18 / 161
web版【第一部】おまけ&後日談
閑話 皇帝カハルの楽しみ
※カルブの儀式が終わり、カイとサイードとダルガートが山から下りてきた時のハリファ・カハル視点のお話です。
※書籍版とは一部設定が異なる部分があります。
-------------------------------------
「何! 神子殿らが戻ったか!」
サイードの部下である若き騎士ヤハルの報告を聞くなり、皇帝カハルは茶器を蹴とばすようにして立ち上がった。
「神子殿は大層お疲れのご様子でしたが、お怪我などはなく」
「そうか。今宵は神子殿は我が元には来るに及ばず。よく休むように伝えよ」
「はっ」
首肯するヤハルにハリファ・カハルはあまり王らしくない不敵な笑みを浮かべて言う。
「昨夜のエルミランとアジャールに現れた天徴はそれはそれは驚異的なものであった。今頃エイレケの者どもは己の不明を恥じて狂い悶えておるだろうよ」
つまりは神子の真贋を疑った彼らの目が節穴だったというわけだ。皇帝ハリファは内心のおかしみをこらえて、目の前で拝跪するヤハルに尋ねた。
「して、サイードとダルガートは」
「は、お二人とも何らお変わりなく」
「そうか。さすがは我が秘中の懐刀よ」
そう言って皇帝ハリファは満足げに頷いた。
するとヤハルが『はて懐刀とはサイードとダルガートのどちらのことだろうか』とでも言わんばかりの顔をしている。まだ若い彼は考えている事がすぐ顔に出るようだ。
人心を読むのに非常に長けており、その能力ゆえにこの乱世をのし上がってきた元奴隷騎士の皇帝はニヤリと笑った。
「そなたはサイードの部下であろう。ならばあれの武勇伝はいくらでも聞いておるな?」
「は……っ」
「あれは、余がまだ皇帝ハリファではなく、ただの流れ者のごろつきどもの長おさだった頃から今まで、我が期待に応えなかった試しがない。我が義弟たちのような派手さはないが、誰にも知られず気づかれぬ場所で最も多くの敵を討ち、アル・ハダール建国のための剣となったのはあの男よ」
そう言うと、サイードに心酔している若き騎士は目に興奮の色を浮かべて耳を傾ける。
「そしてダルガートは先のジャハール王の元で何度も北の蛮族からの侵攻を防ぎ、多くの首級を上げた男だ。だが、妥協も迎合もせぬあれの態度を不遜ととったジャハール王に疎まれて、長らく不遇の座に追いやられていた」
「それはダルガート殿もさぞ口惜しかったことでしょう」
「余はあれほど大胆不敵で鬼神のごときシャムシールの使い手を知らぬ。あれがいなければ我が首はとっくに蛮族どもとハゲワシの餌になっていただろうよ」
皇帝ハリファはサイードの冴え冴えとした男らしい美貌と彼が何より大事にしている愛馬に跨りまっすぐに前を見据える姿と、ダルガートの一見何を考えているのかまるでわからぬ冷ややかな黒い目と岩のように逞しく頑健な体躯を思い浮かべる。
「あれらは片や戦場を駆け巡る騎兵団、片や帝都イスマーンにあって我と我が国を守る近衛部隊と、戦う場所こそ違えど、どちらも等しく我が自慢の双璧よ」
それを聞いて、今回のカルブの儀式で初めてダルガートとともに行動したヤハルが深く頷いた。
普段のダルガートは誰から見てもひどくとっつきにくい男だ。しかも常に皇帝の傍に侍る近衛部隊であるダルガートを、騎兵団の一員であるヤハルが間近に見る機会はほとんどない。
その貴重な機会であったこの二日間で、若きヤハルが彼から何か学ぶところがあれば良いのだが、と思う。
そしてふとヤハルに顔を寄せ、まるで内緒話をするかのように声を潜めて言った。
「今まで余に対して自ら何かを望んだことなど一度たりともなかったあの二人が、突然神子殿の傍に仕えたいと言って参った。なるほど、あの二人を等しく引き付けて離さぬ神子殿は、それだけでも充分人となりが知れようものではないか。のう? ヤハルよ」
するとヤハルは目を丸く見開き、瞬きをした。
それは皇帝の言葉があまりにも意外だったのか、それともヤハルのごとき若造の名を皇帝が把握していたことへの驚きか。
何事も不意打ちが好きなハリファ・カハルは満足すると、手を振って言った。
「ヤハル、急ぎサイードを呼べ。余は直接話が聞きたい」
「はっ。畏まりまして」
一礼をして部屋を出て行くヤハルの後姿を見送り、皇帝ハリファは近従が新しく淹れた茶を一気に飲み干す。そしてなんとも興味深き二人の騎士たちのことを考えた。
確かに、サイードもダルガートも甲乙つけ難き剛の者だが、どちらも決して人付き合いを好む質ではなく、愛想がいい訳でもない。
では二人の性格が似ているかといえばそうでもないのが面白いところだ。
サイードは一見人当たりもよく、上にも下にも公平で分け隔てない人物に見える。だが根は「来る者拒まず、去る者追わず」といわんばかりで、誰でも懐広く受け入れるように見えてその実、容易には己の心を開かず人を近づけない。
ハリファと血の兄弟の誓いを交わした義弟のサファルが昔言っていたことがある。
いわく『サイードの周りには目には見えぬ柔らかな壁がある。多くの人は彼を慕って近づくが、誰もその壁を打ち破り中へ入ることはできない』と。
そしてダルガートもなかなか癖のある男だ。
裏切者の謗りを受けることを覚悟の上で、彼が先のジャハール王を捨て自分についたことからもわかるように、己の信ずるところは決して曲げず、他人にどう思われようとまるで気にしない図太さがある。
だからこそ誰に対しても決して迎合せず、愛想の欠片もなく、人と慣れ合おうともしない。
