なんでも探偵部!

きとまるまる

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269話「努力は期待を裏切らないから、まずは努力をしましょう④」

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張間「よし、第一ミッションコンプリート。危機的状況から脱出できたことにより、落ち着きが戻ってきたぞ...! よしよし、頭も回る回る...!」

張間(さて、ここからどうするか...? 間宮先輩の反応を見る限り、あいつらは私が赤点を取ったことにまだ気づいていない。もし仮に気づいていたとしたら、多分ここに一人にはしないはずだし、間宮先輩が部長にあのようなことを言うはずがない...!)

張間(私が選ぶべき選択は、二つ...! 一つ、正直に話す。これをすれば、怒られるのは確実...さらに、補習、追試、部室で放課後お勉強の地獄の三連打は間違いない...! ほ、放課後にも勉強だなんて、私の身体が、心が耐えられるはずがない...!)

張間(つまり、私が選ぶべき選択は二つ目のこれ...隠し通す、だ! 幸いにも、あいつらはまだ私が赤点とったという事実を知らない。なんとかして、赤点を取っていないと奴らに信じ込ませ、地獄の勉強ツアーを補習、追試だけにするのだ...! やつらは、可愛いきゃわわな後輩、張間 彩香ちゃんの虜...赤点取ってないと信じ込ませれば、こちらの勝ちだ。わざわざ誰かに本当かどうかなど確認しに行かない。はず。)

張間(問題は、どのように信じ込ませるかだ...! 一番は、答案用紙を見せつけることだが...その場合は点数をなんとかして偽造しなければいけない...!)

張間(では、言葉だけで押し通すか? いやダメだ! それだと怪しすぎる! 答案用紙を見せろと言われるのがオチだし、嫌々言っていたら誰かに確認されてバレる! やはり、信じ込ませるには答案用紙を見せるが一番か...!)

張間(奴らが部室に帰ってくるまで、約30分の時間があるが...30分で良い案が思いつくとは思えない...! 今日は家に帰り、ゆっくり考えよう...! 焦った所で良い案が浮かぶわけがないし、奴らは今私を心配しきっている...「ごめんなさい、今日は家に帰ってゆっくりします」と連絡すれば、簡単に見逃してくれるだろう。よし、そうと決まれば、サササッと帰ろう...!)


 張間は急いで帰宅の準備を始め、扉に手をかける。


張間(いや、待て! 落ち着け! 一旦ドアから離れろ! 離れるんだ!)

張間(...ふぅ、危ない危ない。帰ることに頭がいっぱいになってしまっていた。しっかりちゃんと逃走ルートを決めてから進もう。)

張間(まずは、下駄箱に行き靴を手に入れなければいけない。奴らが一年生校舎内にいる確率は、ほぼ0だろう。だって、行く理由がないから。だから、一年校舎に入ることが出来れば安心だが...どう行くか、だ。)

張間(このまま何も考えずに廊下に出て一年校舎に向かうのは、危険すぎる...! 奴らがどこに向かっているのか、さっぱりだからな。下手をしたら、部室を出てすぐのところで時間を潰している可能性だって考えられる...。素直に扉から出るのは、危険だ...!)

張間(この部室から外に出られる箇所と言えば、そこの扉か窓だけ...つまり、窓から出る方が安心安全だ。部室から出てすぐ以外だと、屋上で時間を潰している可能性が高い...。屋上となれば、視野がとても広い。万が一奴らが辺りを見回していたのなら、確実に見つかる。が、窓から出て壁に張り付きながら移動すれば、上からは死角になっているはずだから、バレやしない! あれ?張間ちゃん頭いい? ヤバくない? 今日、すごく頭が冴えてるわ? なんで赤点取ったの? おかしくない?)

