20 / 31
竜殺し編・焔喰らう竜
19.理由を知って
しおりを挟む
共に生きていることに安堵する中、私は彼に尋ねた。
「叢真……君はどうして来たの?」
その疑問を口にすると叢真は、少しの間を置いて口を開いた。
「俺は君に――〝ありがとう〟って、礼を言いたかったんだよ」
「ありがとうを?」
繰り返すようにそう言うと、彼は頷いた。
「ふっ……ハハ、ハハハハハ」
「な、なんだよ」
不意に笑い出した私を見て訝しむように、若干呆れているようにも見える表情でそう言った。
「だって君、そんな下らない理由でこんな場所まで来たんでしょ? 笑わずにはいられないに決まってる。その理由はあまりにも稚拙で馬鹿な選択だもの」
「うっ、そこまで言うことないだろ……」
「アハハ」
むっ、と不機嫌そうな表情をする彼を見て、私はより一層笑った。
「……プッ、確かに……確かにそうだな。馬鹿みたいだ。ハハ、ハハハ……」
彼もまた、自身の可笑しさに笑みをこぼした。
こんなにも単純に……こんなにも純粋な理由のために――
私は、彼のその単純且つ明確、純粋且つ馬鹿なその理由に光を見た。そして、色々考えて生きている自分がどうしてもバカみたい思えてしまった。
もっと単純に、彼のように単純に、心が赴くままに生きてみたいと、私はそう思った。
恩人に教えられた〝生きる〟という意味、それを強く追い求めて結果、最初の肝心な理由決めを忘れてしまっていたようだ。私の生きるが理由、いつの間にか逃げるための言い訳になってしまっていた。
心はもっと軽くに、もっと自由にあるべきだ。
何もかもを忘れて、ただ〝生きる〟ことは私にはできない。でも、せめて――今この時だけは、素直に生きていることに、彼と逢えたことを、心から喜びたい。
自身の常識に新たな芽を植えてくれた、この人との出会いに――例え、彼の本心が捻じ曲がった〝歪なモノ〟だったとしても……今は構わない。
きっと、彼の心は遠の昔に――〝壊れた機械〟のようになってしまっているのだから。
私と彼は一通り笑った後、彼が声を掛けてきた。
「クレア、じゃあ言わせてもらう。助けてくれてありがとう、お前のおかげで俺は今こうして生きてる」
「どういたしまして」
「それと、もう一つ言いたいことがある」
真剣な面持ちでそう言った彼を見て、そっと話を聞く態勢を取った。
「俺は君に礼を述べたから、これ以上ここに残る意味はなくなった」
「…………」
「これで、俺の我儘は終わりだ……だから、クレア」
一拍を置いて、彼は言った。
「君が、俺に、理由をくれないか?」
「――――」
その言葉を聞いて私は思わず押し黙ってしまった。
私の選択はきっと、彼を日常へ戻す最後の岐路になる。彼のような善人はこの先を行く必要はない、きっとそれが正しい選択だ。
でも……私は――
胸の奥を熱くして、私は彼の願いに答えを出した。
「叢真……君はどうして来たの?」
その疑問を口にすると叢真は、少しの間を置いて口を開いた。
「俺は君に――〝ありがとう〟って、礼を言いたかったんだよ」
「ありがとうを?」
繰り返すようにそう言うと、彼は頷いた。
「ふっ……ハハ、ハハハハハ」
「な、なんだよ」
不意に笑い出した私を見て訝しむように、若干呆れているようにも見える表情でそう言った。
「だって君、そんな下らない理由でこんな場所まで来たんでしょ? 笑わずにはいられないに決まってる。その理由はあまりにも稚拙で馬鹿な選択だもの」
「うっ、そこまで言うことないだろ……」
「アハハ」
むっ、と不機嫌そうな表情をする彼を見て、私はより一層笑った。
「……プッ、確かに……確かにそうだな。馬鹿みたいだ。ハハ、ハハハ……」
彼もまた、自身の可笑しさに笑みをこぼした。
こんなにも単純に……こんなにも純粋な理由のために――
私は、彼のその単純且つ明確、純粋且つ馬鹿なその理由に光を見た。そして、色々考えて生きている自分がどうしてもバカみたい思えてしまった。
もっと単純に、彼のように単純に、心が赴くままに生きてみたいと、私はそう思った。
恩人に教えられた〝生きる〟という意味、それを強く追い求めて結果、最初の肝心な理由決めを忘れてしまっていたようだ。私の生きるが理由、いつの間にか逃げるための言い訳になってしまっていた。
心はもっと軽くに、もっと自由にあるべきだ。
何もかもを忘れて、ただ〝生きる〟ことは私にはできない。でも、せめて――今この時だけは、素直に生きていることに、彼と逢えたことを、心から喜びたい。
自身の常識に新たな芽を植えてくれた、この人との出会いに――例え、彼の本心が捻じ曲がった〝歪なモノ〟だったとしても……今は構わない。
きっと、彼の心は遠の昔に――〝壊れた機械〟のようになってしまっているのだから。
私と彼は一通り笑った後、彼が声を掛けてきた。
「クレア、じゃあ言わせてもらう。助けてくれてありがとう、お前のおかげで俺は今こうして生きてる」
「どういたしまして」
「それと、もう一つ言いたいことがある」
真剣な面持ちでそう言った彼を見て、そっと話を聞く態勢を取った。
「俺は君に礼を述べたから、これ以上ここに残る意味はなくなった」
「…………」
「これで、俺の我儘は終わりだ……だから、クレア」
一拍を置いて、彼は言った。
「君が、俺に、理由をくれないか?」
「――――」
その言葉を聞いて私は思わず押し黙ってしまった。
私の選択はきっと、彼を日常へ戻す最後の岐路になる。彼のような善人はこの先を行く必要はない、きっとそれが正しい選択だ。
でも……私は――
胸の奥を熱くして、私は彼の願いに答えを出した。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる