ...僕だったら途中で絶対にミスしちゃうよ。)

綾小路(...粘って粘って相手のミスを待つ......力強いスマッシュで勝つってのもカッコいいけど、そういう戦い方もカッコいいよな。泥臭く、ど根性魂!みたいな? なんだかんだ、僕はきっとそういう戦い方の方が合うんだろうなぁ...男としては、力強い方に憧れるんだけども。)

綾小路(粘って粘って勝つ...それだと、狗山ちゃんみたいに常に動き続けないといけない。今以上に体力をつけなきゃ話にならない。もっと走り込まないと...。)

綾小路「...そうか、そういうことか!」

綾小路(咲ちゃんたちは、自分の戦い方を知っているんだ。だから、どの練習を一番しなきゃいけないか、自分の伸ばさなきゃいけない部分をよく知っている。だから強いんだ、勝てるんだ!)

綾小路(それに比べて、僕はなにも知らない。ただ与えられたものをやってるだけ。自分がやらなきゃいけないことをわかってない。だから弱いんだ。)

綾小路(方向性って、そういうことか。自分がやりたいことをまず決めて、練習するんだ。ただ強くなりたいんじゃない、どう強くなりたいかを決めて...!)


綾小路(M)僕がバドミントン部に入部した理由...それは、咲ちゃんがいたから。ただ、それだけ。

綾小路(M)そんな僕が、咲ちゃんではなく、咲ちゃんの試合を見ている。バドミントンの試合を見ている。コートギリギリに落ちていくシャトルを、ラケット捌きを、足の動きを、力強いスマッシュを。


狗山「あっ、やべ...!」


 体勢を崩しながら無理やり打ち返したシャトルは天高く打ち上がり、力なくフワフワと相手コート内へと落ちていく。
新沼はシャトルから目を離すことなくスッと落下地点へとステップし、膝を軽く曲げ飛び上がる。


綾小路(スマッシュだ...!)


 新沼は、構えたラケットをシャトルめがけ勢いよく振りぬくーーー


綾小路「え...!?」


 ラケットとシャトルが当たる寸前に、新沼はピタリと腕を止め、振り下ろすことなく軽くシャトルを打つ。コツンと力無い音を発したシャトルは勢いなくネットを超えると、ふらふらとそのままコート内へと落下していく。


狗山「だぁぁぁぁ!!」


 力強いスマッシュが来ると構えていた狗山は、慌てて力なく落ちていくシャトルに腕を伸ばすが届くことはなく、体勢を崩し前のめりに倒れ込んでいく。


狗山「ちくしょぉぉぉ!! いつもいつも騙されるっす! いい加減に学習しろ、俺!!」

新沼「ふふふっ、いい眺め...♡ ワンちゃん、そのまま待てしててね。写真撮るから。」

狗山「誰が待つか! つーか、撮んなっす!!」

綾小路「す、すごい...! スマッシュするかと思ったのに...僕もまんまと騙された...!」

綾小路「咲ちゃん...すごく、カッコいいな...!」

綾小路(僕も、あんな風に...!)


綾小路(M)咲ちゃんを見てると、いつもドキドキする。

綾小路(M)でも、今日はいつもとは違うドキドキだった。

綾小路(M)今は、バドミントンがしたくてたまらない。

綾小路(M)あんなすごい試合を見て、熱くならないわけがない。

綾小路(M)今日、気づいたこと...僕は、咲ちゃん以外にも好きなことがあった。そして...咲ちゃんは、可愛いだけではないってこと。
しおりを挟む

処理中です...