17 / 31
竜殺し編・焔喰らう竜
16.不可思議な感情
しおりを挟む
燃える街を駆ける抜け、眼前に現れる全てのフリーカーを殲滅する少女。彼女は自身の胸の奥に生じた〝不可思議なモノ〟に疑問を抱いていた。
「ヴァァ――」
「邪魔」
フリーカーは思考の狭間に入り込むように襲い来る。しかし、次の瞬間には光弾によりその頭を削剥し、瞬間的に絶命させる。彼女は自身の使用する魔術、高密魔力弾で周囲の敵を残らず殲滅した。
その動きに一部の隙も無い、ただ純粋に対象を殲滅する動き。
「ふぅ――」
かなり進んだところで一息を吐く。消費された魔力は既に彼女が保有する全体量の半分、この場へ辿り着くまでにかなりの量を消費してしまった。
本来であれば、こうも大量の魔力を消費する必要はなかった。しかし、殻という存在は魔獣などとは根本の性能が違う。下手に消費を抑え、威力を落とせば、反撃されかねない。
その理由もあって彼女は、使用する魔弾魔術を魔力弾ではなく、高密魔力弾という、高位の魔弾魔術を使用している。
……彼、逃げられただろうか?
一息吐いたところでふと、脳裏にそんな疑問が浮んだ。
道中で出会った少年、彼女は何の変哲もないそんな少年のことが頭から離れなかった。そんな自身の思考に驚く、他人に対して関心を抱くこと自体が珍しい自分が、少し話しただけの少年に強い関心を示している、それは驚くべきことだった。
確かに少年は、特殊な〝何か〟を持っていた。それは彼と出会った現場と彼自身を視ればすぐ分かった。
だが、それを除けば、彼はただの少年に過ぎなかった。それゆえ、自身がこうも彼に関心を抱いている理由の所在が分からない、私は一体、何を彼に抱いたのだろう? そんな疑問が頭を汚染した。
調子がおかしい……
自身を汚染する感情の違和感は、体までに影響を及ぼす。なぜだか妙に胸の辺りが騒がしい、何かが詰まったように息苦しい。
「……とりあえず、疑問は後回し」
首を横に振り、疑問を振り払う。緊急事態である今、そんなことに思考を割っている余裕はない。今はただ、事の収束に最善を尽くすだけである。
それが……私の、原点の存在意義……明日を求めるために、果たさなくてはいけない使命――
少し昔、自身を変えてくれた人に言われた言葉を思い出しながら、強く自身を使命感で駆り立てる。そして、彼女は再び走り出す。
「……逆刃大」
ふと、その名がこぼれる。
自然と聞き入れたその名の存在を強く思い出し、なぜ自身は疑問に思わなかったのか、不思議に思った。
「馬鹿弟子……それと――」
声は途中で切れる。それは――眼前に迫るフリーカーをお前に、余分な思考を切り捨てたからだ。
「またぞろぞろと……」
呆れ混じりのため息が漏れる。幾度も幾度も、どんなに同胞が狩られようと、関係なく襲い続けるその無意味な行動に、生物として真面な知能が働いていないのかと呆れたのだ。
彼らは人ほどの知能は有していないが、他の生物よりは高い知力を持っている。しかし、根本が機械的で昆虫の様な存在である彼らは、一定の使命を果たすために、どんなに無意味で無謀な行動でも何度も繰り返し続ける。
「面倒ですが、ここで掃討しておかなければ、後々厄介そうだ――まとめて片付けましょうか」
右手に走る回路を淡く光らせ、体内の魔力を回す。弾丸を装填するように、高密魔力弾を空中にセットしていく。
魔法陣が展開されると共に、複数の光弾が生み出される。展開された光弾は夜空に広がる星々のように美しく輝き、放たれるその瞬間を待つ。
迫り来るフリーカー、彼女は一切、臆することなく。そっと手を振り下ろした。
右手を振り下ろすと同時、それがトリガーとなり光弾は弾かれ、フリーカーを襲う。次々とフリーカーの肉体を削り、一掃していく光弾。そんな中、数匹のフリーカーが弾幕を掻い潜り、彼女の元へ走り込む。
しかし、クレアは至って平然と次の行動に移っていた。
「燃やし切り裂け――」
迫るフリーカーに対して、二節詠唱と共に手を横へ振るう。すると、シュッと火の線が見え燃えると同時、首がスルリと転がり落ちる。
燃えるフリーカーの肉体に軽く視線を向けた後、すぐさま後退し体勢を立て直しつつ、次の詠唱を口にする。
「全てを拒絶する暴風」