そんな二人が珍しくも『カルブの儀式』のためにアジャール山を登る神子に同道したいと言ってきた。
神子のイシュクであるサイードはともかく、ダルガートまでもがそう願い出た時は大抵のことには動じぬハリファといえども随分と驚いたものだ。
(まこと、あの二人が興味を示した神子殿とは、いかほどの器を持つ男なのか。余にもまだ判らぬ)
ハリファカハルは替わりの茶を注がせながらニヤリと笑う。
「なればこそ、あれらを上手く使いこなすだけの器量が果たしてお有りかな? 慈雨の神子よ」
これはますます面白いことになってきたものだ。
若き頃よりまさに波乱万丈な人生を送ってきた元奴隷騎士の王は、早く帝都イスマーンに戻って二人の義弟に彼らを見せたいものだ、と笑い声を上げた。
※書籍版とは一部設定が異なる部分があります。
-------------------------------------
「何! 神子殿らが戻ったか!」
サイードの部下である若き騎士ヤハルの報告を聞くなり、皇帝カハルは茶器を蹴とばすようにして立ち上がった。
「神子殿は大層お疲れのご様子でしたが、お怪我などはなく」
「そうか。今宵は神子殿は我が元には来るに及ばず。よく休むように伝えよ」
「はっ」
首肯するヤハルにハリファ・カハルはあまり王らしくない不敵な笑みを浮かべて言う。
「昨夜のエルミランとアジャールに現れた天徴はそれはそれは驚異的なものであった。今頃エイレケの者どもは己の不明を恥じて狂い悶えておるだろうよ」
つまりは神子の真贋を疑った彼らの目が節穴だったというわけだ。皇帝ハリファは内心のおかしみをこらえて、目の前で拝跪するヤハルに尋ねた。
「して、サイードとダルガートは」
「は、お二人とも何らお変わりなく」
「そうか。さすがは我が秘中の懐刀よ」
そう言って皇帝ハリファは満足げに頷いた。
するとヤハルが『はて懐刀とはサイードとダルガートのどちらのことだろうか』とでも言わんばかりの顔をしている。まだ若い彼は考えている事がすぐ顔に出るようだ。
人心を読むのに非常に長けており、その能力ゆえにこの乱世をのし上がってきた元奴隷騎士の皇帝はニヤリと笑った。
「そなたはサイードの部下であろう。ならばあれの武勇伝はいくらでも聞いておるな?」
「は……っ」
「あれは、余がまだ皇帝ハリファではなく、ただの流れ者のごろつきどもの長おさだった頃から今まで、我が期待に応えなかった試しがない。我が義弟たちのような派手さはないが、誰にも知られず気づかれぬ場所で最も多くの敵を討ち、アル・ハダール建国のための剣となったのはあの男よ」
そう言うと、サイードに心酔している若き騎士は目に興奮の色を浮かべて耳を傾ける。
「そしてダルガートは先のジャハール王の元で何度も北の蛮族からの侵攻を防ぎ、多くの首級を上げた男だ。だが、妥協も迎合もせぬあれの態度を不遜ととったジャハール王に疎まれて、長らく不遇の座に追いやられていた」
「それはダルガート殿もさぞ口惜しかったことでしょう」
「余はあれほど大胆不敵で鬼神のごときシャムシールの使い手を知らぬ。あれがいなければ我が首はとっくに蛮族どもとハゲワシの餌になっていただろうよ」
皇帝ハリファはサイードの冴え冴えとした男らしい美貌と彼が何より大事にしている愛馬に跨りまっすぐに前を見据える姿と、ダルガートの一見何を考えているのかまるでわからぬ冷ややかな黒い目と岩のように逞しく頑健な体躯を思い浮かべる。
「あれらは片や戦場を駆け巡る騎兵団、片や帝都イスマーンにあって我と我が国を守る近衛部隊と、戦う場所こそ違えど、どちらも等しく我が自慢の双璧よ」
それを聞いて、今回のカルブの儀式で初めてダルガートとともに行動したヤハルが深く頷いた。
普段のダルガートは誰から見てもひどくとっつきにくい男だ。しかも常に皇帝の傍に侍る近衛部隊であるダルガートを、騎兵団の一員であるヤハルが間近に見る機会はほとんどない。
その貴重な機会であったこの二日間で、若きヤハルが彼から何か学ぶところがあれば良いのだが、と思う。
そしてふとヤハルに顔を寄せ、まるで内緒話をするかのように声を潜めて言った。
「今まで余に対して自ら何かを望んだことなど一度たりともなかったあの二人が、突然神子殿の傍に仕えたいと言って参った。なるほど、あの二人を等しく引き付けて離さぬ神子殿は、それだけでも充分人となりが知れようものではないか。のう? ヤハルよ」
するとヤハルは目を丸く見開き、瞬きをした。
それは皇帝の言葉があまりにも意外だったのか、それともヤハルのごとき若造の名を皇帝が把握していたことへの驚きか。
何事も不意打ちが好きなハリファ・カハルは満足すると、手を振って言った。
「ヤハル、急ぎサイードを呼べ。余は直接話が聞きたい」
「はっ。畏まりまして」
一礼をして部屋を出て行くヤハルの後姿を見送り、皇帝ハリファは近従が新しく淹れた茶を一気に飲み干す。そしてなんとも興味深き二人の騎士たちのことを考えた。
確かに、サイードもダルガートも甲乙つけ難き剛の者だが、どちらも決して人付き合いを好む質ではなく、愛想がいい訳でもない。
では二人の性格が似ているかといえばそうでもないのが面白いところだ。
サイードは一見人当たりもよく、上にも下にも公平で分け隔てない人物に見える。だが根は「来る者拒まず、去る者追わず」といわんばかりで、誰でも懐広く受け入れるように見えてその実、容易には己の心を開かず人を近づけない。
ハリファと血の兄弟の誓いを交わした義弟のサファルが昔言っていたことがある。
いわく『サイードの周りには目には見えぬ柔らかな壁がある。多くの人は彼を慕って近づくが、誰もその壁を打ち破り中へ入ることはできない』と。
そしてダルガートもなかなか癖のある男だ。
裏切者の謗りを受けることを覚悟の上で、彼が先のジャハール王を捨て自分についたことからもわかるように、己の信ずるところは決して曲げず、他人にどう思われようとまるで気にしない図太さがある。
だからこそ誰に対しても決して迎合せず、愛想の欠片もなく、人と慣れ合おうともしない。
そんな二人が珍しくも『カルブの儀式』のためにアジャール山を登る神子に同道したいと言ってきた。
神子のイシュクであるサイードはともかく、ダルガートまでもがそう願い出た時は大抵のことには動じぬハリファといえども随分と驚いたものだ。
(まこと、あの二人が興味を示した神子殿とは、いかほどの器を持つ男なのか。余にもまだ判らぬ)
ハリファカハルは替わりの茶を注がせながらニヤリと笑う。
「なればこそ、あれらを上手く使いこなすだけの器量が果たしてお有りかな? 慈雨の神子よ」
これはますます面白いことになってきたものだ。
若き頃よりまさに波乱万丈な人生を送ってきた元奴隷騎士の王は、早く帝都イスマーンに戻って二人の義弟に彼らを見せたいものだ、と笑い声を上げた。
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
悪役令息を引き継いだら、愛が重めの婚約者が付いてきました
ぽんちゃん
BL
双子が忌み嫌われる国で生まれたアデル・グランデは、辺鄙な田舎でひっそりと暮らしていた。
そして、双子の兄――アダムは、格上の公爵子息と婚約中。
この婚約が白紙になれば、公爵家と共同事業を始めたグランデ侯爵家はおしまいである。
だが、アダムは自身のメイドと愛を育んでいた。
そこでアダムから、人生を入れ替えないかと持ちかけられることに。
両親にも会いたいアデルは、アダム・グランデとして生きていくことを決めた。
しかし、約束の日に会ったアダムは、体はバキバキに鍛えており、肌はこんがりと日に焼けていた。
幼少期は瓜二つだったが、ベッドで生活していた色白で病弱なアデルとは、あまり似ていなかったのだ。
そのため、化粧でなんとか誤魔化したアデルは、アダムになりきり、両親のために王都へ向かった。
アダムとして平和に暮らしたいアデルだが、婚約者のヴィンセントは塩対応。
初めてのデート(アデルにとって)では、いきなり店前に置き去りにされてしまい――!?
同性婚が可能な世界です。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
※ 感想欄はネタバレを含みますので、お気をつけください‼︎(><)
処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる
猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。
しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。
当然そんな未来は回避したい。
原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。
さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……?
平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。
ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで
二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。
有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います
緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。
知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。
花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。
十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。
寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。
見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。
宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。
やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。
次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。
アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。
ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。