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竜殺し編・《焔喰らう竜》
第一話・「平穏と不穏を乗せた秤(3)」
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その日も特段変わったことはなく、いつもと変わらない時間が流れた。
下校を伝える鐘の音が聞こえる。
教室が慌ただしい。部活動へ向かう者、帰宅を急ぐ者、それぞれ目的を持った者達が忙しなく行動を開始する。授業中は気だるげにしている者も、この時間にそんな様子はない。
なんてこともない日常だ。
学校での時間が終わるこの瞬間、なんだか一日の終わりという感じがするが、これから始まりという人物もそこそこいるのだろう。
ほんの少し日の落ちた空はまだまだ青々しく広がっている。
気持ちよく広がる青空の碧さに思わずため息が漏れ、少し気分が落ち込む。こんなに清々しい空を見て気分が沈むのは自分が空っぽだからだろうか?
そんなブルーな気持ちを抱きながら立ち上がる。
「叢真、一緒に帰ろ?」
ゆったりと帰宅準備を進めていると、命里がそう声を掛けて来た。
「わかった。少し時間をくれ、すぐ準備する」
「了解」
そういい彼女は俺が準備を終えるまで隣で待っていてくれた。
少しして荷物をまとめた俺は命里と共に帰路に着いた。因みに原崎はチャイムと同時に教室から消え、早間は塾があるとかで帰った。白汰も部活動に入っているから部室に向って行った。
隣にいる命里も今日は部活がないから一緒に帰っているだけで、基本的には部活があるから一緒に帰ることはそう多くはない。ただ部活がない日はこうして一緒に帰ることも多い。
皆それぞれやりたいことや予定があっていいな、と思う。
誕生日の今日すら予定の一つもない俺としては羨ましい限りだ。
昔の自分はどうだっただろう? 昔の俺は、もっと色々とやりたいこととか、目標があって努力する人間だっただろうか?
今の俺にはそんなモノがない。きっとあの日――その全てを落してしまったんだ。
空の天秤は目的も、果たすべき意味もなく、ただ無意味にそこにある。
俺はまたいつか、目的と意味を見出せるのだろうか……。
「夏休み……どうするかな」
今から長期休みに不安が募る。
そんなことを考えつつ、俺は命里と雑談しながら帰路を進んだ。
しばらくして俺達は道中にある公園の前で立ち止まった。
そこそこの大きさの公園には、砂場やいくつかの遊具、子供が元気いっぱい遊ぶには十分な場所だ。しかし、そんな公園にも関わらず子供の遊び声は聞こえない。時間帯的に多くの子供が遊んでいてもおかしくないが、子供の影は一人を除いていない。
カツカツ、と俺と命里は公園の中に入る。
公園を見渡すと一人の少女がなにやら頭上を見上げてしょんぼりとしていた。
命里は迷わず少女の元へ向って行った。
「美波ちゃん、どうしたの?」
「イノリお姉ちゃん……」
声を掛けられた少女は命里の方を向いて呟いた。
「風船」
その言葉を聞いて彼女が頭上を見上げる。俺も彼女らの視線を追ってその先に目を向けると、そこそこ高い位置に風船を見つけた。
ああ、なるほど。
俺は風船を見て得心いった、という表情で少女の元へ向かった。
「風船飛んで行っちゃったか」
「うん」
少し寂しそうに頷く少女。そんな様子を見て命里が遣る瀬無いという表情をし、うー、と唸りなにやら悩んでいるような表情を作った。
そして――
「――よし!」
パチンと頬を叩き覚悟を決めたという表情を見せる。
「美波ちゃん、風船は私が絶対取るから大丈夫!」
「……ホント?」
「もちろん!」
元気よく答える命里を見て少女は少し元気を取り戻す。
そして彼女は頭上の風船に視線を向けると、精一杯風船目掛けてジャンプをしながら手を伸ばした。グッと伸ばされた右手は、風船の紐に少しも触れることなく空を掻いた。
「っ――」
悔しそうな表情を浮かべる命里だが、それでも一生懸命手を伸ばし続けている。
…………。
そんな彼女の様子を見て不思議な気分になった。
正直言って彼女の手は風船の紐に触れれるとは思えない。全力で伸ばした手は、無意味に空中を掻いているばかりで風船に届く気配はない。位置が悪い。あの高さは彼女はおろか、俺でも届きそうにない。
……それは命里も分かっているんだろう。
それでも我武者羅に風船へ手を伸ばし続ける彼女の姿に、俺は――
――――何を思ってしまったのだろうか?
