逆行転生した悪役令嬢だそうですけれど、反省なんてしてやりませんわ!

九重

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え? 食べちゃった?

 ズブズブと剣は、子ドラゴンの口腔内に沈んでいく。

「危ない! 手を放せ、アマーリア!」

 直後、パックンとドラゴンの口が閉じられて、私は間一髪、アーサーに引っ張られて、囓られずに済んだ。
 いや、少し遅かったか、手の甲に一本、ドラゴンの牙による赤い血の線が走る。
 血の滲んだ右手を左手で押さえた。

 しかし、この程度の傷で済めば上出来だろう。ヘタをすれば、右腕一本丸々取られていた可能性だってあったのだから。

(それに、私は間違いなく剣をドラゴンに突き刺したわ。手応えはイマイチ感じられなかったけど……でも、ドラゴンスレイヤーで刺したのだもの。きっと効果はあるはずよ!)

 勝利を祈りながら、私はドラゴンを見た。
 剣の長さと生まれたてのドラゴンの首の細さを比べれば、剣は喉を突き破って現れているはず。


 ――――しかし、残念なことに、ドラゴンの体のどこからも剣は飛び出ていなかった。

(ウソ! 失敗したの?)

 狼狽える私の耳に、モグモグ、ガリガリ、バリボリ……ゴックン! という音が聞こえる。


(…………ゴックン?)

 ドラゴンの長い首が、ポコッと膨れて下がっていった。
 口をパカンと開けた子ドラゴンは、ケプッと小さなゲップをする。



(えっと?)



「ウソだろう!? こいつ、うちの家宝を食べやがった!」



 悲痛なイアンの叫びが耳を打つ。
 どうやら子ドラゴンは、ドラゴンスレイヤーの剣を食べてしまったらしい。

(なんで!? どうしてそんなことになるのよ? あの剣、偽物だったの!)

 頭の中が、とても文字にはできないような罵詈雑言でいっぱいになる。
 しかし、それも仕方ない。だって、私は完全に詰んだのだから。

(頼みの綱のドラゴンスレイヤーの剣が効かないなんて、もう打つ手がないわ!)

 アーサーに抱きしめられたまま、どうすればいいのかと焦っていれば、ドラゴンの黄金の瞳に視線が吸い寄せられた。

 キュルキュルまん丸な目が可愛いとか……腹立つ!

 いや、腹を立てている場合じゃないかと思い直した瞬間、言葉が響いた。



『ママ! ママ! ご飯、もっと、ちょーだい!』



「…………へ?」

「は? 何だ? 今、頭の中で声が響いたぞ! まさか、このドラゴンが喋ったのか?」

 アーサーが驚くのも当然だ。
 頭に直接響く声なんて、知能の高い幻獣特有の思念会話しか考えられないのだが、それを生まれたばかりのこのドラゴンが使ったのだから。

『ママ! 硬いのもっと! 無かったら、ペロッと甘いの舐めさせて!』

 ドラゴンの丸い目は、しっかり私を見ていた。



「…………ママ?」

 私は、私自身を指さし、ドラゴンに確認した。
 ドラゴンは、コックリ首を縦に振る。

『うん! ママ! ――――卵から出て、最初に見て、ご飯くれたらママなんだって、知ってるもん!』

 動物の中には、生まれた直後に見た動くモノを親だと認識する“刷り込み”という学習現象がある。
 まさかドラゴンにも刷り込みがあるとは思わなかった。

 どうやら私はドラゴンに親認定されたらしい。

 それにしてもこの子ドラゴンは、生まれたばかりでここまで話せるなんて、いったいどうなっているのだろう?
 親から知識を引き継ぐのか? それとも卵の段階で外の知識を得ているのか?
 なんにせよ規格外ではないのだろうか?


『甘いの、甘いの! ママちょうだい!』


 しかし、知識はともかく言動は子どもそのままだ。

「…………甘いの?」

 ドラゴンの言う『甘いの』がわからなかった私は、首を傾げる。
 同時に――――これは、なんとか危機を脱出できたと判断していいのか? と思った。

(っていうか、ドラゴンに親認定されるなんて! 一発逆転、大勝利なんじゃないかしら?)

 とりあえず命の危険はなさそうだ。
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