「愛の軌跡」の真実(ダイジェスト及び番外編集)

九重

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番外編

日々 前編

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時系列的に前話の親子より前の話になります。

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茉莉の朝は、静かに、静かに始まる。
じりじりと息をも殺しそっと動く。
絡みつく様に回されている腕をゆっくり外し、抱き締められている体から慎重に抜け出す。
寝息のかかるほど側近くにある整った顔をうっかり見ないように目を瞑る。目に入ると、つい何時までも眺めていたくなってしまうのだ。だからと言っておかしなところに視線をそらせば、引き締まっていてキレイな胸筋や腹筋とか、ほっそりしてみえるのに実はたくましい肩や腕などに目を吸い寄せられて動けなくなってしまう。
何せ裸なのだから目のやりどころがない。
手探りでシーツに触れながらジリジリと端に移動する。
無駄に広い超キングサイズのベッドが恨めしい。
柔らかなクッションを揺らさないように慎重に布団から抜け出した。

昨晩も遅くまで政務があってベッドに入ったのは深夜だった。
それから……その……2人で、一糸纏わずに抱き合って朝を迎えるような行為をして、疲れ切って眠っているはずなのだ。
我が儘言って飼ってもらったタローの朝の散歩のため早起きする茉莉のせいで起こしてしまう訳にはいかなかった。
できるだけ起こさないように茉莉は慎重に動く。



一方、リオンは――――
茉莉が目を瞑った段階ではっきり目を開け、愛しい女性がその美しい裸体を晒したままで自分の腕の中から抜け出してベッドを降りようとする姿を眼福だと思いながら、視姦していた。
3人の子供を産みながら茉莉のプロポーションは衰えることを知らない。
何時どんな時でも自分を魅了する完璧な肢体に欲情せずにはいられなかった。
何時になったらこの愛しい女性ひとは、騎士でもある自分が大切な存在の離れる気配に気づかぬはずがない事を理解するのだろう。
部屋の明るさや自身の体内時計から、まだ散歩の時間には余裕があることを確認し、リオンはようやくベッドの端に辿り着き体を降ろした茉莉を……後ろから抱き締めた!



「きゃっ?!」
ほっと息をついたのもつかの間、茉莉はあっという間にベッドの中央まで引き戻されて、大きな腕の中に囲われる。
「リ、リオン!……っん」
言葉は口づけで封じられる。
強引に、でも優しく茉莉の大好きな、蕩けるようなキスが与えられる。
(だから!このキスは……ダ、メ)
抵抗する気も何もかも、根こそぎ奪われてしまうのだ。
口中を犯され、体の感覚は鋭くなるのに意識は霞がかってくる。
「……っ、はぁ……リ、オン」
「大丈夫ですよ。散歩には遅れないように済ませます」
クスリと笑う気配がして……茉莉の体はリオンの手の中に堕ちていった。




「陛下、大丈夫ですか?」
心配そうなホルグの呼びかけに茉莉はついぼんやりしがちな意識を引き戻す。
「大丈夫よ、ホルグ」
ギリギリまでリオンに離してもらえなくて、余韻に浸っていた茉莉は慌てて気を引き締める。
タローも心配そうに茉莉を見ていた。
タローの頭を撫でながら、安心させるように笑い返せば、ホルグはそうですかと上から覗き込んでいた顔を上げる。
少年だったホルグが立派な大人となり、見上げるように背の高い美丈夫となったのは、もう随分前のことだ。
ふわふわだった金の髪は美しく整えられて腰までの長髪となり、ゆるくひとつに三つ編みされて背中に流されている。可愛らしい天使の顔は美貌の天使長となり戦場では死をもたらす熾天使と恐れられていると聞いていた。なかなか背が伸びず悩んでいた身長も、じりじりと粘り強く伸び続け、今では長身のエルンストと同じくらいの高さになっている。
もはや、どこにも幼かった可愛い少年の姿はない。
しかし茉莉を見る茶色の瞳は、切れ長の大人の形にはなっても以前のままの輝きを残している。
事実、将軍となり多忙なはずなのに、タローとの朝の散歩には遠征で城にいない時以外は必ずつきあってくれていた。
今日も――――
「ホルグこそ大丈夫? 昨晩遅くノルガーから戻ってきたのでしょう?」
「夜分になりましたから帰城の挨拶もできず、すみませんでした」
申し訳なさそうにホルグは頭を下げる。
「それは良いのよ。疲れているのに朝早く起きてもらって私が申し訳ないと思っているだけ」
ホルグは首を左右に振った。
そんな仕草もなんだか艶があり大人の色気を感じさせる。
「陛下と過ごす時間が私の一番の癒しです。どんな疲れも飛んでいきます」
大人びた言葉遣いと裏腹の少年のような微笑みが茉莉の心にグッと響く。
(もう、ホルグったら)
一体何時の間にこんなに良い男になったのだろうか?
月日の流れるのは早いわと茉莉は感慨に耽る。
既に自分が3人の子持ちとなり、2人目の子であるユウカの輿入れの話まで具体的に出てくるぐらいなのだ当たり前かとも思う。
そこまで考えて、そう言えばと思い至って茉莉はホルグに向き直る。
「ユウカの輿入れに貴方が同行する話だけれど……」
ホルグは昨晩遅くに帰ってきたのだからまだこの話は聞いていないはずだ。
茉莉の娘の第一王女ユウカ・フラウ・カルクーラは……ホルグに恋していた。
ユウカは産まれた時からノルガーの王太子アレクシスと婚約している。
アレクシスが嫌いな訳ではないとユウカは言う。
ただホルグが好きなのだと泣いて主張するのだ。
もちろんホルグがユウカに好意を示したとかそんな訳ではなかった。
ホルグの好意は昔から変わらず一途に茉莉へと向けられている。
ホルグからユウカに向けられるものは、愛しい人の娘に対するものだけだ。
茉莉に対するひたむきな想いは、年を経ても強まりこそすれ減る事はなかった。
……ユウカからの一方的な片思い。
しかもホルグに告白して玉砕したユウカは、それでも諦めきれずに自分がノルガーに嫁ぐ際に護衛としてホルグを連れて行くと、ホルグに宣言していた。
「お母様の側ばかりに居るからいけないのよ! 離れて見ればお母様より、若いホルグ様に相応しい女性ひとがいるって気がつくわ!」
ユウカは、泣きながらそう叫んだ。



