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【最終章】新世界
131 西へ
「すまぬが少々頼まれてくれんかのう」
数日後、突然神殿長に呼ばれて行ってみると、待っていたのはそんな言葉と満面の笑みを浮かべたカハル皇帝だった。
「こちらは大祭中神殿に逗留しておられるアル・ハダールの商人、ナシル殿じゃ」
いや、皇帝陛下ですよね。え、商人? 唖然としながら立っていると神殿長がニコリと笑って言った。
「ナシル殿は国へ戻る前にぜひ一度イスタリアの海を見てみたいそうじゃが、王女殿下はすでに帰国され、イスタリアの許可を得るには時間が足りなくてのう。じゃが神殿関係者と共にゆけば咎めなく国境を越えられる。そこで途中までそなたに同行して貰いたいのじゃ」
「はぁ……」
なんでも普段から各国の神殿とやり取りしているこの中央神殿の者ならば、相手の国の許可がなくても国境を行き来できるらしい。
そこでダーヒル神殿領からイスタリアの国境を超えるまで僕が彼らに同行し、そこから海まではカハル陛下とその護衛が爆速で行って帰って、僕はそのままイスタリア側の国境付近の神殿で待ち、再び一緒に国境を越えて戻って来て欲しい、ということだった。
「あの、それは構いませんが、そんなことをして大丈夫なんですか?」
「まあ、ナシル殿の速さならイスタリアの兵に見咎められる前に戻ってこられるじゃろうて」
などと呑気に言う神殿長に疑惑の目を向けていると、カハル陛下が「なぁに、心配するに及ばず!」などと気軽に言ってくる。以前と違って断れる立場でもないので了承すると、神殿長がそっと僕に耳打ちをした。
「あの辺りの出の者に尋ねたが、今回通る国境のあたりにダウレシュと呼ばれる場所があるという。そこでは古よりその地を守る一族が馬や山羊を追って暮らしているそうじゃ」
「そ、それって……」
思わず拳を握りしめると、神殿長はゆっくりと頷いて僕とカハル陛下に言った。
「旅の間は神殿への使者の一行として振舞われるがよろしかろう。カイにも一人、騎乗に慣れた手練れの護衛を一人付けるゆえ、ナシル殿は足の速い者を少数お連れなされよ」
「あいわかった。なに、そなたらに迷惑はかけぬ」
そう言って立ち上がったカハル陛下が「道中は儂らがしっかりと守って進ぜるゆえ、安心して任せるがよい」と僕の背中をバンバン叩いて部屋から出ていった。相変わらずすぎて笑うしかない。
「あの、ありがとうございます」
サイードさんを探しに行けるよう取り計らってくれた神殿長に心からお礼を言うと「その代わりあの商人殿をよろしく頼むぞ」と言われて、二人で笑った。
◇ ◇ ◇
善は急げがモットーらしいカハル皇帝の希望で慌ただしく支度が整えられ、明朝早くに出発することになった。
ウルドは初め驚いていたけれど、すぐに僕のわずかばかりの服や木の椀などを詰めて旅支度を手伝ってくれた。
「くれぐれも見られないように気を付けるんだよ」
出発の日、ウルドはそう小声で言ってジャヒーヤを僕の頭に被せた。もちろんピアスのことだ。
「ありがとう。行ってきます」
夜が明けて間もない中、まだひと気の少ない石の廊下を歩いて厩へと向かいながら、そういえばあの晩ダルガートはこのピアスを見たのに、それを咎めることも出所を聞くこともなかったと気づく。
神殿の裏手にある厩へ着くと、そこにはすでに陛下とその護衛である大柄な騎士二人の姿があった。そして何より驚いたのは黒く大きな馬を従えたダルガートがいたことだった。
「そなたにも一人、護衛を付けよう。気を付けて行ってくるのじゃよ」
そう言ってわざわざ見送りに来てくれたらしい神殿長が頷いた。僕は心遣いに感謝しながら頭を下げ、カハル陛下に向き直る。
