逆行転生した悪役令嬢だそうですけれど、反省なんてしてやりませんわ!

九重

文字の大きさ
16 / 20

飼う? お金や手間暇を考えるのは常識よ

 私は、安堵のあまり倒れそうになる。
 それをアーサーが、グッと力を入れて抱きしめることで防いでくれた。

「まだ気を抜くな。アマーリア、こいつはドラゴンなんだぞ」

 ちゃんと注意をしてくれるところが頼もしい。

(アーサーが頼もしいとか、ちょっと悔しいけれど……でも、言っていることはもっともだし、今は意地を張っている場合じゃないわよね)

 そう思った私は、アーサーの腕に掴まりながら体勢を立て直す。

「甘いのって、何?」

 ドラゴンにそう聞いた。

『甘いのは、甘いのだよ! ――――それ!』

 目の前のドラゴンの口から、シュルシュルと長い舌が伸びてきて、私の手の甲の傷を舐める。

『うん! あ・まぁ~い!!』

 固まりかけていた血が、きれいさっぱり無くなった。
 ついでに傷もきれいに治っている。

「え? え? え! 血を舐めて、治癒って! えぇぇぇっ!? どうなっているの?」

 ドラゴンが血を好むとか、ましてや治癒の力を持っているとか、聞いたことがない。




「ひょっとしてぇ、ひょっとしたらぁ~、そのドラゴンちゃん、ホーリードラゴンちゃんかもぉ、しれませんわぁ~!」

 背後から、間の抜けた声がした。
 そう言えば、マリアがいたのだった。すっかり存在を忘れていた。

「ホーリードラゴン?」

「なんだそれ?」

 疑問の声を上げるのは、アーサーとイアン。
 どうやら知らなかったのは、私だけではなかったらしい。

「ホーリードラゴンちゃんはぁ、未成熟でぇ生まれちゃったせいでぇ~、自らを癒すためにぃ治癒の力を発現させたぁ~、チョー特別なぁドラゴンちゃんだってぇ、院長先生がぁ言ってましたぁ~」

 未成熟なドラゴン?

 たしかに、このドラゴンは本来なら五年後に生まれるはずだった。
 それが今回、たぶん私たちがここに来たことで早く生まれてしまったのだ。
 そのせいで、ホーリードラゴンと呼ばれる特別なドラゴンになってしまったというのだろうか?

「ホーリー? 聖属性のドラゴンということか? ひょっとしてそのせいで、ドラゴンスレイヤーの剣が効かなかったのか?」

 ドラゴンスレイヤーの剣は、邪悪な存在となったドラゴンを征伐するために、心身を清める潔斎を極めた鍛冶師が鍛え上げ、最高聖職者の祝福を受けた聖なる剣と言われている。
 魔に染まった暗黒ドラゴンには効果抜群の剣なのだが、生まれたばかりで良いことも悪いこともしていないホーリードラゴンには痛くもかゆくもない剣だったのかもしれない。

(だからって、食べなくってもいいと思うけど)

 バリボリゴックンは、ないだろう?
 あの剣一本いくらすると思うの?
 国宝級のお宝なのよ!

「あとぉ~、ホーリードラゴンちゃんはぁ、未熟児だからぁ、大きくなるまではぁ、栄養価の高いぃ~、いいぃお肉なんかを~たくさん食べるってぇ、言ってましたぁ~。血の滴るようなぁレアがぁ、お好みらしいですよぉ~。いいぃお肉ぅ、羨ましいぃぃぃですぅぅぅ!」


 ――――孤児院の院長、ホーリードラゴン情報に詳しすぎだろう。
 ひょっとしたら、幻獣マニアなのかもしれない。

 そして、マリア。よだれが垂れているわよ……。

 私は、意図せず得てしまったホーリードラゴン情報に頭を抱えた。

 どうやらこの子ドラゴンは、養育費が馬鹿にならない問題児らしい。
 国宝級の剣と血の滴るレアな高級肉を主食とするようなペットは、正直お断りしたい!

(このまま、この洞窟に捨てドラゴンしちゃダメかしら?)

