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レヴェント編

119.迫る〝死〟は殺す

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 先陣を切るのはアリシア。
 異様な速度でオークに近づくと、軽く二匹の首を斬り落とす。冰晶剣の透き通る刃が美しく輝き、青い鮮血を散らせる。
 空を舞うアリシアは力なく崩れるオークの身体を蹴って空中で方向転換、他のオークへ接近し斬撃を放つ。
 的確に急所を狙い、颯爽と命を奪い去る。
 圧倒的な速度で技術で斬り殺されていくオーク。
 一方、シュナはオークの太い足を細身の剣で切断し、地面に転がるオークの首を落す。アリシアとは対照的で、圧倒的な身体能力でオークを殺す。
 「ヴァアァァァ――」
 「ふッ」
 シュナはオークが振りかぶった拳諸共、斜めに切り裂く。
 腕が縦に割れ、上半身がズルりと擦り落ちる。身体能力だけに見えて、的確に骨の間を狙うあの斬撃はバケモノ過ぎて笑える。
 剣身に付いた血を払いながら、シュナは走り出す。
 二人ともあの巨躯を物ともせず、捻じ伏せていく。
 いとも容易く殺されていくオークたち、マジであの二人はバケモノだ。と思いつつ、俺もオークへ向かって走る。
 「なるほど。通常個体レギュラはそこまで強くないのか」
 オークの攻撃を躱しつつ懐に入り込むと、手に持ったロングソードを首元に突き刺し殺す。
 速度は遅いが、一撃一撃は地面を叩き砕くほど強力。とりあえず、攻撃にさえ注意すれば何とかなりそうだ。
 オークたちが死んでいく同胞を見ていきり立つ、一人一人をオークの大群が囲み、集団で一人を殺すと奮闘する。しかし、俺はまだしも他の二人は集まるオーク全てを容易く斬り伏せる。
 かくいう俺も放たれるオークの腕を蔦って首元へ接近、その首を斬り落としながらオークの身体を駆ける。
 バンッバンッとオークの身体を足場に疾駆する。
 無駄は極力なくす――
 ほぼすべてのオークを一撃で殺し、殲滅数を着々と増やしていった。
 「ヴァアァァァッ!」
 振りかぶる拳、オークたちは同胞諸共容赦なく攻撃を放つ。
 しかし、その攻撃が放たれる瞬間に俺はもうそこにはいない。オークの身体を踏みつけながら回避、同時に頭部を上から剣で串刺しにする。
 十三匹目。
 カウンタのように機械的に数を加算する。
 「ヴァアァァァアアアァァァァァアア―――――!!!」
 「うるさっ」
 鼓膜を破るような大きな咆哮。
 咆哮の先に視線を向けると、あの変異個体アンレギュラが動き始めたのだ。
 あれは流石に無理……。
 巨躯を持つ変異種、俺の持つ武装ではそもそも攻撃を与えられないだろう。
 チラリと彼女達に視線を向ける。
 ん……?
 ふと、彼女達の近くで青くキラキラと光る宝石のような物が見えた。
 思考が、脳が高速回転する。
 本来こんなことに思考を割く時間なんてある筈がない。だが、俺の〝感〟が言っている、お前はいま最悪の窮地に立たされていると。
 次の瞬間、俺は叫んだ。
 「アリシア! シュナ! 転移結晶を弾けッ!」
 「「!」」
 彼女達はその声に即座に反応し、落ちてきた青い宝石、転移結晶を剣で弾こうとする。
 しかし――転移結晶は剣より速く、青い光を放っていた。
 「しまっ――」
 シュナのそんな声と共に彼女達は姿を消した。
 「…………嘘、だろ?」
 青い光と共に消えた彼女達を見て、一気に冷たい汗が溢れる。
 「フッ、フハハ」
 ……誰だか知らんが、エグイことするな。
 笑いが零れ、苦笑いを浮かべる。
 おそらくドリアたちに指示をした人間なのだろうが、この状況を見てそんなひどいことするなよ。
 あーあ、死んだ? 俺?
 五十以上のオークを倒したはずだが、既に優に百を越える数のオークが群がっている。そんな光景に絶望するな、と言う方がおかしいだろう。
 群がるオークたちは同胞の血肉を貪る。
 死臭が香る。噎せ返るような死の匂いが、こびりつく。そして――次は俺。
  こころが死色に染まる。
 死んじゃう死んじゃう、死んじゃう死んじゃう、死ぬ死ぬ、死ぬ死ぬ、殺される殺される、殺される殺される……。
 死ンジャウ死ンジャウ、死ンジャウ死ンジャウ、死ヌ死ヌ、死ヌ死ヌ、殺サレル殺サレル、殺サレル殺サレル……。

 完全に、確実に―――――死んだ。

 死。命を落とす――
 死。生命の停止――
 死。奪われる――
 死。殺される――
 死……――死死死死死死死死シ死、死死死シ死死死死死死死シ死死死死死、死死死シシ死死シ死死死死シ死死シ死死死死シ死死死、死死シ死死死死死シシ死死死死シ死死死死死死死死シ死死死死、死死死死死死死死シ死死死死シ死死死死、死死シ死シシ死死死死死死死死死、シ死死死死シ死死死シシ死死死死死シ死死死、死シ死死死死死死シ死死死死。
 墜ちるは、確実な死の未来イメージ

 ―――――――そんなモノ、殺してやる。

 「チッ……フッ、死んだだと?」
 首を傾げる。笑みが零れる。
 「フハ……フハハハハハ、アハッ、アハハハハハハハハッ――! はぁっ……いやいや、冗談だろ?」
 体躯が揺らぎダランと体を落し、壊れたような笑いが溢れる。
 自分自身に対してだが、冗談でそんなことを本気で思った俺が、あまりに滑稽だった。そんなこと在りえる道理を残した己を殺したい。
 ま、そういう人間なんだけどな?
 「ああ、冗談だ。全く以て莫迦らしい。何もできずに死ぬ? 無理だ、絶対に無理だ……」
 頭を掻き毟る。
 段々と こころが高揚していくのを感じる。圧倒的な〝死〟を前に、湧き上がる、沸き立つ。

 「アハッ、いいぞ――存分に殺し合おう」

 手首をバキバキと鳴らす。
 エア・ボックスから剣を取り出し構える。
 ロングソードを右手に握り、ショートソードを左手で逆手持ちにする。
 体勢を低くする。まるで獣のように、下から見上げるようにオークたちを睨む。
 「ヴァッアァァァァアアアアァァァァァァアアッッッ!!!」
 俺が放つ強い殺気に当てられ怯えるオークたちに、恫喝するような咆哮を響かせる変異個体。
 オークたちはその咆哮で怯えは消える。より強い恐怖でオークたちは正気を取り戻す。
 「さあ、面白くなってきた。久しぶり形振り構わず――殺してやるよ」
 そういい俺は地面を蹴った。
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