上 下
41 / 232
レヴェント編

40.傲岸不遜

しおりを挟む
 しばらくしてアブノーマルクラスの教室に到着した。扉を開けてすぐに目に入ったのは人だかり、よく見ると数人の生徒を他の生徒たちが取り巻いているという状況だ。
 その数人の生徒、彼らをよく見ると見覚えのある顔ばかり、どうやらこの集まりは物珍しい異世界人たちを見ている人間達により作られたもののようだ。
 そんな中、俺がクラスに入って来たことにより一気に視線を集めることになった。
 うっ、人の視線が痛い。気持ち悪くなってきた。
 一気に集まった視線に少々吐き気のようなものを感じる中、それらを無視して自席を探した。するとある男が声を掛けてきた。
 「おいお前、もしかして噂の魔力無しか?」
 そう声を掛けてくるのは金髪オールバックのいかにもガラの悪そうな不良少年、周囲に集まる人の数からしてコミュニティーのトップ、カースト上位勢に分類される人間なのだろう。少々ガラの悪さが目立つが、些細な動作から高貴な血筋なのだと予想できる。
 彼の身なりは制服のおかげでガラの悪さは感じないが、目つきの鋭さなどは自のモノが出ている。ただ顔自体は全体的にイケメンより、体格もそれなりによく歩行の感覚からしてそれなりに腕の立つ人間なのだろう。ただまあ――
 関わりたくねぇ~
 内心その気持ちでいっぱいだ。たが立場上、表面的に露骨に嫌な態度をとるわけにもいかず、仕方なく言葉を返す。
 「ああ、そうだけど」
 そう問いに対して嘘偽りなく返答した。すると――
 「プッ、本当にいたのかよ! 魔力無し!」
 吹き出すように笑い出す不良少年。
 なるほど、わかってはいたがナチュラルに笑われるとはな……
 トホホと少し肩を落としながら、ジト目で噴出した笑いを抑えようとしている少年に目線を向ける。
 「用はそれだけかな? 以上なら僕は失礼するよ」
 これ以上、会話を続ける意味はないと判断した俺はついさっき発見した自席に向って歩き出した。
 「おい待てよ。話は終わってないぞ」
 「…………」
 そう声を掛けられ俺は不良少年君にジト目を向けながら足を止めた。
 「他の異世界人たちは凄まじい力を持ってる中、お前一人だけ何の能力も持たない無能者で恥ずかしくないのかよ?」
 「…………」
 「なんだよ、なんか言ってみろよ?」
 挑発するようにそういう不良少年君に俺は、呆れたようにため息を吐いて言った。
 「はぁ、別に僕は無能者であることを望んでない。そもそも、僕は呼ばれただけの人間だ、無能者であろうとなんであろうと何か言われる筋合いはない。第一、無能者ということのどこが恥ずかしいんだ?」
 心底理解できないという感じにそう問いを零す。そんな俺に少々怒りを覚えたようで、不良少年君の口調が怒気が混ざって状態で回答を口にする。
 「役に立たない無能なんて、存在する価値がないだろ」 
 「仮にそうだとしても、別に恥ずかしくはないと思うが? 第一、無能者と無能は違う、確かに僕は無能者だが、何もできないというわけじゃない。単に君らにとっての価値がないだけ、それだけの話だろ」
 理解できないの? バカなのかな? 的な哀れな者を見る目で不良少年君を見ると、彼は怒りが頂点に達したのか声を荒げて言った。
 「なら見せて見ろよ、その価値とやらをよぉ~、って! なんでもういねぇんだよ!」
 なにやらめんどくさそうな事になりそうなので俺は即座に退避、自席へ向かっていた。
 「てめぇ! 逃げるのかよ!」
 「あー、あー、聞こえない~、頭の悪そうな奴の声が聞こえない~」
 耳を塞ぎワザとらしくそう言っていると、烈火の如くキレた不良少年君が罵詈雑言を放っているようだが、その全てを無視シャットアウトして自席を向かう。
 立場上、今の行動はあまりにもお粗末で軽率だと思うが、俺だって人間だ煽られればそれなりにイラつく。正直な話、今のはちょっとキレていた。これもそれも全ては最近の出来事だ、予想外のことばかりで鬱憤も相まって堪忍袋の尾が緩くなっていた。
 まあ、別にクラス内で孤立するだけならどうでもいい。
 魔力無し(ほぼ)が広まっている時点でクラス内で孤立することはほぼ確定だと判断していた身としては、それが明確になっただけだと、そう思うことにした。
 少々悲しい思考回路だが、そもそも素が陰キャなのだ、人と喋れんことはないが好き好んでお喋りをするタイプじゃない。基本的に一人が好きな人間としてはそれはそれで構わない。
しおりを挟む

処理中です...