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【第三部】西の国イスタリア
124 世界の秘密 1
「だ、誰……!?」
『え、いや待って。ウソだろ! あー、くそっ。なんでこんな時に限って僕しかいないんだよ。とりあえず記録……? ん?』
「いや、だから誰なんだよ! ここはどこ!?」
昔の僕だったら絶対こんな風に大声で問い返したりできなかっただろう。でもさすがに二年半もあちこち旅をして王宮や神殿やあちこちに住む町や村の大人たちとやり取りしていれば少しは自分を主張できるようにもなる。
すると謎の声はまだ少し興奮したような声で笑った。
『ああ、ごめんごめん。こんな風にそっちからアクセスしてくるパターンって初めてで……。いや、二回目? 僕は初めてだけど。そこに一応入り口は作っておいたんだけど、なんかイスタリア側が妙な噂流して人が近づかないようにしちゃってさ。まあでも普通の人間が来ても入れないように防壁かましてはあるんだけど。いやでもまさかほんとに入って来るやつがいるとはさー』
「あ、あの、もっときちんと、最初から説明してもらえませんか!?」
またしてもよくわからない言葉が続きそうで、思わずそれを遮る。すると声の主はまた笑った。
『ごめんごめん。ええと、じゃあ何が知りたい?』
「え、何がって……じゃ、じゃあ、ここってどこなんですか? それにこの世界……、あの、僕は《慈雨の神子》の召喚とかいうのに巻き込まれてここにいるんだけ……」
『ああ、それ! なかなかドラマチックでいい設定だよね! 今流行ってるんだよ、異世界転生!』
「……は?」
いきなりのハイテンションぶりに出かけた言葉が引っ込む。
『いや、この場合は異世界転移? 実は僕も結構ハマっててさ。チートとかハーレムとか。初めて読んだ時はやりたい放題だなとか自己投影乙とか思ってたんだけど、でもまあナルニアだってオズの魔法使いだって異世界転移みたいなもんだし? だったら古典みたいなもんじゃん? それで僕もちょっとやってみたくなってさぁ』
「…………は?」
『うん、だからさ。今君がいる地球はさ、まあうちの研究所管轄のミクロコスモスのうちの一つなんだけどね。本当は今後500年の間に発生する世界的な気候変動のサイクルモデルを動かすために十五年ぐらい前に作られたんだけど、案件そのものがイツルギ研に持ってかれちゃって、こっちじゃ必要なくなっちゃってさぁ。でもせっかくの実験場を放っておくのもったいないじゃん。フィールド維持するのもそりゃコスト掛かるけど、消去するのはもっとお金かかるからね? 丸損もいいとこだし悔しいし』
僕の反応などお構いなしにその声は一方的にまくしたてる。
『それでせっかくだからその地球をエリアごとに区切って分配したんだよ、各研究室にさ。ちなみにうちに割り当てられたのが今君がいる中央アジア一帯ね。あ、でもカスピ海から西は別の研究室のやつらが使っててさ。とはいえうちも直近ではわざわざミクロコスモス使ってやるような案件ないから、地ならし兼ねて遊んでるんだ』
「あ、遊ぶ……?」
『そう。例えばうちの研究室じゃ初め二手に分かれて国盗りゲームしてたんだって。片方はグルアーンっていう国で、もう一人がそれを倒そうとしててさ。でも全然歯が立たなくて。僕は最近こっちの研究室に来たんだけどその人たちと一緒になって新キャラ投入したらようやく八代目のジャハール王っていう人の時代にグルアーン王朝を倒せたんだよ。あの時はほんと盛り上がったなぁ』
「ジャハール王だって!?」
それは確かダルガートが昔仕えていて、カハル皇帝たちがサイードさんと一緒に倒した昔の王様の名前だったはずだ。突然出てきた既知の名に僕は息を呑む。
「新キャラ投入って……それってまさか」
『そうそう、君も知ってるだろ? あのカハルという男とその義兄弟たちだよ。『血の兄弟』っていうのも僕が考えて追加したイベント称号なんだ。なかなか熱いだろ。それから南方のエイレケではイザークとワズーフっていう王と王弟の勢力争いだとか、君がいる時代のもうちょい前の頃にはまさに群雄割拠の陣取り合戦とかしてたみたいだよ。でも僕としてはそういうシミュゲー的なのじゃなくてもっとストーリー的な楽しみ方をしたくてさ。いろいろ新しいキャラを投入してみたんだ。でもそれだけじゃどうしても神の視点っていうか、自分が参加してるみたいな臨場感なくて。だから君を追加したんだよ。僕自身のアバター的存在ってことで』