張間「よし...作戦は決まった。すぐさま実行だ...!」


 一人で小さく頷き、窓へと駆けていく。
鍵を開け、窓を開け、淵に手をかけ足をかけーーー


張間「...なんか、真剣に作戦考えて窓から出ようとして...私今、映画の主人公みたいじゃない? 私、主役だね? 主役だわ。」

張間「んふふ...あーっはっはっは! 残念だったな、お前たち! 今回も、どうやら私の勝ちのようだなぁ! お前たちが喉から手が出るほどに欲しているブツは...この通り、私の手の中だ!! あーーっはっはっはっは!!」

関「すみません張間くん、飲み物だけ取り...に...。」

張間「あっ...。」


 答案用紙を手に、余裕をぶっこいていた張間ーーー突然開いた扉から出てきた関と、バッチリ目と目が合う。

互いの間に流れる、数秒の沈黙ーーー


関「な...なにをしているんだ、張間くぅぅぅん!!」

張間「や、やばーーー」


 慌てて窓から出ようとする張間ーーーだが、関の腕がほんの少し早く張間の腰を掴み、外に出ることを阻止される。


関「落ち着きなさい、張間くん! 早まるんじゃないぞ!!」

張間「い、いやぁぁぁ! 離してぇぇぇ!!」

関「離すわけないでしょうがぁぁぁぁ! 大事な大事な後輩を守るのが、先輩の役目なんですよぉぉぉぉぉ!」

張間「ヤダヤダヤダァァァァァ! 離してくださいぃぃぃ!!」

間宮「先輩、なにしてーーー」

関「傑くん! 君も早くこっちに! 早く!!」

間宮「え!? な、何事ですか!?」

関「は、張間くんが、張間くんが窓から身を投げようと! 早く手を貸してくれ!!」

間宮「えぇ!? な、なにやってんだよ、張間さん! そんなの、ダメだってば!!」

張間「やめろぉぉぉ! 離せぇぇぇ! ってか、身を投げるってなんだ、こらぁぁぁ! ここ一階だぞ!? 一階だよ!? 仮に着地失敗しても「あいたっ☆」で済んで無事バンザイですよぉぉぉ!! だから、離してくださいぃぃぃ!!」

関「は、張間くぅぅぅぅん!!」

間宮「絶対に、助けるぅぅぅ!!」

張間「嫌ぁぁぁぁ!? 無理無理無理、もう無理ぃぃぃぃ!!」


 流石の張間も男二人の力には抵抗できず、窓から手を離し強引に部室内へと引き戻される。


関「傑くん、窓閉めて! 早く!!」

間宮「は、はい!」

張間「あぁぁぁぁ!? 天国への入り口がぁぁぁぁ!!」

関「バカなことを言うんじゃない!! 天国だ!? 君は、まだそこに行くには早すぎる!!」

張間「あ、いや、そういう意味ではーーー」

関「どうしてあんなバカなことをしたんだ!? 答えなさい!」

張間「あ、いや、その...!!」

間宮「せ、先輩! 気持ちはわかりますが、落ち着いてください!」

関「落ち着けるわけがないだろ! 大切な後輩が、あんな......いや、そうだな...そうですね...。私たちが落ち着かず、張間くんが落ち着けるわけがない...。」

間宮「そうですよ。今は、張間さんのことを第一に。」

関「ですね...ありがとう、傑くん...。君のおかげで、落ち着けました...。」

間宮「張間さん。」

張間「は、はひぃ!?」

間宮「張間さんが、あんなことするほどに追い詰められてたなんて...僕、全然気づけなかった...。ほんと、ごめん...。」

張間「やめてやめてやめて! そんなんじゃないから! そんなのじゃないから、謝らないで! ほんとやめて! やめてくださいぃぃぃ!!」

間宮「僕ら、張間さんのためならなんだってやるよ。だからさ、一人で抱え込まずに、僕らに頼って。」

張間「もう優しい言葉をかけないでぇぇぇぇ! 私の心が押しつぶされるぅぅぅ! 罪悪感で、いっぱいいっぱいぃぃぃ! やめてぇぇぇぇ!!」

関「...あなた、その手にしている紙はなんですか?」

張間「え? はっ!? いや、これは別に...!」

関「なぜ隠すのですか? 私たちには見せられないものなのですか?」

張間「その通りです! その通りでございます!」

間宮「張間さんがあそこまで追い詰められて、僕たちには見せられない...それほどに、酷いことが...!?」

関「ほうほう...なるほど...! どこの誰かは知りませんが、それほどのことを...! 許しはしない...!」

張間「あ、いや、待って! 待ってください! 勘違いしてます、してますよ、お二方! これ、そういうもんじゃーーー」

関「見せなさい。」

張間「だ、ダメです! 絶対に、ダメ!」

間宮「僕たちには見せるなと、脅されて...!?」

関「安心してください、張間くん。私はそんな脅しに屈するほど、弱くはありません。」

張間「安心できません! これを見せれば、私の未来が崩壊してしまいます! 私の未来が!人生が!マイライフが!」

間宮「張間さん、君は一人じゃないよ。」

関「私たちがいます。私たちが、あなたの未来を守ります。」

間宮「だからさ、一人で悩まないで。」

張間「この件に関しては、私一人でなんとかしてみせますので、お二方は優しく暖かく見守ってーーー」

関「隙ありっ!!」

張間「あぁぁぁぁ!? だ、ダメェェェ! 返してぇぇぇぇ!」

関「許しはしない...! 私の...俺の後輩をいじめるやつは、この俺......が......。」

関「......。」

間宮「せ、先輩...? どうしたんですか...?」

関「...酷すぎて、言葉が出てこない。」

間宮「こ、言葉が出ない...!? あの先輩が、そこまで...! ど、どれほどに酷いことが書かれてーーー」


 言葉を失った関は、無言で手にした紙を間宮へ見せつける。

間宮 傑の視界に映る、26という絶望の数字。


間宮「......は?」

張間「お、終わった...! さよなら、私のマイライフ...!」


 涙を流し、膝から崩れ落ちていく張間ーーーそんな後輩には見向きもせず、間宮は関の元へ目にも止まらぬ速さで移動すると、どこからか電卓を取り出し、これまた目にも止まらぬ早さで計算していく。


関「傑くん。」

間宮「三度計算しました。が、丸の数の合計は三度とも全て26です。不正解のものの合計値も計算しましたが、合計74。合わせて100...つまり、26は正しいです。このテストは、間違いなく26点です。そちらは?」

関「張間くんの鞄から問題用紙をお借りし、私も三度見直しましたが...先生の採点にミスはありません。正解不正解ともに、全て完璧に採点されています。」

間宮「つまり、このテストは間違いなく26点...。」

関「つまり、これは、間違いなく...赤点...。」


 ゆっくり、ゆっくりと答案用紙から背後にいる張間へと視線を移動させる。

が、赤点をとった本人は謝罪する様子がないどころか、今まさに部室から出ようとしていた。


関・間宮「逃すかぁぁぁぁ!!」

張間「びぇぇぇぇん!!」

関「待ちなさぁぁぁぁい!!」

間宮「散々心配させておいて、なんだこの結末はぁぁぁぁ!! 赤点じゃねぇか、てめぇぇぇぇ!!」

張間「びぇぇぇぇん!! 補習、追試しっかりちゃんと受けるので、許してくださいぃぃぃぃ!」

関「そんなものでは、生ぬるいわぁぁぁ!! 補習!追試!放課後お勉強!登校してからHRまで勉強!土日も勉強!じゃ、ボゲゴラァァァァァ!!」

間宮「追試が終わるまで、無事で済むと思うなよぉぉぉぉぉ!!」

張間「嫌だ嫌だ嫌だぁぁぁぁぁ! 許してくださいぃぃぃぃ!!」

関「許すわけないだろうがぁぁぁぉ!! てめぇのせいで、傑くんに怒られ...私のプライドを傷つけておってぇぇぇぇ!!」

間宮「どういうことだ、てめぇぇぇぇ!?」

関「言葉のまんまじゃ、ボケェェェ!!」

張間「私のことなど気にせずに、そのままお二方で喧嘩していてくださいませぇぇぇ!!」

関・間宮「まずは、テメェだ! このアホんだらぁぁぁぁ!!」

張間「びぇぇぇぇん! 誰か助けてぇぇぇぇ!!」
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