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竜殺し編・焔喰らう竜
13.下らない理由
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眼前に佇む二人の少女。二人は瓦礫から這い出る怪物達を見て尚、平然としていた。
「天音、ここは私がやります。あなたはその人を」
「わかりました。沙耶さん、お気をつけて」
「心配しなくても、この程度……問題ない」
沙耶と呼ばれた少女はそう言うと、腰に携えた大太刀を引き抜き、すっと構えた。そして、もう一人の少女が俺を守るように前に立った。
次の瞬間、地面を強く蹴りつける音と共に、太刀を持った少女が怪物達が集まる中心に立っていた。一瞬、視界から消えるほどの速度で彼女は怪物達の間を抜け、そこに立っていた。
シュッと紙を斬るが如し、凪のような一閃が放たれる。
あまりにも鮮やかに、あまりにも一瞬だった。その一閃は怪物達が自身の死を自覚できないほど、繊細且つ美しい一撃だった。
少女はそっと鞘に太刀を収める。次の瞬間、スパンと線が入った怪物達が、先程の怪物同様に上下で真二つにされ、その体液と臓器を地面に撒き散らせて、完全に絶命した。
クレアが放った光球による超常的な力による圧殺とは違い、鍛錬の先にある高等技術により成されたそれは、彼女が魅せられたモノとは違った、心惹かれる素晴らしさを感じた。俺は、他の命を奪うその行為を、やはり美しいと感じていた。
「大丈夫ですか?」
「え……あ、はい」
少女の剣技に魅入られていると、もう一人の少女が声を掛けてきた。俺が立ち上がると、二人はこちらを見て不思議そうな表情をした。
「えっと、あなた、一般の方ですよね?」
「ああ。俺は魔術とか、そういうのは無関係だ」
少女の問に素直に答え。すると、もう一人の太刀を持った少女が訝しむような表情で問い掛けてきた。
「なら、どうして魔術の事を知っている?」
「さっき、クレアって子のを見た」
「ああ、なるほど……彼女か」
その解答に納得したようにそう呟く少女。
「彼女を知っているのか?」
「一様、関係者ではある」
「そうか……なら、居場所を教えてくれないか?」
「「?」」
俺の願いを聞いた時、二人は疑問を抱くような表情でこちらを見た。
「あなた、どうしてクレアさんの居場所を知りたいんですか?」
「ちょっと言いたいことがある」
「言いたいこと、ですか?」
「ああ」
少女はこちらの意図が理解できずに項垂れた。理解できなくても当然だろう、こんな危険な目に遭って、それでも尚、言いたいことがある。それだけのために、より危険な場所に向うとしているその行為に理解が及ばないのも分かる。
自分自身、馬鹿なことをしている自覚がある。
「……悪いがそれは出来ない」
「どうしてだ?」
こちらの願いに回答を述べたのは太刀を持つ少女だった。
「君は一般人なのだろう? であるなら、これ以上は死の危険が付き纏う。現に君は殺されかけていた、命を大切にするなら、ここから先に立ち入るべきではない」
「…………」
彼女の言葉に思わず押し黙る。それは、彼女の言葉が正しいのだと理解しているからである。
自分には何か大きなことができる力を持っている……そうは思わない。このカウンタは怪物一体に苦戦する程度のものだ、彼女やクレアのように皆を救えるような力は持ち合わせていない。
俺は選ばれた者じゃない……ただ、場面の当事者であるに過ぎない凡人だ。
世界を変える者ではない。世界を救える者ではない。世界を守れる者ではない。
だからこそ、自分自身の芯だけは貫いていたい。自身の信じる道には、嘘を吐きたくない。俺という人間の人生、それを貫ける人間で在りたい。
「頼む。教えてくれ」
「君は馬鹿なのか? 彼女に何を伝えたいか知らないが、それは事が済んでからでも構わないだろう。死んでは、どうにもならないんだぞ?」
「ああ、わかってる。でも、今ここで俺が引き返したら……次はないと思ったんだ」
「それは……」
言葉が詰まる。それは何か思い当たることがあったからなのか、人生というものには次があること自体が稀であると知っているからなのか、どちらにせよ、俺の答えは変わらない。
「君らが何を背負って、何を目的としてこんなことをしているかは知らない。助けて貰った上にこんな我儘を言うのもおかしい話だけど……俺はどうしても伝えたいんだ」
「何を……」
「俺はまだ、彼女に、クレアに……〝ありがとう〟を言えてない。命を助けて貰ったのに、その言葉を掛けられなかったんだ」
「「…………」」
それを聞いた二人は言葉を失ったように黙った。
あまりにも下らない理由、それは命を懸ける理由にしてはあまりにも下らなく、意味の薄いものだった。でも、俺にとっては、それが何より大切なことだった。
高が命を一度救われただけ、まだ一度、ほんの一瞬しか関わっていない相手に、感謝を伝えるだけの行為に命を懸ける。馬鹿だ、どうかしている……でも、俺はそれを心からしたいと思ってしまった。
俺は、何一つ守れなかったから、何一つ救うことができなかったから、彼女の放った光に魅入られてしまったんだと思う。
