228 / 232
レヴェント編・真紅の血鬼《クリムゾン・ブラッド》
48.頑固者
しおりを挟む
異空間収納から矢を取り出し、軽く宙へ投げ、クルクルと回転させて右手で掴む。薄ら笑いを浮かべつつ、鼻歌交じりに歩みを進める。
ザシュ、地面を踏み締める音が聞こえる。
右隣に視線を向けると、そこには一人の少女が立っている。
「ふむ、やはり多いな」
「だな」
眼前に広がる蟻、大蟻の群れ。眩暈がするほどの圧倒的な数、たかが遺跡の七階層では決して見ることのできないであろう光景。
ん~、他に冒険者いたら申し訳ないな。
事を起こした張本人ながら、今更になってそんな心配をする。
この場にいる蟻は、女王大蟻の生息する三十階層までの大蟻が集まって来ている。よって七階層以上に生息する蟻までもが来ているわけで、普通の冒険者なら食い殺されていてもおかしくない。
じっくりと状況を解析する度、自身の無茶苦茶さに笑える。迷惑を被った冒険者方には本当に申し訳ないが……めんどいから謝罪はしない。
「まったく、無茶をしたものだ……はぁ」
右隣の少女――アリシアは、腕を組んで呆れた眼差しをこちらに向けると共に、ため息を零した。
そっと彼女は首だけを後ろに向け、背後の五人を見た。
「見てはいたが……――よく生き残ったな、お前達」
同情を孕んだ瞳が向けられる。
「ギリギリだけどね」
「ですね」
エヴァとオリビアが疲れた様子で言葉を返す。
「私は、まだ……行ける」
プクッと頬を膨らませ、拗ねるように詩織が言った。
「シオリ、落ち着け。お前は十分頑張った。私達に追いつきたいという気持ちはわかるが、そう焦るな。お前ならすぐに追いつける、だから……――今は落ち着け」
「……私は落ち着いてる」
子供を宥めるようにそういうアリシア。そんな彼女の言葉に、拗ねた様子の詩織は、プイと顔を逸らして子供みたいに否定した。
そんな彼女の様子を見て、アリシアは呆れたような表情を見せる。
「落ち着いていない」
「落ち着いてる」
「落ち着いていない」
「落ち着いてる」
「いない」
「てる」
「――――」
「――――」
互いに視線をぶつけ合う。
両者譲らない――あまりにも不毛な争い。
ってか、てるてなんだよ……。
何とも言えない表情を浮かべる。俺はくだらない争いをしている二人に流し目を向けた後、凄まじい勢いで迫って来ている蟻に鋭く双眸を向けた。
「まったく……本当にこういうとこは、どこかの誰かに似ているな」
苦笑。そっと彼女の視線が蟻達に向けられ、次のチラリとこちらへ向いた。
「ん?」
「変なところでへそ曲がり。どうでもいいところで我が強くて、何が何でも己を最後まで突き通そうとする。頑固者もここまで来ると――〝愚者〟、そう何度か言っているのだがな……」
先程まで詩織に向けられたものが俺に向けられる。
「悪かったな、頑固者の愚者で」
「そう思うなら改善しろ」
「無理」
「だろうな」
「――――」
こちらの発言を見透かしたような彼女の態度。別段驚きはないが、ここまでアッサリされると俺としては面白くない。もう少し動揺なりしてもらいたいものだ。
「……生憎、俺はこの生き方がデフォなんでね。頑固でも、愚者でも、俺は俺の望む――結果のために、己を突き通させてもらう」
「フン、判っている。お前がそういう人間だからこそ、私は――」
何かを言い掛けて彼女は止める。
「どうした?」
「……いや、何でもない。そんなことより――構えろ、もう敵はすぐそこだぞ」
「?……ああ、わかった」
冰晶剣を鞘から引き抜くアリシアを見て、釈然としない気持ちになりながらも弓を引いた。
引き絞る弓――迫る蟻を冷静に狙う。
ピュン、と矢が同時に放たれ、前方の一匹、その複眼に突き刺さる。
「キュッ――――!」
奇声を上げる蟻。
身体強化無しの腕力で放った矢だが、十五階層以上のジャイアントアントに容易くダメージを与える。ただし、一瞬怯んだけで動きにはほとんど影響はない。
ま、ですよね。
蟻はフェロモンで意思疎通を図り、フェロモンで帰路を探る。基本的に触覚でフェロモンを感知して行動するため、視覚は大して頼りにしていない。
故、目を潰されたところでそこまで影響はない。
それに昆虫は痛覚がないという、目を潰され奇声を上げていたが、痛みによるものかすら怪しい。
ま、それが魔物に適応されるか知らないし……そもそも、最近の研究じゃ、虫にも痛覚があるかもって話だしな。
そんなことを思いながら――前進。
先程矢で射抜いた蟻に接近する。
「キュキュッ!」
大顎が開かれる。一度でも捕まろうものなら、バラバラに引き裂かれかねない。
が、捕まればの話だ。
開かれる大顎を避け、蟻の複眼に突き刺さった矢を握って思いっきり奥へ突っ込み、中身を抉る。そしてそのまま、力任せに複眼をズタズタに掻き回し、頭部を動かす神経の塊をグチャグチャに破壊する。
右手に握った矢を引き抜きながら、身体強化を施した足で蟻の胸部を蹴って飛び上がる。
ドゴン、と力なく地面に頭部が落ちる――が、体は動きを止めない。
まるで頭部、胸部、腹部は別の生命体のように、頭を潰されて尚動き続けるが――それも時間の問題。生存に必要な器官は確実に潰した、後は死ぬだけだ。
空中で体勢を整えながら、右手に持った矢に力を籠め、真下の蟻に鋭く視線を向ける。
そして――
「身体強化・倍率・二倍」
バチバチと黄緑の光を漏らす右腕。
強化された力をそのまま、地面に叩きつけるように矢を蟻に向けて投げる。
鳴り響く轟音と共に矢は、蟻の頭部を外骨格を貫通して地面に激突、頭部の神経の塊を潰した。
空中でクルッと再び体勢を整え、異空間収納から矢を五本取り出し、弓を引き、回路に魔力を回す。
「強化」
外部回路が弓の前に形成される。
自由落下と共に弓を力強く放つ。
閃光が五つ――地面の蟻に直撃すると、あまりの威力に頭部ごと木端微塵に吹き飛ばされる。
「キュキュ――」
「――ふッ」
地面に落下すると共に、弓を格納し、新たに取り出した槍で兵大蟻の頭部を一突き――貫通させる。
飛び散る体液が頬を濡らす。
槍を引き抜きつつ、クルリと槍を回してゆったりと構える。
「ふぅ――」
『――――』
その場にいる全員がドン引きした表情をこちらへ向けて来る。
なぜ、アリシアにまで、そんな表情を向けられるのか……正直、淡々と圧倒的な膂力で蟻を斬り裂いている彼女の方が、おかしなことをしていると思うのだが。
と、思うが口にせず、そっと前進する。
「さて――次」
感情の籠っていない声でそう呟いた。
ザシュ、地面を踏み締める音が聞こえる。
右隣に視線を向けると、そこには一人の少女が立っている。
「ふむ、やはり多いな」
「だな」
眼前に広がる蟻、大蟻の群れ。眩暈がするほどの圧倒的な数、たかが遺跡の七階層では決して見ることのできないであろう光景。
ん~、他に冒険者いたら申し訳ないな。
事を起こした張本人ながら、今更になってそんな心配をする。
この場にいる蟻は、女王大蟻の生息する三十階層までの大蟻が集まって来ている。よって七階層以上に生息する蟻までもが来ているわけで、普通の冒険者なら食い殺されていてもおかしくない。
じっくりと状況を解析する度、自身の無茶苦茶さに笑える。迷惑を被った冒険者方には本当に申し訳ないが……めんどいから謝罪はしない。
「まったく、無茶をしたものだ……はぁ」
右隣の少女――アリシアは、腕を組んで呆れた眼差しをこちらに向けると共に、ため息を零した。
そっと彼女は首だけを後ろに向け、背後の五人を見た。
「見てはいたが……――よく生き残ったな、お前達」
同情を孕んだ瞳が向けられる。
「ギリギリだけどね」
「ですね」
エヴァとオリビアが疲れた様子で言葉を返す。
「私は、まだ……行ける」
プクッと頬を膨らませ、拗ねるように詩織が言った。
「シオリ、落ち着け。お前は十分頑張った。私達に追いつきたいという気持ちはわかるが、そう焦るな。お前ならすぐに追いつける、だから……――今は落ち着け」
「……私は落ち着いてる」
子供を宥めるようにそういうアリシア。そんな彼女の言葉に、拗ねた様子の詩織は、プイと顔を逸らして子供みたいに否定した。
そんな彼女の様子を見て、アリシアは呆れたような表情を見せる。
「落ち着いていない」
「落ち着いてる」
「落ち着いていない」
「落ち着いてる」
「いない」
「てる」
「――――」
「――――」
互いに視線をぶつけ合う。
両者譲らない――あまりにも不毛な争い。
ってか、てるてなんだよ……。
何とも言えない表情を浮かべる。俺はくだらない争いをしている二人に流し目を向けた後、凄まじい勢いで迫って来ている蟻に鋭く双眸を向けた。