「どうぞよろしくお願いします」
「うむ、では早速行こうか!」
それからはとにかく、何をするにも恐ろしく速くてタフなカハル陛下に遅れずついて行くのに必死だった。護衛の騎士二人は慣れているのか文句ひとつ言わずに黙って陛下に従っている。
かつて陛下にただ一人遅れずに馬を走らせながら敵を倒すことができると言われていたダルガートも、あの黒王号によく似た馬を完璧に乗りこなして難なくついて行っていた。
ちなみに僕も馬を一頭借りていくつもりだったのだが、それでは間に合わぬと言われてダルガートの後ろに乗せられてしまった。お陰で道中ずっと緊張しながら彼の背中にしがみつく羽目になった。
「はっはっは! そなたの小さな身体ではダルガートと共乗りするのは一苦労だったようだのう!」
その晩、野営の焚火を前にカハル陛下が面白そうに笑った。
僕自身は別にそう小柄なわけではないのだが、なにせダルガートの身体があまりに分厚くて両手を回すのが精いっぱいで、一日中振り落とされないようにしがみついているのと久しぶりの砂漠の熱気とですっかり疲れてしまった。
陛下には苦笑いを返し、痛む両腕とこわばる身体をなんとか動かして干し肉と乾燥させた野菜でスープを作り、種なしパンを温めた。
護衛騎士の一人は持って来た敷物を敷いて陛下の寝床を作り、もう一人は少し離れたところで哨戒に立っている。僕はスープの鍋を火から下ろしてそれぞれの器によそいパンを配ったところで錫の湯沸かしが空になっているのに気がついた。幸い途中の村で井戸の水を貰うことができたのでまだまだ余裕はある。
革の水袋から湯沸かしに移して焚火にかけながら、揺れる火をなんとなく見つめた。ふと、三人でオアシスに行ってこんな風に夜を明かしたのをつい昨日のことのように思い出す。
パチパチと火が爆ぜる音が耳に心地いい。焚火の向こうから、日中のダルガートの走りを見たカハル陛下がしきりに「アル・ハダールに来て儂に仕官をせんか?」と誘う声が聞こえてきた。
火が沈みようやく日中の熱さが和らいでくる。なんとなくぼーっと火を見つめていると、砂漠の塔から戻ってきて以来ひたすら目の前の仕事をこなしながら必死にやってきた疲れが急に襲ってきた。
なんだか本当に疲れてしまった。まだダウレシュへの旅は始まったばかりなのに。
とにかくまずはカハル陛下たちと国境まで行って、そこで別れて、それから神殿長に貰った地図を頼りにダウレシュを探して、それから……
「そろそろ湯は沸いたか?」
突然カハル陛下の声が聞こえてハッと我に返る。慌てて傍の布で湯沸かしの取っ手を掴もうとした時、横から出てきた大きな手に遮られた。見るとダルガートが僕の手から布を取って湯沸かしを火から下ろし、見た目によらぬ器用な手つきでお茶を淹れてくれる。
まずは陛下に、それから目線で尋ねて護衛の騎士の椀に注いでから僕を見た。
「あ、ありがとう」
ダルガートは無言で僕の器にお茶を注いでから元いた場所に戻った。
木の椀のお茶をふーふーと吹いて冷ます。一口飲むとスッキリとした中にわずかな苦みのある味が五臓六腑に染み渡った。ああ、ダルガートのお茶の味だ、とまた目頭が熱くなる。それを湯気で誤魔化してもう一口飲み、ぽっとお腹の中が温かくなる感覚に笑みを
浮かべた。
皆が食べ終わった後に残りのスープとパンで夕食をとる。そして鍋と湯沸かしと食器を片付けてようやく一息ついた。
ふと気づくと、僕の右側にダルガートがいて火を見ている。そこはかつて一緒に食事をする時に彼の定位置だったところだ。でも前よりは少し距離が空いている。
ダルガートは前から見ても後ろから見ても大きいけれど、横から見ると身体の分厚さがよくわかって人種の差をまざまざと見せつけられた気分になった。
