神の技術顧問〜異世界インフラ革命記?

夢花音

文字の大きさ
14 / 17

13話 街を変える水と新しき常識

しおりを挟む
その後、田中たちの旅は各地に広がっていった。
どの土地もまるで水源とトイレやゴミ処理などが未開発な国のような有様だった。しかしそれ以外はそれなりに発展して進んでいる文化もある。
田中や真理子は首を傾げながらもひたすら工事を行なって行った。
交渉や説明は勇者の役目だった。勇者が立ち向かうのは魔獣ではなく信仰という困難だった。風呂に入ったら悪霊や災いが身体に入ってくるなどという迷信が勇者の前にドンと横たわっていた。
しかし、女神がその度に神殿に信託をもたらし勇者は根気よく説明と説得を続けて行く。交渉の勇者と呼ばれる由縁であった。
彼らの歩みは確実に街を整え、人々の暮らしを改善していった。

 
田中たちが何度目かで足を踏み入れたのは、人口がひしめく小都市だった。
建物は肩を寄せ合い、細い路地が迷路のように入り組んでいる。そして何より、鼻をつく強烈な臭気が街を包んでいた。
 
「うわ……この街もよ。下水の概念すらないの?」
真理子は思わず顔をしかめた。
通りには各家から突き出た“排泄用の穴”が並び、そこから垂れ流された排泄物が道を汚している。雨が降れば、それらは川へと流れ込み、その川が人々の飲み水となっていた。トイレが無い家は窓から平気で外へと投げ捨てた。
 「…そういえば、昔のヨーロッパでは、ハイヒールや傘、帽子は道に投げ捨てられた排泄物を避けるために使われていたって話もあるのよね」
真理子がげんなりした顔で言った。
 
「人口が多い分始末が悪いな。これは完全に“病気の温床”だ。水源整備どころか、まずは“生活の常識”から変えないとダメだな」
田中は地面に手をつき、頭の中で排水路と下水処理の魔法構造を思い描いた。
 
最初に田中たちが取り組んだのは、街の人々が毎日使うトイレだった。
魔法の力を使い、廃棄物を分解し、臭いを消し去る簡易トイレを開発し、街のあちこちに設置していく。
家の中で排泄するという習慣を変えるため、共用の衛生施設も整備し、子どもたちや大人たちに衛生の大切さを丁寧に伝えた。
 
「トイレを外にするなんて、恥ずかしい」
「今までだって病気にならなかったのに……」
 
最初は戸惑いや反発の声があちこちから上がった。
しかし女神様に信託を頼み、勇者が説明や説得に奔走してくれている中で、真理子も村の子どもたちに優しく語りかける。
 
「お腹が痛くて泣いている子がいたわ。汚い水を飲んだせいよ。……この街を、安心して暮らせる場所に変えたいの」
 
その言葉は、少しずつ人々の心に染み込んでいった。
 
やがて、田中たちは川の水を徹底的に浄化する魔法式の“ろ過塔”を設置し、飲料水と生活排水を完全に分離する構造を作り上げた。
地下から新たな水源を引き、清らかな水が街に流れ込む。衛生的なトイレも普及し、街の空気は目に見えて澄んでいく。
 
「やっぱり、街が変わるには“仕組み”と“意識”の両方が必要なんだな」
田中は空を見上げて、静かに呟いた。
 
「でも、ここまでできたなら、他の街にも広められるわ。次はもっと効率よくできる」
真理子の声には、確かな自信が宿っていた。
 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

処理中です...