「まったく……本当にこういうとこは、どこかの誰かに似ているな」
苦笑。そっと彼女の視線が蟻達に向けられ、次のチラリとこちらへ向いた。
「ん?」
「変なところでへそ曲がり。どうでもいいところで我が強くて、何が何でも己を最後まで突き通そうとする。頑固者もここまで来ると――〝愚者〟、そう何度か言っているのだがな……」
先程まで詩織に向けられたものが俺に向けられる。
「悪かったな、頑固者の愚者で」
「そう思うなら改善しろ」
「無理」
「だろうな」
「――――」
こちらの発言を見透かしたような彼女の態度。別段驚きはないが、ここまでアッサリされると俺としては面白くない。もう少し動揺なりしてもらいたいものだ。
「……生憎、俺はこの生き方がデフォなんでね。頑固でも、愚者でも、俺は俺の望む――結果のために、己を突き通させてもらう」
「フン、判っている。お前がそういう人間だからこそ、私は――」
何かを言い掛けて彼女は止める。
「どうした?」
「……いや、何でもない。そんなことより――構えろ、もう敵はすぐそこだぞ」
「?……ああ、わかった」
冰晶剣を鞘から引き抜くアリシアを見て、釈然としない気持ちになりながらも弓を引いた。
引き絞る弓――迫る蟻を冷静に狙う。
ピュン、と矢が同時に放たれ、前方の一匹、その複眼に突き刺さる。
「キュッ――――!」
奇声を上げる蟻。
身体強化無しの腕力で放った矢だが、十五階層以上のジャイアントアントに容易くダメージを与える。ただし、一瞬怯んだけで動きにはほとんど影響はない。
ま、ですよね。
蟻はフェロモンで意思疎通を図り、フェロモンで帰路を探る。基本的に触覚でフェロモンを感知して行動するため、視覚は大して頼りにしていない。
故、目を潰されたところでそこまで影響はない。
それに昆虫は痛覚がないという、目を潰され奇声を上げていたが、痛みによるものかすら怪しい。
ま、それが魔物に適応されるか知らないし……そもそも、最近の研究じゃ、虫にも痛覚があるかもって話だしな。
そんなことを思いながら――前進。
先程矢で射抜いた蟻に接近する。
「キュキュッ!」
大顎が開かれる。一度でも捕まろうものなら、バラバラに引き裂かれかねない。
が、捕まればの話だ。
開かれる大顎を避け、蟻の複眼に突き刺さった矢を握って思いっきり奥へ突っ込み、中身を抉る。そしてそのまま、力任せに複眼をズタズタに掻き回し、頭部を動かす神経の塊をグチャグチャに破壊する。
右手に握った矢を引き抜きながら、身体強化を施した足で蟻の胸部を蹴って飛び上がる。
ドゴン、と力なく地面に頭部が落ちる――が、体は動きを止めない。
まるで頭部、胸部、腹部は別の生命体のように、頭を潰されて尚動き続けるが――それも時間の問題。生存に必要な器官は確実に潰した、後は死ぬだけだ。
空中で体勢を整えながら、右手に持った矢に力を籠め、真下の蟻に鋭く視線を向ける。
そして――
「身体強化・倍率・二倍」
バチバチと黄緑の光を漏らす右腕。
強化された力をそのまま、地面に叩きつけるように矢を蟻に向けて投げる。
鳴り響く轟音と共に矢は、蟻の頭部を外骨格を貫通して地面に激突、頭部の神経の塊を潰した。
空中でクルッと再び体勢を整え、異空間収納から矢を五本取り出し、弓を引き、回路に魔力を回す。
「強化」
外部回路が弓の前に形成される。
自由落下と共に弓を力強く放つ。
閃光が五つ――地面の蟻に直撃すると、あまりの威力に頭部ごと木端微塵に吹き飛ばされる。
「キュキュ――」
「――ふッ」
地面に落下すると共に、弓を格納し、新たに取り出した槍で兵大蟻の頭部を一突き――貫通させる。
飛び散る体液が頬を濡らす。
槍を引き抜きつつ、クルリと槍を回してゆったりと構える。
「ふぅ――」
『――――』
その場にいる全員がドン引きした表情をこちらへ向けて来る。
なぜ、アリシアにまで、そんな表情を向けられるのか……正直、淡々と圧倒的な膂力で蟻を斬り裂いている彼女の方が、おかしなことをしていると思うのだが。
と、思うが口にせず、そっと前進する。
「さて――次」
感情の籠っていない声でそう呟いた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
11
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる