星架の望み(ステラデイズ)

零元天魔

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竜殺し編・焔喰らう竜

12.愚者

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 バラバラにされた怪物の死骸が転がる道を全力で駆ける。遠くへ、その先へ進んで行った彼女を追いかける為に。
 どうしてここまで必死になっているのか分からない、目的は酷く単純、こんなことに命を懸けるなんて馬鹿げているが、それでも足を止める気になれない。
 燃える街、転がる怪物の死骸――俺はまだまだ、この先へ進み資格なんてないのかもしれない。
 何の覚悟も持たず、ただ自身の我儘の為だけに越えてはいけない境界線を越えようとしている。きっと、この先はただの高校生が踏み入っていい領域ではない。それ以上進もうものなら、日常を失ってしまうかもれない。
 でも、そうだとしても――歩みは止めたくなかった。
 これほどまで無意味なことはないだろう。でも、例え死んでしまっても伝えたいことがあった。
 「ギャァァアアアア―――!!!」
 「――っ!」
 突如として怪物が現れたことにより、俺は地面を擦って急停止した。
 想定はしていたが、それでもやっぱり――怖い。
 いくらクレアにあの謎の力があっても、迫り来る全ての怪物を倒すことはできない。だから、残党の怪物がいることは想定していた。
 でも、相対してから心臓の鼓動が早くなったのが分かる。
 さっきは何とか一体、倒すことができたが、もう一度同じことをやれと言われても無理がある。もう全身、ボロボロで真面に動かせるとは思えない。それに――
 「ヴァァァァアアアアアア゙!!!」
 数が一匹である筈が無い。
 無数の怪物相手に俺は無力だ。一対一であれば、方法は。しかし、複数相手となると俺には為す術がない。
 だから、俺が取る選択肢は一つだけ。俺は――
 「ギリ、通れるよな……」
 少し不安げにそう口にすると、怪物達の間を抜けてそのまま駆け抜けた。
 怪物達はすり抜けていく俺を攻撃するが、小さく小回りの利く俺が逃げに徹した状態には、一切の攻撃を完全に避けられる。カウントで強化済みの状態であれば、この程度は造作もない。
 ふぅ――一気に抜けて撒く。
 とはいえ、体力には限界がある。可能な限り怪物との接敵は避けたいので、攻撃を回避後は即座に走り去る。次第に怪物達との距離は開き、完全に撒くことに成功する。
 しばらく走ったところで一息を吐く。
 なんとか、逃げ切ったか。
 精神的な疲労と肉体的な疲労が交互に襲って来る。しかし、この場に長居することはできない、長くいれば怪物達が再び現れるだろうし、彼女との距離はさらに離れてしまう。
 辛いが、休憩している時間はない。
 そう思い、再び走り出そうとした。その瞬間――
 「ガァァァアアアアア゙!!!」
 「ッ!」
 咆哮と共に、突如として瓦礫の中から現れた怪物の一撃を間一髪で回避する。しかし、その逃げた先の瓦礫に足を取られ尻餅を着いた。
 クソ!
 迫り来る怪物を見て悪態を吐く、もう駄目なのかという絶望と共に、何も言えなかった〝後悔〟が押し押せる。そして、死にたくないという気持ちが大きくなった。その時――
 スパンッと、怪物の顔が横に一閃、線が入ったように見えた。そして、怪物は突然、その活動を停止させ、体液や臓器を撒き散らせて、上下で真二つになった。
 状況が理解できないでいると、背後から足音が聞こえ、その足音は次第とこちらへ近づき、次の瞬間には、左右から二人の少女が現れていた。
 だ、誰だ……?
 眼前の怪物に目を向ける少女二人に、驚愕と戸惑いの表情を向けた。
 片方は大太刀を携え、長い黒髪を持つ赤目の少女。もう一人は、巫女服を身に纏い、黄土色の長い髪を髪留めで止めている少女だった――
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