彼は、それはそれは楽しそうに教えてくれた。
『君はね、僕が昔いた研究室が使ってる極東アジアエリアから貰って来たんだ。そっちでは割と真面目に経済とか文化の研究してるんだけど、そこで僕自身に一番近い感性持ってそうな子をこっちに移して、その子の目を通して僕もその世界を楽しもうと思ってさ。そんでどうせやるなら大々的に! ドラマチックに盛り上げよう! と思って仕組んだイベントが……』
「……み、《神子の召喚》……?」
気が付くと、震える声でそう答えていた。
『大正解! 平和な経済大国ニッポンから突然中世イスラミックな世界に放り込まれた高校生が運命的な出会いや数々の試練を乗り越えて成長し、やがて世界を救うんだ! これこそ異世界転移ものの醍醐味だろ!? 言葉の問題だって最初っから君にパッチ当てとけば簡単に解決するけど、それじゃつまんないじゃん? だから《言の葉の秘薬》なんてファイル作って騎士役のカレに託してさ。君があれを素直に飲むかどうか僕らの間で賭けてたんだけど、飲んだよね。もちろん僕は飲むと思ってたよ。なんせ君と僕は一心同体くらいのつもりなんだから』
「いやいや待て待て待って……! そんな、え、それじゃまるで僕たちが普通の人間じゃなくて、ゲームキャラとか実験用に造られた何かみたいな……」
『あー。まあそうだね。ぶっちゃけ』
「…………は?」
思わず頭が真っ白になった。いやでもそんな、ありえない。だって僕たちは普通に自分でものを考えて生きているし、身体だって普通にあるし、お互い触れるし、食べたり飲んだりだってしてるし。
すると少しばかり申し訳なさそうな雰囲気でその声が言った。
『やっぱりショック受けちゃったかな、ゴメン。でも正直僕も想定外でさ。普通ならこんな風にそっちからこっちに干渉してくることなんてありえないわけだし』
そっちとこっち。その言葉が示す意味を考えてゾッとする。
「ま、待って、そうだ、ほかの神子たちは? 僕が知ってるだけでも他に五人僕みたいな人がいたはずで。あの人たちは……」
『ああ、それは僕がやったんじゃないよ?』
打って変わったようにあっけらかんとした声が返ってきた。
『僕が《慈雨の神子》の異世界転移ストーリーを作ろうしたらほかにも興味持った人たちがいてさ。なんせ今流行ってるから。だからテストも兼ねてその人たちに順番に試させたんだ。300年ぐらい時間を戻して降水量をぐっと減らしてから一人目を……』
「待って、時間を戻した!?」
『そうだよ。そりゃあ研究用のミクロコスモスだからね。できなかったら過去のデータを再取得したり違う条件ぶっ込みたくなった時に困るじゃん。一緒に他のエリアも巻き戻っちゃうから事前に通達しとかないといけないとか作業時間厳守とかのルールは必要だけど。でね、一人目は近世のヨーロッパ圏から移植したんだ。農夫だったんだけどその世界の中ではなかなか革新的な考え方をするやつでさ。親株の近種交配とか試してみてたり。で、その熱心さで農業チートみたいなの狙ってたんだけど《選定の儀式》でそいつが選んだエイレケの国じゃ全然歯が立たなかったみたいで、なんか突然心が折れたのか崖から飛び降りちゃって。で、二人目はうちの留学生が自分の出身のフランスから科学者を一人ピックアップして投入してみたけど似たり寄ったりでぱっとしない感じでさ。てんで駄目だったから三人目で僕が初挑戦したんだけど、それがね』
三人目。僕と同じ日本人の彼女のことだ。
「さ、三人目! 三人目の加奈さんはどうなったんだ!?」
『彼女? 別にどうもしないよ?』
意味が分からないとでもいいたげな声で彼が言う。
『でも彼女は一番出来が良かったよ! イベントも結構クリアして、女騎士との冒険譚とか姉妹イベントとかは百合好きのやつらに大ウケだったし、現地キャラと結婚して子どもも生まれて一番ストーリーが発展したよね。最終的にはここまでたどり着いちゃった。といっても彼女の場合はただの偶然だったけど』
そこで突然声が大きくなった。
『それでさ! 結局話が一番進んだのって三人目と六人目、つまり君とその加奈ちゃんなんだけどさ。それって君たちが揃って日本人だったからだと思うんだよね、やっぱ!』
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