星架の望み(ステラデイズ)

零元天魔

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竜殺し編・焔喰らう竜

21.傍にいて欲しい

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 「叢真。君に――」
 その言葉はきっと、少年を死地に向わせる理由になってしまう。
 この場で少女が彼に一言、「帰ってくれ」そう言えば、彼は必ず逃げてくれる。もう金輪際、このような〝事〟に巻き込まれることはない。
 でも、彼女はそんな風に言えるほど、
 「――私の傍にいて欲しい」
 その言葉が彼を縛り付けるくさびだったとしても、彼女はそういうことしかできない。
 「私は君に、役に立ってほしいとも、戦ってほしいとも思わない――私はただ、君に、私の傍で、私が私であることを見届けてほしい」
 彼女の願いは〝自身の観測〟。何も無かった自身が何かを残せるようになったのだと、その証人を求めたのだ。
 その望みはあまりにも独善的で、少年のことを考えていない。
 だが――奇しくも、少年の願いは、彼女に尽くす事であった。壊れた機械は、少女に理由を求めてしまった。
 偽善、欺瞞、虚妄、不実、虚偽、不毛、虚飾、無実――自身が崩れている故に、一度見た光を全てと錯覚し、偽りを抱いたまま、光りに手を伸ばし続けた。
 それは夏虫が灯火に集り燃え散る様に、光りの正体を知らず、それが何なのかを理解せず、ただ無意識に、その光を追い求めている。

 それはあまりにも滑稽だ――

 少女は独善的、少年は偽善的。
 自身を救うために周囲を救う者たち。両方とも、同じ在り方でありながら、その方法があまりにも乖離している。
 願いは、〝観測〟と〝理由〟どちらも果ては〝幸福〟を望んでいる。
 双方、願いの押し付けである。だが、偶然にも互いの願いが合致してしまった。その偶然は在ってはならないモノ、救いのない絶望の始まり。
 しかし、互いに救いを求めぬ者。
 彼らはただ、己の宿した〝在り方〟のために、その人生を費やすモノなのだから――
 「ああ、わかった。俺はアンタの成す事を見届けるために――アンタに付いていく」
 「――――」
 少女は後悔を抱いたのだろうか? それとも、安堵したのだろうか?
 彼女は少年の言葉を聞いて、そのどちらとも取れるような表情をして、小さく小さく――微笑んだ。
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