『ママ、ママ、甘いの、もっと!』

 私の気持ちなどまったく知らず、ドラゴンは大きな口を開ける。

「もうっ、食いしん坊なドラゴンね! とりあえず、“これ”でも舐めていなさい!」

 そう言うと私は、先ほど私を庇ったために血塗れになっていたアーサーをドンとドラゴンの方に突き飛ばした。

「なっ! おい、アマーリア!」

『わぁ~い! 美味しそう!!』

 ペロペロと子ドラゴンはアーサーを舐めはじめる。

「うわぁ! ちょっ! 止めろ! くすぐったい!! ……アマーリア!」」

 アーサーの悲鳴には、心の耳を塞ぐ。
 傷も治るはずだから一石二鳥だろう。

『美味しいぃ! ねぇ、ママ、ちょっと囓っちゃだめ?』

「――――そんなモノ食べたら、お腹を壊すから止めなさい」

「アマーリア! お前っ!! ――――って、ワハハハ……止めろぉ~!」

 洞窟内には、しばらくアーサーの楽しそうな(?)笑い声が響いたのだった。

感想 8

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

ゴースト聖女は今日までです〜お父様お義母さま、そして偽聖女の妹様、さようなら。私は魔神の妻になります〜

嘉神かろ
恋愛
 魔神を封じる一族の娘として幸せに暮していたアリシアの生活は、母が死に、継母が妹を産んだことで一変する。  妹は聖女と呼ばれ、もてはやされる一方で、アリシアは周囲に気付かれないよう、妹の影となって魔神の眷属を屠りつづける。  これから先も続くと思われたこの、妹に功績を譲る生活は、魔神の封印を補強する封魔の神儀をきっかけに思いもよらなかった方へ動き出す。

婚約破棄された聖女は、愛する恋人との思い出を消すことにした。

石河 翠
恋愛
婚約者である王太子に興味がないと評判の聖女ダナは、冷たい女との結婚は無理だと婚約破棄されてしまう。国外追放となった彼女を助けたのは、美貌の魔術師サリバンだった。 やがて恋人同士になった二人。ある夜、改まったサリバンに呼び出され求婚かと期待したが、彼はダナに自分の願いを叶えてほしいと言ってきた。彼は、ダナが大事な思い出と引き換えに願いを叶えることができる聖女だと知っていたのだ。 失望したダナは思い出を捨てるためにサリバンの願いを叶えることにする。ところがサリバンの願いの内容を知った彼女は彼を幸せにするため賭けに出る。 愛するひとの幸せを願ったヒロインと、世界の平和を願ったヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:4463267)をお借りしています。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜

ゆうき
恋愛
父の一夜の過ちによって生を受け、聖女の力を持って生まれてしまったことで、姉に聖女の力を持って生まれてくることを望んでいた家族に虐げられて生きてきた王女セリアは、隣国との戦争を再び引き起こした大罪人として、処刑されてしまった。 しかし、それは現実で起こったことではなく、聖女の力による予知の力で見た、自分の破滅の未来だった。 生まれて初めてみた、自分の予知。しかも、予知を見てしまうと、もうその人の不幸は、内容が変えられても、不幸が起こることは変えられない。 それでも、このまま何もしなければ、身に覚えのないことで処刑されてしまう。日頃から、戦争で亡くなった母の元に早く行きたいと思っていたセリアだが、いざ破滅の未来を見たら、そんなのはまっぴら御免だと強く感じた。 幼い頃は、白馬に乗った王子様が助けに来てくれると夢見ていたが、未来は自分で勝ち取るものだと考えたセリアは、一つの疑問を口にする。 「……そもそも、どうして私がこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?」 初めて前向きになったセリアに浮かんだのは、疑問と――恨み。その瞬間、セリアは心に誓った。自分を虐げてきた家族と、母を奪った戦争の元凶である、隣国に復讐をしようと。 そんな彼女にとある情報が舞い込む。長年戦争をしていた隣国の王家が、友好の証として、王子の婚約者を探していると。 これは復讐に使えると思ったセリアは、その婚約者に立候補しようとするが……この時のセリアはまだ知らない。復讐をしようとしている隣国の王子が、運命の相手だということを。そして、彼に溺愛される未来が待っていることも。 これは、復讐を決意した一人の少女が、復讐と運命の相手との出会いを経て、幸せに至るまでの物語。 ☆既に全話執筆、予約投稿済みです☆

惨殺された聖女は、任命式前に巻き戻る

ツルカ
恋愛
惨殺された聖女が、聖女任命式前に時間が巻き戻り、元婚約者に再会する話。

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