モヤモヤと黒い感情が一瞬、心を染めた。
内在するソレに深い嫌悪を抱くが、それは既に過ぎ去っている。気にするだけ無駄だと判断して握りしめた右拳から力を抜いた。
「――、は」
肺の中の空気を吐き出し、ゆっくりと呼吸を整える。
通り過ぎた感情を掻き消すように右手で空を薙ぐ。
「ふぅ――……よし」
再び右手を握り込み、軽く覚悟を決める。
「命里、俺が取るよ」
「え」
「身長的にも、能力的にも俺の方が可能性あるだろ? 知ってると思うけど、俺だってお前ほどじゃないが、それなりに運動できるんだ、あとは身長で何とかなる」
「うーん、なんか無茶苦茶暴論な気がするんだけど……」
呆れた表情を見せる彼女に、自分でも無茶苦茶言っている自覚があったので苦笑いを浮かべる。だが、口で言っていることの他に、可能性を高める術を持っている俺は暴論ながら本気だった。
そんな俺の心意気に気づいたのか、彼女は呆れた様子ながら「わかった」と了承してくれた。
俺は二人に少し離れるように言って自身も目標物から少し距離を取る。軽く準備体操をするように、体の筋を伸ばしていきながら能力のフィーリングを開始する。
「固有強化――限数設定・固定開始」
そう口にしながらゆっくりと体勢を整える。
地面を軽く踏みしめながら、真っ直ぐとした姿勢で前を見る。
「向上・指定。身体・Ⅰ固定――」
体の中心から熱が広がっていく。全身を隈なく巡る熱が、まるで自身の体を作り変えるように体を侵していく。同時、変化する肉体に力が漲る。
地を踏み鳴らしながら自身の肉体状況を軽く確かめ、言葉の結びを口にする。
「限数設定・固定完了」
変化を終えた肉体。軽く呼吸を整え、
「よし――やるかっ!」
勢いのまま地を蹴った。
風船の引っかかった木目掛けて全力疾走。強化された俺の身体能力は、50mを軽く5秒で走り抜けられるほど飛躍的に強化されている。平常時では考えられない速度、俺はその速度のまま目標物へ突撃する勢いで走る。
直線――このまま木に直撃すれば痛いでは済まないだろう。
だが、俺はその速度を緩めることはしない。
前に、――前にッ!
地面を強く踏み締め、地を蹴り前方に飛んだ。
軽く高度を上げるが風船に届くほどではない。勢いはあるが、そのエネルギーは全て前方に向けられている。このままでは加速した勢いのまま、木に体を打ちつける。
無理、やりッ――!
「固定追加」
体勢を整え、右脚を前に出す。
「脚・Ⅱ固定――固定完了」
今度は脚のみに熱が籠り、変化が起きているのを感じる。正面の木に右脚が着くより速く肉体の変化が終わり、馬力を捻り上げた脚で木を思いっきり蹴りつけ――体を跳ね上げる。
上に――ッ!
走って生み出した力の方向を上向きに変更し、同時に強化された脚力を用いて全力で飛んだ。
「うぉっ! 飛び過ぎ――」
予想以上に飛んでしまい風船が頭の横を過ぎ去りそうになるが、何とか右手を伸ばして掴んで見せる。
ザザザ、と地面を擦りながら着地する。
「ふぅ――、なんとかなった」
右手に掴んだ風船の紐を見てそう呟く。
「全限数固定解除」
熱が引いていく感覚と共に、全身に倦怠感が発生する。全身の筋肉が張っているような感覚を残しつつ、肉体は元に戻った。
これは……明日、筋肉痛確定だな。
苦笑いを浮かべながら立ち上がって少女の元へ向う。少女は嬉しそうに俺を見て、その隣に立っている命里は驚いた顔のまま硬直していた。
「ほら、もう放すんじゃないぞ?」
「うん!」
満面の笑みで風船を受け取る少女。
「ありがとう、ムラマ!」
笑みと共に感謝を述べる少女に俺は、
「……ああ、どう致しまして」
少しぎこちない笑みを浮かべ、そう言葉を返した。
「ねえ、叢真今の……」
「ん?」
パンパンと服に着いた砂を払っていると、動揺した様子の命里が声を掛けて来る。
「今、すっ――ごく、高く飛んでなかった?」
「そうか?」
「そうだよっ!」
「っ――」
大きな声を上げる彼女に思わず驚く。
「いきなりどうした」
「こっちが言いたいわよ! なんで急にあんな超人的な跳躍力見せて来るのよ!」
「そうか?」
「そうだよっ!」
「…………」
さっきとまったく同じ流れに両腕を組んで呆れた表情を向けた。
「なに、私がおかしいの!?」
「いや、そういうわけじゃないが……いや、おかしいにはおかしいが」
「おかしいの!?」
ビックリという表情を浮かべる命里にそうだよ、という表情を送った。
少しして落ち着いた命里が口を開く。
「叢真が所々オカシイのは今更だし、もういい……まったく、叢真が失敗したら肩車作戦に切り替えようと思ってたのに」
おい待て、何か色々おかしくないか?
