星架の望み《ステラデイズ》・星

零元天魔

文字の大きさ
3 / 36
竜殺し編・《焔喰らう竜》

第一話・「平穏と不穏を乗せた秤(2)」

しおりを挟む
 ガヤガヤとクラスメート達の雑談が聞こえる中、そっと教室の扉を開いて自席へ向かった。
 途中、何人かと挨拶を交わしながら席に着く。
 「よっ、叢真」
 鞄を置き一息ついたところで聞き覚えるある声が耳に響いた。
 「おはよ。相変わらず早いな」
 「まあな」
 そういい眼鏡の縁をクイッと押す男。
 俺の目の前にいる男は山河やまかわ早間はやま、キリッとした目が特徴的な眼鏡男子。見た目通り几帳面な性格をした人物で、テストでは毎回学年一位と勉学に優れた男である。
 コイツとは中学からの付き合いでよく勉強を教えてもらっている。
 流石の学年一位、教え方が非常に上手く然程勉強が得意ではない俺を、それなりに勉強をできるようにしてくれた。
 周りからはその堅物さから避けられがちだが、話してしまえばそんなに気にならない。
 ただ少し毒舌気味な発言が多い人間であるため、忌避され易い人物なのは確かだろう。俺としてはそこまで気にしないが、言葉の節々に棘があるなとは思う。
 もう少し言葉と目つきを軟化させれば、人との会話の機会が増えるだろうに……。
 「どうした?」
 ジッと顔を見ていたからか、早間が疑問そうに首を傾げた。
 「いや、なんでもない」
 「そうか? そのわりには意味深な表情だな」
 「それこそ、そうか? 俺の顔はいつもこんな感じだ」
 そう言って自分の顔を指さす。
 「それもそうか……お前、いつも何を考えてるのかよくわからない表情をしているからな。感情死んでるんじゃないか?」
 「ひどくない?」
 しれっと心を抉るような発言を飛ばされる。
 別に自分が感受性豊かで、表情にもそれが現れるような人間味溢れる人物だとは思わないが、人並みに感情はあるわけだし、表情にそれが見られないのは見る側が悪い。俺は悪くない。
 「お前、別に人から避けられてるわけじゃないが、妙な心の壁があるからな。人との会話に膜を張ってるみたいで気持ち悪い……いや、言い方が悪いな。当たり障りのない会話しかしないから、〝人との関係があまり進まない〟――だな」
 「…………」
 この男、ズケズケと人が言われたくないことを真正面から言ってくる。
 確かに早間とは話してしまえば、その堅物さなどは気にならなくなる。が、代わりに――このノンデリ発言が人の心を突き刺してくる。
 なぜここまで言われたくないことを的確に言って来るのか……おそらく彼が人の事をよく見ているからなのだろう。よく観察しているからこそ、相手のことを理解してその言葉を吐ける。
 ……それでなぜ、嫌なことしか言えないのか。
 その着眼点は素晴らしいと思うが、発せられる言葉に難があり過ぎる。
 もっとそので良い事を言える努力をすればいいのに、彼は自身がノンデリ発言をしていることに気づいていない。……クソ鈍感男が。
 俺は早間から視線を逸らし、反撃に出る。
 「目つきで怖がられるヤツよりマシだ」
 「ぐフッ――!」
 本日二度目のクリティカルヒット。
 端的に相手を射殺す言葉。春姉も早間も弱点ウィークポイントがわかりやすい。目に見える的を射抜くことくらい簡単だ。
 「お、お前……」
 酷く苦しそうに胸を押さえる早間は、恨みがましい顔で俺を覗く。
 「なんじに出ずるものはなんじに反る、ってやつだ。早間、観察することもいいけどさ、自分の行いで相手がどう思うかも少しは考えた方がいい」
 「…………」
 「無自覚鈍感は嫌われるぞ」
 まあ、八方美人過ぎるってのもよくないんだろうけど。俺みたいに当たり障りのない人間になるのも考え物か。
 よく考えれば、それで苦労しているのがうちの兄だ。
 「……すまん、助言感謝する」
 「どういたしまして」
 笑みを浮かべてそう言葉を返した。


