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レヴェント編・真紅の血鬼《クリムゾン・ブラッド》
51.ツインインパクト
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「さて、アマ――コホン、ケイヤさん」
「はい」
現在――俺こと天無、もとい神塚敬也さんは、ギルドマスターであるメイビスの目の前で正座をしている。
他六名、アリシア、詩織、オリビア、エヴァ、ルーカ、アルはギルドマスター室にある椅子に座り、今から始まるであろうお説教を待っている。
そして、扉の前に立っているナガルは呆れた相貌でこちらを覗いている。
「討伐後、適切な処置しなければならない女王大蟻の亡骸。運搬にしろ所持にしろ、許可を貰わなければいけません。であるのに――違法所持に合わせて、低階層で大蟻の撒き餌として使用……率直にいいますね」
「…………はい」
「正気ですか――っ!?」
普段の彼女からはあまりでない大きな声、驚愕と混乱の混じった複雑な表情が向けられる。
「いくら全てのジャイアントアントを処理したといえ、もし最悪の状況になったらどうするんですか!」
「その時は、まあ……首切り台に乗ろうかな?」
「乗ろうかな?――じゃないですよ! 死ぬことより罪を償ってください!」
「馬車馬のように使われろと?」
「そうですよ!」
「そうですよじゃねぇよ! 否定しろ! 俺はお前達のために働くつもりはねぇよ!?」
「悪人のクセに生意気ですよ!」
「お前、そんなキャラだっけ!?」
慌てた様子の彼女はいつものおっとり系美人から変わって、ポンコツ美人になっている。いや、この場合、ポンコツなのかはわからないが、取り乱し過ぎて元の雰囲気の面影を感じない。
あー、コイツ、こういうタイプかぁ……。
若干そんな予感を感じていたが、おっとりを装ったポンコツだ。
ブツブツと文句と問題行動への追求を続けるメイビス。感情の起伏が激しいその様子から元の知的な様子はない。
「もぉ……あの人もそうでしたが、いきなり意味不明で破天荒な行動を取るのは止めてください。自分自身は大丈夫でも、周囲の人物にどれだけ心労が掛かると思ってるんですか」
「っ――、……わ、悪かった」
今にも泣きそうな彼女を見て、居た堪れなくなった俺は頭を掻きながら謝罪を述べた。
「今回は色々と迷惑を掛け過ぎた。配慮のない行動、感情のままに動いたのは謝る――すまん。これからはもう少し配慮ある行動を心掛ける、許してくれ」
「……本当ですか?」
「ああ、本当だ」
むくれた顔で問い掛けて来るメイビスに本心で答える。
「…………わかりました。では今回のことは不問に致します」
「すまん、ありが――」
「ただし」
「ただし?」
感謝の言葉を遮られ、首を傾げてオウム返しする。
「始末書と一ヵ月間の依頼受理、遺跡探索を禁止します。そしてその一ヵ月間、ギルド職員の業務をいくつかこなしてもらいます」
「へえ?」
呆けた声が漏れる。
「おめでとうございます。臨時とはいえギルド職員への就職です。あ、給料は出しますよ?」
「そこは気にしてねぇ! いくら何でも罰が重すぎだろ!」
「この条件が呑み込めないのであれば、衛兵さんのお世話になることになりますよ? 本来、打ち首になってもおかしくない罪を、この程度、で許そうと言っているんです。受け入れる以外の選択肢はないと思いますけど?」
「っ――」
ニッコリと満面の笑みでそう言われ、文句を言っていた口を閉じざる得なくなる。
「……アンドリュオを使って無罪にしてもらおうかな」
目線を逸らしながら呟く。
「ケイヤさん? 堂々とアンドリュオを、国王を強請ろうとするのは止めてください。あの子なら普通に了承してしまいかねないので」