ホルグにしてみれば、茉莉への想いは距離をおいたくらいで無くなるようなものでないことは、わかりきっている。
愛しい人の可愛い娘にホルグは残酷に答えた。
「陛下がユウカ様をお守りせよと命令されるのならば我が身に代えてもユウカ様をお守りいたします。陛下の命令は私の命よりも重い。……ただ、ユウカ様。貴女と陛下とどちらかを助けよと言われれば私は迷いなく陛下を選びます。例え陛下自身が自分より貴女を助けよと命令されたとしても、私が貴女を選ぶことはない。それでもよろしければ私をお連れ下さい」
ユウカは真っ赤に目を泣き腫らし、それでも良いから両親にホルグの同行を願うと言い置いてホルグの前を駆け去った。
その後ホルグは直ぐに、他ならぬユウカの警護の指導のためにノルガー帝国へ出立したのでユウカがどうしたのかはわからなかったのだ。
では本当に王女は自分の供にホルグを望み、それを両親に願い出たのだなと、ホルグは思う。
茉莉もリオン達も、産まれた時からノルガーとの政略結婚を決められていたユウカには厳しくしながらも……甘い。
自分はユウカに同行しノルガーに行くのかとホルグは覚悟した。
陛下の元を離れるのかと思うと、いい大人になったのに胸が締め付けられるように痛い。
半諦めたホルグに対し、茉莉は言葉を続ける。
「ごめんなさいね。ユウカがそんな我が儘をホルグに言っていたなんて全然気がつかなくって。ユウカはうんと叱っておいたから今に謝りに行くと思うわ。あまり怒らずに許してあげてね」
ホルグは……ポカンとした。
「叱った?」
「ええ、そうよ。それがね――――」
茉莉はクスクスと笑いながらその時の事を教えてくれる。
「リオンが凄く怒ったのよ。いつもユウカに甘いリオンが、“人の心を思いやれないような者は王族どころか人間としても最低だ! ”って怒鳴って、ユウカは驚いて泣き出すし、いつもユウカを叱ってばかりのフレイが、慌てて慰めに回ってね……そしたら、ユウカはもう、どうして良いかわからないくらいパニックになって」
フレイに優しくされて嬉しいのとリオンに怒られて悲しいのが一緒になっちゃたのよねと茉莉は思い出し笑いをする。
「ごめんなさいね、ホルグ」
ともう一度謝ってくれた。

ホルグは首をぶんぶんと横に振った。
そしてもう大人なのに何を子供みたいなことをやっているのだと思って、慌てて「いいえ」と返事をする。
茉莉は嬉しそうにホルグを見て、「ずっと側にいてね」と笑いかけてきた。
「はい!」
ホルグは大きく返事をする。
まるで少年のような明るく元気の良い返事に茉莉の笑みはますます深くなる。

タローが嬉しそうに尻尾を振って……急に繁みに向かって、ウ~ッと唸った。


――――後編へ続く
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