触りたいな、と突然、強く思う。欲求不満だろうか。そりゃああれだけ大きくて重たい身体にねじ伏せられて、一晩中息も絶え絶えになるほど何度も何度もイかされるようなセックスを繰り返していたのだ。あんなとてつもない快感を忘れることなんてできやしない。
いけない。彼を見ているとますますヘンな気になってしまう。少し早いと思いながらも陛下に断って毛布を巻き付け荷物にもたれて横になった。
自分の周りに何もない、小石とわずかな草だけが点在する平地での野宿はやっぱり苦手だ。寝転んだ背中の方に何もないと妙に不安になる。
ダウレシュはどんなところだろう。サイードさんはいるだろうか。幸せに暮らしているだろうか。もしそうなら邪魔はしたくない。
そういえばこの間は塔の上でダルガートに出くわした時の自分は我ながら最低だったと思う。あれから部屋で布団をかぶって落ち込んでしまった。せっかく二人きりで話せる貴重なチャンスだったのに一人でぶち壊してしまった感が満載だ。
自分では割とスムーズに新しい世界に馴染んでうまくやっていけてたつもりだったけれど、やはり心のどこかでかなりのストレスを感じていたらしい。それが変に爆発してしまってやけくそ気味に好きだなんて言ってしまったけれど、彼は僕の唐突すぎる言葉をどう思ったのだろうか。それにどうして下級神官には明らかに似つかわしくない高価な耳飾りのことを問い詰めてこないのだろう。
あれ以来あの時のことはなかったことのようにお互い口にしていない。今日だって言葉を交わしたのはさっきダルガートがお茶を淹れてくれたことにお礼を言ったあれだけだ。
空を見上げると少しばかり欠けた月が上っている。あと数日もすれば満月だ。
閉じた目蓋や頬に感じる風が段々冷たくなっていく。
ダウレシュまであとどのくらいかかるのだろうか。
もしもそこでサイードさんに会えたら、僕はどうすればいいのだろうか。
数日後、突然神殿長に呼ばれて行ってみると、待っていたのはそんな言葉と満面の笑みを浮かべたカハル皇帝だった。
「こちらは大祭中神殿に逗留しておられるアル・ハダールの商人、ナシル殿じゃ」
いや、皇帝陛下ですよね。え、商人? 唖然としながら立っていると神殿長がニコリと笑って言った。
「ナシル殿は国へ戻る前にぜひ一度イスタリアの海を見てみたいそうじゃが、王女殿下はすでに帰国され、イスタリアの許可を得るには時間が足りなくてのう。じゃが神殿関係者と共にゆけば咎めなく国境を越えられる。そこで途中までそなたに同行して貰いたいのじゃ」
「はぁ……」
なんでも普段から各国の神殿とやり取りしているこの中央神殿の者ならば、相手の国の許可がなくても国境を行き来できるらしい。
そこでダーヒル神殿領からイスタリアの国境を超えるまで僕が彼らに同行し、そこから海まではカハル陛下とその護衛が爆速で行って帰って、僕はそのままイスタリア側の国境付近の神殿で待ち、再び一緒に国境を越えて戻って来て欲しい、ということだった。
「あの、それは構いませんが、そんなことをして大丈夫なんですか?」
「まあ、ナシル殿の速さならイスタリアの兵に見咎められる前に戻ってこられるじゃろうて」
などと呑気に言う神殿長に疑惑の目を向けていると、カハル陛下が「なぁに、心配するに及ばず!」などと気軽に言ってくる。以前と違って断れる立場でもないので了承すると、神殿長がそっと僕に耳打ちをした。
「あの辺りの出の者に尋ねたが、今回通る国境のあたりにダウレシュと呼ばれる場所があるという。そこでは古よりその地を守る一族が馬や山羊を追って暮らしているそうじゃ」
「そ、それって……」
思わず拳を握りしめると、神殿長はゆっくりと頷いて僕とカハル陛下に言った。
「旅の間は神殿への使者の一行として振舞われるがよろしかろう。カイにも一人、騎乗に慣れた手練れの護衛を一人付けるゆえ、ナシル殿は足の速い者を少数お連れなされよ」
「あいわかった。なに、そなたらに迷惑はかけぬ」
そう言って立ち上がったカハル陛下が「道中は儂らがしっかりと守って進ぜるゆえ、安心して任せるがよい」と僕の背中をバンバン叩いて部屋から出ていった。相変わらずすぎて笑うしかない。
「あの、ありがとうございます」
サイードさんを探しに行けるよう取り計らってくれた神殿長に心からお礼を言うと「その代わりあの商人殿をよろしく頼むぞ」と言われて、二人で笑った。
◇ ◇ ◇
善は急げがモットーらしいカハル皇帝の希望で慌ただしく支度が整えられ、明朝早くに出発することになった。
ウルドは初め驚いていたけれど、すぐに僕のわずかばかりの服や木の椀などを詰めて旅支度を手伝ってくれた。
「くれぐれも見られないように気を付けるんだよ」
出発の日、ウルドはそう小声で言ってジャヒーヤを僕の頭に被せた。もちろんピアスのことだ。
「ありがとう。行ってきます」
夜が明けて間もない中、まだひと気の少ない石の廊下を歩いて厩へと向かいながら、そういえばあの晩ダルガートはこのピアスを見たのに、それを咎めることも出所を聞くこともなかったと気づく。
神殿の裏手にある厩へ着くと、そこにはすでに陛下とその護衛である大柄な騎士二人の姿があった。そして何より驚いたのは黒く大きな馬を従えたダルガートがいたことだった。
「そなたにも一人、護衛を付けよう。気を付けて行ってくるのじゃよ」
そう言ってわざわざ見送りに来てくれたらしい神殿長が頷いた。僕は心遣いに感謝しながら頭を下げ、カハル陛下に向き直る。
「どうぞよろしくお願いします」
「うむ、では早速行こうか!」
それからはとにかく、何をするにも恐ろしく速くてタフなカハル陛下に遅れずついて行くのに必死だった。護衛の騎士二人は慣れているのか文句ひとつ言わずに黙って陛下に従っている。
かつて陛下にただ一人遅れずに馬を走らせながら敵を倒すことができると言われていたダルガートも、あの黒王号によく似た馬を完璧に乗りこなして難なくついて行っていた。
ちなみに僕も馬を一頭借りていくつもりだったのだが、それでは間に合わぬと言われてダルガートの後ろに乗せられてしまった。お陰で道中ずっと緊張しながら彼の背中にしがみつく羽目になった。
「はっはっは! そなたの小さな身体ではダルガートと共乗りするのは一苦労だったようだのう!」
その晩、野営の焚火を前にカハル陛下が面白そうに笑った。
僕自身は別にそう小柄なわけではないのだが、なにせダルガートの身体があまりに分厚くて両手を回すのが精いっぱいで、一日中振り落とされないようにしがみついているのと久しぶりの砂漠の熱気とですっかり疲れてしまった。
陛下には苦笑いを返し、痛む両腕とこわばる身体をなんとか動かして干し肉と乾燥させた野菜でスープを作り、種なしパンを温めた。
護衛騎士の一人は持って来た敷物を敷いて陛下の寝床を作り、もう一人は少し離れたところで哨戒に立っている。僕はスープの鍋を火から下ろしてそれぞれの器によそいパンを配ったところで錫の湯沸かしが空になっているのに気がついた。幸い途中の村で井戸の水を貰うことができたのでまだまだ余裕はある。
革の水袋から湯沸かしに移して焚火にかけながら、揺れる火をなんとなく見つめた。ふと、三人でオアシスに行ってこんな風に夜を明かしたのをつい昨日のことのように思い出す。
パチパチと火が爆ぜる音が耳に心地いい。焚火の向こうから、日中のダルガートの走りを見たカハル陛下がしきりに「アル・ハダールに来て儂に仕官をせんか?」と誘う声が聞こえてきた。