「チッ」
「舌打ちしないでください。それにアンドリュオを説得できても、私とレナが許しません。というか、レナの方は面白がってこの機をりよ――……、っ!」
メイビスがハッとした表情をする。同時、俺もその気づきな何なのかを察する。
「おま、まさか……」
「ケイヤさん」
嫌な笑みを浮かべる彼女を見て、額に冷たい汗が流れる。
「この条件が呑めない場合――レナにこの話をしましょう」
「ひ、卑怯だ!」
「その場合、きっと彼女は必死にケイヤさんを擁護してくれるでしょう――でも」
頭から血の気が引いていく。
「一ヶ月どころか――一生、それを理由に強請られるんじゃないですか?」
「――――」
――敗北。
これは完膚なきまでの敗北だ。
この条件はあまりにも残酷だ。確かにレナにバレようものなら、これを元に自作自演で罪を膨れ上げさせ、俺に一生返せないような恩を押し付けかねない。
その場合、俺はレナの奴隷に等しい状況になる。それだけは絶対回避しなければ。
「……わかった、わかったよ。始末書、一ヵ月間の依頼受理、遺跡探索の禁止、一ヵ月間ギルド職員――了承した。それで手を打ってくれ」
「はい」
満面の笑みでそう返事を返して来る。
「アリシア悪い。俺しばらく動けなくなった」
「わかっている。まったく、お前は一体何をしているんだ……」
「申し訳ない」
呆れた眼差しを向ける彼女に謝罪する。
同時に説教の雰囲気がなくなったからか、先程まで黙っていた観戦組の四人が喋り出した。
「いや~、高くついたね、カミヅカ君」
「ああ、最悪だよ」
「まあ、当然の結果だろう。よく考えずとも、クイーンアントの死骸を他階層へ持ち出すリスクがどれだけ大きい蚊は、クイーンアントと戦ったお前ならわかった筈だ」
「いんや~、あの時はもっと数が少なかったぜ?」
そう答えるとアルからダメだコイツ的な表情を向けられた。
「ってか、二人とも……当然の様に学園生の最大到達階層の二十五層超えてんのかよ」
「まあな」
「そうだな、私達の最大到達階層は今――40層だ」
「「「「っ――」」」」
その場の四人は驚愕を見せる。
腕を組み、さも当然のことような様子のアリシア。四人は俺と彼女を交互に見る。
「えーと、魔道騎士団が現在到達した階層が確か44層、ですよね?」
「うん。お父さんに前聞いたらそう言ってた」
オリビアの問い掛けにエヴァが答え、二人は再び目を見開いて俺達を見て来る。
「因みに……二人は40以上の階層に行ける自信はあるんすか?」
恐る恐る聞くようにルーカが言った。
他三人は興味津々という感じにこちらを見て、返答を待っている。
俺とアリシアは顔を見合わせ、互いに意見が一致したことを確認する。そしてアリシアが回答した。
「万全の準備で挑むなら――
――――全階層制覇くらいはできる」
その場の俺、メイビス、詩織を除いた全員が、その発言に再び驚愕することになる。
彼女のこと知らない人間であれば、この発言は下らない戯言にしか聞こえないだろう。しかし、ここにいる人物は皆、彼女の実力の一端を知っている。
故にこの場にいる人間に、彼女の言葉が戯言だと思う者はいない。
「ケイヤ、お前も同じ意見なのか?」
「まあ、万全の準備をして、遺跡の攻略に全力を出すのなら……まあ、不可能ではないと思う」
「――――」
問い掛けをしたアルは絶句する。
「ま、40階層以上がどの程度になるか知らないからな、実際どうなるかはわからないが――やらざる得ないなら――――どんな手段を使っても必ず制覇するよ。絶対に」
俺の言葉を聞いてアル以外の人物も口を紡ぎ絶句していた。
遺跡の全制覇。はっきり言って本当に可能だとは思ってる。仮にアリシアがいなくても、攻略しなければならないなら、一人でも何とかする。
