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レヴェント編・真紅の血鬼《クリムゾン・ブラッド》
49.Beast in Chain
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同胞が殺されても一切の動揺なく迫って来る……――蟻。
恐怖はない――
憎悪はない――
ただ敵を殺し、その身を糧としようとやって来る。どこか機会を思わせる無機質さ、同じ生物として些か、その在り方には納得できない。
昆虫……まあ、魔物であるコイツらに昆虫というのは、少しおかしいのかもしれないが、昆虫と仮定した場合だ。機械的に動作を繰り返すコイツらに、人間らしい感情というモノを求めるのは御門違いというものだろう。
それにこの思いは、どちらかというと自分に対する嫌悪に近いだろう。
ただ目的の為だけに活動するその存在、その在り方を――どこか認めている自身に納得ができなくて、お門違いにも、これらを否定しているだけだ。
「キュキュキュッ!」
接近――
右手、左脚に力を入れる。全身を駆動させ、即座に突きを放つ体勢を整える。蟻との距離が三mほどの段階で呼び動作を完結させる。
穿つ――――、距離二m、踏み込むと共に突きを放った。
大顎を開く動作をするより速く、その複眼に槍を突き刺し、頭部の神経を破壊する。
瞬間、右手の槍を手放し、穿った蟻の真横を体を回転させながらすり抜ける。
――同時、異空間収納から二本にショートソードを取り出す。
体を引き絞り、回転に合わせて力強く剣を投擲する。
轟音を鳴り響かせながら鋭く飛ぶ二本の剣は、接近する二体の蟻、その節足を斬り落とし、地面に転がす。その列の蟻は、その二体をゴミのように蹴散らしながら前進した。
二体じゃ、足止めにならないか。
冷静に判断しつつ、エア・ボックスから大剣の柄を露出させ握る。
ほぼ全方位から接近して来る蟻。ザシュ、右足で強く大地を踏み、抜刀するように大剣を振り抜いた。
一瞬だけ身体強化を施し、接近する蟻の頭部を横割りにする。
ゴトンと回転と共に大剣を投げ捨て――前進。
目の前には兵大蟻。
同胞が殺された瞬間に、眼前に出現した俺を見て一瞬動きを止める。その停止が、驚きによるものなのか、単に処理が間に合わなかったのか……定かではないが、いい隙だ――じっくり狙える。
蟻の真下に入り込み、頭部下から右拳を軽く当て、俺は下を向く。
脱力――全身の力を流れるように、流動的に操る。
筋肉の弛緩、一点を狙いその形を穿つ。
「天月――八天」
ドッパンッ――――
頭部が頭上に跳ね上がる。
思ったより軽いな……。
予想以上の破損度に少し驚く。八天は衝撃を突き抜けさせる打撃技、本来であれば、頭部の神経の塊だけを壊して終わらせるつもりだったが、予想以上の脆さに頭部ごと弾けて飛んでしまった。
手応えの軽さに拍子抜け――なのだが。
――いや、これは……――
違和感に気づく。
明らかに俺の筋力が上がっている。それも身体強化、レイズや暴威によるものじゃない、素の身体能力が大きく上がっている。
治癒魔術か……。
忘れていた。妙に体が軽い感覚はあったが、実際に体を動かして気づいた。強制治癒、壊れる都度治癒、無茶に無茶を重ねた体を無理やり直した弊害――副作用だ。
俺は自身に使用する治癒魔術は、基本的に自己治癒の延長線に近い。異常なほどの自然治癒能力で壊れた瞬間から再生を繰り返す。
先の戦いは、外的要因による破壊ではなく、内的要因による破壊である。
ようは――筋トレだ。
無茶苦茶な駆動で壊した体を強化した自然治癒で回復、肉体は次の動作に耐えられるように強固に強化される。かなり荒っぽいトレーニング方法だが、これであれば、通常は何年も掛けて鍛えられるところを瞬間的に鍛えられる。
すこしズルい気もするが、過程で激痛を伴うことだし、いいよね?
