15 / 20
え? 食べちゃった?
ズブズブと剣は、子ドラゴンの口腔内に沈んでいく。
「危ない! 手を放せ、アマーリア!」
直後、パックンとドラゴンの口が閉じられて、私は間一髪、アーサーに引っ張られて、囓られずに済んだ。
いや、少し遅かったか、手の甲に一本、ドラゴンの牙による赤い血の線が走る。
血の滲んだ右手を左手で押さえた。
しかし、この程度の傷で済めば上出来だろう。ヘタをすれば、右腕一本丸々取られていた可能性だってあったのだから。
(それに、私は間違いなく剣をドラゴンに突き刺したわ。手応えはイマイチ感じられなかったけど……でも、ドラゴンスレイヤーで刺したのだもの。きっと効果はあるはずよ!)
勝利を祈りながら、私はドラゴンを見た。
剣の長さと生まれたてのドラゴンの首の細さを比べれば、剣は喉を突き破って現れているはず。
――――しかし、残念なことに、ドラゴンの体のどこからも剣は飛び出ていなかった。
(ウソ! 失敗したの?)
狼狽える私の耳に、モグモグ、ガリガリ、バリボリ……ゴックン! という音が聞こえる。
(…………ゴックン?)
ドラゴンの長い首が、ポコッと膨れて下がっていった。
口をパカンと開けた子ドラゴンは、ケプッと小さなゲップをする。
(えっと?)
「ウソだろう!? こいつ、うちの家宝を食べやがった!」
悲痛なイアンの叫びが耳を打つ。
どうやら子ドラゴンは、ドラゴンスレイヤーの剣を食べてしまったらしい。
(なんで!? どうしてそんなことになるのよ? あの剣、偽物だったの!)
頭の中が、とても文字にはできないような罵詈雑言でいっぱいになる。
しかし、それも仕方ない。だって、私は完全に詰んだのだから。
(頼みの綱のドラゴンスレイヤーの剣が効かないなんて、もう打つ手がないわ!)
アーサーに抱きしめられたまま、どうすればいいのかと焦っていれば、ドラゴンの黄金の瞳に視線が吸い寄せられた。
キュルキュルまん丸な目が可愛いとか……腹立つ!
いや、腹を立てている場合じゃないかと思い直した瞬間、言葉が響いた。
『ママ! ママ! ご飯、もっと、ちょーだい!』
「…………へ?」
「は? 何だ? 今、頭の中で声が響いたぞ! まさか、このドラゴンが喋ったのか?」
アーサーが驚くのも当然だ。
頭に直接響く声なんて、知能の高い幻獣特有の思念会話しか考えられないのだが、それを生まれたばかりのこのドラゴンが使ったのだから。
『ママ! 硬いのもっと! 無かったら、ペロッと甘いの舐めさせて!』
ドラゴンの丸い目は、しっかり私を見ていた。
「…………ママ?」
私は、私自身を指さし、ドラゴンに確認した。
ドラゴンは、コックリ首を縦に振る。
『うん! ママ! ――――卵から出て、最初に見て、ご飯くれたらママなんだって、知ってるもん!』
動物の中には、生まれた直後に見た動くモノを親だと認識する“刷り込み”という学習現象がある。
まさかドラゴンにも刷り込みがあるとは思わなかった。
どうやら私はドラゴンに親認定されたらしい。
それにしてもこの子ドラゴンは、生まれたばかりでここまで話せるなんて、いったいどうなっているのだろう?
親から知識を引き継ぐのか? それとも卵の段階で外の知識を得ているのか?
なんにせよ規格外ではないのだろうか?
『甘いの、甘いの! ママちょうだい!』
しかし、知識はともかく言動は子どもそのままだ。
「…………甘いの?」
ドラゴンの言う『甘いの』がわからなかった私は、首を傾げる。
同時に――――これは、なんとか危機を脱出できたと判断していいのか? と思った。
(っていうか、ドラゴンに親認定されるなんて! 一発逆転、大勝利なんじゃないかしら?)
とりあえず命の危険はなさそうだ。
「危ない! 手を放せ、アマーリア!」
直後、パックンとドラゴンの口が閉じられて、私は間一髪、アーサーに引っ張られて、囓られずに済んだ。
いや、少し遅かったか、手の甲に一本、ドラゴンの牙による赤い血の線が走る。
血の滲んだ右手を左手で押さえた。
しかし、この程度の傷で済めば上出来だろう。ヘタをすれば、右腕一本丸々取られていた可能性だってあったのだから。
(それに、私は間違いなく剣をドラゴンに突き刺したわ。手応えはイマイチ感じられなかったけど……でも、ドラゴンスレイヤーで刺したのだもの。きっと効果はあるはずよ!)
勝利を祈りながら、私はドラゴンを見た。
剣の長さと生まれたてのドラゴンの首の細さを比べれば、剣は喉を突き破って現れているはず。
――――しかし、残念なことに、ドラゴンの体のどこからも剣は飛び出ていなかった。
(ウソ! 失敗したの?)
狼狽える私の耳に、モグモグ、ガリガリ、バリボリ……ゴックン! という音が聞こえる。
(…………ゴックン?)
ドラゴンの長い首が、ポコッと膨れて下がっていった。
口をパカンと開けた子ドラゴンは、ケプッと小さなゲップをする。
(えっと?)
「ウソだろう!? こいつ、うちの家宝を食べやがった!」
悲痛なイアンの叫びが耳を打つ。
どうやら子ドラゴンは、ドラゴンスレイヤーの剣を食べてしまったらしい。
(なんで!? どうしてそんなことになるのよ? あの剣、偽物だったの!)
頭の中が、とても文字にはできないような罵詈雑言でいっぱいになる。
しかし、それも仕方ない。だって、私は完全に詰んだのだから。
(頼みの綱のドラゴンスレイヤーの剣が効かないなんて、もう打つ手がないわ!)
アーサーに抱きしめられたまま、どうすればいいのかと焦っていれば、ドラゴンの黄金の瞳に視線が吸い寄せられた。
キュルキュルまん丸な目が可愛いとか……腹立つ!
いや、腹を立てている場合じゃないかと思い直した瞬間、言葉が響いた。
『ママ! ママ! ご飯、もっと、ちょーだい!』
「…………へ?」
「は? 何だ? 今、頭の中で声が響いたぞ! まさか、このドラゴンが喋ったのか?」
アーサーが驚くのも当然だ。
頭に直接響く声なんて、知能の高い幻獣特有の思念会話しか考えられないのだが、それを生まれたばかりのこのドラゴンが使ったのだから。
『ママ! 硬いのもっと! 無かったら、ペロッと甘いの舐めさせて!』
ドラゴンの丸い目は、しっかり私を見ていた。
「…………ママ?」
私は、私自身を指さし、ドラゴンに確認した。
ドラゴンは、コックリ首を縦に振る。
『うん! ママ! ――――卵から出て、最初に見て、ご飯くれたらママなんだって、知ってるもん!』
動物の中には、生まれた直後に見た動くモノを親だと認識する“刷り込み”という学習現象がある。
まさかドラゴンにも刷り込みがあるとは思わなかった。
どうやら私はドラゴンに親認定されたらしい。
それにしてもこの子ドラゴンは、生まれたばかりでここまで話せるなんて、いったいどうなっているのだろう?
親から知識を引き継ぐのか? それとも卵の段階で外の知識を得ているのか?
なんにせよ規格外ではないのだろうか?
『甘いの、甘いの! ママちょうだい!』
しかし、知識はともかく言動は子どもそのままだ。
「…………甘いの?」
ドラゴンの言う『甘いの』がわからなかった私は、首を傾げる。
同時に――――これは、なんとか危機を脱出できたと判断していいのか? と思った。
(っていうか、ドラゴンに親認定されるなんて! 一発逆転、大勝利なんじゃないかしら?)
とりあえず命の危険はなさそうだ。
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
ゴースト聖女は今日までです〜お父様お義母さま、そして偽聖女の妹様、さようなら。私は魔神の妻になります〜
嘉神かろ
恋愛
魔神を封じる一族の娘として幸せに暮していたアリシアの生活は、母が死に、継母が妹を産んだことで一変する。
妹は聖女と呼ばれ、もてはやされる一方で、アリシアは周囲に気付かれないよう、妹の影となって魔神の眷属を屠りつづける。
これから先も続くと思われたこの、妹に功績を譲る生活は、魔神の封印を補強する封魔の神儀をきっかけに思いもよらなかった方へ動き出す。
婚約破棄された聖女は、愛する恋人との思い出を消すことにした。
石河 翠
恋愛
婚約者である王太子に興味がないと評判の聖女ダナは、冷たい女との結婚は無理だと婚約破棄されてしまう。国外追放となった彼女を助けたのは、美貌の魔術師サリバンだった。
やがて恋人同士になった二人。ある夜、改まったサリバンに呼び出され求婚かと期待したが、彼はダナに自分の願いを叶えてほしいと言ってきた。彼は、ダナが大事な思い出と引き換えに願いを叶えることができる聖女だと知っていたのだ。
失望したダナは思い出を捨てるためにサリバンの願いを叶えることにする。ところがサリバンの願いの内容を知った彼女は彼を幸せにするため賭けに出る。
愛するひとの幸せを願ったヒロインと、世界の平和を願ったヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:4463267)をお借りしています。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜
ゆうき
恋愛
父の一夜の過ちによって生を受け、聖女の力を持って生まれてしまったことで、姉に聖女の力を持って生まれてくることを望んでいた家族に虐げられて生きてきた王女セリアは、隣国との戦争を再び引き起こした大罪人として、処刑されてしまった。
しかし、それは現実で起こったことではなく、聖女の力による予知の力で見た、自分の破滅の未来だった。
生まれて初めてみた、自分の予知。しかも、予知を見てしまうと、もうその人の不幸は、内容が変えられても、不幸が起こることは変えられない。
それでも、このまま何もしなければ、身に覚えのないことで処刑されてしまう。日頃から、戦争で亡くなった母の元に早く行きたいと思っていたセリアだが、いざ破滅の未来を見たら、そんなのはまっぴら御免だと強く感じた。
幼い頃は、白馬に乗った王子様が助けに来てくれると夢見ていたが、未来は自分で勝ち取るものだと考えたセリアは、一つの疑問を口にする。
「……そもそも、どうして私がこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?」
初めて前向きになったセリアに浮かんだのは、疑問と――恨み。その瞬間、セリアは心に誓った。自分を虐げてきた家族と、母を奪った戦争の元凶である、隣国に復讐をしようと。
そんな彼女にとある情報が舞い込む。長年戦争をしていた隣国の王家が、友好の証として、王子の婚約者を探していると。
これは復讐に使えると思ったセリアは、その婚約者に立候補しようとするが……この時のセリアはまだ知らない。復讐をしようとしている隣国の王子が、運命の相手だということを。そして、彼に溺愛される未来が待っていることも。
これは、復讐を決意した一人の少女が、復讐と運命の相手との出会いを経て、幸せに至るまでの物語。
☆既に全話執筆、予約投稿済みです☆
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