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228話「夏と恋と祭りと花火〜北台編〜③」
しおりを挟む時刻は20時30分を過ぎた頃ーーー祭りに来ている大半の人たちは、視線を屋台から夜空へと切り替えており、夏祭りのメインイベントを今か今かと待ち望んでいる。
西田「時間的に、もうすぐだね。」
北台「そ、そうだね。」
北台「...ね、ねぇ、聖也くん...。」
西田「北台さん。」
北台「え? な、なに?」
西田「頑張らなくていいよ。」
北台「え?」
西田「頑張らなくていいよ。僕のことは、気にしないでいいんだよ。」
西田「北台さん、僕たちがやってるのは、どっちが先に振り向かせられるかっていう勝負なんだよ? それなのに、北台さんは僕の手伝いをして、自ら負けようとしてない?」
北台「ま、負けようとはしてないよ! で、でも...。」
西田「勝負事はさ、真剣にやろうよ。そうしてもらえるのは、僕としてはすごく嬉しいことなんだろうけど...自分がもし北台さんと同じ立場になった時、同じことは出来ないと思う。苦しくて、辛くて、出来ないと思う。」
西田「北台さんには、辛い思いしてほしくない。だから、手伝いっていうのかな...そういうことは、しなくてもいいよ。」
北台「...聖也くんって、ホントに優しいよね。」
西田「北台さんほどじゃないよ。それに、僕のは優しさとかじゃなくて、後で「あの時に手伝ってなかったら...」とかいう言い訳を聞きたくないだけだからさ。」
北台「そ、そんな言い訳しないってば!」
西田「だから、北台さんは僕じゃなくて、自分のために頑張って。」
北台「...聖也くん。」
西田「なに?」
北台「後で後悔しても、知らないからね?」
西田「うん。わかってるよ。」
北台「それじゃあ、私は私のために色々と頑張ります! って、ことで~願い事はなににしようかなぁ~?」
西田「願い事?」
北台「おやおや、忘れたとは言わせませんよ~! スーパーボールすくい!」
西田「...あっ。あ、あれはさ、隣の子どもがぶつかってきたからーーー」
北台「あれれ~? もしかして、言い訳するんですか~? あの、西田 聖也さんが~?」
西田「うっ...! ぼ、僕の出来ることじゃないと、さすがにやらないからね?」
北台「わかってるわかってる! そんな難しいことは願わないから!」
西田「それならいいけど...。」
北台「...手。」
北台「手...繋いで。」
北台「夏祭りが、終わるまで。」
西田「......。」
北台「期待させちゃうかもとか、そんな優しいこと思わなくていいよ。というか、そんなこと考えてる余裕があるのかな?」
西田「え?」
北台「これは、私からの攻撃だよ、聖也くん。張間のことが、好きで好きでたまらないのなら、私と手を繋いだところでなんとも思わないよね? それとも、私と手を繋いだら私にコロッと落ちちゃうのかな?」
北台「この程度で、聖也くんの気持ちが揺らぐのであれば、繋がなくてもいいよ。私、優しい子だから見逃してあげる。」
北台「どうするの、聖也くん?」
西田「...これはちょっと、ズルくない?」
北台「知らないの、聖也くん? 女の子って、ズルい生き物なんだよ? だから、私にも、張間にも、気をつけなきゃだよ?」
西田「...これは、僕が後々後悔することになりそうだよ。」
北台「あのまま手伝わせればよかった...って、言わせてあげる。」
西田「あははは...。そうならないようにも...改めて見せるよ。僕が張間さんのこと、どれだけ好きか。」
北台「見せられたって、私は止まらないからね。あなたのこと、大好きだから。」
北台(M)手を繋ぐ。花火が打ち上がる。大きな音を響かせて。
北台(M)その音に負けないくらい、私の心臓も響きだす。
北台(M)次々と打ち上がる花火...それに負けないくらい、大きく大きく鼓動する。
北台「...聖也くん。」
北台「終わるまで、離しちゃダメだからね。」
北台(M)ギュッと握った手を緩ませ、私は指を絡ませていく。一本一本、ゆっくりと。
北台(M)ただ手の握り方を変えただけなのに...たったそれだけのことなのに、私の鼓動は早くなる。ドクンドクンと、大きく響きだす。
北台(M)夜空を彩る、無数の花火。止まることなく打ち上がり続ける、無数の花火。でも、どれもこれも、あの子もあの子も...音を発さず無音で咲く。ドクンドクンという音だけが、私の耳に届く。
北台「...大好きだよ、聖也くん。」
北台(M)無音の花火が、夜空に咲く。
北台(M)聖也くんも、聞こえてないといいな。花火の音...さっきの言葉。
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