神の技術顧問〜異世界インフラ革命記？

3話 水と衛生の救世主現る

　その中から、透き通った光に包まれた二つの魂が現れる。
　ひとりは作業着姿の中年男性、田中清。もうひとりはヘルメットをかぶった穏やかな女性、山田真理子。

「……ここは……？」
「神様のところ……？」

　エリュシアは二人の魂の前にひざまずき、涙をこぼしながら必死に訴えかけた。

「どうか、どうかお力を貸してください！　私の世界の人々は、きれいな水もなく、壊れたトイレで毎日苦しんでいます。
　子どもたちは病気になり、お年寄りは命を落とし、みんなが不衛生な生活に怯えているんです。
　私が未熟だったせいで、こんな世界になってしまいました。でも、どうしても諦めたくないんです！
　どうか、あなた方の知識と経験で、この世界に“清潔な水”と“安心できるトイレ”をもたらしてあげてください！
　お願いします、お願いします……どうか、力を貸してください！」

　エリュシアは声を震わせ、涙を流しながら、何度も頭を下げる。
　その姿は、神でありながら、まるで一人の少女のように切実だった。

　水道工事の魂が、じっとエリュシアを見つめる。
「……そこまで言うなら、俺も黙って見ていられないな。水がなけりゃ、人は生きていけない」

　トイレ設備の魂の女性も、目を潤ませながら頷く。
「本当に困っている人がいるのなら、私の最後の仕事、全力でやらせてください」

　エリュシアは、顔を上げて二人を見つめる。
「本当に……いいんですか？」

　二人は静かに微笑み、力強く頷いた。

「やるからには、最高の仕事をしてみせるよ」
「私たちの経験、全部使って、みんなを笑顔にしてみせます」

　白髭の神が深く頷く。
「では、契約成立じゃ」

　エリュシアは、感謝と安堵の涙を流しながら、何度も何度も頭を下げた。


「それでは、そなたたちに神力を授けよう。」

白髭の神が手を掲げると、社の天井がふわりと消え、夜空に満天の星が瞬いた。
その星々が一つ、また一つと流れ落ち、魂たちの頭上で輝く珠となる。

「――まずは水の力を」

作務衣の神が指を鳴らすと、空気が震え、社の床から清らかな水柱が立ち上がった。
その水は魂の身体を優しく包み込み、肌の奥深くまで沁みわたる。
水道工事の魂は、指先から水が自在に湧き出る感覚に目を見開く。

「……すごい、本当に水が……！」

　次には白髭の神が足元に手をかざす。
　社の床が波打ち、土と石が渦を巻いて魂の足元に集まる。土は粘土となり、石は鋼鉄に変わり、魂の体に力強さと重みを与えていく。


「これで、どんな地盤でも思いのままだ」

　

作務衣の神が指を鳴らすと、魂の胸の奥に熱い炎が灯る。
　それは溶接の熱、焼き固める力、そして暗闇を照らす灯りとなる。

二柱の神が揃ってそっと息を吹きかけると、魂の背にそよ風が舞い、どんな高所や狭所でも自在に動ける身軽さが宿る。

最後に、作務衣の神が魂たちの肩に手を置く。

「現場で必要な道具、資材、設計図……思い浮かべれば、すぐに手に入るだろう」

魂の手のひらに、スパナやパイプレンチ、最新型の配管部品が次々と現れる。
トイレ設備の魂は、空中に設計図を描くと、部品が光となって組み上がっていく。そして――

　

女神エリュシアが両手を高く掲げ、虹色の魔法陣を展開する。
魔法陣からは無数の光が降り注ぎ、魂たちの身体を包み込む。

「私の魔法、全部使ってください！　水の浄化も、瞬間移動も、修復も、どんな魔法でも、あなた方の“現場”のために使い放題です！」

　魂の目の前に、魔法のアイコンが次々と浮かび上がる。
　「水質浄化」「瞬間配管」「自動修復」「耐震強化」「防臭結界」「害虫バリア」――
　まるでスマホのアプリのように、どれもワンタッチで発動可能だ。

　魂たちは手を伸ばし、魔法アイコンに触れる。
　すると、目の前の泥水が一瞬で澄み切った清水に変わり、壊れたトイレが新品同様に蘇る。

「……これが、神と女神の力……！」

　二人の魂は、圧倒的な力と可能性に心を震わせる。

「これなら、どんな現場でも、どんな困難でも絶対に負けない！」

　神々と女神の加護を受けた最強のインフラ職人コンビが、光に包まれながら異世界へと降り立つ――
　その瞬間、社の庭に咲く桜が一斉に舞い上がり、祝福の風が吹き抜けた。