その言葉と同時、展開されるは近づくモノを切り裂く暴風の障壁。そして、障壁の内側から魔弾を放つ。
「高密魔力弾・装填――発射」
攻守共に数多いる魔術師の中で上澄みである彼女に隙はない。特異体質より得た五大元素により、全実在元素持ちとなった彼女は、五大元素を使用するあらゆる魔術を使用できる。
そのため彼女は、五大元素を使用する基礎魔術である元素魔術を得意とする。
単純な構成であるが故に、素の出力と質が威力や効力に直結する。全ての基礎値が高レベルである彼女は比較的、効力、威力共に弱いとされる二節詠唱の魔術すら、フリーカーを絶命に追いやるほどの力を発揮する。
「さあ――どんどん行きましょうか」
微笑を浮かべ、詠唱を口にする彼女により数分足らずで大量にいた全てのフリーカーは一掃された。
周囲一面、フリーカーの残骸が広がり、燃える街と共にその残骸が燃え焦げた匂いが周囲に充満する。そんな中、クレアは悠然と立っている。
しかし――
「ハアハア、ハアハア……」
両脚から力が抜け、その場に膝を着けて、大きく呼吸をする。彼女は魔力が枯渇した事により、極度の疲労状態に陥り呼吸が荒くなり、体調不良を引き起こしている。
クレアは身に着けていたポシェットから小瓶を取り出し、中の液体を飲んだ。すると、一気に呼吸が静まり、体調不良が回復していった。
彼女が服用したのは、魔力を多く含んだ液体。魔力生成速度が追い付かなくなった状態に服用すると、魔力生成の補助と多少の魔力を回復させることができる物である。
少し、無理をし過ぎたみたい……
まだ少し眩暈がする頭を抑え、何とか再び立ち上がる。その時――
「!」
背後に迫る何かに気づいたクレアは即座に回避行動を取った。
「っ――」
右腕に灼熱感は走る。背後に迫っていたのは他のフリーカーに比べ、一際大きな個体、狼の様な姿をした怪物だった。彼女はそんな狼型フリーカーの鋭い爪を受けたのだ。
クッ、カテゴリーAかっ!
目線を狼型フリーカーに向けつつ、反撃のために詠唱を口にする。
「退けよ、災を防げ」
その言葉と共に、半透明の障壁が展開される。しかし、狼型フリーカーは障壁があるのにも関わらず、そのまま突進した。
そして――容易く障壁を砕いた。
っ――
一瞬の驚愕。その後、一瞬にして意識を冷静にする。障壁が壊れてしまったのは仕方ないことだ。
急造の障壁、ただ魔力を障壁に昇華したに過ぎない。目的は敵を退けることではない、ただ数秒でも時間を稼ぐこと、であるなら砕けても問題はない。
「高密魔力弾」
高速で術式を構築する。人差し指を狼型フリーカーの頭に向け、展開された陣から発生した光弾の狙いを定める。
発射ッ――
冷静に冷静に、狙った。だが――次の瞬間、魔法陣が砕け、光弾が霧散した。
「!」
術式の構築速度を優先してしまった彼女は、誤って術式そのものの構築をミスってしまったのだ。本来であれば絶対に在りえないこと、しかし、最初から余計なことを考え、冷静さを欠いていた。
これは自身の状態を正確に測れなかったクレアのミス、よって彼女はここで死ぬ。
彼女はそれを自覚しているのか、そっと目を閉じる。次に自身が何をしようと無駄だと判断したのだ。死を前にしてその判断はあまりにも達観していて、悲しいものだった。
すみません……あなたに言われたのに……明日を迎えることすらできないみたいです。
名残惜しいそうに心の中でそう呟いた。それが彼女の終わりの言葉だった――
「ヴァァ――」
「邪魔」
フリーカーは思考の狭間に入り込むように襲い来る。しかし、次の瞬間には光弾によりその頭を削剥し、瞬間的に絶命させる。彼女は自身の使用する魔術、高密魔力弾で周囲の敵を残らず殲滅した。
その動きに一部の隙も無い、ただ純粋に対象を殲滅する動き。
「ふぅ――」
かなり進んだところで一息を吐く。消費された魔力は既に彼女が保有する全体量の半分、この場へ辿り着くまでにかなりの量を消費してしまった。
本来であれば、こうも大量の魔力を消費する必要はなかった。しかし、殻という存在は魔獣などとは根本の性能が違う。下手に消費を抑え、威力を落とせば、反撃されかねない。
その理由もあって彼女は、使用する魔弾魔術を魔力弾ではなく、高密魔力弾という、高位の魔弾魔術を使用している。
……彼、逃げられただろうか?
