なんでも探偵部!

きとまるまる

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220話「夏と恋と祭りと花火〜新沼編〜①」

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 とある夏の日、新沼家。
仕事が休みである新沼 咲の兄、大輝だいきは、自室で椅子に腰掛けアルバムを眺めている。

思い出がたっぷりと詰まった、眺めるだけで自然と頬が緩んでしまいそうになる品にも関わらず、仕事をしていると勘違いされるほどに真剣に、真っ直ぐジッと貼られた写真を一枚一枚見つめている。


新沼「ねぇ、お兄ちゃん。」


 部屋にノック音が響くとほぼ同時に、妹である新沼 咲が部屋の中へと入ってくる。


大輝「どうした、咲? 俺の部屋に来るなんて珍しいな。」

新沼「...なに、それ?」

大輝「ん? なにが?」

新沼「今、手にしてるやつ。」

大輝「これ? 見てわかるだろ? お前の成長記録。」

新沼「せっかくの休みに何してんのよ。マジでキモい。」

大輝「キモくないだろ。妹の成長を振り返らない兄がどこにいる? で、なに?」

新沼「あのさ、私の浴衣ってどこにあるか知ってる?」

大輝「浴衣? 浴衣なら、クローゼットの中にあるぞ。」

新沼「どこのクローゼット?」

大輝「俺の部屋の。」

新沼「なんで妹の浴衣が兄のクローゼットにあんのよ? まじキモいんだけど。」

大輝「だから、キモいって言うな。」

新沼「このキモ兄貴が。クローゼット開けるよ。」

大輝「おう。」


 いつものごとく重たい愛を大きなため息で吹き飛ばし、新沼 咲はクローゼットを開ける。

兄の言うように、ほんの数回程度だが目にしたことのある浴衣が中に掛けられている。が、新沼 咲の視線はその浴衣には行かずーーー小さい頃から一度も目にしたことのない浴衣が数着。真っ白なワンピース。花柄のスカートに童貞を◯すと言われる大胆に背が空いたセーターなどなど、兄が着る物とは思えない品々がクローゼット内にこれでもかと掛けられている。


大輝「ん? どうした? 浴衣なら数着あるだろ?」

新沼「...お兄ちゃん。」

大輝「なに?」

新沼「女装趣味あるの...?」

大輝「はい? あるわけないだろ。」

新沼「じゃあ、なによこれは...?」

大輝「咲が着たら可愛いな!と思って買いに買ったけど、全然着てくれないから行き場を失ったものたちだ。可哀想だと思うなら、着てくれないか?」

新沼「着るか、バカ。ってか、ずっと前に言ったじゃん。お兄ちゃんが買った物は着ないって。数着見たことあるやつあるけど...これも、これもこれも見たことない...。もしかして、あれからまだ買ってんの?」

大輝「いや~買わないように買わないようにって思ってんだけど...あっ、そのセーターおすすめよ! 一回でいいから着てくれない!?」

新沼「このセーターでお前の首を絞めてやろうか? あぁもぉ...なんでこんなクソ変態兄貴の妹として産まれてしまったんだろ...?」

大輝「俺はこんな可愛い妹の兄として産まれてきたことに、誇りを感じているよ...!」

新沼「キモい、死ね。自分の服どこなの...?」

大輝「端っこにあるだろ。」

新沼「...え? たったこれだけ?」

大輝「まぁ、スーツありゃ仕事行けるし。休みの日も、出かけることそんなないし。」

新沼「あのさ、私の服買わずに自分の服買いなよ。」

大輝「馬鹿野郎! 自分のことより可愛い妹のためにお金を使うのが、兄貴ってもんだろうが!」

新沼「まじキモい。こんなクソキモ兄貴がいて、可哀想な妹だなと思わないの?」

大輝「こんなに愛されて良かったねって妹に伝えたい。こんなに愛されて良かったね!」

新沼「......。」

大輝「咲~? 無視はいけないと思うぞ~?」

新沼「うーん...どれにしようかなぁ?」

大輝「どれもこれも、お兄ちゃんのおススメだぞ! どれ着ても可愛いと思うぞ! というか、なに!? とうとう着る気になってくれたの!? お兄ちゃん嬉しいなぁ~!」

大輝「......ん? 咲、着るの?」

新沼「着る気ないなら、浴衣どことか聞かないわよ。いちいちわかりきったこと聞くな、キモ兄貴。」

大輝「......。」

新沼「うーん...どれがいいとか、よくわかんない...。仕方ない...クソキモお兄ちゃん、どれが似合ーーー」


 大輝は机を力強く叩き、勢いよく立ち上がる。


新沼「え? な、なに...?」

大輝「買い物行ってくる。」

新沼「は? どこいくの?」

大輝「マルバツデンキ。」

新沼「なにしにいくの?」

大輝「最新のカメラ買ってくる。」

新沼「まじキモいんだけど。ほんとやめて。」

大輝「いってきます!!」

新沼「だから、マジでやめ...って、話を聞け!! もぉぉぉ、なんであんなにキモいのよぉぉぉぉ!!」
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