月の砂漠に銀の雨《二人の騎士と異世界の神子》

伊藤クロエ

文字の大きさ
75 / 161
【第二部】東の国アル・ハダール

90 栄養補給★(ダルガート)

 ダルガートの頭を抱えるようにして顔を埋める。ああ、そうだ。この匂いだ。焼けた砂漠の乾いた砂みたいな、ダルガートの匂い。
 無言でぎゅうぎゅうしがみつく僕に何も聞かず、ダルガートは僕を膝に乗せて抱きしめていてくれる。
 しかしやっぱり僕は駄目な男だ。こないだあんなにももっと強い大人になって二人に頼りにされる人間になりたい、なんて思っていたばかりなのに。ぎゅって抱きしめてもらってこんなにも安心して、嬉しくて嬉しくてたまらなくなっちゃうなんてさあ。

 ダルガートの肩口に顔を埋めてぼんやりしてると、あれ以来僕に突き刺さったままどうしても消せないあの言葉が蘇ってくる。

――――もしも皇帝ハリファカハルが彼の信念に適う王でなくなれば、また彼は裏切ることでしょう。己が君主として最も好ましいと思う者を頭上に戴くために。

 ダルガートはそんな人じゃない。とあの時すぐに言い返せなかったのは、僕が今までまともに家族以外の大人と議論とか真面目な話をしたことがほとんどなくて、きちんと自分の意見を話せる度胸がないからだ。

 それにほんの少しだけ、僕は心のどこかで思ってしまったのだ。僕が知ってるダルガートは彼のほんの表面の一部だけで、本当のところは何を考えてこの先どんなことをしようとしているのか、全然わかってないんじゃないか、って。
 そう迷ってしまうくらい僕にとってダルガートはあまりにも『大人過ぎる』んだ。
 実際の年齢の差だけじゃなくて、彼のこれまでの経験やそこから培ってきたものが一体どれほどのものなのか、僕には想像することさえできない。
 そして今僕が一番怖がっているのは、彼が宰相さんの言う通りいつかカハル皇帝を裏切るかもしれないってことじゃなくて、彼がいつか僕を必要としなくなって、僕を置いてどこかに行ってしまうんじゃないか、ってことなんだ。

 いかん。駄目だ。こんな勝手な想像でダルガートを悪い人みたいに考えて勝手に落ち込んでるなんて本当に馬鹿だし、ダルガートにだって失礼だ。
 そう思いながらずび、と鼻をすすると、背中に回されたダルガートの腕に力が籠る。それがたまらなく嬉しかった。

「……ダルガート、好きだよ」

 ダルガートに負けないくらい強くしがみついて言う。恥ずかしくて顔を見てはきっと言えないから今のこの体勢は願ったり叶ったりだ。

「ダルガートのこと、大好きだからね」

 だから僕は絶対ダルガートのことを信じる。するとダルガートが僕のうなじを掴んで顔を離すと、じっと目を見てキスしてくれた。

「ん……っ、……っふ、ん……」

 初めて会った時から見た目もやる事もすごく荒々しい印象が強いけど、こんな時彼はすごく静かだ。
 お互いの唇をすり合わせて、優しく食んで、そして舌がそっと滑り込んでくる。大きな手のひらがゆっくり背中を撫でて、それだけで僕の心も身体ももっともっと、と期待して疼き始める。

 欲しい。今すぐダルガートが欲しい。
 めちゃくちゃにキスしてこのベッドに押し倒されて、あの熱くて重たくて潰されそうなほど大きな身体に圧し掛かられて、圧倒的な力で奥の奥まで奪って欲しい。
 あの宰相さんの言葉も、政堂で騒いでた神官たちの不穏な空気も、さっきの領主や神殿長たちの嫌な目つきも全部忘れて、ただダルガートのことだけを考えていられるように。

 でもさすがに壁一枚向こうにみんながいる状況ではどうしようもない。声だって押さえられる自信全然ないし。
 そのくせ身体は我慢できなくて、ダルガートの膝の上でつい会陰をこすりつけるみたいにして腰を揺らしてしまう。
 するとダルガートが低く笑って僕の腰を少し持ち上げると、夜着の裾から手を淹れて尻の谷間を行ったり来たりするように指先で撫でた。

「……っふ、ん……っ」

 くすぐったいような奇妙な感覚がゾクゾクと這い上がって来る。そして太くてかさついた指が僕が一番ダルガートを欲しがってる場所に触れた時、すぐにひくひくと脈打って喜び迎え入れようとしてる自分の身体に顔を赤くした。


     ◇   ◇   ◇


「……んっ、んっ、……っ」

 灯りのない、真っ暗な寝台でちゅくちゅくといやらしい濡れた音が僕の耳を犯してる。
 僕は必死に夜着の裾を咥えて声を押し殺しながらナカをぬるぬると行き来する太い指の感触に身悶えていた。
 ダルガートとなかなか会えなかった時にサイードさんが毎晩僕を抱いていたように、サイードさんが西へ行ってから時間の許す限りダルガートは僕のソコをいつも愛撫しては自分の形を教え込んできた。

「…………っ!」

 サイードさんとダルガートに躾られ拓かれてきたその場所は、いとも容易く彼らを受け入れてすぐに達しそうになる。でもそのたびにダルガートは僕のペニスを握って堰き止めてしまった。

 もうイきたい。お願いだからイかせて。
 口が塞がってるから目で必死に訴える。いつもは僕がちゃんと言葉で言ったり、それか自分からダルガートにキスしたりダルガートのモノに触れたりしてねだらないとイかせてくれないけど、でも今日は場所が場所だからかすぐに僕を解放してくれた。

「~~~~~~ッ!!」

 ナカの一番敏感なところを曲げた指の関節でぐりぐりえぐりながら、柔らかな布で僕のモノを包んで出させてくれる。
 ナカのしこりを押される度にびゅくびゅくと吐き出される感覚に僕は声もなく悶絶した。するとダルガートが「よくできました」とばかりにぐったりとした僕の背中を撫で、口から唾液にまみれた夜着を引き出した。

「……ッ、……っは、っ、はっ、はっ」

 絶え絶えに乱れる息をなんとか繰り返し、バクバクと暴れまわってる心臓を必死になだめる。するとダルガートがゆっくり僕をベッドに押し倒して、しっとりと汗ばんだ内腿の際どいところや、たった今まで彼の太い指を呑み込んでいた場所に口づけた。

「……っあ、や、やだソコ……っ」

 ちゅ、ちゅ、と可愛らしい音をたてて焦らしたかと思うと、だしぬけにソコに濡れた舌が潜り込んでくる。
 夜着に着替えた時にいくらダルガートが清めてくれたと言っても、やっぱりそんなところに深く顔を埋められるのは嫌で、なんとか這って逃げようとしたけど、いとも容易くうつ伏せにされて押さえ込まれてしまった。

「っ、ふっ、んっ、んっ」

 必死に顔を敷布に押し付けて声を殺して、ゆるゆると後ろを責めたてる指や舌に思わず腰を揺らす。するとまた固く勃起したペニスや、さっき散々可愛がられてぷっくりと尖った胸の先端が寝台に擦れて悲鳴を上げそうになった。

「貴方をもっと奥深くまで愛して差し上げられないことが悔やまれますな」

 そのままもう一度イかされてぐったりしている僕の耳元でダルガートが囁く。そしてひくひく震えてるソコに明らかに固く張っているモノを押し付けた。

「…………ねえ、僕にもさせてよ……」

 ダルガートの手を借りて身体を起こすと、今度は僕がダルガートの足の間に跪いてずっしりと重たげなソコに触れる。そしてズボンの紐を緩めて取り出した逸物に心を込めてキスすると、できるだけ大きく口を開けてそれを咥え込んだ。


     ◇   ◇   ◇


 気が付いたらもう朝で、外は嫌になるくらいいい天気だった。
 思わず飛び起きた身体は綺麗に拭われていて、昨夜の淫らな交わりの痕跡はどこにもない。一瞬夢だったかと思うけど、でも腰の奥がずん、と重くて自分がダルガートの指と舌に三度もイかされたことを実感した。

 またどこかに行ってるらしいダルガートの代わりにヤハルに手伝って貰って身支度をしながら僕は頭の中でこれからの計画を立てる。
 昨日はちょっと気持ちが弱って『エロいことすれば雨が降るかも』なんて浅はかなことを考えてしまったけれど、さすがに世の中そう上手くいくもんじゃない。
 でも昨日ダルガートにいっぱい甘えて、正直気恥ずかしいけどその分夢も見ないほどぐっすり眠れたしいろいろと補充できた気がする。
 今日からまた心機一転、頑張ろう。なんとかこの乾いた土地に水を呼び戻さなきゃ。

 とりあえず今日は本当に地図の通りどこにも川とか湧水とかないか行けそうなところまで見て回ろうか、と考えながらヤハルと部屋を出た途端、興奮の面持ちで飛び込んできたナルド神官の「神子様! 地下のカナートに水が戻りましてございます……!」の言葉に思わず「嘘だろ!?」と絶句してしまったのだった。
感想 399

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

悪役令息を引き継いだら、愛が重めの婚約者が付いてきました

ぽんちゃん
BL
 双子が忌み嫌われる国で生まれたアデル・グランデは、辺鄙な田舎でひっそりと暮らしていた。  そして、双子の兄――アダムは、格上の公爵子息と婚約中。  この婚約が白紙になれば、公爵家と共同事業を始めたグランデ侯爵家はおしまいである。  だが、アダムは自身のメイドと愛を育んでいた。  そこでアダムから、人生を入れ替えないかと持ちかけられることに。  両親にも会いたいアデルは、アダム・グランデとして生きていくことを決めた。  しかし、約束の日に会ったアダムは、体はバキバキに鍛えており、肌はこんがりと日に焼けていた。  幼少期は瓜二つだったが、ベッドで生活していた色白で病弱なアデルとは、あまり似ていなかったのだ。  そのため、化粧でなんとか誤魔化したアデルは、アダムになりきり、両親のために王都へ向かった。  アダムとして平和に暮らしたいアデルだが、婚約者のヴィンセントは塩対応。  初めてのデート(アデルにとって)では、いきなり店前に置き去りにされてしまい――!?  同性婚が可能な世界です。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。  ※ 感想欄はネタバレを含みますので、お気をつけください‼︎(><)

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで

二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。

有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います

緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。 知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。 花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。 十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。 寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。 見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。 宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。 やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。 次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。 アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。 ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。