心のままに従う。助けられたあの時に感じた純粋な思い、それに従いたい。
俺はきっと、彼女を助けたいと思ってしまったんだ――
「天音、ここは私がやります。あなたはその人を」
「わかりました。沙耶さん、お気をつけて」
「心配しなくても、この程度……問題ない」
沙耶と呼ばれた少女はそう言うと、腰に携えた大太刀を引き抜き、すっと構えた。そして、もう一人の少女が俺を守るように前に立った。
次の瞬間、地面を強く蹴りつける音と共に、太刀を持った少女が怪物達が集まる中心に立っていた。一瞬、視界から消えるほどの速度で彼女は怪物達の間を抜け、そこに立っていた。
シュッと紙を斬るが如し、凪のような一閃が放たれる。
あまりにも鮮やかに、あまりにも一瞬だった。その一閃は怪物達が自身の死を自覚できないほど、繊細且つ美しい一撃だった。
少女はそっと鞘に太刀を収める。次の瞬間、スパンと線が入った怪物達が、先程の怪物同様に上下で真二つにされ、その体液と臓器を地面に撒き散らせて、完全に絶命した。
クレアが放った光球による超常的な力による圧殺とは違い、鍛錬の先にある高等技術により成されたそれは、彼女が魅せられたモノとは違った、心惹かれる素晴らしさを感じた。俺は、他の命を奪うその行為を、やはり美しいと感じていた。
「大丈夫ですか?」
「え……あ、はい」
少女の剣技に魅入られていると、もう一人の少女が声を掛けてきた。俺が立ち上がると、二人はこちらを見て不思議そうな表情をした。
「えっと、あなた、一般の方ですよね?」
「ああ。俺は魔術とか、そういうのは無関係だ」
少女の問に素直に答え。すると、もう一人の太刀を持った少女が訝しむような表情で問い掛けてきた。
「なら、どうして魔術の事を知っている?」
「さっき、クレアって子のを見た」
「ああ、なるほど……彼女か」
その解答に納得したようにそう呟く少女。
「彼女を知っているのか?」
「一様、関係者ではある」
「そうか……なら、居場所を教えてくれないか?」
「「?」」
俺の願いを聞いた時、二人は疑問を抱くような表情でこちらを見た。
「あなた、どうしてクレアさんの居場所を知りたいんですか?」
「ちょっと言いたいことがある」
「言いたいこと、ですか?」
「ああ」
少女はこちらの意図が理解できずに項垂れた。理解できなくても当然だろう、こんな危険な目に遭って、それでも尚、言いたいことがある。それだけのために、より危険な場所に向うとしているその行為に理解が及ばないのも分かる。
自分自身、馬鹿なことをしている自覚がある。
「……悪いがそれは出来ない」
「どうしてだ?」
こちらの願いに回答を述べたのは太刀を持つ少女だった。
「君は一般人なのだろう? であるなら、これ以上は死の危険が付き纏う。現に君は殺されかけていた、命を大切にするなら、ここから先に立ち入るべきではない」
「…………」
彼女の言葉に思わず押し黙る。それは、彼女の言葉が正しいのだと理解しているからである。
自分には何か大きなことができる力を持っている……そうは思わない。このカウンタは怪物一体に苦戦する程度のものだ、彼女やクレアのように皆を救えるような力は持ち合わせていない。
俺は選ばれた者じゃない……ただ、場面の当事者であるに過ぎない凡人だ。
世界を変える者ではない。世界を救える者ではない。世界を守れる者ではない。
だからこそ、自分自身の芯だけは貫いていたい。自身の信じる道には、嘘を吐きたくない。俺という人間の人生、それを貫ける人間で在りたい。
「頼む。教えてくれ」
「君は馬鹿なのか? 彼女に何を伝えたいか知らないが、それは事が済んでからでも構わないだろう。死んでは、どうにもならないんだぞ?」
「ああ、わかってる。でも、今ここで俺が引き返したら……次はないと思ったんだ」
「それは……」
言葉が詰まる。それは何か思い当たることがあったからなのか、人生というものには次があること自体が稀であると知っているからなのか、どちらにせよ、俺の答えは変わらない。
「君らが何を背負って、何を目的としてこんなことをしているかは知らない。助けて貰った上にこんな我儘を言うのもおかしい話だけど……俺はどうしても伝えたいんだ」
「何を……」
「俺はまだ、彼女に、クレアに……〝ありがとう〟を言えてない。命を助けて貰ったのに、その言葉を掛けられなかったんだ」
「「…………」」
それを聞いた二人は言葉を失ったように黙った。
あまりにも下らない理由、それは命を懸ける理由にしてはあまりにも下らなく、意味の薄いものだった。でも、俺にとっては、それが何より大切なことだった。
高が命を一度救われただけ、まだ一度、ほんの一瞬しか関わっていない相手に、感謝を伝えるだけの行為に命を懸ける。馬鹿だ、どうかしている……でも、俺はそれを心からしたいと思ってしまった。
俺は、何一つ守れなかったから、何一つ救うことができなかったから、彼女の放った光に魅入られてしまったんだと思う。
心のままに従う。助けられたあの時に感じた純粋な思い、それに従いたい。
俺はきっと、彼女を助けたいと思ってしまったんだ――
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