なんでも探偵部!

きとまるまる

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288話「ハイリスクハイリターンのリスク部分だけ削り取りたい④」

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 お昼の時間を知らせるチャイムが校内に響き渡ってから、数分後ーーー間宮が所属する2-Aでは、生徒たちがそれぞれ仲の良い子たちで集まり、机をくっつけ、楽しそうにワイワイと会話を弾ませながらお昼ご飯を食べている。

窓際の席に座り、周りと行動を合わせることなく一人黙々とパンを食べる女子生徒ーーー遊部に所属する不知火 夏帆しらぬい かほは、耳にワイヤレスイヤホンを詰め込み外部の音を遮断し、パンを持っていない手でスマホを操作しながら、一人の世界に入りきっていた。

そんな一人の世界を黙々と楽しむ窓際生徒を、扉からひょっこりと顔を出してジッと見つめる、探偵部の二人。


張間「間宮先輩間宮先輩、今回のターゲットはどこですか...!?」

間宮「ターゲットって言い方、やめなさい。ほら、あそこの窓際に座ってる子。あの、パン食べてる子。」

張間「ほほぉ...なるほどなるほど、あの方ですか...! みんなお昼でワイワイしている中で、あの様子...今回は中々に難しいお仕事かもしれませんな...!!」

間宮「難しいお仕事だから、断ろうとしてたのに...。先に言っておくけど、夏帆ちゃんは苗字の不知火で呼ばれるの嫌らしいから、呼ぶ時は名前で呼ぶこと。わかった?」

張間「え、なんでですか!? 不知火って、カッコいいのに!」

間宮「そうやってかっこいいとか言われるのが嫌なんじゃないの? 知らないけど。」

張間「あーなるほどなるほど。そういうの嫌がりそうなタイプです。うんうん。」

間宮「人を見た目で判断しないの。ってか、これからどうする気? あんま変なことはしないようにね。」

張間「失礼な! 変なことなんて何一ついたしませんわ!!」

張間「今回は、ターゲットにコスプレをさせるのがお仕事です! つまり、私たち探偵部ではなく、あの方がなんやらしないといけません!」

間宮「そうですね。で?」

張間「つまり、あの方にコスプレしてくださいとお願いしなければいけない...! でも、いきなりなんやかんや言ったところで、失敗する確率の方が高い...だから私は、考えました! この前の、紙相撲作戦です!」

間宮「紙相撲作戦?」

張間「紙相撲の時、部長は言っておりました...! 相手と同じところに立つことによって信頼関係がなんとやらどうとやらと! つまりつまり、まずはあの方に近づき、仲良くなり、そしてコスプレの件を話す! どうですか、完璧じゃないですか、この作戦!?」

間宮「張間さんが言ってるからか、よく頑張りましたって言ってあげたくなる...。多分失敗するだろうけども...。」

張間「間宮先輩、私のことバカにしすぎじゃないですか? というか、失敗もしません!」

張間「ではでは、まずは作戦その一「仲良くなろう!」いってきます!」

間宮「迷惑だけはかけちゃダメだからね? わかってる?」

張間「言われなくてもわかってますよーだっ!」


 お節介な先輩に対して軽く舌を出し、張間は不知火の元へと笑顔で向かっていく。


張間「こんにちわ!」

不知火「......。」

張間「こんにちわ!!」

不知火「......。」

張間「こ!ん!に!ち!は!!」

不知火「......なに?」


 根負けした不知火は、軽くため息を吐き出してワイヤレスイヤホンを片耳外し、視線を張間へと向ける。


不知火「ってか、誰?」

張間「あっ、そうですよね知らないですよね! 初めまして!私は、一年生の張間 彩香ちゃんと申します! なんでも探偵部に所属してやす!! よろしくお願いします!」

不知火「で、なに?」

張間「本日はですね...あっ、その前に、夏帆先輩とお呼びしてもよろしいですか!? よろしいですね!? ありがとうございます!」

不知火「まだなんも言ってないけど。まぁ、いいわ...ごちゃごちゃ言った方がめんどくさいタイプだろうし...。」

張間「まぁまぁ、お昼はまだまだ始まったばかりですし、楽しんでいきましょう! 隣、失礼しまーす! あっ、すいませーん!ここの席の方、お借りしまーす!!」

間宮「あーあー...何してんだか...? 夏帆ちゃんの顔色が、みるみる悪くなってくよ...。」

張間「いや~二年生の教室で食べるお昼は、また違う楽しさがありますな~!」

不知火「......。」

張間「おやおや、夏帆先輩は今日はパンですか! 夏帆先輩は、何パンが好きなんですか!?」

不知火「...あのさ、なんか用があるのか知らないけど、私お昼は一人で食べたいの。だから、悪いけどどっか行ってくれない? そもそも、私たち初対面だし...ってか、初対面の人に対してよくズカズカ来れるわね、あんた。」

間宮(全くもってその通りです...。あいつのメンタルどうなってんだよ...?)

張間「まぁまぁ、細かいことは気にしない気にしない! ところで、夏帆先輩は苗字で呼ばれるの嫌いって聞きましたけど、何でですか? 不知火ってめちゃくちゃカッコよくないですか!?」

不知火「......。」

間宮(なんでそんな笑顔で堂々と地雷を踏みにいけるんだよ!? ほんとどうなってんの、張間さんのメンタル!?)


 ニコニコ笑顔で話しかけてくる、初対面の後輩ーーーこれ以上何を言っても無駄と判断した不知火は、外していたイヤホンを耳にスッポリとはめ、一人の世界へと帰っていく。


張間「あっ、ちょっ!? なんでイヤホンするんですか!? お話ししましょうよ! ねぇ、お話し! おーはーなーしー!!」

間宮「あぁ、もぉ...何やってんだか...? 後で夏帆ちゃんに謝りに行こ...。」


 教室の扉付近で、頭を抱える間宮ーーーその後ろから、間宮と同じようにひょっこりと顔を出して不知火たちを見つめる、遊部メンバーで不知火と幼馴染の笹原 冬華ささはら とうか暁 秋斗あかつき あきと


笹原「何を謝るの?」

暁「ってか、何してんだお前?」

間宮「あ、えっと...うちの後輩が迷惑かけてすみません...。」

笹原「あの子、探偵部の後輩なの?」

暁「なんか夏帆のことで依頼でも来たのか?」

間宮「その通りです...手鞠先輩からでして...。」

笹原「あー手鞠先輩...ってことは、コスプレ案件?」

間宮「そうです...。」

暁「それだったら、悪いことは言わん。さっさと断った方がいいぞ。」

笹原「夏帆、多分何言われてもしないと思うよ。」

間宮「僕もそう思う...。でもね...。」

張間「イヤホン外してください! お話しましょう! ほらーー外してーーー! かーーほーーせーーんーーぱーーいーー!」

不知火「あぁ、もぉ! うるさい!!帰れ!話さない!!」

張間「話してくれるまで、私も離しません! 離さないです!! ギュッ! 夏帆先輩、ギュッ!!」

不知火「あんた、初対面の人によく抱きつけるわね!? あんたみたいなスーパー陽キャとは仲良くしたくない!!帰れ!!」

張間「はっ!? 夏帆先輩...めちゃくちゃおっぱいデカーーー」

不知火「なななななな何言ってんだ、お前は!?!? いいから、早く帰れぇぇぇぇぇ!!」

間宮「あれがやる気満々なので、断るにも断れなくて...。」

笹原「あぁね...。」

暁「めちゃくちゃ元気で明るい後輩さんですねぇ。」

間宮「そうです...なんで、毎度毎度苦労してます...。」

暁「そう言ってやるなよ。なんだかんだで、楽しいだろ?」

間宮「まぁ、否定はしないけども...。ところで、夏帆ちゃんってなんで苗字で呼ばれるの嫌いなのかって聞いてもいい話かな...?」

暁「あぁね。言っていいやつ?」

笹原「別にいいんじゃない? 小学生の頃だったかな?男子に「忍者みたいな苗字してんな!」とか言われて、しばらく忍者不知火とか呼ばれてたのが、夏帆的には嫌だったらしくて。」

暁「俺も調子乗って「忍者不知火!」って言ったら、めちゃくちゃ睨まれた後、数日口利いてもらえなかったわ。」

間宮「な、なるほど...。」

笹原「で、急にどうしたの?」

間宮「いや、その...うちの後輩が先ほど堂々と、なんでですか!?と聞きまして...夏帆ちゃん的にどうなのかなと...。聞かれていいものなのか悪いものなのか...。」

暁「なるほどなるほど。」

笹原「あはは! 間宮くん、めちゃくちゃ心配してるじゃん!」

暁「先輩後輩というより、保護者って感じだな。」

間宮「あ、あははは...。」

不知火「帰れぇぇぇぇぇぇ!!」

張間「嫌ですぅぅぅぅぅ!!」

笹原「いや~あんなはしゃいでる夏帆見るの、久しぶりだな~!」

暁「教室であんな騒いでること、ないもんな~!」

間宮(止めたほうがいいとは思うんだけど...この二人の反応見てると、どうなのだろうか...? あぁ見えて、実はそんな嫌がってないのか...?)

不知火「かぁぁぁぁえぇぇぇぇれぇぇぇぇ!!」

間宮(...いや、100%嫌がってるよね...。)


 ニコニコ笑顔で幼馴染を見守る二人とは対照的に、大きなため息を吐き出す間宮。

「止めてきます...」と笹原たちに言い残すと、重い足取りで騒ぐ張間たちの元へと歩み出した。
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