星架の望み(ステラデイズ)

零元天魔

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竜殺し編・焔喰らう竜

16.不可思議な感情

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 燃える街を駆ける抜け、眼前に現れる全てのフリーカーを殲滅する少女。彼女は自身の胸の奥に生じた〝不可思議なモノ〟に疑問を抱いていた。
 「ヴァァ――」
 「邪魔」
 フリーカーは思考の狭間に入り込むように襲い来る。しかし、次の瞬間には光弾によりその頭を削剥し、瞬間的に絶命させる。彼女は自身の使用する魔術、高密魔力弾バレッタで周囲の敵を残らず殲滅した。
 その動きに一部の隙も無い、ただ純粋に対象を殲滅する動き。
 「ふぅ――」
 かなり進んだところで一息を吐く。消費された魔力は既に彼女が保有する全体量の半分、この場へ辿り着くまでにかなりの量を消費してしまった。
 本来であれば、こうも大量の魔力を消費する必要はなかった。しかし、フリーカーという存在は魔獣などとは根本の性能存在規模が違う。下手に消費を抑え、威力を落とせば、反撃されかねない。
 その理由もあって彼女は、使用する魔弾魔術まだんまじゅつ魔力弾バレットではなく、高密魔力弾バレッタという、高位の魔弾魔術を使用している。
 ……彼、逃げられただろうか?
 一息吐いたところでふと、脳裏にそんな疑問が浮んだ。
 道中で出会った少年、彼女は何の変哲もないそんな少年のことが頭から離れなかった。そんな自身の思考に驚く、他人に対して関心を抱くこと自体が珍しい自分が、少し話しただけの少年に強い関心を示している、それは驚くべきことだった。
 確かに少年は、特殊な〝何か〟を持っていた。それは彼と出会った現場と彼自身を視ればすぐ分かった。
 だが、それを除けば、彼はただの少年に過ぎなかった。それゆえ、自身がこうも彼に関心を抱いている理由の所在が分からない、私は一体、何を彼に抱いたのだろう? そんな疑問が頭を汚染した。
 調子がおかしい……
 自身を汚染する感情の違和感は、体までに影響を及ぼす。なぜだか妙に胸の辺りが騒がしい、何かが詰まったように息苦しい。
 「……とりあえず、疑問は後回し」
 首を横に振り、疑問を振り払う。緊急事態である今、そんなことに思考を割っている余裕はない。今はただ、事の収束に最善を尽くすだけである。
 それが……私の、原点の存在意義……明日を求めるために、果たさなくてはいけない使命――
 少し昔、自身を変えてくれた人に言われた言葉を思い出しながら、強く自身を使命感で駆り立てる。そして、彼女は再び走り出す。
 「……逆刃大」
 ふと、その名がこぼれる。
 自然と聞き入れたその名の存在を強く思い出し、なぜ自身は疑問に思わなかったのか、不思議に思った。
 「馬鹿弟子……それと――」
 声は途中で切れる。それは――眼前に迫るフリーカーをお前に、余分な思考を切り捨てたからだ。
 「またぞろぞろと……」
 呆れ混じりのため息が漏れる。幾度も幾度も、どんなに同胞が狩られようと、関係なく襲い続けるその無意味な行動に、生物として真面な知能が働いていないのかと呆れたのだ。
 彼らは人ほどの知能は有していないが、他の生物よりは高い知力を持っている。しかし、根本が機械的で昆虫の様な存在である彼らは、一定の使命を果たすために、どんなに無意味で無謀な行動でも何度も繰り返し続ける。
 「面倒ですが、ここで掃討しておかなければ、後々厄介そうだ――まとめて片付けましょうか」
 右手に走る回路を淡く光らせ、体内の魔力を回す。弾丸を装填するように、高密魔力弾バレッタを空中にセットしていく。
 魔法陣外部回路が展開されると共に、複数の光弾が生み出される。展開された光弾は夜空に広がる星々のように美しく輝き、放たれるその瞬間を待つ。
 迫り来るフリーカー、彼女は一切、臆することなく。そっと手を振り下ろした。
 右手を振り下ろすと同時、それがトリガーとなり光弾は弾かれ、フリーカーを襲う。次々とフリーカーの肉体を削り、一掃していく光弾。そんな中、数匹のフリーカーが弾幕を掻い潜り、彼女の元へ走り込む。
 しかし、クレアは至って平然と次の行動に移っていた。
 「燃やし切り裂けCombustion Cutting――」
 迫るフリーカーに対して、二節詠唱と共に手を横へ振るう。すると、シュッと火の線が見え燃えると同時、首がスルリと転がり落ちる。
 燃えるフリーカーの肉体に軽く視線を向けた後、すぐさま後退し体勢を立て直しつつ、次の詠唱を口にする。
 「全てを拒絶する暴風Storm rejection
 その言葉と同時、展開されるは近づくモノを切り裂く暴風の障壁。そして、障壁の内側から魔弾を放つ。
 「高密魔力弾バレッタ・装填――発射」
 攻守共に数多いる魔術師の中で上澄みである彼女に隙はない。特異体質より得た五大元素により、全実在元素持ちクインテット・ワンとなった彼女は、五大元素を使用するあらゆる魔術を使用できる。
 そのため彼女は、五大元素を使用する基礎魔術である元素魔術を得意とする。
 単純な構成であるが故に、素の出力と質が威力や効力に直結する。全ての基礎値アベレージが高レベルである彼女は比較的、効力、威力共に弱いとされる二節詠唱の魔術すら、フリーカーを絶命に追いやるほどの力を発揮する。
 「さあ――どんどん行きましょうか」
 微笑を浮かべ、詠唱を口にする彼女により数分足らずで大量にいた全てのフリーカーは一掃された。
 周囲一面、フリーカーの残骸が広がり、燃える街と共にその残骸が燃え焦げた匂いが周囲に充満する。そんな中、クレアは悠然と立っている。
 しかし――
 「ハアハア、ハアハア……」
 両脚から力が抜け、その場に膝を着けて、大きく呼吸をする。彼女は魔力が枯渇した事により、極度の疲労状態に陥り呼吸が荒くなり、体調不良を引き起こしている。
 クレアは身に着けていたポシェットから小瓶を取り出し、中の液体を飲んだ。すると、一気に呼吸が静まり、体調不良が回復していった。
 彼女が服用したのは、魔力を多く含んだ液体。魔力生成速度が追い付かなくなった状態に服用すると、魔力生成の補助と多少の魔力を回復させることができる物である。
 少し、無理をし過ぎたみたい……
 まだ少し眩暈がする頭を抑え、何とか再び立ち上がる。その時――
 「!」
 背後に迫る何かに気づいたクレアは即座に回避行動を取った。
 「っ――」
 右腕に灼熱感は走る。背後に迫っていたのは他のフリーカーに比べ、一際大きな個体、狼の様な姿をした怪物だった。彼女はそんな狼型フリーカーの鋭い爪を受けたのだ。
 クッ、カテゴリーAかっ!
 目線を狼型フリーカーに向けつつ、反撃のために詠唱を口にする。
 「退けよ、災を防げProtect Retreat
 その言葉と共に、半透明の障壁が展開される。しかし、狼型フリーカーは障壁があるのにも関わらず、そのまま突進した。
 そして――容易く障壁を砕いた。
 っ――
 一瞬の驚愕。その後、一瞬にして意識を冷静にする。障壁が壊れてしまったのは仕方ないことだ。
 急造の障壁、ただ魔力を障壁に昇華したに過ぎない。目的は敵を退けることではない、ただ数秒でも時間を稼ぐこと、であるなら砕けても問題はない。
 「高密魔力弾バレッタ
 高速で術式を構築する。人差し指を狼型フリーカーの頭に向け、展開された陣から発生した光弾の狙いを定める。
 発射ファイアッ――
 冷静に冷静に、狙った。だが――次の瞬間、魔法陣外部回路が砕け、光弾が霧散した。
 「!」
 術式の構築速度を優先してしまった彼女は、誤って術式そのものの構築をミスってしまったのだ。本来であれば絶対に在りえないこと、しかし、最初から余計なことを考え、冷静さを欠いていた。
 これは自身の状態を正確に測れなかったクレアのミス、よって彼女はここで死ぬ。
 彼女はそれを自覚しているのか、そっと目を閉じる。次に自身が何をしようと無駄だと判断したのだ。死を前にしてその判断はあまりにも達観していて、悲しいものだった。
 すみません……あなたに言われたのに……明日を迎えることすらできないみたいです。
 名残惜しいそうに心の中でそう呟いた。それが彼女の終わりの言葉だった――
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