なんでも探偵部!

きとまるまる

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249話「恋の魔法は、とっても強い」

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 夏休みも終盤に差し掛かり、宿題をサボっていた生徒たちが慌ただしくなり始めた頃ーーー宿題などとっくに終わらせた新沼 咲は、リビングのソファーに背を預け、つまらなさそうに再放送されているドラマを眺めている。


新沼「...はぁ...暇...。かといって、テスト勉強はしたくないし...なにしようかなぁ?」


 テレビから視線を外し、スマートフォンを手にする。慣れた手つきでよく使用するメッセンジャーアプリを開き、トークと表示されている画面を下へとスクロールする。


新沼「...こんな時、傑先輩と会えればいいんだけどなぁ。」


 スクロールを止め、傑先輩と表記されているアイコンをタップし、トーク画面を開く。

海へ行った後のお礼のやりとりで途切れてしまっている、好きな人との会話ーーー更新されることのない画面を見つめながら、再度大きなため息を吐き出す。


新沼「あぁ~...なんでこんな好きになっちゃったんだろ...? 休みの日まで考えてるとか、流石にちょっと重すぎない...?」


 ソファーに置かれているクッションを抱き抱え、もう一度スマホの画面を眺める。

いくら下へとスクロールしても、会話の続きが出てくるはずもなく、どれだけ眺めていても相手からメッセージが飛んでくるはずもなくーーー新沼はクッションを抱き抱えたまま、横へとゆっくり倒れていく。


新沼「...スタンプだけ送ろうかな? いや、構ってくださいアピールしてるみたいでなんか嫌だな...。でも、そうでもしないと...。」

新沼「...もう、会う理由も無くなっちゃったし...。」


新沼(M)傑先輩と会う理由...それは、恋人ごっこをするため。綾小路を遠ざけるため。

新沼(M)でも、もうそれは通用しない。綾小路にバレてしまった以上、もう恋人ごっこをする理由もない。バレてしまった以上、傑先輩の近くにいてもなんの意味もない。

新沼(M)もう、彼のそばにいる理由は、無くなってしまったんだ。


新沼(会いたかったから...!なんて理由は恥ずかしすぎて無理だし、そんなしょっちゅう探偵部に顔出す理由もないし...。)

新沼「このまま、会わないなんてことも...あるのかな...?」


新沼(M)私と傑先輩は、学年も違えば部活も違う。もし私があの時探偵部に行かなければ、傑先輩のこと知らずに卒業してたと思う。それくらい、私たちは普段会うことはない。なにかしらの理由がない限り、彼と会うことはないんだ。

新沼(M)だから、なにか理由を作りたい。彼に会うための...彼に会わなければいけない理由を...大好きな人に、会う理由が...。


 ジッとスマホの画面を睨みつけ、必死に会うための理由を探す。

考えても考えても全く浮かんでこない、会う理由ーーー


新沼「...ん?」


 睨みつけていた画面が急に動き出し、見たことのない文章が表示される。

突然送られてきたメッセージに目を通すことなく、新沼は驚きのあまりスマホを床に落とす。


新沼「なになになに!?なんで!? え、なに!? 私、なんかしたっけ!? ってか、開いてたから一瞬で既読付いちゃったんだけど!! 最悪!めちゃくちゃ最悪!! 既読早っとか絶対思われてる!」


 突然の出来事にプチパニックを起こす、新沼。大きく深呼吸を三回ほど繰り返すと、素早くスマホを拾い上げメッセージへ目を通す。


間宮[咲ちゃん、今いいかな]


新沼「な、なんなんだろ...? 全然わかんない...。なんかあったのかな...?」



新沼[はい、大丈夫ですよ]

間宮[ありがと。聞きたいことがあってね]

間宮[この前、海行った時さ、綾小路くんに恋人のフリしてるってバレたじゃん?]

間宮[その件なんだけど、これからどうするのかな?って思って]



新沼「......。」


 画面をジッと見つめ、返信内容を考え込む。

しかし、文字は打ち込んでは消え、打ち込んでは消えをただひたすらに繰り返す。


間宮[急にごめんね。こんなこと聞いて]

間宮[あれ以降、綾小路くんから「貴様には、絶対に負けん!」みたいなメッセージが届くようになったから、どうしようか悩んでて...]



新沼「あ、あいつ...! 傑先輩に迷惑かけるなって言ったのに...!」



新沼[ごめんなさい、色々と巻き込んでしまって...。綾小路には、私からキツく言っておきます]

間宮[いやいや、特に気に障るようなことじゃないからさ。これで綾小路くんがスッキリするなら、別にいいかなって]

間宮[ただ、なんて返信すればいいのかよくわかんなくて放置しちゃってるから...。あと、僕から本当は付き合ってないって言ってもいいのかな?って思ったから、咲ちゃんに聞いてみました]

新沼[とりあえず、綾小路の件はそのまま無視でも大丈夫だと思います。傑先輩の言うように、送ってスッキリしてると思うので返信不要だと思います]



新沼「......。」



新沼[恋人ごっこの件も、バレちゃったので今日限りで終わりで大丈夫です。傑先輩からも、何かあったら付き合ってないって言ってもらって構いません]

新沼[長々とめんどくさいことに付き合わせてしまって、本当にごめんなさい]



新沼「...これで、会う理由はなくなっちゃった...。」

新沼「......。」



間宮[めんどくさいなんて思ってないよ。アレのおかげで咲ちゃんと仲良くなれたんだし、僕にとってもすごく良いことだったと思う]

間宮[恋人のフリはしなくなるけど、これからも変わらず仲良くしてくれると嬉しいな]

新沼[それはもちろんです。私の方こそ、よろしくお願いします]

間宮[また何かあったら遠慮なく言ってね。僕に出来ることならなんでもするからさ]

新沼[はい、頼りにしてます]



新沼「...これで、終わりかな? あぁ...どうしよう...?」


 クッションに顔を埋め、落ち込む新沼。

会う理由を見つけることができず、会話も終わりを迎え...新沼は顔を埋めたまま、もう一度ゆっくりと横に倒れていく。

何も言葉を発さぬまま、数分の時が過ぎていくーーーと、落ち込む新沼の耳に、テンション上げろよと言わんばかりの明るいポップな曲が流れ始める。

クッションから顔を出し、つけっぱなしだったテレビへと視線を向ける。
再放送のドラマを終え、流れ始める国民的アニメーーー


新沼「そうだ...!」


 大人も子どもも楽しい気持ちになるOP映像から視線を外し、新沼はソファーに軽く投げたスマホを持ち直して文字を入力し始める。


新沼(傑先輩は、漫画とかアニメとか好きって言ってた! 漫画もいっぱい持ってるって...! だから、これなら...!)


 いつもの倍...何倍も遅く、遅く文字を打ち込んでいく。一文字一文字入力するたびに、手が震える。顔が赤く染まっていく。


新沼[すみません、傑先輩。私もお聞きしたいことがあるんですが、いいですか?]

間宮[もちろん]

間宮[どうしたの?]

新沼[傑先輩、漫画とかアニメが好きって言ってましたよね?]

新沼[最近、部活以外でやることがないので、私も漫画やアニメを見ようかなって思ってるんですけど...漫画は自分では買わないので、どういうものがいいのかとかよくわからなくて...]

新沼[なので、傑先輩がよければなんですが...おすすめの漫画を貸していただくことってできますか?]



新沼(これなら、傑先輩に会う理由ができる...! 漫画の貸し借りっていう、会わなきゃいけない理由が...!)


新沼(M)傑先輩は、とても優しい。だから、返信の内容は見なくてもわかっている。なんて返ってくるか、予想ができる。

新沼(M)でも、どうしてだろう? 答えが分かりきっているのに、ドキドキがおさまらない。ずっと胸が高鳴りっぱなしだ。

新沼(M)彼なら「いいよ」と絶対言う。わかってる。わかりきってる。なのに、どうして...?



間宮[いいよ]



新沼(M)どうして、決まりきったつまらないはずの未来が、こんなに嬉しいんだろ?



新沼[ありがとうございます!]

間宮[咲ちゃんは、どういうジャンルが好きとかある?]

新沼[大雑把で本当に申し訳ないんですが、漫画はあまり読まないので色々なものが読んでみたいです]

間宮[わかった。じゃあ、いろんなやつ持っていくよ。それで、気に入ったやつの続きを持っていくね]

新沼[はい! そちらでよろしくお願いします!]

間宮[咲ちゃんって、夏休み中まだ部活動ある?]

新沼[はい。まだあります]

間宮[僕、月水金のお昼頃から探偵部の部室にいるから。もし日にち合えば、持って行こうか? それとも、学校始まってからの方がいいかな?]

新沼[部活の日、確認してみます!]

間宮[わかった]



新沼(M)人から借りた物は、必ず返さないといけない。そのまま持ち逃げなんて、しちゃいけないんだ。

新沼(M)だから私は、会いにいく。借りた物を返すために。会わなきゃいけない理由がある。会わなきゃいけない理由が、できてしまった。

新沼(M)こんな無理やり理由を作ってでも、会いたい...今の私を、過去の私が見たらどう思うだろう? びっくりするだろうな。めちゃくちゃに驚くだろうな。重すぎない?って冷たい目で見るかも。

新沼(M)でも、それでも...びっくりされても、驚かれても、冷たく見られても、私は会いたい。彼に、会いたい。

新沼(M)そう思ってしまうほど、好きになってしまったんだ。


新沼「うふふ...!」


 間宮へ返信をし、スマホを胸の前でギュッと両手で抱きしめる。テレビから聞こえてくる楽しげな声を聞き、新沼は身体を起こして放送されているアニメーションを見つめ始める。


新沼(M)面白半分で始めた恋人ごっこ。悲しい思いで終えた恋人ごっこ。

新沼(M)次は、ごっこではなく本物の恋人として...あなたの隣に立ちたいな。

新沼(M)そんな、漫画やアニメの世界でしか言えないような痛いセリフを思い浮かべてしまうほどに、私は今、あなたに夢中です。







 




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