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第三話

第三話 光明院ケイはこういった その8

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 同じ頃、謎の島の地下にある施設の奥では、
治療用ベッドに寝かされたニュートゥの体を隅々まで調べ上げていた機械類が触手のように蠢きながら
その体から離れていくと、スルスルと床の中へと吸い込まれていく。
コントロールシートと一体化したヨミの巨体がゆっくりと回転するとダインのほうへと向き直った。

「身体的には異常なし、神経系の修繕も完了しました。
 しかし、メモリーに大きな欠損が見られる為、ここ数日の記憶は失っているでしょう。
 ですがそれもバックアップで補完出来るレベルなので問題はありません」

ヨミの言葉に安堵のため息をついたダインは、一呼吸の間を置くと、
神妙な面持ちでこうべを垂れる。

「すまない……こんな事態を招いたのも私のせいだ。どんな処罰でも受けよう」

「相変わらずですねぇ、ですが、あなたを罰するつもりはありません。今は昔とは違うのですよ?」

しかし、ヨミの言葉にダインが食い下がる。

「だが、私が決闘にこだわらなければメガミオンに新型従者を奪われることもなかった」

ダインの言葉にヨミが答える。

従者あれは一体だけでは意味をなさぬ物。そういった意味では重要度は低いものです」

「しかし……」

なおも食い下がるダインをヨミが制する。

「それに問題があったのはマカラダイン、あなたではありません。
 判断を誤ったのはむしろニュートゥの方」

横たわるニュートゥを見ながらヨミが続ける。

「自らがその場でメガミオンを解体しようとするのではなく、手足を砕いてでもここに連れてくるべきでした。
 ここなら時間がかかろうと安全に作業できるのですから」

ヨミがコクりと頷くと、ダインがニュートゥに近づき、静かにその顔を見つめる。

ニュートゥの頬を指で撫でるダインを見ながらヨミが言った。

ニュートゥこの娘は好奇心が強すぎる。
 メガミオンの秘密を暴く事への好奇心を抑えられなかったのでしょう」

「問題だらけだな、私達は」

「ですね。しかし、ですからこそ我々は今、ここに居るのです」

自虐的に呟いたヨミが改めてダインに言う。

「数刻もすれば再起動するでしょうが、
 ニュートゥの経過観察はマカラダイン、あなたにお願いします」

ヨミの言葉にダインの表情が曇る。

「それはもちろんだが、やはり後遺症が残る可能性が高い、ということか?」

「物事は常に最悪の事態を想定して動くべき……何らかの問題がある可能性もゼロとは言えません。
 勿論、私も常にモニターしておきますが、あなたならこの娘のことをより詳しく観察できるはず」

ダインは一抹の不安を抱きながら、横たわるニュートゥを見つめる。

「まあ、そう深刻にならずに肩の力をお抜きなさい。観得るものもみえなくなってしまいますから。
 楽観的に悲観的であれ、悲観的に楽観的であれ、ですよ、マカラダイン」

「相変わらずだな、貴殿は」

いつもと変わらぬヨミのマイペースっぷりに、ダインの表情がふっと緩むのだった。

 一方、地下での出来事を知る由もなく、日暮れも近くなった島の砂浜では少女の楽し気な笑い声が響き渡っていた。

「アハハハハハハ!イエ~イ!」

タオの光る手のひらの上、数メートル上空にウーがふわふわと浮かび、楽し気に笑い続けている。
タイタンメイデンの重力制御能力により宙を舞うウーは、小さなサーフボードに乗り、
まるで波を割り進むサーファーのようにバランスを取りながら空中サーフィンにご満悦の様子。

「ほ~れほれほれ、おとなしく留守番していたご褒美だ!
 タオ様得意のGライド、今日はたっぷり楽しませてやるぜ!」

そう言いながらタオはもう片方の手のひらをウーにかざし、人差し指をちょいと動かす。
するとタオの手の上からサーフボードだけが砂浜の上に飛んでいき、後にはウーの体のみ取り残された。

「アハハハハ!……アハ、あ?」

足元にあったボードが無くなったことにウーがきょとんとしていると、
突然、その体は、上に、下に、右に、左に、滑るように回りだす。
その様は、まるで透明の球体の中を転がり続ける人形のよう。

「アハ!?ま、まって、アハ!タオ!と、止めて、止めてってば!アハハ!」

突然のことにテンションのおかしくなったウーが目を回し、
やめてくれるように頼むも、それを喜んでいると勘違いしたタオはさらに調子づく。

「うはははは!た~のしいか?ウー!よーし、次行くぞ!!」

タオが手のひらを向かい合わせる。
すると、その間に浮かんでいたウーの動きがピタリと止まった。

「アハ、ハ……ハァハァハァ……もう!タオってば……」

目を回したウーがタオに抗議しようとした次の瞬間、

「ほい!」

タオの掛け声とともに、ウーの体は数十メートル上空へと打ち上げられた。

「にょわーーーーーーーーーーーーーー!?」

地上から、はるか上空へと一気に移動させられたウーが叫び声をあげる。
そして一瞬、空中で制止した後、当然のように地上へ向けて自由落下し始めた。

「にょ!?にょにょにょ、にょぉうわぁぁぁぁーーーーーー!!」

落ちてきたウーをキャッチするタオ。
勿論、重力制御能力でウーの体は傷ひとつついてはいない。

「うはははは、どうだ?楽しいか?たのしかろーが!」

自慢げなタオの言葉に、ウーは言葉を荒げ怒鳴りつける。

「もう!タオのばか!落ちたらどうすんの!?落ちたら痛いんだからね!!」

「んー?まあ、人間なら落ちたら痛いどころか死ぬな。
 だからウー、俺たちがいない時は、一人で高いところにのぼったりするんじゃねーぞ?」

「う~~~!ち~が~う~!私が言っているのはそういうことじゃない~~~!!」

タオのずれた答えに、ウーはじたばたと暴れながら、抗議の声を上げるのだった。




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