 お前は何様だ、という説教染みた言葉を早間に送ってから数分が経過。早間と雑談を交わしていると、ガシャンと扉を強く開けて教室へ入ってくる人物が一人。
 着崩した制服、耳にはピアス、相手を睨みつけるようなツリ目。見て分かる人相の悪さ、彼が入って来てから何だか教室内がピリついている。
 そんな男がカツカツと靴を鳴らしこちらへ近づいてくる。そして――
 「よーすっ! 叢真に早間、何話してたんだ?」
 満面の笑みと共に陽気な声でそう質問してきた。
 「「…………」」
 俺達はそんなコイツを見て呆れたような表情をした。
 男の名は大浜おおはま原崎はらき――人相が悪いだけの善人である。
 原崎はその見た目が不良そのものであるが、中身は善性の塊みたいなやつだ。悪事は見逃せず、本物の不良達にも食って掛かるほどの正義感を持っている。
 そんな性質タチのせいか、不良とよく喧嘩を起こし周囲から変に恐れられている。
 が――
 「大浜くん」
 「あ?」
 原崎は振り返り、背後にいたクラスメートの女子に視線を向ける。
 「き、昨日は、助けてくれて……――ありがとうございました!」
 「……ああ、そういやそうだったな」
 深々と頭を下げる女子生徒を見て頭を掻きながら、原崎は少しどうでもよさげに呟く。
 どうやら昨日ちょっとした事件があったようだ。
 よくやるよ、本当に……。
 「気にすんな。また困った事があったらいつでも言ってくれ、力になるからさ」
 「う、うん。ありがとね」
 「おう」
 その人相で怖がられ、避けられても彼は多くの人を助けている。
 爾に出ずるものは爾に反る――さっき早間に送った言葉だが、この言葉に尽きると思う。悪い行いも良い行いも、いずれは全て帰ってくる。
 どれだけ見た目でマイナスがあろうと、行いまでマイナスにしなければ相応に還ってくる筈だ。
 そう――例え、その根底がって関係はない。
 「で、二人は何の話してたんだ?」
 女子生徒が去った後、再び原崎がそう質問をして来た。
 「俺達はお前が赤点になった今回の期末について話してたんだ」
 「ブフッ――!」
 クリティカルヒット――本日三回目。
 前言撤回。善い行いをしても必ず帰ってくるとは限らないようだ。あくまで善行は一方通行、帰ってくる事の方が稀なんだろう。
 まあ……善行に見返りを求めるのが、そもそも間違ってるのか。
 一人そんな風に自己完結した。
 「おはよ、叢真」
 自己完結を済ませた俺が、目の前で繰り広げられている早間と原崎のくだらない言い争いを眺めていると、トントンと軽く肩を叩き、声を掛けて来る人物がいた。
 「ん。おはよう、命里」
 顔をその人物に向けて挨拶を返す。するとニッコリとした笑みがこちらへ向けられた。
 彼女の名は望月もちづき命里いのり、小中高とずっと同じクラスの幼馴染だ。
 二つ結びされた青みがかった長い黒髪、薄花色の瞳はまるで宝石の様。整なった顔立ち、すらっとしたその体型……総合的に見て〝美人〟と言わざる得ない人物である。
 若干癪だけど……。
 幼い頃から関係がある故か、周囲が彼女を美人などと言っていると違和感を覚える。能天気なコイツが美人だなんだと持てはやされているのが、癪に障る。自慢もしてきてかなり鬱陶しい。
 ……まあ、美人なのは事実なわけで、認めざる得ないのだが……本当に遺憾だ。
 「…………」
 そんなことを思いながら、今一度――彼女に顔を向ける。
 「?」
 不思議そうな表情がこちらへ向けられ、そっと視線を落した。
 命里とは幼い頃から家族ぐるみで交流があった。小中高と言ったが、正確に言えばそれより前から付き合いがある。
 俺達の両親は昔馴染みだったらしく、そんな両親に連れられ俺達は幼い頃からよく一緒に遊んでいた。命里は一人っ子ということもあって、当時は俺や兄さんくらいしか遊び相手がいなかった。
 特にうちの兄さんは、面倒見のいい性格だったこともあって命里の両親からも信頼があった。
 今考えると俺達の両親は、兄さんに子供の面倒を見させていたのだろう。兄さんは年齢の割にしっかりした人だったし、良識を弁えた人だった。(所々おかしい人ではあったけど)
 両親からはよく早熟だとか、育て甲斐がないとか、私達よりちゃんとしてるだとか言われていた。親としてそれはどうなのか? という発言が多くあった気もするが、それほど兄さんを信頼していたのだろう。
