83 / 232
レヴェント編
82.焔に燃えるツルギ
しおりを挟む
魔剣。使用者が魔力を流すことで特殊な能力を発揮させる剣。
記憶を辿り、魔道学の授業の内容を思い出す。
この世界には魔剣、聖剣と呼ばれる魔力を用いて特殊な力を発揮させる剣が存在する。
魔剣は魔力を流すことで固有の能力を発揮させる。聖剣は魔力を流すと形状の変化、性能の強化など剣自体に影響を及ぼす剣である。
それぞれ遺跡やダンジョンで発見されるモノである。そのため、製作者やその剣自体に名前はない。が――
「〝名有りの魔剣〟、か」
中には、剣自体に名称が彫り込まれた特殊な魔剣、聖剣があると言う。
〝名有り〟は非常に希少であり、滅多に発見されることのない。それ故、その力は通常の魔剣、聖剣とは比較にならないほど強力なモノとなっている。
仕方ない。眼を回そう……。
眼を起こし、ルーカの持つ焔剣に目を向ける。
「炎操作と炎の付与。基礎能力向上。炎聖霊。元素、火。魔力回路、六。聖霊付与、付喪神。該当・混聖剣。正式名称・魔剣・焔」
「?」
ブツブツと呟くように情報を処理する。
読み取った情報からルーカの持つ魔剣、焔剣の特性を完全に把握する。かなりキツイが、対応は不可能ではない。
ゆっくり瞳から光を落とし、戦闘態勢を取る。
「もう一段階、やる気になったか?」
挑発……ではないが、ルーカの気力を起こすようにそう言った。
「……フッ。そうだな、やる気になってきたぜ。もうプライドも、屈辱もどうでもいい。ただお前を――倒す」
「いい意気だ。第二ラウンドと行こうか?」
俺の言葉と同時、ルーカは虚空に剣を振るう。その瞬間、炎の斬撃がこちらへ飛んで来た。
炎躁の力か……。
放たれる炎撃を横へ飛び躱しつつ走り出す。
想定はしていたが、やはり炎の斬撃が飛んで来るのはヤバい。それにあれは魔法じゃない、魔剣による固有能力だ。故に、先のような詠唱阻止は無意味だ。近づけば、それだけで焼け焦げる。
と言っても、近づかなきゃ勝ち目がないんだけどなッ!
放たれる炎撃を躱しながら、急激に方向を変える。俺は真っ直ぐルーカの方へ走って行く。
当たれば致命傷は免れない――であれば、当たらなければいい。
袈裟斬りに放たれる炎の斬撃、地面を融解させながら飛んで来るそれを俺はギリギリで躱す。薄皮が焼け、軽く火傷しているが、こうでもしないと接近できない。多少の無理は承知の上。
「魔力撃!」
「ッ――!」
炎の斬撃を放ちつつ、ルーカは短縮詠唱で魔法を放つ。
脳内に記憶された情報から即座にそれが何なのかを理解する。展開された無色の魔法陣を見て、予測で首を傾げると同時体を回す。
体を回転される中、頬に何かが掠る感覚があった。
放たれたのは物理的な質量を得た白色の魔力の塊。記憶が正しければ、アレは魔力を衝撃に変換する魔法。当たっても投擲した石より少し威力がある程度で大事には至らないが、この状況で当たったらあの炎の斬撃で終わりだ。
ほぼ透明の投擲物……反射じゃ、反応しきれないか。
そう判断しつつ、足は止めない。ルーカは再び魔法の詠唱を始めている。
「我が呼びかけに答え――」
「させない」
距離二メートルという位置で俺は、放たれる炎の斬撃を躱しつつ地面を蹴る。すると、地面の砂や石が舞い、ルーカの目へ飛んでいく。
「うッ――」
無理やり詠唱を切断する。詠唱を続けること自体はできるだろうが、俺の位置は分かっていない。
その隙を俺は逃さない――
瞳は強くルーカを捉える。
ここで下手に動きを変えることはしない。この場合、パニック状態により数秒のタイムロスが発生する。故、最短最速で叩き潰して終わりだ。それ以上は余分――
以ていく――
足音を殺し、己の音を殺す。無音で奴に近づき、それでいて一切速度は落とさない。
確実に、確実に、完璧に殺す。
距離一メートル。無音の踏み込みと同時、射程圏内に入ったルーカ目掛けてショートソードを振り上げる。
その刹那――ルーカの目線は真っ直ぐこちらへ向いた。
「そこか――」
「なッ!」
突然の出来事に困惑しつつも、左上から襲ってくる魔剣をコンマで躱す。
「魔力撃!」
ルーカの攻撃は止まらない。俺はその詠唱と共に展開される魔法陣を探した。しかし――
ど、どこだ!
展開される筈の魔法陣は見当たらず、ルーカの周辺には何もない。
推定一秒――目視圏内に存在しない魔法陣を五感で発見する。
下かッ――!
目視はしない。そんな余裕は今はない、奴が詠唱を完成させて役一.五秒。魔法の発動には十分な時間だ、仮に下を確認した場合、顎を弾かれ気絶するだろう。
だから――体を逸らしてそのまま、躱す。
真下に展開された魔法陣から放たれる白色の衝撃、俺は体勢を後ろに倒しつつ、顔を上げて無理やり躱して見せる。
何とか躱したのも束の間――俺は無防備になってしまった。
クソ――ッ!
不安定な体勢を取らされてしまったことに悪態を吐く。眼前の男は、己のこの隙を逃すような馬鹿ではない。
男は焔剣を強く握り、横薙ぎの一閃を放った。
火焔を纏った剣。文句のつけようがないあまりにも綺麗に丁寧な一撃。純粋に鍛錬で鍛え上げられた素晴らしき一撃だ。
――かと言って殺されるつもり、負けるつもりは毛頭ない。
その一撃、称賛はするが勝負を譲るつもりはない。
この体勢でその一撃を受けることは不可能。ならば――このまま避ければいい。
「嘘、だろ――」
俺は後ろに逸らした体勢を利用してバク宙し、横薙ぎの一撃をギリギリで躱す。背後で燃え盛る剣があるという稀有な状況、こんな状況人生百回あっても一回あるかないかだろう。(普通はない。うん、絶対にね)
驚愕に満ちたルーカの表情。
それもそうだろう。あの状態で最高の一撃を躱されたのだ、驚かない筈はない。
だって、俺も引くくらいには驚いてるし……。
空中で回転しながらそんな思考を巡らせる。
地面に着地。その瞬間、俺は先程防がれた一撃を放つ。
「グッ――!」
「ふぅ――」
浅く呼吸をしつつ斬撃を放つ。下から振り上げられた一撃、ルーカは辛うじて防いで見せる。
刀身同士をぶつけ合う。ガシガシッと金属同士が擦れ合う音を鳴らしながら、強い視線をぶつけ合う。
「焔剣!!」
ルーカが魔剣の名を叫ぶ。瞬間、魔剣とぶつけ合っているショートソードの接触場所が、融解し始めていることに気づき、即座に後ろへ後退する。
魔剣の能力によりルーカの周囲に炎の壁が構築される。
「俺の全魔力だ。ここで終わらせてやる」
全身に炎を纏うルーカはそう言った。
なるほど、これは……そろそろ限界か。
鉄すら溶かす魔剣の炎を見て、基本技術のみでの戦闘はこれ以上は不可能だと悟る。これ以上、基本性能差が開けば流石に勝てない。
出し惜しみしてる場合でもないし……出し惜しみする相手でもない。
「ルーカ。最終ラウンドだ――さて、ギアを上げていこうか」
全身に魔力を漲らせそう言った。
記憶を辿り、魔道学の授業の内容を思い出す。
この世界には魔剣、聖剣と呼ばれる魔力を用いて特殊な力を発揮させる剣が存在する。
魔剣は魔力を流すことで固有の能力を発揮させる。聖剣は魔力を流すと形状の変化、性能の強化など剣自体に影響を及ぼす剣である。
それぞれ遺跡やダンジョンで発見されるモノである。そのため、製作者やその剣自体に名前はない。が――
「〝名有りの魔剣〟、か」
中には、剣自体に名称が彫り込まれた特殊な魔剣、聖剣があると言う。
〝名有り〟は非常に希少であり、滅多に発見されることのない。それ故、その力は通常の魔剣、聖剣とは比較にならないほど強力なモノとなっている。
仕方ない。眼を回そう……。
眼を起こし、ルーカの持つ焔剣に目を向ける。
「炎操作と炎の付与。基礎能力向上。炎聖霊。元素、火。魔力回路、六。聖霊付与、付喪神。該当・混聖剣。正式名称・魔剣・焔」
「?」
ブツブツと呟くように情報を処理する。
読み取った情報からルーカの持つ魔剣、焔剣の特性を完全に把握する。かなりキツイが、対応は不可能ではない。
ゆっくり瞳から光を落とし、戦闘態勢を取る。
「もう一段階、やる気になったか?」
挑発……ではないが、ルーカの気力を起こすようにそう言った。
「……フッ。そうだな、やる気になってきたぜ。もうプライドも、屈辱もどうでもいい。ただお前を――倒す」
「いい意気だ。第二ラウンドと行こうか?」
俺の言葉と同時、ルーカは虚空に剣を振るう。その瞬間、炎の斬撃がこちらへ飛んで来た。
炎躁の力か……。
放たれる炎撃を横へ飛び躱しつつ走り出す。
想定はしていたが、やはり炎の斬撃が飛んで来るのはヤバい。それにあれは魔法じゃない、魔剣による固有能力だ。故に、先のような詠唱阻止は無意味だ。近づけば、それだけで焼け焦げる。
と言っても、近づかなきゃ勝ち目がないんだけどなッ!
放たれる炎撃を躱しながら、急激に方向を変える。俺は真っ直ぐルーカの方へ走って行く。
当たれば致命傷は免れない――であれば、当たらなければいい。
袈裟斬りに放たれる炎の斬撃、地面を融解させながら飛んで来るそれを俺はギリギリで躱す。薄皮が焼け、軽く火傷しているが、こうでもしないと接近できない。多少の無理は承知の上。
「魔力撃!」
「ッ――!」
炎の斬撃を放ちつつ、ルーカは短縮詠唱で魔法を放つ。
脳内に記憶された情報から即座にそれが何なのかを理解する。展開された無色の魔法陣を見て、予測で首を傾げると同時体を回す。
体を回転される中、頬に何かが掠る感覚があった。
放たれたのは物理的な質量を得た白色の魔力の塊。記憶が正しければ、アレは魔力を衝撃に変換する魔法。当たっても投擲した石より少し威力がある程度で大事には至らないが、この状況で当たったらあの炎の斬撃で終わりだ。
ほぼ透明の投擲物……反射じゃ、反応しきれないか。
そう判断しつつ、足は止めない。ルーカは再び魔法の詠唱を始めている。
「我が呼びかけに答え――」
「させない」
距離二メートルという位置で俺は、放たれる炎の斬撃を躱しつつ地面を蹴る。すると、地面の砂や石が舞い、ルーカの目へ飛んでいく。
「うッ――」
無理やり詠唱を切断する。詠唱を続けること自体はできるだろうが、俺の位置は分かっていない。
その隙を俺は逃さない――
瞳は強くルーカを捉える。
ここで下手に動きを変えることはしない。この場合、パニック状態により数秒のタイムロスが発生する。故、最短最速で叩き潰して終わりだ。それ以上は余分――
以ていく――
足音を殺し、己の音を殺す。無音で奴に近づき、それでいて一切速度は落とさない。
確実に、確実に、完璧に殺す。
距離一メートル。無音の踏み込みと同時、射程圏内に入ったルーカ目掛けてショートソードを振り上げる。
その刹那――ルーカの目線は真っ直ぐこちらへ向いた。
「そこか――」
「なッ!」
突然の出来事に困惑しつつも、左上から襲ってくる魔剣をコンマで躱す。
「魔力撃!」
ルーカの攻撃は止まらない。俺はその詠唱と共に展開される魔法陣を探した。しかし――
ど、どこだ!
展開される筈の魔法陣は見当たらず、ルーカの周辺には何もない。
推定一秒――目視圏内に存在しない魔法陣を五感で発見する。
下かッ――!
目視はしない。そんな余裕は今はない、奴が詠唱を完成させて役一.五秒。魔法の発動には十分な時間だ、仮に下を確認した場合、顎を弾かれ気絶するだろう。
だから――体を逸らしてそのまま、躱す。
真下に展開された魔法陣から放たれる白色の衝撃、俺は体勢を後ろに倒しつつ、顔を上げて無理やり躱して見せる。
何とか躱したのも束の間――俺は無防備になってしまった。
クソ――ッ!
不安定な体勢を取らされてしまったことに悪態を吐く。眼前の男は、己のこの隙を逃すような馬鹿ではない。
男は焔剣を強く握り、横薙ぎの一閃を放った。
火焔を纏った剣。文句のつけようがないあまりにも綺麗に丁寧な一撃。純粋に鍛錬で鍛え上げられた素晴らしき一撃だ。
――かと言って殺されるつもり、負けるつもりは毛頭ない。
その一撃、称賛はするが勝負を譲るつもりはない。
この体勢でその一撃を受けることは不可能。ならば――このまま避ければいい。
「嘘、だろ――」
俺は後ろに逸らした体勢を利用してバク宙し、横薙ぎの一撃をギリギリで躱す。背後で燃え盛る剣があるという稀有な状況、こんな状況人生百回あっても一回あるかないかだろう。(普通はない。うん、絶対にね)
驚愕に満ちたルーカの表情。
それもそうだろう。あの状態で最高の一撃を躱されたのだ、驚かない筈はない。
だって、俺も引くくらいには驚いてるし……。
空中で回転しながらそんな思考を巡らせる。
地面に着地。その瞬間、俺は先程防がれた一撃を放つ。
「グッ――!」
「ふぅ――」
浅く呼吸をしつつ斬撃を放つ。下から振り上げられた一撃、ルーカは辛うじて防いで見せる。
刀身同士をぶつけ合う。ガシガシッと金属同士が擦れ合う音を鳴らしながら、強い視線をぶつけ合う。
「焔剣!!」
ルーカが魔剣の名を叫ぶ。瞬間、魔剣とぶつけ合っているショートソードの接触場所が、融解し始めていることに気づき、即座に後ろへ後退する。
魔剣の能力によりルーカの周囲に炎の壁が構築される。
「俺の全魔力だ。ここで終わらせてやる」
全身に炎を纏うルーカはそう言った。
なるほど、これは……そろそろ限界か。
鉄すら溶かす魔剣の炎を見て、基本技術のみでの戦闘はこれ以上は不可能だと悟る。これ以上、基本性能差が開けば流石に勝てない。
出し惜しみしてる場合でもないし……出し惜しみする相手でもない。
「ルーカ。最終ラウンドだ――さて、ギアを上げていこうか」
全身に魔力を漲らせそう言った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
11
1 / 2
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる