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竜殺し編・《焔喰らう竜》
第九話・「廻る歯車(2)」
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体を押し潰す瓦礫。
肺が圧迫されて呼吸がし辛い。
若干意識に淀みを感じるが、何とか意識を保ち体に力を入れる。
かなり重かった瓦礫を無理やり退かして何とか立ち上がる。
「ハァハァ、ハァハァ……」
……い、生きてる。
自身の荒くなった心拍を確認し、自身の生存を確かめる。
先の衝撃で死んだかとも思ったが、この建物の中に飛ばされたおかげで大事には至っていないようだ。全身かなり痛いが、動くのには問題ない程度には軽傷――というか、この負担はカウンタの肉体疲労な気がする。
おそらくビルの倒壊による外傷は軽い擦り傷程度、あとはカウンタによる負荷が占めているんだと思う。
クッソ……かなり痛いな。
痛みに悶えながらも、一通り自身の状態を確かめ終えた俺は次に現状を振り返った。
少し意識が混濁していたが、時間経過で元の状態に回復した。そしてゆっくりと追憶していくと、ふと、ある光景が頭に過り右手で顔を押さえながら言葉を漏らす。
「また……助けられたのか」
この建物に飛ばされた瞬間に目にした真っ白な絹糸。
記憶に焼きついたその光景に歯噛みする。
俺が油断したばかりに、彼女にまた余分な苦労を掛けてしまった。
「はぁ……クソ」
悪態を吐きながら、バンッ、と壁を殴りつけ自身の不甲斐なさに呆れた。
何の為にここまで来たのか――
今の俺はただ彼女達の足を引っ張っているだけ、役割なんて何一つ果たせていない。
不甲斐ない。情けない。
啖呵を切ってここにいるのにも関わらず、何も成せていない。人を助けるためにここにいるのに、助けられてばかりじゃ世話がない。
自分の情けなさに怒りが込み上げ、再び壁を殴りそうになったところで動きを止める。
……とりあえず、ここから抜け出さないと。
これ以上の後悔は時間の無駄だと思い、荒れる感情を何とか静めて建物を出ることにした。
さっきの一件で解けたカウンタを再び掛け直し、歪んだ窓枠に圧し掛かる瓦礫を退かして夜空の下に出る。
周囲を見渡すと、あの大型殻によって破壊されたいくつもの建物による瓦礫の山が築かれ、おそらく二人がいるであろう道の先は、その瓦礫によって塞がれていた。
元々酷い有様であった街並みが、あのフリーカーによってより一層凄惨なモノになっていた。
「……待つか」
状況を確認した俺は瓦礫に腰かけ、彼女達が来るを待つことにした。
おそらく……いや、絶対に――二人は生きてる。
常識で考えればあの状況で助かるわけがない。でも、彼女達は魔術師だ、きっと俺の知らない術を使ってあの状況から脱した筈だ。
希望的観測であるが、あの二人があの程度で死ぬとは思えない自分がいた。
短い付き合いだけど何となく二人なら大丈夫だとそう思った。
「それにしても……」
右手の掌に視線を向け、自分の失敗を振り返る。
いくらカウンタの力が便利とはいえ頼り過ぎになるのは反省だな。
ここまで何度も助けられてきた――だが、この力は便利だが万能ではないということを失念していた。
あくまでカウンタによる強化は、俺という人間に可能な幅を無理やり広げているに過ぎない。出来る範囲の拡張というだけで絶対的な能力というわけじゃない。
感覚強化による探知だって、どんなに五感を強化しても得た情報から読み取れなきゃ意味がない。
現に俺は、さっき現れたフリーカーにその直前まで気付くことができなかった。今だってビルの倒壊に起因する諸々の影響で探知が上手く働いていない。
カウンタは俺の延長線上にある力に過ぎないんだ。
与えられた力を上手く扱えなければどんなに凄まじい力でも何の意味もない。所詮俺は一般人が特異な能力を持っているだけだ。
――もっと、上手く自分を使うんだ。
生き残りたいなら、人を助けたいなら――もっと自分を深く知れ。
一回のミスが命取りだ。
よく観察しろ、よく考えろ。昔何度も言われた筈だ。
出来ないことは今はとりあえず諦めろ、出来ることを研ぎ澄ませて勝負しろ。自分を見極め、今の自分の最高を出力するんだ。
言葉を反芻する。
「――よし」
右拳をきつく握り締めると共にそう気合いの言葉を吐く。
「うぁぁぁあああああ!!!」
「!」
不意に叫び声が聞こえて瓦礫から勢いよく立ち上がる。
道の先から泣き叫び、助けを求める男性の声が聞こえた。
すぐさま探知で大体の方角を測る。
同時、脳内には「二人との合流」と「助けに行く」の二つの選択肢が発生した。
だが、俺は――
――躊躇うことなく走り出した。
瓦礫のせいで走り辛い中、カウンタによる強化で引き上げた身体能力で無理やり瓦礫の道を超えて行く。
声の聞こえる方へ一秒でも速く辿り着こうと全力を尽くす。
あとで二人には謝らないとな……。
本来であれば、彼女達との合流を最優先にしなければならないのだろう。
俺は二人と違って強くない、複数のフリーカーに襲われればひとたまりもない。このまま助けに行っても何もできないかもしれない。
だから、この場の最善は彼女達を待つことだ。
けど――助けを求めている声が聞こえた以上、
止まってなんていられなかった。
選択に迷いはない。
俺がこの場にいるのは人を助けるためだ。ならばここで走らなきゃ、この場にいる意味も意義も無くなってしまう。
ここにいる意味を果たす。