だが――俺にそんなことをする意味はない。
目的と交差する事でない以上、そんな余分なことに命も時間も割けない。俺が遺跡に行っているのは金稼ぎと実戦訓練、別に階層を上げて死力を尽くすことはない。それに訓練と言っても技術力の向上がメイン、ある程度の階層で安全に能力を鍛えた方がいい。
既に成長限界はとっくに超過してるんだ、これ以上命を張って体を鍛えても無意味だ。
しばらくの静寂を迎えるギルドマスター室。
すると、突然何かに気づいたようにオリビアが声を上げた。
「あ、そういえば――」
彼女の視線は俺の方を向く。
「ん?」
「あの、ケイヤさん。一つお聞きしたいのですが……」
「なんだ?」
「ケイヤさんは――お父様とお知り合いなのですか?」
「…………」
あ、やべ……。
彼女の発言で俺は、自身が墓穴を掘ったことに気づく。
「確かに! さっきしれっと会話の中に国王様の名前出てたけど、よく考えたら王様に対してあの発言はおかしくない?」
「……メイビスやレナと友人というだけでもおかしいが、この国の王にも親しいとなると流石に無視できないな」
エヴァの驚愕とアリシアの疑念。
周囲から疑いの眼差しを向けられ、俺は両目を閉じてどうしようか思案する。
そして――
「……内緒」
人差し指を唇に触れさせ、そう答えることにした。
『は』
詩織を除いて全員がそう声を上げた。
「な、内緒って、お前……」
「別にいいだろ? 俺が何であれ、お前らに関係はない……まあ、でも心配しなくても、俺はお前らの敵じゃない。この先に何があろうと――俺はお前達の〝友人〟だよ」
「――――」
そう答えるとそれ以上に意義を唱える者はいなかった。
どうやら正しい選択を選べたようだ。そう、ここで嘘を言うのは愚策だ。
故――俺は黙秘を選択した。
あんな疑われている状況でそれっぽい嘘を吐いても、疑念はより強くなるだけだ。ならば、最初から喋れない事情があると伝えればいい、そうすれば〝秘密があるという秘密〟を伝えられた彼らは深入りせず、基本的に疑念もこれ以上は膨れ上がらない。
まあ、疑念が残りはするが、元々多少は疑念を抱かれていたんだ、問題ない。
はぁ……もう少し発言には気を付けるべきだな。
その後、違法行為をしたとはいえ、大量のジャイアントアントを討伐し、その魔石を回収した俺達はギルドから多額の報酬を受け取り、皆で分配し、解散――になる筈だった。
ギルドマスター室で報酬を受け取っている中、不意に現れたギルド職員がメイビスになにやら耳打ちをした。それからメイビスの表情がどんどんと曇っていった。
「ケイヤさん」
「ん?」
皆で部屋を出ようとした時、俺だけ呼び止められた。
「あ、皆さんはどうぞ、お帰り下さい」
「え、ケイヤは?」
「ケイヤさんはお話しなければならないことがあるので残ってもらいます」
ルーカの問い掛けに優しい表情で答える。
扉の方へ向かった皆は疑問そうにこちらを見る。
いや、俺も何で呼び止められたのか知らないよ。
そう思いメイビスになぜ俺だけ残りなのかを問い掛けようとした、その時――
「路地裏」
「あー…………………………なるほど」
すごい、一言で意味がわかっちゃったよ。……顔コワ。
意味がわかった後に見た彼女の表情を見ると、どれだけ怖い顔をしているのかよくわかる。
「悪い。皆、先に帰ってくれ。どうも今日はここで長いすることになりそうだからさ」
『?』
全員意味がわからないという表情を浮かべていたが、ナガルによって部屋から追い出され、疑問が解けることなく帰宅を余儀なくされた。
皆が去った後、俺と彼女だけになった部屋で再び正座をした。