一息吐いたところでふと、脳裏にそんな疑問が浮んだ。
道中で出会った少年、彼女は何の変哲もないそんな少年のことが頭から離れなかった。そんな自身の思考に驚く、他人に対して関心を抱くこと自体が珍しい自分が、少し話しただけの少年に強い関心を示している、それは驚くべきことだった。
確かに少年は、特殊な〝何か〟を持っていた。それは彼と出会った現場と彼自身を視ればすぐ分かった。
だが、それを除けば、彼はただの少年に過ぎなかった。それゆえ、自身がこうも彼に関心を抱いている理由の所在が分からない、私は一体、何を彼に抱いたのだろう? そんな疑問が頭を汚染した。
調子がおかしい……
自身を汚染する感情の違和感は、体までに影響を及ぼす。なぜだか妙に胸の辺りが騒がしい、何かが詰まったように息苦しい。
「……とりあえず、疑問は後回し」
首を横に振り、疑問を振り払う。緊急事態である今、そんなことに思考を割っている余裕はない。今はただ、事の収束に最善を尽くすだけである。
それが……私の、原点の存在意義……明日を求めるために、果たさなくてはいけない使命――
少し昔、自身を変えてくれた人に言われた言葉を思い出しながら、強く自身を使命感で駆り立てる。そして、彼女は再び走り出す。
「……逆刃大」
ふと、その名がこぼれる。
自然と聞き入れたその名の存在を強く思い出し、なぜ自身は疑問に思わなかったのか、不思議に思った。
「馬鹿弟子……それと――」
声は途中で切れる。それは――眼前に迫るフリーカーをお前に、余分な思考を切り捨てたからだ。
「またぞろぞろと……」
呆れ混じりのため息が漏れる。幾度も幾度も、どんなに同胞が狩られようと、関係なく襲い続けるその無意味な行動に、生物として真面な知能が働いていないのかと呆れたのだ。
彼らは人ほどの知能は有していないが、他の生物よりは高い知力を持っている。しかし、根本が機械的で昆虫の様な存在である彼らは、一定の使命を果たすために、どんなに無意味で無謀な行動でも何度も繰り返し続ける。
「面倒ですが、ここで掃討しておかなければ、後々厄介そうだ――まとめて片付けましょうか」
右手に走る回路を淡く光らせ、体内の魔力を回す。弾丸を装填するように、高密魔力弾を空中にセットしていく。
魔法陣が展開されると共に、複数の光弾が生み出される。展開された光弾は夜空に広がる星々のように美しく輝き、放たれるその瞬間を待つ。
迫り来るフリーカー、彼女は一切、臆することなく。そっと手を振り下ろした。
右手を振り下ろすと同時、それがトリガーとなり光弾は弾かれ、フリーカーを襲う。次々とフリーカーの肉体を削り、一掃していく光弾。そんな中、数匹のフリーカーが弾幕を掻い潜り、彼女の元へ走り込む。
しかし、クレアは至って平然と次の行動に移っていた。
「燃やし切り裂け――」
迫るフリーカーに対して、二節詠唱と共に手を横へ振るう。すると、シュッと火の線が見え燃えると同時、首がスルリと転がり落ちる。
燃えるフリーカーの肉体に軽く視線を向けた後、すぐさま後退し体勢を立て直しつつ、次の詠唱を口にする。
「全てを拒絶する暴風」
その言葉と同時、展開されるは近づくモノを切り裂く暴風の障壁。そして、障壁の内側から魔弾を放つ。
「高密魔力弾・装填――発射」
攻守共に数多いる魔術師の中で上澄みである彼女に隙はない。特異体質より得た五大元素により、全実在元素持ちとなった彼女は、五大元素を使用するあらゆる魔術を使用できる。
そのため彼女は、五大元素を使用する基礎魔術である元素魔術を得意とする。
単純な構成であるが故に、素の出力と質が威力や効力に直結する。全ての基礎値が高レベルである彼女は比較的、効力、威力共に弱いとされる二節詠唱の魔術すら、フリーカーを絶命に追いやるほどの力を発揮する。
「さあ――どんどん行きましょうか」
微笑を浮かべ、詠唱を口にする彼女により数分足らずで大量にいた全てのフリーカーは一掃された。
周囲一面、フリーカーの残骸が広がり、燃える街と共にその残骸が燃え焦げた匂いが周囲に充満する。そんな中、クレアは悠然と立っている。
しかし――
「ハアハア、ハアハア……」
両脚から力が抜け、その場に膝を着けて、大きく呼吸をする。彼女は魔力が枯渇した事により、極度の疲労状態に陥り呼吸が荒くなり、体調不良を引き起こしている。
クレアは身に着けていたポシェットから小瓶を取り出し、中の液体を飲んだ。すると、一気に呼吸が静まり、体調不良が回復していった。
彼女が服用したのは、魔力を多く含んだ液体。魔力生成速度が追い付かなくなった状態に服用すると、魔力生成の補助と多少の魔力を回復させることができる物である。
少し、無理をし過ぎたみたい……
まだ少し眩暈がする頭を抑え、何とか再び立ち上がる。その時――
「!」
背後に迫る何かに気づいたクレアは即座に回避行動を取った。
「っ――」
右腕に灼熱感は走る。背後に迫っていたのは他のフリーカーに比べ、一際大きな個体、狼の様な姿をした怪物だった。彼女はそんな狼型フリーカーの鋭い爪を受けたのだ。
クッ、カテゴリーAかっ!
目線を狼型フリーカーに向けつつ、反撃のために詠唱を口にする。
「退けよ、災を防げ」
その言葉と共に、半透明の障壁が展開される。しかし、狼型フリーカーは障壁があるのにも関わらず、そのまま突進した。
そして――容易く障壁を砕いた。
っ――
一瞬の驚愕。その後、一瞬にして意識を冷静にする。障壁が壊れてしまったのは仕方ないことだ。
急造の障壁、ただ魔力を障壁に昇華したに過ぎない。目的は敵を退けることではない、ただ数秒でも時間を稼ぐこと、であるなら砕けても問題はない。
「高密魔力弾」
高速で術式を構築する。人差し指を狼型フリーカーの頭に向け、展開された陣から発生した光弾の狙いを定める。
発射ッ――
冷静に冷静に、狙った。だが――次の瞬間、魔法陣が砕け、光弾が霧散した。
「!」
術式の構築速度を優先してしまった彼女は、誤って術式そのものの構築をミスってしまったのだ。本来であれば絶対に在りえないこと、しかし、最初から余計なことを考え、冷静さを欠いていた。
これは自身の状態を正確に測れなかったクレアのミス、よって彼女はここで死ぬ。
彼女はそれを自覚しているのか、そっと目を閉じる。次に自身が何をしようと無駄だと判断したのだ。死を前にしてその判断はあまりにも達観していて、悲しいものだった。
すみません……あなたに言われたのに……明日を迎えることすらできないみたいです。
名残惜しいそうに心の中でそう呟いた。それが彼女の終わりの言葉だった――
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる