仲良くしたいの。《転生魔法士はある日、森の中でクマさんと》

伊藤クロエ

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カンダルの町(5)

 その日のうちにロウとダンは剥いだ毛皮を売りに行ってくれて、お陰でリツとノルガンはかなりの額の金を手に入れることができた。その金の半分をロウに渡すと、ロウは早速町で代書屋兼登記所の事務方をしているという男にリツがノルガンの所有者である旨の証明書を作らせた。
 それからリツはノルガンと共に、夕闇に紛れてカンダル随一の花街であるイルク通りへと向かった。

 魔獣がはびこるこの世界では、人の生き死には日常茶飯事だ。そのせいか、どんな小さな町にも必ず春を売る女たちがいる花街があった。
 そういう店ではたいてい一階が酒場になっていて、そこで酌婦をしている女たちを男たちが品定めし、気に入った女がいれば二階の個室で一夜の淫楽を買うことになる。

 王都と東の商業都市との中継地点であるカンダルの花街は結構な規模で、まだ日が暮れたばかりだというのにすでに女を買いにきた男たちや酒場の安酒に早々と酔って千鳥足の者、男たちをねっとりとした視線と声音で誘う女たちでたいそう賑やかだった。
 そんな場所にリツが行くと、たいていは女たちに冷やかされ、男たちには場違いな場所に迷い込んだ子どもを見るような目つきで見られるのが常だ。けれど今夜ばかりは微妙に違った。
 すれ違う男も女もリツには目もくれず、リツの後ろを歩くノルガンを見る。
 ノルガンは文字通り人間離れした逞しく分厚い傷だらけの身体に、リツがついさっき買い揃えたマントを羽織っている。彼はやはり身体をぴったりと覆うタイプの服は好きではないらしく、リツが「試着だけでも」と言っても上着やシャツの類は着ようとしなかった。そこでリツは彼のために雨や寒さを防ぐためのマントと替えのズボンと下着だけを買った。

 鋼鉄の分厚い板のような彼の巨大な戦斧はロウの家に置かせてもらっている。今、ノルガンはマントの下のズボンのベルトに大きなナイフを挿しているだけだ。傭兵としては軽装極まりない装備だが、それでも独特の威圧感を纏い人間離れした巨躯を持つ彼に近づこうとする者は一人もいない。お陰で彼と一緒にいるリツも誰にも絡まれることはなかった。

 リツはロウにあらかじめ聞いていた花街の並びにある一軒の店に向かった。そこでは《奴隷持ち》がおのれの所有物を飾るためのさまざまな装飾品や、表立って口にはできない玩具を売っている、らしい。リツは初めて入った店の品物を思わずキョロキョロと熱心に見回してしまった。

(ほんとだ……首輪に手枷……これは……ピアス? でも形がなんか普通のと違うような……)

 箱の中にはいろいろな大きさの輪っかのピアスや、バーベル状の小さな金属が並んでいる。一体どうやって使う物なのか思案していると、突然後ろから声が飛んできてリツは飛び上がった。

「それに興味あるのかい? なんなら施術も請け負うよ」
「えっ!?」

 振り向くと耳や唇にズラリと小さなリング状のピアスを嵌めた小太りの女が立っていた。どうやら彼女がこの店の店主らしい。彼女は毒々しく塗られた赤い唇でニヤリと笑うと、リツの隣に立つノルガンを見上げてヒュウ、と口笛を吹いた。

「奴隷はこっちの兄さんだね。こりゃスゴイ。さぞかしアッチの方もごリッパなんだろうね。アンタ、そんなちっちゃな尻でこんな規格外の奴隷飼ってて大丈夫なのかい」
「え……っ?」

 すると女は棒の両端に丸い留め具がついたタイプのピアスを手に取って言った。

「こいつは男のアレにつけるピアスさ。この丸いでっぱりがいくつも並んだ肉竿にナカをゴリゴリ擦られるとたまんないんだよ」
「……ッ」

 あまりにも淫らで明け透けすぎる言葉にどう返していいかわからず、リツは真っ赤になって俯く。するとおかしそうに女は笑って他の装飾品をリツに見せてきた。

「こっちはカリの下の裏筋んとこに通すやつさ。これで一番奥をねっとり突いて貰うのもいいよ。こっちの輪っかを根本に嵌めて絶対に射精させずに一晩中奉仕させるのも楽しいけどね」
「あ、あの、俺が買いにきたのは別の……っ」
「別? ああ、そうか。奴隷の兄さんじゃなくてアンタが使う方かい?」
「へ?」

 すると女は調子はずれの鼻歌を歌いながら、別の箱を取りだした。

「ほら、可愛いだろう? アンタ痛いの弱そうだから、穴をあけて通すんじゃなくてこういうのはどうだい」

 それは円の一部が途切れたクリップのような形をしていて、それが二つ細い鎖で繋がっている。

「これは胸用の飾りだけどね。奴隷に舐めて扱かせて、アンタのちっちゃな乳首をツンと勃たせたところにこれをキュッと嵌めるのさ。ずっとつけっぱなしにしとけば町を歩いてる時でも胸の先っぽがジンジンして、すぐにでもアンタの奴隷のイチモツを挿れられたくなるってシロモノさ。楽しいよ?」
「た……ッ」

 楽しくなんかない!! と叫びそうになった時、不意に女がリツの胸元にそれを押し当てようと手を伸ばしてきた。突然のことにハッと息を飲むと、女の手が触れるより前に太い腕に腹を囲われて引っ張られる。
 リツは急に服越しに伝わってきた彼の体温や匂いに、ぞくん、と身体を震わせた。
 リツはノルガンの懐でなんとかその小さくて淫らな装飾品から目を引きはがすと、キッパリとした口調で尋ねた。

「あ、あの! 彼に似合う、一目でわかるくらいいい首輪が欲しいんです!」
「ああ、そうかい。それなら待ってな」

 どうやら女はただリツを揶揄っていただけらしい。あっさりとピアスを箱に戻すと、さっさといろんな種類の首輪を持ってきてくれた。金属でできた物や革製の物、デザインも凝った彫物があったり女性用の物は色糸で刺繍がされている物もあった。

「ノ……ノルガンはどれがいい……?」

 自分を抱え込んだまままのノルガンに恐る恐る聞いてみるが、彼は興味なさげにそれらを一瞥しただけで黙ってリツに視線を戻した。

「俺が選んでいいの?」

 すると彼が小さく頷く。仕方なくリツは悩んだ末に彼に一番似合うと思う首輪を手に取った。

「ああ、なかなかいいヤツを選んだね」

 女がそう言って首輪の留め具を外してリツに渡してくれる。それは美しく鞣した幅太の黒革に小さな金属の鋲が打たれたものだった。

「これはグエラギスっていうかなり強くて珍しい魔獣の革で出来ててね。その半獣の兄さんは結構な歴戦の戦闘奴隷に見えるがね、ならこのグエラギスの首枷はデザインも質もそいつにピッタリだと思うね」

 女がそう褒めそやすのを聞き流しながら、リツはひどく複雑な気持ちで手の中の首輪を見た。

(……ほんとはこんなの嵌めさせたくないのに……。ノルガンだって本当は嫌なはずだ。しかも主人役が俺みたいな、見るからにひ弱なやつだなんて、他の人たちに見られたらきっと屈辱だと思うんじゃないだろうか)

 恩人であるノルガンに自分がしている仕打ちを思うと、リツは途端に逃げ出したくなる。けれどリツがその首輪を持って彼を見上げた時も、ノルガンは相変わらずなんの感情も見えない顔でリツを見下ろしていた。
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