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182話「恋は知らないうちにやってくる④」
しおりを挟む部活動を終え、着替え終わった新沼たちが部室から出てくる。
狗山「んじゃ、部室の鍵返してくるっすね。」
新沼「いつもいつもゴメンね、ワンちゃん。」
狗山「うるせぇ! 次こそは絶対に勝つからな! 覚えてろよ!」
新沼「負け犬の遠吠えだね。」
狗山「ぐぬぬぬぬ...!! 帰る前に、もうひと試合するっすよ!」
新沼「嫌よ、めんどくさい。早く鍵返しに行って。校門前で待ってるから。」
狗山「ぐぬぬぬ...!!」
ギリギリと歯を食いしばり悔しさを噛み殺しながら、狗山は職員室へと駆け出していく。
綾小路「咲ちゃーーーん!!」
新沼「うわっ...なによ?」
綾小路「あの、これ! 飲み物一つダメにしちゃったからさ! 同じやつを買ってきたんだ!」
新沼「は?」
綾小路「頭にぶつけたやつさ!」
新沼「あぁね。それ、あんたの指紋ついてるじゃん。いらない。」
綾小路「えぇぇぇぇぇぇ!? そ、そんなぁ...!」
新沼「...今、喉乾いてるから貰ってあげるわよ。」
綾小路「う、うん! あ、あと、咲ちゃんに聞きたいことがあるんだ!」
新沼「なによ? くだらないことなら、ぶっ飛ばすからね。」
綾小路「ドロップショットのコツを教えてくれないかい!?」
新沼「...は?」
綾小路「咲ちゃんのドロップショット、あれホントすごいよね! スマッシュするかドロップするかの、あれ! 僕も、あれをできるようになりたいんだ!」
新沼「あんたにできるわけないでしょ。」
綾小路「そんなこと言わずに! お願いだよ、咲ちゃん!」
新沼「無理無理、あんたには一生かかってもできないから。」
綾小路「そ、そっか...。じゃあ、狗山ちゃんみたいに力強いスマッシュを...いや、でもなぁ...。」
新沼「...珍しいわね。あんたが私以外の話するなんて。」
綾小路「え? あぁ、うん。今日、咲ちゃんと狗山ちゃんの試合見てたんだけどーーー」
新沼「は? きも。」
綾小路「そ、そんなこと言わないでくれよ、咲ちゃんんん!!」
新沼「んで、見ててなによ?」
綾小路「...すごくカッコいいなって思ったよ。」
新沼「...え?」
綾小路「可愛いと思ってた咲ちゃんが、すごくカッコよく見えたんだ! 僕も、咲ちゃんみたいにバトミントンが上手く、カッコよくできるようになりたいなって思ったんだ!」
新沼「......。」
綾小路「僕、咲ちゃんに一目惚れしてバドミントン部に入ったんだけど、今は...というか、最近すごくバドミントンが楽しくてね! 僕は、咲ちゃんはもちろん、バドミントンも好きなんだなって思ってさ! 今は、すごくバドミントンがしたいんだ! 僕も、早く咲ちゃんみたいになりたいよ!」
新沼「ふーん。まぁ、頑張って。」
綾小路「待っててね、咲ちゃん! 僕も咲ちゃんみたいに強くなって、咲ちゃんと試合ができるように...あぁ、そうだ! 話が急に変わるんだけどさ、今度の夏祭りーーー」
新沼「私、傑先輩と一緒に行くから♡ ごめんね♡」
綾小路「そ、そんなぁぁぁぁ!! ま、間宮 傑めぇぇ...! 絶対に許しはしないぞぉぉ...!! 絶対の絶対の絶対にぃぃぃ...!!」
新沼(あとで傑先輩に連絡しなきゃ。)
新沼(...傑先輩は、今なにしてるんだろう? 夏休みだから、全然会えないのは当たり前なんだけど...。)
新沼(......会いたいなぁ。)
新沼(......。)
新沼(...なんか、寂しいって思っちゃう。あーあ、やっぱり私...。)
綾小路「な、なんでだ...? なんで僕がこんなにも愛しているのに、咲ちゃんは...!?」
新沼「あんた、ほんと私のこと好きだよね。」
綾小路「当たり前さ! さっきも言ったけど、僕がバドミントン部にいる理由は、君がいるからさ!!」
新沼「はいはい。」
新沼「...あんたさ、私のことどんくらい好きなの? 100点満点中何点くらいなの?」
綾小路「もちろん、100点さ!」
新沼「...だから、あんたは私を振り向かせられないのよ。」
綾小路「え?」
新沼「私、傑先輩のこと...200点くらい好きだから。」
綾小路「えぇぇぇぇぇ!? それは、100点を超えてるじゃないか!!」
新沼「うん、超えてるけど? そんくらい好きなの。」
綾小路は悲しみのあまり、口から噴水のように血を噴き出す。
新沼「あんたが私のこと好きな倍、私は傑先輩が好きだから。私を振り向かせたかったら、それ以上に好きになりな。」
綾小路「ま、任せてくれ、咲ちゃん...! 僕は、必ずやーーー」
新沼「まぁ、そうなったらさらにその倍、私は傑先輩のこと好きになるけどね~。」
綾小路の口から、さらに血が溢れ出す。瞳からは涙も溢れ出し、力なくその場に前のめりに倒れていく。
新沼「んじゃ、頑張ってねぇ。おバカな綾小路くん。ばいば~い。」
新沼は舌を少し出し小悪魔のように微笑むと、軽く手をひらひらと振り、背を向けて歩いていく。
綾小路「ち、ちくしょう...間宮 傑め...! 僕は、絶対に負けないぞ...!! 必ずや、貴様から咲ちゃん...を...!! がくりっ...。」
ーーー
新沼「はぁ...なに言ってんだか、私は...?」
校門へと向かい歩く、新沼。綾小路に言った言葉を思い出しながら、頬を赤らめ頭を軽く左右に振る。
新沼「...あっ、そうだ。傑先輩に連絡しなきゃ。」
新沼「......恋人でもないのに、夏祭り一緒に行ってくれるかな? 綾小路絡みって言えば、優しいから来てくれるか。」
新沼「...その優しさが、好きなんだなぁ...。」
新沼「......な、なんか、急に恥ずかしくなってきた...! 綾小路が後ろからついてくるわけじゃないし、別に行かなくてもいいか。やっぱり誘うのも...。」
新沼「......。」
新沼(M)私は、傑先輩と同じ学年でもなければ、部活も違う。だから、何かしら理由がないと彼には会えない。彼と会わないまま、卒業を迎えることだって、あり得るんだ。
新沼(M)傑先輩と、もう会わない。そう思ったら、胸がキュッと締め付けられたような気がした。すごく苦しくなった。寂しくなった。私は、私が思っていた以上に、彼のことを好きになってしまっていた。
新沼「......。」
新沼は、顔を真っ赤に染めながらも、スマホを取り出しメッセージを打ち込んでいく。いつもの何倍も遅く、一文字一文字ゆっくりと。
新沼「......そ、そ、そそそそそ...送信...。」
新沼「...な、何やってんだろ、私...? お祭りに誘うって、積極的すぎない...?」
新沼「......ん? 積極的? 待て待て待って。もしかして私...今、綾小路と同じ...? あいつみたいに、積極的...ダメダメダメ! それは絶対にダメ! ウザい奴だと思われる! ってか、急にお祭り行きませんか?って、どうしたの?って聞かれるよね!? どうしよう!? あっ、綾小路に...って、なんかアイツを使って会う理由作ってるみたいで、それはそれでなんか嫌!! あぁぁぁぁ、どうしようどうしようどうしよう!? って、もう返信き...た...。」
新沼「......!」
狗山「お待たせっす、新沼。」
新沼「いやぁぁぁぁぁ!?!?」
狗山「んぎゃぁぁぁぁ!?!?」
新沼「きゅ、急に声かけないでって言ってんでしょうが!!」
狗山「そんな驚くことでもないだろうが! やめろよ、めちゃくちゃビックリするっすよ!」
新沼「う、うるさい! バ、バカ! バーカ!」
狗山「...新沼、なんかあったんすか?」
新沼「な、なによ!? なんなのよ!?」
狗山「いやだって、顔真っ赤...というか、なんかニヤけてないっすか?」
新沼「は、はいぃ...?」
狗山「なんか嬉しいことでもあったんーーー」
新沼「な、ななな何もないわよ、このバカワンちゃんがぁぁぁ!!」
狗山「何もないなら、手を出す...んぎゃぁぁぁぁぁぁ!?!?」
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