自己保全は考えない――今はただ助ける為の最善を尽くせ。
俺は全身全霊で声の聞こえる方へ走った。
肺が圧迫されて呼吸がし辛い。
若干意識に淀みを感じるが、何とか意識を保ち体に力を入れる。
かなり重かった瓦礫を無理やり退かして何とか立ち上がる。
「ハァハァ、ハァハァ……」
……い、生きてる。
自身の荒くなった心拍を確認し、自身の生存を確かめる。
先の衝撃で死んだかとも思ったが、この建物の中に飛ばされたおかげで大事には至っていないようだ。全身かなり痛いが、動くのには問題ない程度には軽傷――というか、この負担はカウンタの肉体疲労な気がする。
おそらくビルの倒壊による外傷は軽い擦り傷程度、あとはカウンタによる負荷が占めているんだと思う。
クッソ……かなり痛いな。
痛みに悶えながらも、一通り自身の状態を確かめ終えた俺は次に現状を振り返った。
少し意識が混濁していたが、時間経過で元の状態に回復した。そしてゆっくりと追憶していくと、ふと、ある光景が頭に過り右手で顔を押さえながら言葉を漏らす。
「また……助けられたのか」
この建物に飛ばされた瞬間に目にした真っ白な絹糸。
記憶に焼きついたその光景に歯噛みする。
俺が油断したばかりに、彼女にまた余分な苦労を掛けてしまった。
「はぁ……クソ」
悪態を吐きながら、バンッ、と壁を殴りつけ自身の不甲斐なさに呆れた。
何の為にここまで来たのか――
今の俺はただ彼女達の足を引っ張っているだけ、役割なんて何一つ果たせていない。
不甲斐ない。情けない。
啖呵を切ってここにいるのにも関わらず、何も成せていない。人を助けるためにここにいるのに、助けられてばかりじゃ世話がない。
自分の情けなさに怒りが込み上げ、再び壁を殴りそうになったところで動きを止める。
……とりあえず、ここから抜け出さないと。
これ以上の後悔は時間の無駄だと思い、荒れる感情を何とか静めて建物を出ることにした。
さっきの一件で解けたカウンタを再び掛け直し、歪んだ窓枠に圧し掛かる瓦礫を退かして夜空の下に出る。
周囲を見渡すと、あの大型殻によって破壊されたいくつもの建物による瓦礫の山が築かれ、おそらく二人がいるであろう道の先は、その瓦礫によって塞がれていた。
元々酷い有様であった街並みが、あのフリーカーによってより一層凄惨なモノになっていた。
「……待つか」
状況を確認した俺は瓦礫に腰かけ、彼女達が来るを待つことにした。
おそらく……いや、絶対に――二人は生きてる。
常識で考えればあの状況で助かるわけがない。でも、彼女達は魔術師だ、きっと俺の知らない術を使ってあの状況から脱した筈だ。
希望的観測であるが、あの二人があの程度で死ぬとは思えない自分がいた。
短い付き合いだけど何となく二人なら大丈夫だとそう思った。
「それにしても……」
右手の掌に視線を向け、自分の失敗を振り返る。
いくらカウンタの力が便利とはいえ頼り過ぎになるのは反省だな。
ここまで何度も助けられてきた――だが、この力は便利だが万能ではないということを失念していた。
あくまでカウンタによる強化は、俺という人間に可能な幅を無理やり広げているに過ぎない。出来る範囲の拡張というだけで絶対的な能力というわけじゃない。
感覚強化による探知だって、どんなに五感を強化しても得た情報から読み取れなきゃ意味がない。
現に俺は、さっき現れたフリーカーにその直前まで気付くことができなかった。今だってビルの倒壊に起因する諸々の影響で探知が上手く働いていない。
カウンタは俺の延長線上にある力に過ぎないんだ。
与えられた力を上手く扱えなければどんなに凄まじい力でも何の意味もない。所詮俺は一般人が特異な能力を持っているだけだ。
――もっと、上手く自分を使うんだ。
生き残りたいなら、人を助けたいなら――もっと自分を深く知れ。
一回のミスが命取りだ。
よく観察しろ、よく考えろ。昔何度も言われた筈だ。
出来ないことは今はとりあえず諦めろ、出来ることを研ぎ澄ませて勝負しろ。自分を見極め、今の自分の最高を出力するんだ。
言葉を反芻する。
「――よし」
右拳をきつく握り締めると共にそう気合いの言葉を吐く。
「うぁぁぁあああああ!!!」
「!」
不意に叫び声が聞こえて瓦礫から勢いよく立ち上がる。
道の先から泣き叫び、助けを求める男性の声が聞こえた。
すぐさま探知で大体の方角を測る。
同時、脳内には「二人との合流」と「助けに行く」の二つの選択肢が発生した。
だが、俺は――
――躊躇うことなく走り出した。
瓦礫のせいで走り辛い中、カウンタによる強化で引き上げた身体能力で無理やり瓦礫の道を超えて行く。
声の聞こえる方へ一秒でも速く辿り着こうと全力を尽くす。
あとで二人には謝らないとな……。
本来であれば、彼女達との合流を最優先にしなければならないのだろう。
俺は二人と違って強くない、複数のフリーカーに襲われればひとたまりもない。このまま助けに行っても何もできないかもしれない。
だから、この場の最善は彼女達を待つことだ。
けど――助けを求めている声が聞こえた以上、
止まってなんていられなかった。
選択に迷いはない。
俺がこの場にいるのは人を助けるためだ。ならばここで走らなきゃ、この場にいる意味も意義も無くなってしまう。
ここにいる意味を果たす。
自己保全は考えない――今はただ助ける為の最善を尽くせ。
俺は全身全霊で声の聞こえる方へ走った。
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