 命里も兄さんのことを本当の兄の様に慕っていた。
 俺は彼女や彼女の両親との関係が好きだった……が訪れるまでは、そんな関係がずっと続くと思っていた。
 「二人はまた喧嘩?」
 彼女が問い掛ける。
 「喧嘩ーではないと思うけど……いや、まあ、そうだな。喧嘩するほど仲がいいってやつじゃないか?」
 「「違う!」」
 こちらの会話を聞いていたのか、二人はもの凄い勢いで否定してきた。
 ……これで仲が良くないは流石に無理があるだろ。
 あまりにも息ピッタリな様子にそう思わずにはいられなかった。
 「あー言ってるけど?」
 背後の命里がそう問い掛けてくる。
 「あくまで傍からの意見だ、当人の思いは知らないよ」
 「なーほー」
 両手を組み納得したように頷いた。
 そしてその後、少しの間を開け彼女は俺の前に立ち、少し恥ずかしそうに頬を赤らめ口を開く。
 「叢真、そういえばさ」
 「ん? どうした?」
 「いやね、その……」
 「?」
 どこか緊張した様子の彼女に疑問を浮かべる。
 深呼吸――開き直った彼女は真っ直ぐ俺の顔を見て言葉を紡ぐ。
 「誕生日おめでと叢真」
 「――――」
 目を見開き、少し驚いた様相で命里を見る。
 ……その程度のことに一体なんで緊張した? 毎年の事だろうに。
 何か衝撃的な事実でも言われるのかと身構えた俺が馬鹿だった。いや、嬉しいんだけどさ、でもそこまで緊張するようなことではないと思ってしまう。
 ――いや、か。
 「どうかした?」
 「なんでもない。ありがとう」
 疑問符を浮かべる彼女に平静を装いそう感謝を述べる。
 「それでさ、ちょっと帰りに――」
 「命里ちゃんー!」
 彼女が何かを言い掛けたその時、少し離れた位置にいた彼女の友達が声を上げた。固まる命里、少ししてなにやら恨めしそうな表情を友人に向けている。
 「呼んでるぞ? 行かなくていいのか?」
 「もうぉ……」
 「?」
 酷く草臥れた声を出す彼女に、今度は俺が疑問符を浮かべることになる。
 すると命里はくるっと反転し、彼女を呼ぶ友達の元へ向かって小走りで向って行った。
 「あれ? なんか、いのりちゃん怒ってない?」
 「むー」
 「え、なんでっ!?」
 頬を膨らませ突撃した命里によって友人の二人は撃沈される。
 何やってるんだ、アイツは……?
 幼馴染の奇行に呆れた視線を向け――少し彼女を眺めていると、なんだか複雑な心境に気持ちが置かれた。
 「浮かない顔だな」
 「っ――!」
 突然正面からそんな声が聞こえ、驚いて視線を戻す。
 「なんだ、白汰か」
 俺の反応に笑みを浮かべる男。
 目の前にいる男の名は上翅かみばね白汰はくた
 文武両道、才色兼備を体現した人物。
 勉学は力を入れずに早間に次ぐ学年二位。どんなスポーツも人並み以上にでき、その他のことも卒なく何でもこなせるという正に完璧超人。
 その超人っぷりだけでもチートだというのに、側も内もイケメンというオーバースペックっぷり。クラスを越え、学年を越え、女子生徒から強い人気を誇っている。
 そんな白汰はなぜかは知らないが、一クラスメートに過ぎない俺によく話し掛けてくる。
 「大方、望月さんからの言葉に対して気落ちしたとか、か?」
 「……見てたのか」
 「ああ。どうせ叢真のことだ、自分とは何ら関係ないのに気にしてるんだろ?」
 「…………」
 図星を突かれ押し黙ってしまった。
 「まあ、そうだな。今日は世間的にあまり良い日じゃないだろ? アイツの反応は至極当然だ」
 「そうかもしれないが、別にお前は悪いわけでもない、気にするようなことではないと思うけどな」
 「心の持ち様だ……俺のせいとか、そんな話じゃない」
 白汰は神妙な面持ちのままこちらを見たと思ったら、次に呆れた表情で言った。
 「それはそうとして、趣旨の曲解はどうかと思うよ」
 「は?」
 「状況が悪いのかもしれないけど、長年の付き合い的にわかると思うんだが……まあ、叢真のせいもあるけど、奥手過ぎる方も悪いか」
 「??」
 なにやら自己完結を済ませた白汰が呆れ顔で俺と命里を交互に見る。意味がわからず困惑の表情を向けるが、答えが返ってくることはなかった。
 そうこうしている内にチャイムが鳴り、それぞれが席に着いた頃にはホームルームが始まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...