鋼鉄少女王 タイタンメイデン

鳳たかし

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第四話

ピュエラ・エクス・マキナ その9

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 半壊した朝日台中学校の校庭では、
長くえぐれた隕石落下痕の周囲で数人の作業員がせわしなく動き回っていた。
駐車したトラックの荷台にはガレキが積まれ、
大型の灯光器に照らし出された多数の重機の影が落下痕の先にある校舎にまで伸びている。
壊れた校舎の壁は、三階までの一角を激しく欠落し、周辺にはまだ瓦礫が多少残っていた。

教室内から空の星が覗けるほど大きく欠けた穴から校舎内部に夜の風が流れ込む。
今や吹き曝し状態の教室の奥から一人の自衛官が外に出ると
そのまま重機のほうへと歩いていき、その場にいた作業員と何やら話始める。
内部に残された二人の自衛官はそれを目で追っていたが、
片方の自衛官が落ち着きなく周りに目を泳がし始めた。
少し離れた床に落ちている人間の手首が灯光器の光を受けて不気味な影を形作る。

自衛官はそわそわと周囲に気を向け、放置された手首を見ないようにしていたが、
やはり気になるのか、二度三度と目をそらせつつも
最後には、まじまじと引き付けられるように手首を凝視しはじめてしまう。

「おい古山」

突然声をかけられた自衛官は飛び上がり息をのみながら答えた。

「うわ!?あ、新田、お、脅かすなよ!」

「どうした?手首なんかじっと見て……何か気になるところでも?」

「あ、いや、なんか人間の肌って血の気の抜が抜けるとあんな白っぽくなるんだな~と思ってさ……
 まるで作り物みたいだよな」

「さわってみたら?」

「うぇ!なんで!?」

「いや、本物かどうか確かめたそうな顔してるからさ」

「んなことしたら怒られるだろ!」

「現場保全してる意味がなくなるからなぁ。怒られるだけじゃ済まんわ」

新田と呼ばれた自衛官がさも当然、といった面持ちでいうと、古山は少し間をおいてから再び話を切り出した。

「けど、新田、こう言った言い方はあれだけど、ただの手首ひとつに作業中断するなんて大げさすぎやせん?
 こういう現場なら犠牲者のご遺体が出ることだってあるだろうし」

「まぁ、そうだな……でもな、今回に限っては犠牲者はいないんだとさ」

「はい?」

犠牲者はいない?ではあの手首は?
と古山が疑問に思っていると、新田が話を続ける。

「んとな、災害発生当日、この校舎にいた全員の無事は確認されているんだとよ。
 生徒も、教師も、出入りの業者も、みんな怪我ひとつ負った人はいない。
 生徒二人は当初連絡が取れなかったが、後に本人たちから連絡が入っている。
 なのに、だ、校舎からは大量の血痕が発見され、今また人間の手首が発見された……コレどう思う?」

「う~ん……変質者が校舎に潜り込んでいて巻き込まれた、とかないかな?」

「可能性としては『絶対に無い』とは言い切れないと思うが、どうなんだろうなぁ……
 あ、それとな、他にも不可解な点はまだまだあるんだと」

「それは、どういった?」

「まず手首が、大量の血痕から離れた場所で発見された、という事。
 なんか放り込まれたかのように不自然なんだとさ。
 あとは手首以外の部位が発見されていないってとこ。
 事故に巻き込まれ、ミンチになっていたとしても
 手首以外の肉片の一つも発見されてないってのは、これもまた不自然ちゃあ不自然だ」
 
「ミンチとか言うなし!……でも、どういう事なんだろな?」

「正確にはわからんが、事件の可能性がある、という事は確かだろうな。
 だから一応、警察に現場検証を依頼したんだそうだ。
 んで、それ以降は警察立会いの下での撤去作業になるらしい」

「ふ~ん……」

古山は少し考えた後、話を切り替える。

「でも、手首だけとはいえ、こうして死体の見張りをするってのも気持ちのいいもんではないよな」

「手首だけならまだましな方だぜ?俺なんか首吊り死体の見張りやらされたことあるんだから」

「うへぇ!?」

「いや、学生のころなんだけどさ、深夜の公園で首つり自殺の死体を発見しちゃってさ、
 携帯で急いで警察に連絡入れたら『すぐに警察官を向かわせますからその場で待機をお願いします』なんて言いやがってさぁ」

「マジかよ」

「すぐ、とか言いやがったくせに一時間ぐらいしてからやっと来やがんの!」

「一時間!?うひ~!」
 
「まったく!生きた心地がせんかったわ!」

「トラウマもんだな……」

ドン引きする古山。
調子づいた新田がさらに話続ける。

「っつかさ、刑事ドラマでよく首吊り死体って出てくんじゃん?あれ、嘘だね」

「ウソ?」

「嘘ってかソフトに表現してる。ドラマなんかだとなんか普通にこうぷらーんとしてるじゃん?」

新田は体を揺らしドラマの死体を表現する。

「実際はこう!こうギ~っとなって首がグニュ~って伸びてさぁ……」

続いて実際の首吊り死体の様子を再現しようとする新田。

「うっわ!やめろよ!そういうの!リアルに想像しちゃうだろ!」

古山が慌てて新田の話を遮った時、
突然、何の前触れもなく、突き上げるような轟音と共に地面が揺れた。

「うおぅ!」

「な、なんだ!?」

不穏な話をしている最中に起こった地響きに冷や汗を流す二人。
だが一回目の振動が収まる間もなく、再び轟音が上がりさらに振動が校舎を揺らす。
二度、三度と起こる振動に二人は同時に、ある考えに至った。

「お、おい、これって」

「まさか……?」

言いながら二人は同時に音のする方を目で追った。

 一定のリズムで移動しながら打ち付ける轟音と振動……これは、ひょっとすると……

振動を追う二人の目線が崩壊した校舎一角に至ったその時、巨大な影が物陰からヌッと現れた。
校舎内を照らしていた灯光器の明かりを影がさえぎった次の瞬間、巨影は轟音を上げ、大地を打ち付ける。

「やっぱり足音!!」

粉塵が巻き上がり周囲にまき散らされる中、新田は急いで外に飛び出す。

「こ、こいつは!!」

灯光器に駆け寄った他の自衛官が明かりを巨影へと向ける。
光が影をなめ、その姿を浮かび上がらせると、
校庭にいた者も、校舎にいた者も、その場にいた全員の顔がみるみると青ざめていった。

「巨人!!」

新田の叫びに呼応するかのように晴れた粉塵の中には、巨大で無骨な人型の物体がそそり立っていた。







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