専制君主制における正しいザマァ

九重

文字の大きさ
1 / 6

婚約破棄

しおりを挟む
 王太子と年齢の近い侯爵令嬢として生まれた私が、妃候補となったのは当然のことだ。
 幼い頃から妃教育を受け、十歳で正式に婚約者となり、十五になる頃には未来の王太子妃として王族の責務も担うようになった。
 このまま何事もなく結婚するのだろうと思っていた私の将来設計図が狂いはじめたのは、十六歳で王立学園に入学した後のこと。
 王太子が、平民上がりの聖女に心奪われてしまったのである。

(……まるで流行の大衆小説みたい)

 聖女といっても、その実、彼女は聖属性の魔法が使えるだけの少女でしかない。珍しくはあるものの、聖属性の魔法使い自体は百人にひとりくらいの割合で存在していて、魔法そのものにそれほどの希少性はないのだ。
 正直、気にかける必要もないような小物だと思っていたのだが、これは私のおごりだった。
 聖女とわかったことで平民から男爵家の養女になった少女は、その可憐な容姿と物怖じしない態度で、周囲――――特に、高位貴族の令息たちを次々と虜にしていったのである。
 そして、そんな令息の中心に、王太子がいた。

 その後の流れは、まさに大衆小説そのもの。
 王太子と聖女は、身分の差を超えて愛し合う悲劇の恋人同士と評判になり、王太子の婚約者だった私は、何をしなくとも彼らを引き裂く悪役令嬢と見なされた。

(実際には、王太子が恋に浮かれて開けた公務の穴を埋める、悪役令嬢ならぬ穴埋令嬢だったのだけど)

 そんな私の事情を慮ってくれる者は、誰もいない。
 ついには、現実と虚構の区別がつかなくなったとしか思えない王太子から、私は学園の卒業と同時に婚約破棄を申し渡された。

「お前のような性悪女は、私の近くに置けない。王都を出て、勝手にどこかで野垂れ死ね! と言いたいところだが……それでは可哀相だと聖女が言うからな。お前には、北の辺境伯との婚姻を命じよう。獣が跋扈する極寒の地が、お前にはお似合いだ。二度と王都に足を踏み入れるなよ」

 ついでに私の嫁ぎ先まで決めてくれたのは、親切のつもりだったのだろうか?

 ――――いや、北の辺境伯は、私の父より年上で冷酷非道と噂の人物。数年前に妻と死別しているが、彼女との間に子はできず、縁戚から養子を迎えて跡取りとしたと聞いている。
 噂好きの貴族の間では、北の辺境伯は妻を虐げるサディストとして有名だ。子ができなかったのもその性癖故で、病死とされている妻の死にさえ疑いの目が向けられている。
『獣が跋扈する極寒の地』とも言っているし、そんな相手との婚姻命令は、いやがらせ以外のなにものでもないのだろう。

「そして、私のあらたな婚約者は、聖女とする。高潔で優しい彼女こそ、王太子妃の座に相応しい人物だ!」

 王太子はそう言いながら、隣に立つ聖女の腰を引き寄せた。
 私は、深く頭を下げる。

「…………承知いたしました」

 我が国は、専制君主制だ。王は神の血を引く絶対者で、逆らうなんてとんでもないこと。当然その権力は、次期国王たる王太子にも及ぶ。

「わかればいい」

 そう言われて頭を上げれば、恥ずかしそうに王太子の胸に頬を寄せる聖女が見えた。
 彼女の口角は、ニヤリといやらしく上がっている。

(きっと嬉しいのでしょうね。でも、公式の場でその表情はいかがなものかしら?)

 生き馬の目を抜くような社交の場では、自分の本心を隠す術が必須だ。こんなことで感情をさらすような彼女には、とても務まるとは思えないのだが……まあ、今さら私が心配するようなことでもないか。

(辺境伯のことは……この目で見て、しっかり判断するしかないわよね。噂を鵜呑みにするのならば、私だって悪役令嬢だもの。真実はわからないわ)

 描いていた将来設計を、かなり変更しなければならないけれど、まあそれも一興か。
 私は、王都から静かに去った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

婚約者に見捨てられた悪役令嬢は世界の終わりにお茶を飲む

・めぐめぐ・
ファンタジー
魔王によって、世界が終わりを迎えるこの日。 彼女はお茶を飲みながら、青年に語る。 婚約者である王子、異世界の聖女、聖騎士とともに、魔王を倒すために旅立った魔法使いたる彼女が、悪役令嬢となるまでの物語を―― ※終わりは読者の想像にお任せする形です ※頭からっぽで

十二回の死を繰り返した悪役令嬢、破滅回避は諦めました。世界のバグである司書と手を組み、女神の狂ったシナリオをぶっ壊します

黒崎隼人
ファンタジー
十二回の死を繰り返した公爵令嬢オフィーリア。十三回目の人生で彼女が選んだのは、破滅の回避ではなく、世界の破壊だった。 「この世界は、女神の描いた三文芝居に過ぎない」 ループする度に歪む日常、完璧な仮面の下に狂気を隠した婚約者や聖女。全てが残酷な神の「物語」の駒でしかないとしたら? これは、筋書きを押し付けられた悪役令嬢が、同じく運命に抗う謎の司書と「共犯者」となり、狂った世界のシステムに反逆する物語。断罪の先に待つのは救済か、それとも完全な無か。真実が世界を壊すダークミステリーファンタジー、開幕。

悪役令嬢らしいのですが、務まらないので途中退場を望みます

水姫
ファンタジー
ある日突然、「悪役令嬢!」って言われたらどうしますか? 私は、逃げます! えっ?途中退場はなし? 無理です!私には務まりません! 悪役令嬢と言われた少女は虚弱過ぎて途中退場をお望みのようです。 一話一話は短めにして、毎日投稿を目指します。お付き合い頂けると嬉しいです。

『レベルMAXの引退生活』 〜追放先でダラダラしていたら、いつの間にか世界最強の聖域になっていました〜

小林 れい
ファンタジー
「働いたら負け」と言って追放された最強聖女、成層圏で究極のニート生活を極める 〜神々がパシリで、寝顔が世界平和の象徴です〜 「お願いだから、私を一生寝かせておいて」 前世でブラック企業の社畜として命を削ったヒロイン・ユラリア。異世界に転生し、国を救う「聖女」として崇められるも、彼女の願いはただ一つ――「もう一歩も動きたくない」。 しかし、婚約者の第一王子からは「働かない聖女など不要だ!」と無情な婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。 「え、いいんですか? 本当に休んでいいんですね!?」 喜びに震えながら、ユラリアは人類未踏の死の荒野へと引きこもる。だが、彼女の「怠惰」を極めるための魔力は、いつしか世界の理(ことわり)さえも書き換えていった。 神龍王を巨大な「日除け」に。 料理の神を「おやつ担当の給食係」に。 妖精王を「全自動美容マシーン」に。 「面倒くさい」を原動力に開発された魔導家電や、異世界の娯楽(ゲーム)。挙句の果てには、地上を離れ、邸宅ごと空へと浮かび上がる! 地上の元婚約者が、聖女を失った王国の没落に泣きつこうとも、成層圏に住む彼女には豆粒ほどにも見えない。 神々さえもパシリにする史上最強のニート聖女が、夢の中でも二度寝を楽しむ、贅沢すぎる究極の休日が今、始まる!

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

追放悪役令嬢、辺境の荒れ地を楽園に!元夫の求婚?ざまぁ、今更遅いです!

黒崎隼人
ファンタジー
皇太子カイルから「政治的理由」で離婚を宣告され、辺境へ追放された悪役令嬢レイナ。しかし彼女は、前世の農業知識と、偶然出会った神獣フェンリルの力を得て、荒れ地を豊かな楽園へと変えていく。 そんな彼女の元に現れたのは、離婚したはずの元夫。「離婚は君を守るためだった」と告白し、復縁を迫るカイルだが、レイナの答えは「ノー」。 「離婚したからこそ、本当の幸せが見つかった」 これは、悪女のレッテルを貼られた令嬢が、自らの手で未来を切り拓き、元夫と「夫婦ではない」最高のパートナーシップを築く、成り上がりと新しい絆の物語。

処理中です...