そもそもとして、これは多用ができない。基礎の魔力量が一般人以下の俺が、こんなことをしようものなら、一回治癒しただけで魔力枯渇で数日間動けなくなる。
ま、鍛えられたと言っても、常人の範疇でだし、この程度じゃ怪物共と渡り合えるほどじゃない。
自身の体の状況を正確に理解した後、バックステップ、前方から迫る蟻と距離を取る。
嬉しい誤算があったところだ、とりあえず大きく削るか。
後退しつつ、エア・ボックスから鎖を握り、ジャラジャラジャラと金属の擦り合う音を響かせ取り出した。
鎖の先端にはモーニングスター……朝星棒や星球式鎚矛、星球武器なんて呼ばれる、スパイクのついた丸い鉄球が繋がっている。
ガディオの店に並んでいた武具の一つ。鎖の長さを俺用に延長してもらったため、通常のものより長めになっていること以外は普通の鎖分銅。
ガチンッ、チェーンを鳴らす。
ザザザと地面を擦って立ち止まる。立幅を広げ、鉄球を数回転させる。そして、大きく巻き込むように横からチェーンを回す。
振るう瞬間、身体強化を施す。
轟音の鉄球は蟻の胸部に直撃し、強固な外骨格を砕いて吹き飛ばされる。鎖分銅は接近する蟻を巻き込み、強化された俺の腕力によって鉄球が潰した。
ジャリジャリジャリン、蟻を潰した後、即座に引き戻し再び回転させ攻撃を放つ。
同時――疾駆。
エア・ボックスから剣を三本空中に投げる。
鎖分銅を右手で操り、左手で空中に待った剣二本を掴んで投擲。空中に舞う残りの一本を再度左手で握り直し、接近した蟻の頭部を切断する。
「ふぅ――――」
冷静の息を吐き、空気を吸う。
鋭い眼光を蟻共にぶつけ、斬り伏せ、叩き伏せ――蹂躙する。
隣には圧倒的な力で蟻を殲滅するアリシアの姿が、流石にこの程度の相手じゃ、俺達は倒せない。
「「「「…………」」」」
後方にいる四人は驚愕した表情でこちらを見つめている。
「か、考えろ? こんなの見せられて、なにがわかるって言うんだよ」
「あの二人、どうなっての?」
ルーカとエヴァの驚愕の声、二人はあまりの圧倒的差に思考を放棄し、ただ感嘆している。
一方、オリビアとアルは驚いていながらも、よく観察し、思考を回している様子だ。尚、詩織は不満そうにしながらも、しっかりとこちらを眺めている。
「……角度と位置、か」
「そう、ですね」
「「?」」
不意に呟く二人に、首を傾げるルーカとエヴァ。
「角度と位置? なんのことだよ」
ルーカはそう二人に疑問を投げ掛ける。
「ケイヤの攻撃だ」
「え」
「言ってただろ? アイツは自分と俺達の技量はほぼ変わらないって」
「あ、ああ」
「でも、そんなアイツが十五階層は越えてるジャイアントアントを簡単に斬って見せてる。俺達より素の能力が低いのに、だ」
「あ――」
今更その事実に気づいたルーカは驚いた顔でこちらを見る。
「てっきり、素の力で斬ってるのかと……」
「残念だがそれはない。アイツは自身でいうように、基礎的な能力は全部俺達の方が上……それであの戦いができてるってのは、正直納得いかないがな」
「じゃあ、どうしてあのジャイアントアントの殻を斬れるんだ?」
「言っただろ? 角度と位置、だ」
話を聞いていたルーカとエヴァは首を傾げる。
と、ここでアルに変わってオリビアが話し始める。
「ケイヤさんは基本的に、ジャイアントアントの目や体の節にしか攻撃していないんです」
「「あ」」
「私達はあの殻に向けて直接攻撃をして弾かれていましたが、ケイヤさんは〝脆い部分の発見〟と〝最も刃の通り易い角度〟を見極めて、精確に攻撃してるんです」
「確かにあれなら攻撃を通すことも可能だろうし、俺達の技術でも十分可能だ」
オリビアの説明を聞き納得した表情を見せる二人。
「観察。アイツは多分、相手の動きの予測と弱点の発見に気づけって言いたかったんだろうな。危機的状況でも冷静に分析できる能力……確かに失念していた」
「いや、戦闘中にそれができる人間、普通いねぇよ」
「だな――でも、強くなりたいならできるようにするしかない」
「――――」
鋭い、獰猛な獣のような視線。
「無茶でも何でもやるしかないんだ……――フッ、在り難い事に俺達には、いい見本がいるんだ。
取れるところは全部奪って――――自分のモノにしてやる」
「アル、バート……」
右拳を力強く握り、決心を改めるアル。
チラリと視線を向けた俺は思わず微笑を零した。
やはりアイツはいい。その思考は飢えた獣のようで、どんなことをしても強さを求めるその貪欲さは、感嘆するほど素晴らしい。
いい思考してる。
目的は知らないが、そんなものに興味はないから全然オッケーだ。どんどん強くなってくれ。使える道具として機能するなら、俺としてはどんなモノだろうと構わない。
クルッと左手に持った剣を逆手持ちにし、蟻の複眼に突き刺す。
ジャリンジャリンと鎖を鳴らして蟻の体から飛び降りる。
ゆるりと剣を構え、右手にチェーンを垂らした。
恐怖はない――
憎悪はない――
ただ敵を殺し、その身を糧としようとやって来る。どこか機会を思わせる無機質さ、同じ生物として些か、その在り方には納得できない。
昆虫……まあ、魔物であるコイツらに昆虫というのは、少しおかしいのかもしれないが、昆虫と仮定した場合だ。機械的に動作を繰り返すコイツらに、人間らしい感情というモノを求めるのは御門違いというものだろう。
それにこの思いは、どちらかというと自分に対する嫌悪に近いだろう。
ただ目的の為だけに活動するその存在、その在り方を――どこか認めている自身に納得ができなくて、お門違いにも、これらを否定しているだけだ。
「キュキュキュッ!」
接近――
右手、左脚に力を入れる。全身を駆動させ、即座に突きを放つ体勢を整える。蟻との距離が三mほどの段階で呼び動作を完結させる。
穿つ――――、距離二m、踏み込むと共に突きを放った。
大顎を開く動作をするより速く、その複眼に槍を突き刺し、頭部の神経を破壊する。
瞬間、右手の槍を手放し、穿った蟻の真横を体を回転させながらすり抜ける。
――同時、異空間収納から二本にショートソードを取り出す。
体を引き絞り、回転に合わせて力強く剣を投擲する。
轟音を鳴り響かせながら鋭く飛ぶ二本の剣は、接近する二体の蟻、その節足を斬り落とし、地面に転がす。その列の蟻は、その二体をゴミのように蹴散らしながら前進した。
二体じゃ、足止めにならないか。
冷静に判断しつつ、エア・ボックスから大剣の柄を露出させ握る。
ほぼ全方位から接近して来る蟻。ザシュ、右足で強く大地を踏み、抜刀するように大剣を振り抜いた。
一瞬だけ身体強化を施し、接近する蟻の頭部を横割りにする。
ゴトンと回転と共に大剣を投げ捨て――前進。
目の前には兵大蟻。
同胞が殺された瞬間に、眼前に出現した俺を見て一瞬動きを止める。その停止が、驚きによるものなのか、単に処理が間に合わなかったのか……定かではないが、いい隙だ――じっくり狙える。
蟻の真下に入り込み、頭部下から右拳を軽く当て、俺は下を向く。
脱力――全身の力を流れるように、流動的に操る。
筋肉の弛緩、一点を狙いその形を穿つ。
「天月――八天」
ドッパンッ――――
頭部が頭上に跳ね上がる。
思ったより軽いな……。
予想以上の破損度に少し驚く。八天は衝撃を突き抜けさせる打撃技、本来であれば、頭部の神経の塊だけを壊して終わらせるつもりだったが、予想以上の脆さに頭部ごと弾けて飛んでしまった。
手応えの軽さに拍子抜け――なのだが。
――いや、これは……――
違和感に気づく。
明らかに俺の筋力が上がっている。それも身体強化、レイズや暴威によるものじゃない、素の身体能力が大きく上がっている。
治癒魔術か……。
忘れていた。妙に体が軽い感覚はあったが、実際に体を動かして気づいた。強制治癒、壊れる都度治癒、無茶に無茶を重ねた体を無理やり直した弊害――副作用だ。
俺は自身に使用する治癒魔術は、基本的に自己治癒の延長線に近い。異常なほどの自然治癒能力で壊れた瞬間から再生を繰り返す。
先の戦いは、外的要因による破壊ではなく、内的要因による破壊である。
ようは――筋トレだ。
無茶苦茶な駆動で壊した体を強化した自然治癒で回復、肉体は次の動作に耐えられるように強固に強化される。かなり荒っぽいトレーニング方法だが、これであれば、通常は何年も掛けて鍛えられるところを瞬間的に鍛えられる。
すこしズルい気もするが、過程で激痛を伴うことだし、いいよね?
そもそもとして、これは多用ができない。基礎の魔力量が一般人以下の俺が、こんなことをしようものなら、一回治癒しただけで魔力枯渇で数日間動けなくなる。
ま、鍛えられたと言っても、常人の範疇でだし、この程度じゃ怪物共と渡り合えるほどじゃない。
自身の体の状況を正確に理解した後、バックステップ、前方から迫る蟻と距離を取る。
嬉しい誤算があったところだ、とりあえず大きく削るか。
後退しつつ、エア・ボックスから鎖を握り、ジャラジャラジャラと金属の擦り合う音を響かせ取り出した。
鎖の先端にはモーニングスター……朝星棒や星球式鎚矛、星球武器なんて呼ばれる、スパイクのついた丸い鉄球が繋がっている。
ガディオの店に並んでいた武具の一つ。鎖の長さを俺用に延長してもらったため、通常のものより長めになっていること以外は普通の鎖分銅。
ガチンッ、チェーンを鳴らす。
ザザザと地面を擦って立ち止まる。立幅を広げ、鉄球を数回転させる。そして、大きく巻き込むように横からチェーンを回す。
振るう瞬間、身体強化を施す。
轟音の鉄球は蟻の胸部に直撃し、強固な外骨格を砕いて吹き飛ばされる。鎖分銅は接近する蟻を巻き込み、強化された俺の腕力によって鉄球が潰した。
ジャリジャリジャリン、蟻を潰した後、即座に引き戻し再び回転させ攻撃を放つ。
同時――疾駆。
エア・ボックスから剣を三本空中に投げる。
鎖分銅を右手で操り、左手で空中に待った剣二本を掴んで投擲。空中に舞う残りの一本を再度左手で握り直し、接近した蟻の頭部を切断する。
「ふぅ――――」
冷静の息を吐き、空気を吸う。
鋭い眼光を蟻共にぶつけ、斬り伏せ、叩き伏せ――蹂躙する。
隣には圧倒的な力で蟻を殲滅するアリシアの姿が、流石にこの程度の相手じゃ、俺達は倒せない。
「「「「…………」」」」
後方にいる四人は驚愕した表情でこちらを見つめている。
「か、考えろ? こんなの見せられて、なにがわかるって言うんだよ」
「あの二人、どうなっての?」
ルーカとエヴァの驚愕の声、二人はあまりの圧倒的差に思考を放棄し、ただ感嘆している。
一方、オリビアとアルは驚いていながらも、よく観察し、思考を回している様子だ。尚、詩織は不満そうにしながらも、しっかりとこちらを眺めている。
「……角度と位置、か」
「そう、ですね」
「「?」」
不意に呟く二人に、首を傾げるルーカとエヴァ。
「角度と位置? なんのことだよ」
ルーカはそう二人に疑問を投げ掛ける。
「ケイヤの攻撃だ」
「え」
「言ってただろ? アイツは自分と俺達の技量はほぼ変わらないって」
「あ、ああ」
「でも、そんなアイツが十五階層は越えてるジャイアントアントを簡単に斬って見せてる。俺達より素の能力が低いのに、だ」
「あ――」
今更その事実に気づいたルーカは驚いた顔でこちらを見る。
「てっきり、素の力で斬ってるのかと……」
「残念だがそれはない。アイツは自身でいうように、基礎的な能力は全部俺達の方が上……それであの戦いができてるってのは、正直納得いかないがな」
「じゃあ、どうしてあのジャイアントアントの殻を斬れるんだ?」
「言っただろ? 角度と位置、だ」
話を聞いていたルーカとエヴァは首を傾げる。
と、ここでアルに変わってオリビアが話し始める。
「ケイヤさんは基本的に、ジャイアントアントの目や体の節にしか攻撃していないんです」
「「あ」」
「私達はあの殻に向けて直接攻撃をして弾かれていましたが、ケイヤさんは〝脆い部分の発見〟と〝最も刃の通り易い角度〟を見極めて、精確に攻撃してるんです」
「確かにあれなら攻撃を通すことも可能だろうし、俺達の技術でも十分可能だ」
オリビアの説明を聞き納得した表情を見せる二人。
「観察。アイツは多分、相手の動きの予測と弱点の発見に気づけって言いたかったんだろうな。危機的状況でも冷静に分析できる能力……確かに失念していた」
「いや、戦闘中にそれができる人間、普通いねぇよ」
「だな――でも、強くなりたいならできるようにするしかない」
「――――」
鋭い、獰猛な獣のような視線。
「無茶でも何でもやるしかないんだ……――フッ、在り難い事に俺達には、いい見本がいるんだ。
取れるところは全部奪って――――自分のモノにしてやる」
「アル、バート……」
右拳を力強く握り、決心を改めるアル。
チラリと視線を向けた俺は思わず微笑を零した。
やはりアイツはいい。その思考は飢えた獣のようで、どんなことをしても強さを求めるその貪欲さは、感嘆するほど素晴らしい。
いい思考してる。
目的は知らないが、そんなものに興味はないから全然オッケーだ。どんどん強くなってくれ。使える道具として機能するなら、俺としてはどんなモノだろうと構わない。
クルッと左手に持った剣を逆手持ちにし、蟻の複眼に突き刺す。
ジャリンジャリンと鎖を鳴らして蟻の体から飛び降りる。
ゆるりと剣を構え、右手にチェーンを垂らした。
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