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3 桐島園加と肝試し
第10話
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「……肝試しツアー?」
眉を潜めて、思いっきり怪訝な顔で坂倉を見る。とりあえず、少しでもこのプリントに書かれていることに対する嫌悪感をアピールするためだ。別にアピールしたところでどうにかなるのかは知らないが、このプリントを作ったのは誰かという予測くらいはついている。そして、多分その人物は、この企画の発案者と同義だろう。
当の坂倉は、プリントを渡し終えると同時に、下を向いてこちらを見なくなった。よって、今僕がどんな表情なのか、どんな気持ちなのかが全く伝わっていないことになる。小さく溜息を吐いて村雨を見ると、目が合って、やれやれといったジェスチャーを作ってみせた。
「この企画って、凛子がしたの?」
村雨の問いに、坂倉は俯いたまま、こくこくと頷く。とても恥ずかしがっているようだ。おそらく、自分の考えた案を他人に披露するのが怖いのだろう。だったら見せなければいいのに、とは思ったが、とりあえずまずはプリントに目を通してみることにした。
かなりシンプルな作りで、タイトルの下に、今日の午後七時に学校近くの墓地に集合ということに加えて、夏休み最後にクラスで思い出を作りましょう、などの文句が他に三行ほど書かれているだけである。こういう直球なところも、坂倉らしいといえば坂倉らしいとは思うが。
そういえば、夏休みの課外は明日で終了だったことを思い出す。そこから、木、金、土、日と休みが入り、翌月曜日から二学期、といった具合だ。四連休と言ったら聞こえはいいが、夏休み中だということを考慮すると、素直に喜べる長さなのかは微妙だ。
「へえ。肝試し、ねえ……」
呟いてから、昨日の映画がフラッシュバックされて思わず身震いをする。流石にあそこまでのクオリティのものを学生がやれるわけはないと思うが、それでもつい考えてしまう辺り、相当トラウマとして植え付けられてしまったらしい。泣きたくなるな。
「何よ、凛子ってこういうのに興味あったの? 怖い物好きなわけ?」
「別に、特別好きって訳じゃないけど……こう、墓場とかって、青春? って感じしない?」
「いや、墓場に青春は感じないでしょ。肝試しの方でしょそれは」
間髪入れない村雨のツッコミに、坂倉ははにかむように笑う。こういう光景を見ていると、本当にこの二人の中のよさが伝わってくる。
と、そこで忘れていた疑問が浮かんできた。
「そう言えば、どうして坂倉は村雨と一緒に映画を見に行かなかったんだ? 怖い物好きなら、楽しめそうな内容だったのに」
むしろ怖い物好きしか楽しめない内容だ。また思い出して顔色を悪くする僕に、坂倉は村雨をちらちらと見ながら、言いにくそうに答えた。
「いや、だからね、別に怖い物好きって訳じゃないんだけど……その、私より、山城君の方が、楽しんでくれるんじゃないかなって思って」
坂倉、僕はこれほど他人の親切心を余計だと感じたことは今までないよ。口には出さないで、なるほど、と凍った笑顔で返しておく。村雨に視線を移すと、厳しそうな表情で坂倉を見ていた。意図は不明である。
なぜか重くなった場の雰囲気を変えるように、坂倉はこほんと一つ咳をついた。
「……と、とにかく、今日の夜に肝試しをやろうと思うの。二人とも、来てくれる?」
「別に僕は構わないけど、随分と急な話じゃないか? 今日の夜って」
「それは、昨日の夜思い付いたから……あんまり長引かせるのもよくないかなって思ったんだ」
こういう決断力と思いきりのよさは、坂倉の一番の長所だろう。問題は、やった後で自信を失ってしまうところか。僕としては、もっと胸を張ってもいいと思うんだけど。
ふとクラスを見渡すと、同じプリントを持ったクラスメイトがあちこちでワイワイと話し合っていた。どうやら皆もたった今これを知ったらしい。これを今から夜までにまとめるとなると大変そうだが、大丈夫なのだろうか。
「なになに、肝試しやるって? 面白そうだねー」
トイレから戻ってきた辻谷が、僕たちにそう声を掛けてきた。既に噂を耳にして来たのだろう。席につき、僕の机のプリントを覗き込む。
「辻谷はこういうの好きなのか?」
「おう、大好きよ! やっぱ墓場ってさ、青春! って感じするよなあ」
「それって、普通は墓場じゃなくて肝試しの方じゃないのか?」
デジャヴだ。墓場に青春を感じる人種がこの辺りには多く生息しているらしい。
辻谷はプリントから坂倉に目を移し、楽しそうに尋ねる。
「ねえねえ委員長、これってもうお化け役とか決まってんの?」
「え? い、いや、まだ企画したばっかりだから、そういうのは全然決まってないよ!」
坂倉は、なぜか顔を赤くして、声を上ずらせながら答えた。首をぶんぶんと大きく横に振っている。
その横で、村雨が小さくため息をつきながら、坂倉の肩に手をぽんと置いた。
「じゃあ、今から全体でそれを決めるのね? というか、先に出欠確認をしなくちゃいけないわね」
「あ、うん、そうだね……。えと、つ、辻谷君は、参加出来る?」
「もっちろん! こんな青春真っ盛りのイベント、参加しないわけにはいかんでしょ!」
テンション高く返す辻谷に、坂倉は嬉しそうに頷き、村雨と一緒に自分の席へ戻っていった。村雨は、よく坂倉の仕事をフォローしている。性格的に、見ていられないようなことも多いためだろう。その点では本当にいいコンビであると言えよう。
その後ろ姿を見送っていた辻谷は、急にこちらに顔を向け、謎のにやけ面を浮かべた。
「いやあ、委員長って可愛いよな。お前もそう思わないか?」
「まあ確かに可愛いとは思うけど……急にどうしたんだ?」
「……はあ。全く、お前は相変わらずだな。だからこそお前だとも言えるが、いつまでその心を保つことが出来るか見守っておくことにするか……」
意味不明のフレーズを残して、辻谷は僕に背を向けた。長い付き合いだが、未だに彼のこういった言葉の意味を汲み取れない僕である。
おそらく、僕たちが村雨たちのようなコンビになるにはまだまだ時間が必要になるだろう。
……なぜかは全く分からないけど。
眉を潜めて、思いっきり怪訝な顔で坂倉を見る。とりあえず、少しでもこのプリントに書かれていることに対する嫌悪感をアピールするためだ。別にアピールしたところでどうにかなるのかは知らないが、このプリントを作ったのは誰かという予測くらいはついている。そして、多分その人物は、この企画の発案者と同義だろう。
当の坂倉は、プリントを渡し終えると同時に、下を向いてこちらを見なくなった。よって、今僕がどんな表情なのか、どんな気持ちなのかが全く伝わっていないことになる。小さく溜息を吐いて村雨を見ると、目が合って、やれやれといったジェスチャーを作ってみせた。
「この企画って、凛子がしたの?」
村雨の問いに、坂倉は俯いたまま、こくこくと頷く。とても恥ずかしがっているようだ。おそらく、自分の考えた案を他人に披露するのが怖いのだろう。だったら見せなければいいのに、とは思ったが、とりあえずまずはプリントに目を通してみることにした。
かなりシンプルな作りで、タイトルの下に、今日の午後七時に学校近くの墓地に集合ということに加えて、夏休み最後にクラスで思い出を作りましょう、などの文句が他に三行ほど書かれているだけである。こういう直球なところも、坂倉らしいといえば坂倉らしいとは思うが。
そういえば、夏休みの課外は明日で終了だったことを思い出す。そこから、木、金、土、日と休みが入り、翌月曜日から二学期、といった具合だ。四連休と言ったら聞こえはいいが、夏休み中だということを考慮すると、素直に喜べる長さなのかは微妙だ。
「へえ。肝試し、ねえ……」
呟いてから、昨日の映画がフラッシュバックされて思わず身震いをする。流石にあそこまでのクオリティのものを学生がやれるわけはないと思うが、それでもつい考えてしまう辺り、相当トラウマとして植え付けられてしまったらしい。泣きたくなるな。
「何よ、凛子ってこういうのに興味あったの? 怖い物好きなわけ?」
「別に、特別好きって訳じゃないけど……こう、墓場とかって、青春? って感じしない?」
「いや、墓場に青春は感じないでしょ。肝試しの方でしょそれは」
間髪入れない村雨のツッコミに、坂倉ははにかむように笑う。こういう光景を見ていると、本当にこの二人の中のよさが伝わってくる。
と、そこで忘れていた疑問が浮かんできた。
「そう言えば、どうして坂倉は村雨と一緒に映画を見に行かなかったんだ? 怖い物好きなら、楽しめそうな内容だったのに」
むしろ怖い物好きしか楽しめない内容だ。また思い出して顔色を悪くする僕に、坂倉は村雨をちらちらと見ながら、言いにくそうに答えた。
「いや、だからね、別に怖い物好きって訳じゃないんだけど……その、私より、山城君の方が、楽しんでくれるんじゃないかなって思って」
坂倉、僕はこれほど他人の親切心を余計だと感じたことは今までないよ。口には出さないで、なるほど、と凍った笑顔で返しておく。村雨に視線を移すと、厳しそうな表情で坂倉を見ていた。意図は不明である。
なぜか重くなった場の雰囲気を変えるように、坂倉はこほんと一つ咳をついた。
「……と、とにかく、今日の夜に肝試しをやろうと思うの。二人とも、来てくれる?」
「別に僕は構わないけど、随分と急な話じゃないか? 今日の夜って」
「それは、昨日の夜思い付いたから……あんまり長引かせるのもよくないかなって思ったんだ」
こういう決断力と思いきりのよさは、坂倉の一番の長所だろう。問題は、やった後で自信を失ってしまうところか。僕としては、もっと胸を張ってもいいと思うんだけど。
ふとクラスを見渡すと、同じプリントを持ったクラスメイトがあちこちでワイワイと話し合っていた。どうやら皆もたった今これを知ったらしい。これを今から夜までにまとめるとなると大変そうだが、大丈夫なのだろうか。
「なになに、肝試しやるって? 面白そうだねー」
トイレから戻ってきた辻谷が、僕たちにそう声を掛けてきた。既に噂を耳にして来たのだろう。席につき、僕の机のプリントを覗き込む。
「辻谷はこういうの好きなのか?」
「おう、大好きよ! やっぱ墓場ってさ、青春! って感じするよなあ」
「それって、普通は墓場じゃなくて肝試しの方じゃないのか?」
デジャヴだ。墓場に青春を感じる人種がこの辺りには多く生息しているらしい。
辻谷はプリントから坂倉に目を移し、楽しそうに尋ねる。
「ねえねえ委員長、これってもうお化け役とか決まってんの?」
「え? い、いや、まだ企画したばっかりだから、そういうのは全然決まってないよ!」
坂倉は、なぜか顔を赤くして、声を上ずらせながら答えた。首をぶんぶんと大きく横に振っている。
その横で、村雨が小さくため息をつきながら、坂倉の肩に手をぽんと置いた。
「じゃあ、今から全体でそれを決めるのね? というか、先に出欠確認をしなくちゃいけないわね」
「あ、うん、そうだね……。えと、つ、辻谷君は、参加出来る?」
「もっちろん! こんな青春真っ盛りのイベント、参加しないわけにはいかんでしょ!」
テンション高く返す辻谷に、坂倉は嬉しそうに頷き、村雨と一緒に自分の席へ戻っていった。村雨は、よく坂倉の仕事をフォローしている。性格的に、見ていられないようなことも多いためだろう。その点では本当にいいコンビであると言えよう。
その後ろ姿を見送っていた辻谷は、急にこちらに顔を向け、謎のにやけ面を浮かべた。
「いやあ、委員長って可愛いよな。お前もそう思わないか?」
「まあ確かに可愛いとは思うけど……急にどうしたんだ?」
「……はあ。全く、お前は相変わらずだな。だからこそお前だとも言えるが、いつまでその心を保つことが出来るか見守っておくことにするか……」
意味不明のフレーズを残して、辻谷は僕に背を向けた。長い付き合いだが、未だに彼のこういった言葉の意味を汲み取れない僕である。
おそらく、僕たちが村雨たちのようなコンビになるにはまだまだ時間が必要になるだろう。
……なぜかは全く分からないけど。
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