火が沈みようやく日中の熱さが和らいでくる。なんとなくぼーっと火を見つめていると、砂漠の塔から戻ってきて以来ひたすら目の前の仕事をこなしながら必死にやってきた疲れが急に襲ってきた。
なんだか本当に疲れてしまった。まだダウレシュへの旅は始まったばかりなのに。
とにかくまずはカハル陛下たちと国境まで行って、そこで別れて、それから神殿長に貰った地図を頼りにダウレシュを探して、それから……
「そろそろ湯は沸いたか?」
突然カハル陛下の声が聞こえてハッと我に返る。慌てて傍の布で湯沸かしの取っ手を掴もうとした時、横から出てきた大きな手に遮られた。見るとダルガートが僕の手から布を取って湯沸かしを火から下ろし、見た目によらぬ器用な手つきでお茶を淹れてくれる。
まずは陛下に、それから目線で尋ねて護衛の騎士の椀に注いでから僕を見た。
「あ、ありがとう」
ダルガートは無言で僕の器にお茶を注いでから元いた場所に戻った。
木の椀のお茶をふーふーと吹いて冷ます。一口飲むとスッキリとした中にわずかな苦みのある味が五臓六腑に染み渡った。ああ、ダルガートのお茶の味だ、とまた目頭が熱くなる。それを湯気で誤魔化してもう一口飲み、ぽっとお腹の中が温かくなる感覚に笑みを
浮かべた。
皆が食べ終わった後に残りのスープとパンで夕食をとる。そして鍋と湯沸かしと食器を片付けてようやく一息ついた。
ふと気づくと、僕の右側にダルガートがいて火を見ている。そこはかつて一緒に食事をする時に彼の定位置だったところだ。でも前よりは少し距離が空いている。
ダルガートは前から見ても後ろから見ても大きいけれど、横から見ると身体の分厚さがよくわかって人種の差をまざまざと見せつけられた気分になった。
触りたいな、と突然、強く思う。欲求不満だろうか。そりゃああれだけ大きくて重たい身体にねじ伏せられて、一晩中息も絶え絶えになるほど何度も何度もイかされるようなセックスを繰り返していたのだ。あんなとてつもない快感を忘れることなんてできやしない。
いけない。彼を見ているとますますヘンな気になってしまう。少し早いと思いながらも陛下に断って毛布を巻き付け荷物にもたれて横になった。
自分の周りに何もない、小石とわずかな草だけが点在する平地での野宿はやっぱり苦手だ。寝転んだ背中の方に何もないと妙に不安になる。
ダウレシュはどんなところだろう。サイードさんはいるだろうか。幸せに暮らしているだろうか。もしそうなら邪魔はしたくない。
そういえばこの間は塔の上でダルガートに出くわした時の自分は我ながら最低だったと思う。あれから部屋で布団をかぶって落ち込んでしまった。せっかく二人きりで話せる貴重なチャンスだったのに一人でぶち壊してしまった感が満載だ。
自分では割とスムーズに新しい世界に馴染んでうまくやっていけてたつもりだったけれど、やはり心のどこかでかなりのストレスを感じていたらしい。それが変に爆発してしまってやけくそ気味に好きだなんて言ってしまったけれど、彼は僕の唐突すぎる言葉をどう思ったのだろうか。それにどうして下級神官には明らかに似つかわしくない高価な耳飾りのことを問い詰めてこないのだろう。
あれ以来あの時のことはなかったことのようにお互い口にしていない。今日だって言葉を交わしたのはさっきダルガートがお茶を淹れてくれたことにお礼を言ったあれだけだ。
空を見上げると少しばかり欠けた月が上っている。あと数日もすれば満月だ。
閉じた目蓋や頬に感じる風が段々冷たくなっていく。
ダウレシュまであとどのくらいかかるのだろうか。
もしもそこでサイードさんに会えたら、僕はどうすればいいのだろうか。
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