俺がおかしいってのも色々言いたいけど、肩車作戦もなんだそれは? 仮にそれが俺と美波ならいいけど、俺と命里だと色々とヤバくない?
ツッコミたいことが多すぎて逆に言葉が出なくなる。
「はぁ……」
「その深いため息、なに?」
そう疑問を述べる命里にジト目を向けた後、「さあ」とだけ呟き少女の方に向った。
「美波、勇夫さんはどうしたんだ?」
「お爺ちゃんは知らない人に呼ばれてどこか行っちゃった」
「なるほどな」
後ろでガヤガヤうるさい命里を無視して、少女の言葉に納得したような呟く。
…………。
「?」
こちらの視線を受け、少女は首を傾げる。
彼女の名は浜岸美波。半年ほど前、とあることを切っ掛けにこの公園でたまに命里と共に遊ぶようになった子だ。
真っ黒な長い髪の少女。なぜか命里のことはお姉ちゃんと呼ぶのに、俺のことは叢真と呼び捨てにしている。
別に異議を唱えるほどではないが、年下にナチュラルに呼び捨てにされるのは少し堪える。
「あ、お爺ちゃん!」
と、感慨深げに美波のことを見ていると、そんな言葉と共に彼女は駆け出し、公園の入り口から現れた老人の元へ走って行った。
下校を伝える鐘の音が聞こえる。
教室が慌ただしい。部活動へ向かう者、帰宅を急ぐ者、それぞれ目的を持った者達が忙しなく行動を開始する。授業中は気だるげにしている者も、この時間にそんな様子はない。
なんてこともない日常だ。
学校での時間が終わるこの瞬間、なんだか一日の終わりという感じがするが、これから始まりという人物もそこそこいるのだろう。
ほんの少し日の落ちた空はまだまだ青々しく広がっている。
気持ちよく広がる青空の碧さに思わずため息が漏れ、少し気分が落ち込む。こんなに清々しい空を見て気分が沈むのは自分が空っぽだからだろうか?
そんなブルーな気持ちを抱きながら立ち上がる。
「叢真、一緒に帰ろ?」
ゆったりと帰宅準備を進めていると、命里がそう声を掛けて来た。
「わかった。少し時間をくれ、すぐ準備する」
「了解」
そういい彼女は俺が準備を終えるまで隣で待っていてくれた。
少しして荷物をまとめた俺は命里と共に帰路に着いた。因みに原崎はチャイムと同時に教室から消え、早間は塾があるとかで帰った。白汰も部活動に入っているから部室に向って行った。
隣にいる命里も今日は部活がないから一緒に帰っているだけで、基本的には部活があるから一緒に帰ることはそう多くはない。ただ部活がない日はこうして一緒に帰ることも多い。
皆それぞれやりたいことや予定があっていいな、と思う。
誕生日の今日すら予定の一つもない俺としては羨ましい限りだ。
昔の自分はどうだっただろう? 昔の俺は、もっと色々とやりたいこととか、目標があって努力する人間だっただろうか?
今の俺にはそんなモノがない。きっとあの日――その全てを落してしまったんだ。
空の天秤は目的も、果たすべき意味もなく、ただ無意味にそこにある。
俺はまたいつか、目的と意味を見出せるのだろうか……。
「夏休み……どうするかな」
今から長期休みに不安が募る。
そんなことを考えつつ、俺は命里と雑談しながら帰路を進んだ。
しばらくして俺達は道中にある公園の前で立ち止まった。
そこそこの大きさの公園には、砂場やいくつかの遊具、子供が元気いっぱい遊ぶには十分な場所だ。しかし、そんな公園にも関わらず子供の遊び声は聞こえない。時間帯的に多くの子供が遊んでいてもおかしくないが、子供の影は一人を除いていない。
カツカツ、と俺と命里は公園の中に入る。
公園を見渡すと一人の少女がなにやら頭上を見上げてしょんぼりとしていた。
命里は迷わず少女の元へ向って行った。
「美波ちゃん、どうしたの?」
「イノリお姉ちゃん……」
声を掛けられた少女は命里の方を向いて呟いた。
「風船」
その言葉を聞いて彼女が頭上を見上げる。俺も彼女らの視線を追ってその先に目を向けると、そこそこ高い位置に風船を見つけた。
ああ、なるほど。
俺は風船を見て得心いった、という表情で少女の元へ向かった。
「風船飛んで行っちゃったか」
「うん」
少し寂しそうに頷く少女。そんな様子を見て命里が遣る瀬無いという表情をし、うー、と唸りなにやら悩んでいるような表情を作った。
そして――
「――よし!」
パチンと頬を叩き覚悟を決めたという表情を見せる。
「美波ちゃん、風船は私が絶対取るから大丈夫!」
「……ホント?」
「もちろん!」
元気よく答える命里を見て少女は少し元気を取り戻す。
そして彼女は頭上の風船に視線を向けると、精一杯風船目掛けてジャンプをしながら手を伸ばした。グッと伸ばされた右手は、風船の紐に少しも触れることなく空を掻いた。
「っ――」
悔しそうな表情を浮かべる命里だが、それでも一生懸命手を伸ばし続けている。
…………。
そんな彼女の様子を見て不思議な気分になった。
正直言って彼女の手は風船の紐に触れれるとは思えない。全力で伸ばした手は、無意味に空中を掻いているばかりで風船に届く気配はない。位置が悪い。あの高さは彼女はおろか、俺でも届きそうにない。
……それは命里も分かっているんだろう。
それでも我武者羅に風船へ手を伸ばし続ける彼女の姿に、俺は――
――――何を思ってしまったのだろうか?
モヤモヤと黒い感情が一瞬、心を染めた。
内在するソレに深い嫌悪を抱くが、それは既に過ぎ去っている。気にするだけ無駄だと判断して握りしめた右拳から力を抜いた。
「――、は」
肺の中の空気を吐き出し、ゆっくりと呼吸を整える。
通り過ぎた感情を掻き消すように右手で空を薙ぐ。
「ふぅ――……よし」
再び右手を握り込み、軽く覚悟を決める。
「命里、俺が取るよ」
「え」
「身長的にも、能力的にも俺の方が可能性あるだろ? 知ってると思うけど、俺だってお前ほどじゃないが、それなりに運動できるんだ、あとは身長で何とかなる」
「うーん、なんか無茶苦茶暴論な気がするんだけど……」
呆れた表情を見せる彼女に、自分でも無茶苦茶言っている自覚があったので苦笑いを浮かべる。だが、口で言っていることの他に、可能性を高める術を持っている俺は暴論ながら本気だった。
そんな俺の心意気に気づいたのか、彼女は呆れた様子ながら「わかった」と了承してくれた。
俺は二人に少し離れるように言って自身も目標物から少し距離を取る。軽く準備体操をするように、体の筋を伸ばしていきながら能力のフィーリングを開始する。
「固有強化――限数設定・固定開始」
そう口にしながらゆっくりと体勢を整える。
地面を軽く踏みしめながら、真っ直ぐとした姿勢で前を見る。
「向上・指定。身体・Ⅰ固定――」
体の中心から熱が広がっていく。全身を隈なく巡る熱が、まるで自身の体を作り変えるように体を侵していく。同時、変化する肉体に力が漲る。
地を踏み鳴らしながら自身の肉体状況を軽く確かめ、言葉の結びを口にする。
「限数設定・固定完了」
変化を終えた肉体。軽く呼吸を整え、
「よし――やるかっ!」
勢いのまま地を蹴った。
風船の引っかかった木目掛けて全力疾走。強化された俺の身体能力は、50mを軽く5秒で走り抜けられるほど飛躍的に強化されている。平常時では考えられない速度、俺はその速度のまま目標物へ突撃する勢いで走る。
直線――このまま木に直撃すれば痛いでは済まないだろう。
だが、俺はその速度を緩めることはしない。
前に、――前にッ!
地面を強く踏み締め、地を蹴り前方に飛んだ。
軽く高度を上げるが風船に届くほどではない。勢いはあるが、そのエネルギーは全て前方に向けられている。このままでは加速した勢いのまま、木に体を打ちつける。
無理、やりッ――!
「固定追加」
体勢を整え、右脚を前に出す。
「脚・Ⅱ固定――固定完了」
今度は脚のみに熱が籠り、変化が起きているのを感じる。正面の木に右脚が着くより速く肉体の変化が終わり、馬力を捻り上げた脚で木を思いっきり蹴りつけ――体を跳ね上げる。
上に――ッ!
走って生み出した力の方向を上向きに変更し、同時に強化された脚力を用いて全力で飛んだ。
「うぉっ! 飛び過ぎ――」
予想以上に飛んでしまい風船が頭の横を過ぎ去りそうになるが、何とか右手を伸ばして掴んで見せる。
ザザザ、と地面を擦りながら着地する。
「ふぅ――、なんとかなった」
右手に掴んだ風船の紐を見てそう呟く。
「全限数固定解除」
熱が引いていく感覚と共に、全身に倦怠感が発生する。全身の筋肉が張っているような感覚を残しつつ、肉体は元に戻った。
これは……明日、筋肉痛確定だな。
苦笑いを浮かべながら立ち上がって少女の元へ向う。少女は嬉しそうに俺を見て、その隣に立っている命里は驚いた顔のまま硬直していた。
「ほら、もう放すんじゃないぞ?」
「うん!」
満面の笑みで風船を受け取る少女。
「ありがとう、ムラマ!」
笑みと共に感謝を述べる少女に俺は、
「……ああ、どう致しまして」
少しぎこちない笑みを浮かべ、そう言葉を返した。
「ねえ、叢真今の……」
「ん?」
パンパンと服に着いた砂を払っていると、動揺した様子の命里が声を掛けて来る。
「今、すっ――ごく、高く飛んでなかった?」
「そうか?」
「そうだよっ!」
「っ――」
大きな声を上げる彼女に思わず驚く。
「いきなりどうした」
「こっちが言いたいわよ! なんで急にあんな超人的な跳躍力見せて来るのよ!」
「そうか?」
「そうだよっ!」
「…………」
さっきとまったく同じ流れに両腕を組んで呆れた表情を向けた。
「なに、私がおかしいの!?」
「いや、そういうわけじゃないが……いや、おかしいにはおかしいが」
「おかしいの!?」
ビックリという表情を浮かべる命里にそうだよ、という表情を送った。
少しして落ち着いた命里が口を開く。
「叢真が所々オカシイのは今更だし、もういい……まったく、叢真が失敗したら肩車作戦に切り替えようと思ってたのに」
おい待て、何か色々おかしくないか?
俺がおかしいってのも色々言いたいけど、肩車作戦もなんだそれは? 仮にそれが俺と美波ならいいけど、俺と命里だと色々とヤバくない?
ツッコミたいことが多すぎて逆に言葉が出なくなる。
「はぁ……」
「その深いため息、なに?」
そう疑問を述べる命里にジト目を向けた後、「さあ」とだけ呟き少女の方に向った。
「美波、勇夫さんはどうしたんだ?」
「お爺ちゃんは知らない人に呼ばれてどこか行っちゃった」
「なるほどな」
後ろでガヤガヤうるさい命里を無視して、少女の言葉に納得したような呟く。
…………。
「?」
こちらの視線を受け、少女は首を傾げる。
彼女の名は浜岸美波。半年ほど前、とあることを切っ掛けにこの公園でたまに命里と共に遊ぶようになった子だ。
真っ黒な長い髪の少女。なぜか命里のことはお姉ちゃんと呼ぶのに、俺のことは叢真と呼び捨てにしている。
別に異議を唱えるほどではないが、年下にナチュラルに呼び捨てにされるのは少し堪える。
「あ、お爺ちゃん!」
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