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第七章 ダンジョンには女神様が待っている

1、マリアクアを脱出する☆文明の利器使います

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☆☆☆

 カーク・スチュアートは、何度か名前を変えている。盗賊をしていた事もある。
 彼の持つ剣鬼のジョブは、その剣に恐怖を呼び起こした。強くなるにつれ、人に疎まれて嫌われていく。実績が正当に評価される事もなかった。そして彼は、いつしか闇に落ちていた。

 自由に町に出入りできないのは、それなりに不便である。なので、コレクター公爵ことアークライト・R・アルファン公爵には彼から近づいて、新しい名前を得た。
 剣鬼のジョブは稀少であり、公爵は公にできない戦力を求めていたのだ。


 カークは、マルシカの町の門に着くと身分証を見せて門番に向かい告げる。

「私は過去に罪を犯しているが許されている。以後は罰を受けるような事はしていない」

 公爵と一緒なら、チェックは無かっただろう。
 今回は、正式な使者でもない唯の使い、審問官のチェックを受けない訳にはいかない。

 だが、公爵から与えられた身分証が、チェックを優先的に素早く終わらせる。
 嘘は言っていない。公爵の指示による殺人を、誰が罪に問う事が出来ると言うのだ?

 世の中とは、こういうモノなのだとカークは思う。強者の罪は、誰も問えない。権力者には、いつも抜け道があるものだ。

 酷薄そうな笑みを浮かべながら道具屋へ向かう。
 店に入って来た客を見て、道具店の店主は気を重くした。以前に公爵と来た彼を覚えていたのだ。

「俺は公爵の使いだ、嘘はつくなよ。この店に、ボールペンを売った者を探している。知っている事を話せ」

 道具店の主人は、カイト達の事を知っていた。
 その後の付き合いで、薬師ギルドの支部長などから情報を仕入れていたのだ。

「そのお客様なら――――」

 カークはすぐに、カイト達を追ってマルシカの町を出る事になる。

「……まあ、こんな田舎の町で長居するよりは第八王都で遊ぶ方がマシか」

 カーク・スチュアートは公爵を利用しているが、従っているつもりは無かった。

「あのバカは、指示が大雑把で……ちょうど良い」

 剣を振るう相手と、女と酒……。
 彼が、本当に必要とするのは、それだけだった。


☆☆☆

 店仕舞いをする。だが、周囲に悟らせる訳にも行かない。
 知られれば、追っ手がかかる事になるだろう。

「風邪でも引いた事にして、臨時休業にしよう。まあ、知られるのが一日伸びるくらいだろうが。
 ……なりふり構わずこられたら勝ち目が無くなる」

「商業ギルドの支部長に、レシピと店を売りましょう」

 和弘さんの言葉に花織さんが思い切ったことを言う。

「いいのか? だが、それだとギルド長に、災難が降りかかることになるぞ」

「当然事情を話して、レシピも公開するように言い含めます。商業ギルドなら、公開して拡散する事も容易ですから」

「それで……貴族の独占は不可能になるか」

「あのギルド長なら、1週間くらいは私達の不在を誤魔化してくれるんじゃないかしら?」

「ああ、自分の安全と利益の確保のためもある……。10日は稼いでくれるんじゃないか」


 ボクは、ブランカさんマリアさんを見て確認を取る。

「ブランカさんマリアさん、ボク達も一緒に行く事にして良いですか?」

「私達の契約は『ぽち、たま、うさ子が成長するまでの護衛』行き先は、カイトさんの自由で良いのですよ」
「ここで『さようなら~』とか言ったら、逆に引きます」
 
『ぽちが、守る~』『うさ子も~』
『たまや~する~』

 通常徒歩で町から町へ、ダンジョンに近い町までは三日の距離がある。

 プリン堂の売り子さんたちの前で、空野家との別れを演出すると。
 ボク達は、朝7時ごろにマリアクアの町を出てマリアイスの町を目指して歩き出した。

 10時三つ目の鐘がなる頃に、北東のマリアイスの町へ向かう商業ギルドの馬車の中に隠れて、空野家の三人はマリアクアの町を出る。

 ボク達は人目に付きにくそうな場所に来ると、商業ギルドの馬車を待っていた。
 空野家の三人とは昼少し前に合流できた。
「……ひどい乗り心地でした」

 予定より早めに馬車を降りたようだ。タイヤとかないし、サスペンションもないだろう。

「さてと、じゃあ行きますか」

「幻影魔法もお願いしますね」

 和弘さんの言葉にボクが答えると、ボク達の顔はモザイクがかかったようになった。いまから匿名希望で取材を受けるわけではない。

 和弘さんがアイテムボックスから自動車を取り出した。燃料のガソリンは解析済みで、昨日増やしてある。

「馬車より、ずっと早い上に乗り心地も良い筈ですよ」

 説明はしておいたのだがブランカさんマリアさんが、やはり驚いている。
 ボク達は、昨日出た筈の息子さんへの伯爵の追っ手を、追い越してダンジョンにたどり着く。

 そのために自動車で移動する事に決めていた。

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