そして、俺は路地裏で見つかった魔族の死体と大量の死体についての説明をした後――六時間にも及ぶ、壮絶なお説教を受けることになった。
はぁ……もう少し後先を考えよう、俺。
「はい」
現在――俺こと天無、もとい神塚敬也さんは、ギルドマスターであるメイビスの目の前で正座をしている。
他六名、アリシア、詩織、オリビア、エヴァ、ルーカ、アルはギルドマスター室にある椅子に座り、今から始まるであろうお説教を待っている。
そして、扉の前に立っているナガルは呆れた相貌でこちらを覗いている。
「討伐後、適切な処置しなければならない女王大蟻の亡骸。運搬にしろ所持にしろ、許可を貰わなければいけません。であるのに――違法所持に合わせて、低階層で大蟻の撒き餌として使用……率直にいいますね」
「…………はい」
「正気ですか――っ!?」
普段の彼女からはあまりでない大きな声、驚愕と混乱の混じった複雑な表情が向けられる。
「いくら全てのジャイアントアントを処理したといえ、もし最悪の状況になったらどうするんですか!」
「その時は、まあ……首切り台に乗ろうかな?」
「乗ろうかな?――じゃないですよ! 死ぬことより罪を償ってください!」
「馬車馬のように使われろと?」
「そうですよ!」
「そうですよじゃねぇよ! 否定しろ! 俺はお前達のために働くつもりはねぇよ!?」
「悪人のクセに生意気ですよ!」
「お前、そんなキャラだっけ!?」
慌てた様子の彼女はいつものおっとり系美人から変わって、ポンコツ美人になっている。いや、この場合、ポンコツなのかはわからないが、取り乱し過ぎて元の雰囲気の面影を感じない。
あー、コイツ、こういうタイプかぁ……。
若干そんな予感を感じていたが、おっとりを装ったポンコツだ。
ブツブツと文句と問題行動への追求を続けるメイビス。感情の起伏が激しいその様子から元の知的な様子はない。
「もぉ……あの人もそうでしたが、いきなり意味不明で破天荒な行動を取るのは止めてください。自分自身は大丈夫でも、周囲の人物にどれだけ心労が掛かると思ってるんですか」
「っ――、……わ、悪かった」
今にも泣きそうな彼女を見て、居た堪れなくなった俺は頭を掻きながら謝罪を述べた。
「今回は色々と迷惑を掛け過ぎた。配慮のない行動、感情のままに動いたのは謝る――すまん。これからはもう少し配慮ある行動を心掛ける、許してくれ」
「……本当ですか?」
「ああ、本当だ」
むくれた顔で問い掛けて来るメイビスに本心で答える。
「…………わかりました。では今回のことは不問に致します」
「すまん、ありが――」
「ただし」
「ただし?」
感謝の言葉を遮られ、首を傾げてオウム返しする。
「始末書と一ヵ月間の依頼受理、遺跡探索を禁止します。そしてその一ヵ月間、ギルド職員の業務をいくつかこなしてもらいます」
「へえ?」
呆けた声が漏れる。
「おめでとうございます。臨時とはいえギルド職員への就職です。あ、給料は出しますよ?」
「そこは気にしてねぇ! いくら何でも罰が重すぎだろ!」
「この条件が呑み込めないのであれば、衛兵さんのお世話になることになりますよ? 本来、打ち首になってもおかしくない罪を、この程度、で許そうと言っているんです。受け入れる以外の選択肢はないと思いますけど?」
「っ――」
ニッコリと満面の笑みでそう言われ、文句を言っていた口を閉じざる得なくなる。
「……アンドリュオを使って無罪にしてもらおうかな」
目線を逸らしながら呟く。
「ケイヤさん? 堂々とアンドリュオを、国王を強請ろうとするのは止めてください。あの子なら普通に了承してしまいかねないので」
「チッ」
「舌打ちしないでください。それにアンドリュオを説得できても、私とレナが許しません。というか、レナの方は面白がってこの機をりよ――……、っ!」
メイビスがハッとした表情をする。同時、俺もその気づきな何なのかを察する。
「おま、まさか……」
「ケイヤさん」
嫌な笑みを浮かべる彼女を見て、額に冷たい汗が流れる。
「この条件が呑めない場合――レナにこの話をしましょう」
「ひ、卑怯だ!」
「その場合、きっと彼女は必死にケイヤさんを擁護してくれるでしょう――でも」
頭から血の気が引いていく。
「一ヶ月どころか――一生、それを理由に強請られるんじゃないですか?」
「――――」
――敗北。
これは完膚なきまでの敗北だ。
この条件はあまりにも残酷だ。確かにレナにバレようものなら、これを元に自作自演で罪を膨れ上げさせ、俺に一生返せないような恩を押し付けかねない。
その場合、俺はレナの奴隷に等しい状況になる。それだけは絶対回避しなければ。
「……わかった、わかったよ。始末書、一ヵ月間の依頼受理、遺跡探索の禁止、一ヵ月間ギルド職員――了承した。それで手を打ってくれ」
「はい」
満面の笑みでそう返事を返して来る。
「アリシア悪い。俺しばらく動けなくなった」
「わかっている。まったく、お前は一体何をしているんだ……」
「申し訳ない」
呆れた眼差しを向ける彼女に謝罪する。
同時に説教の雰囲気がなくなったからか、先程まで黙っていた観戦組の四人が喋り出した。
「いや~、高くついたね、カミヅカ君」
「ああ、最悪だよ」
「まあ、当然の結果だろう。よく考えずとも、クイーンアントの死骸を他階層へ持ち出すリスクがどれだけ大きい蚊は、クイーンアントと戦ったお前ならわかった筈だ」
「いんや~、あの時はもっと数が少なかったぜ?」
そう答えるとアルからダメだコイツ的な表情を向けられた。
「ってか、二人とも……当然の様に学園生の最大到達階層の二十五層超えてんのかよ」
「まあな」
「そうだな、私達の最大到達階層は今――40層だ」
「「「「っ――」」」」
その場の四人は驚愕を見せる。
腕を組み、さも当然のことような様子のアリシア。四人は俺と彼女を交互に見る。
「えーと、魔道騎士団が現在到達した階層が確か44層、ですよね?」
「うん。お父さんに前聞いたらそう言ってた」
オリビアの問い掛けにエヴァが答え、二人は再び目を見開いて俺達を見て来る。
「因みに……二人は40以上の階層に行ける自信はあるんすか?」
恐る恐る聞くようにルーカが言った。
他三人は興味津々という感じにこちらを見て、返答を待っている。
俺とアリシアは顔を見合わせ、互いに意見が一致したことを確認する。そしてアリシアが回答した。
「万全の準備で挑むなら――
――――全階層制覇くらいはできる」
その場の俺、メイビス、詩織を除いた全員が、その発言に再び驚愕することになる。
彼女のこと知らない人間であれば、この発言は下らない戯言にしか聞こえないだろう。しかし、ここにいる人物は皆、彼女の実力の一端を知っている。
故にこの場にいる人間に、彼女の言葉が戯言だと思う者はいない。
「ケイヤ、お前も同じ意見なのか?」
「まあ、万全の準備をして、遺跡の攻略に全力を出すのなら……まあ、不可能ではないと思う」
「――――」
問い掛けをしたアルは絶句する。
「ま、40階層以上がどの程度になるか知らないからな、実際どうなるかはわからないが――やらざる得ないなら――――どんな手段を使っても必ず制覇するよ。絶対に」
俺の言葉を聞いてアル以外の人物も口を紡ぎ絶句していた。
遺跡の全制覇。はっきり言って本当に可能だとは思ってる。仮にアリシアがいなくても、攻略しなければならないなら、一人でも何とかする。
だが――俺にそんなことをする意味はない。
目的と交差する事でない以上、そんな余分なことに命も時間も割けない。俺が遺跡に行っているのは金稼ぎと実戦訓練、別に階層を上げて死力を尽くすことはない。それに訓練と言っても技術力の向上がメイン、ある程度の階層で安全に能力を鍛えた方がいい。
既に成長限界はとっくに超過してるんだ、これ以上命を張って体を鍛えても無意味だ。
しばらくの静寂を迎えるギルドマスター室。
すると、突然何かに気づいたようにオリビアが声を上げた。
「あ、そういえば――」
彼女の視線は俺の方を向く。
「ん?」
「あの、ケイヤさん。一つお聞きしたいのですが……」
「なんだ?」
「ケイヤさんは――お父様とお知り合いなのですか?」
「…………」
あ、やべ……。
彼女の発言で俺は、自身が墓穴を掘ったことに気づく。
「確かに! さっきしれっと会話の中に国王様の名前出てたけど、よく考えたら王様に対してあの発言はおかしくない?」
「……メイビスやレナと友人というだけでもおかしいが、この国の王にも親しいとなると流石に無視できないな」
エヴァの驚愕とアリシアの疑念。
周囲から疑いの眼差しを向けられ、俺は両目を閉じてどうしようか思案する。
そして――
「……内緒」
人差し指を唇に触れさせ、そう答えることにした。
『は』
詩織を除いて全員がそう声を上げた。
「な、内緒って、お前……」
「別にいいだろ? 俺が何であれ、お前らに関係はない……まあ、でも心配しなくても、俺はお前らの敵じゃない。この先に何があろうと――俺はお前達の〝友人〟だよ」
「――――」
そう答えるとそれ以上に意義を唱える者はいなかった。
どうやら正しい選択を選べたようだ。そう、ここで嘘を言うのは愚策だ。
故――俺は黙秘を選択した。
あんな疑われている状況でそれっぽい嘘を吐いても、疑念はより強くなるだけだ。ならば、最初から喋れない事情があると伝えればいい、そうすれば〝秘密があるという秘密〟を伝えられた彼らは深入りせず、基本的に疑念もこれ以上は膨れ上がらない。
まあ、疑念が残りはするが、元々多少は疑念を抱かれていたんだ、問題ない。
はぁ……もう少し発言には気を付けるべきだな。
その後、違法行為をしたとはいえ、大量のジャイアントアントを討伐し、その魔石を回収した俺達はギルドから多額の報酬を受け取り、皆で分配し、解散――になる筈だった。
ギルドマスター室で報酬を受け取っている中、不意に現れたギルド職員がメイビスになにやら耳打ちをした。それからメイビスの表情がどんどんと曇っていった。
「ケイヤさん」
「ん?」
皆で部屋を出ようとした時、俺だけ呼び止められた。
「あ、皆さんはどうぞ、お帰り下さい」
「え、ケイヤは?」
「ケイヤさんはお話しなければならないことがあるので残ってもらいます」
ルーカの問い掛けに優しい表情で答える。
扉の方へ向かった皆は疑問そうにこちらを見る。
いや、俺も何で呼び止められたのか知らないよ。
そう思いメイビスになぜ俺だけ残りなのかを問い掛けようとした、その時――
「路地裏」
「あー…………………………なるほど」
すごい、一言で意味がわかっちゃったよ。……顔コワ。
意味がわかった後に見た彼女の表情を見ると、どれだけ怖い顔をしているのかよくわかる。
「悪い。皆、先に帰ってくれ。どうも今日はここで長いすることになりそうだからさ」
『?』
全員意味がわからないという表情を浮かべていたが、ナガルによって部屋から追い出され、疑問が解けることなく帰宅を余儀なくされた。
皆が去った後、俺と彼女だけになった部屋で再び正座をした。
そして、俺は路地裏で見つかった魔族の死体と大量の死体についての説明をした後――六時間にも及ぶ、壮絶なお説教を受けることになった。
はぁ……もう少し後先を考えよう、俺。
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