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13話 街を変える水と新しき常識
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その後、田中たちの旅は各地に広がっていった。
どの土地もまるで水源とトイレやゴミ処理などが未開発な国のような有様だった。しかしそれ以外はそれなりに発展して進んでいる文化もある。
田中や真理子は首を傾げながらもひたすら工事を行なって行った。
交渉や説明は勇者の役目だった。勇者が立ち向かうのは魔獣ではなく信仰という困難だった。風呂に入ったら悪霊や災いが身体に入ってくるなどという迷信が勇者の前にドンと横たわっていた。
しかし、女神がその度に神殿に信託をもたらし勇者は根気よく説明と説得を続けて行く。交渉の勇者と呼ばれる由縁であった。
彼らの歩みは確実に街を整え、人々の暮らしを改善していった。
田中たちが何度目かで足を踏み入れたのは、人口がひしめく小都市だった。
建物は肩を寄せ合い、細い路地が迷路のように入り組んでいる。そして何より、鼻をつく強烈な臭気が街を包んでいた。
「うわ……この街もよ。下水の概念すらないの?」
真理子は思わず顔をしかめた。
通りには各家から突き出た“排泄用の穴”が並び、そこから垂れ流された排泄物が道を汚している。雨が降れば、それらは川へと流れ込み、その川が人々の飲み水となっていた。トイレが無い家は窓から平気で外へと投げ捨てた。
「…そういえば、昔のヨーロッパでは、ハイヒールや傘、帽子は道に投げ捨てられた排泄物を避けるために使われていたって話もあるのよね」
真理子がげんなりした顔で言った。
「人口が多い分始末が悪いな。これは完全に“病気の温床”だ。水源整備どころか、まずは“生活の常識”から変えないとダメだな」
田中は地面に手をつき、頭の中で排水路と下水処理の魔法構造を思い描いた。
最初に田中たちが取り組んだのは、街の人々が毎日使うトイレだった。
魔法の力を使い、廃棄物を分解し、臭いを消し去る簡易トイレを開発し、街のあちこちに設置していく。
家の中で排泄するという習慣を変えるため、共用の衛生施設も整備し、子どもたちや大人たちに衛生の大切さを丁寧に伝えた。
「トイレを外にするなんて、恥ずかしい」
「今までだって病気にならなかったのに……」
最初は戸惑いや反発の声があちこちから上がった。
しかし女神様に信託を頼み、勇者が説明や説得に奔走してくれている中で、真理子も村の子どもたちに優しく語りかける。
「お腹が痛くて泣いている子がいたわ。汚い水を飲んだせいよ。……この街を、安心して暮らせる場所に変えたいの」
その言葉は、少しずつ人々の心に染み込んでいった。
やがて、田中たちは川の水を徹底的に浄化する魔法式の“ろ過塔”を設置し、飲料水と生活排水を完全に分離する構造を作り上げた。
地下から新たな水源を引き、清らかな水が街に流れ込む。衛生的なトイレも普及し、街の空気は目に見えて澄んでいく。
「やっぱり、街が変わるには“仕組み”と“意識”の両方が必要なんだな」
田中は空を見上げて、静かに呟いた。
「でも、ここまでできたなら、他の街にも広められるわ。次はもっと効率よくできる」
真理子の声には、確かな自信が宿っていた。
どの土地もまるで水源とトイレやゴミ処理などが未開発な国のような有様だった。しかしそれ以外はそれなりに発展して進んでいる文化もある。
田中や真理子は首を傾げながらもひたすら工事を行なって行った。
交渉や説明は勇者の役目だった。勇者が立ち向かうのは魔獣ではなく信仰という困難だった。風呂に入ったら悪霊や災いが身体に入ってくるなどという迷信が勇者の前にドンと横たわっていた。
しかし、女神がその度に神殿に信託をもたらし勇者は根気よく説明と説得を続けて行く。交渉の勇者と呼ばれる由縁であった。
彼らの歩みは確実に街を整え、人々の暮らしを改善していった。
田中たちが何度目かで足を踏み入れたのは、人口がひしめく小都市だった。
建物は肩を寄せ合い、細い路地が迷路のように入り組んでいる。そして何より、鼻をつく強烈な臭気が街を包んでいた。
「うわ……この街もよ。下水の概念すらないの?」
真理子は思わず顔をしかめた。
通りには各家から突き出た“排泄用の穴”が並び、そこから垂れ流された排泄物が道を汚している。雨が降れば、それらは川へと流れ込み、その川が人々の飲み水となっていた。トイレが無い家は窓から平気で外へと投げ捨てた。
「…そういえば、昔のヨーロッパでは、ハイヒールや傘、帽子は道に投げ捨てられた排泄物を避けるために使われていたって話もあるのよね」
真理子がげんなりした顔で言った。
「人口が多い分始末が悪いな。これは完全に“病気の温床”だ。水源整備どころか、まずは“生活の常識”から変えないとダメだな」
田中は地面に手をつき、頭の中で排水路と下水処理の魔法構造を思い描いた。
最初に田中たちが取り組んだのは、街の人々が毎日使うトイレだった。
魔法の力を使い、廃棄物を分解し、臭いを消し去る簡易トイレを開発し、街のあちこちに設置していく。
家の中で排泄するという習慣を変えるため、共用の衛生施設も整備し、子どもたちや大人たちに衛生の大切さを丁寧に伝えた。
「トイレを外にするなんて、恥ずかしい」
「今までだって病気にならなかったのに……」
最初は戸惑いや反発の声があちこちから上がった。
しかし女神様に信託を頼み、勇者が説明や説得に奔走してくれている中で、真理子も村の子どもたちに優しく語りかける。
「お腹が痛くて泣いている子がいたわ。汚い水を飲んだせいよ。……この街を、安心して暮らせる場所に変えたいの」
その言葉は、少しずつ人々の心に染み込んでいった。
やがて、田中たちは川の水を徹底的に浄化する魔法式の“ろ過塔”を設置し、飲料水と生活排水を完全に分離する構造を作り上げた。
地下から新たな水源を引き、清らかな水が街に流れ込む。衛生的なトイレも普及し、街の空気は目に見えて澄んでいく。
「やっぱり、街が変わるには“仕組み”と“意識”の両方が必要なんだな」
田中は空を見上げて、静かに呟いた。
「でも、ここまでできたなら、他の街にも広められるわ。次はもっと効率よくできる」
真理子の声には、確かな自信が宿っていた。
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