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4 Who are you?
第22話
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「そういうことじゃないでしょう! 私はね、あなたが明日葉明日香になることで、桐島園加というあなたの存在はどうなっているのかって、それを聞きたいのよ! 他人に為りきることで、あなたはその人を生かした。じゃああなた自身は、桐島園加はどうなるの? あなたにとって桐島園加という人間は、そんなに軽いものだったの? あなたが生きるべきは明日葉明日香ではなく、親から生を授かった、桐島園加でしょう?」
それは実に悲痛な叫びだった。村雨は目に涙をいっぱいに浮かべ、悔しそうな、悲しそうな声を上げている。彼女のことを本気で考えて、桐島園加という人間の気持ちに寄り添ったからこそ出てくる、その言葉たち。自分という人間に確かな芯を持って生きている村雨にとって、彼女の生き方は許せなかったのだろう。
目の前でそれを受けた明日葉明日香は、歯をぎしりと鳴らして、今までにない苦しそうな表情をした。
「私だって……私だって、こんなのおかしいと思ってる! 明日葉明日香という人間はとっくにもうこの世にはいないってことも、十分に分かってる! でも、それでも私は、明日葉明日香に為らなくちゃいけないの。そうしないと、私は、彼女は、この世から忘れられてしまう。明日葉明日香という素晴らしい人がいたことを、みんな覚えていなくなってしまう。それが嫌だったの! 私が為ることでその存在を覚えておけるのなら、記憶に留めておけるのなら、その人生をまた続けられるのなら――私は、私を犠牲にも出来る。そう決めたの。そうでなくちゃいけないの!」
「……」
僕はなんと声をかけてよいか分からない。もはや彼女の言葉は支離滅裂だった。明日葉明日香の人格と桐島園加の人格が混ざり合い、どちらがそれを言っているのか、どちらの主観から物事が見られているのかが分からなくなる。
彼女の言う『私』とは誰のことだ? 明日葉明日香? 桐島園加? それとも、二人?
「誰かを生かすために誰かが死ぬなんて、そんなの意味のないことよ。どうしてそれが分からないの? それに、あなたは明日葉明日香には決してなれない。真似することは出来でも、甦らせることなんて出来るわけがない。いい加減、目を覚ましなさいよ」
「だから、そんなの分かってる! それでも、やらないよりはマシでしょう? 明日葉明日香という人間に、私は為りたかった。為ってみたかった。そうすることで、私は私を手に入れたの。桐島園加では言えないことも、明日葉明日香では言える。桐島園加では感じられないことも、明日葉明日香でなら感じることが出来る。それの何が悪いというの?」
「それはあなたがそう思い込んでいるだけよ。明日葉明日香という人物を、あなたは自分の中で神格化し過ぎているだけ。相対的に、桐島園加の価値を低く見ているだけなの。そうじゃないでしょ。あなたは桐島園加という人間として生まれて、桐島園加という人間として明日葉明日香に憧れた。ということは、そこには確かに、桐島園加としての感情が存在しているじゃない。それさえも忘れてしまうのは、とても悲しいことでしょう?」
「違うの、私、私は……」
「二人とも、そこまでにしておくんだ」
議論に収拾がつかなくなってきたので、僕は間に割って入った。二人とも目に涙を浮かべ、今にも掴みかからんとする勢いで感情を高ぶらせている。こうなっては、後は水掛け論になるばかりだ。どちらもお互いの言うことが耳に入らなくなってしまう。そんな言い合いに、意味などない。
僕は二人に手を広げ、ため息を一つ吐いた。こんな予定ではなかったのだが、村雨が来るとどうにもこうなってしまうらしい。いいことなのか、悪いことなのか。どちらにせよ、村雨らしいとも言える。
「落ち着いて。それ以上言い争ったところで答えなんて出ないはずだ。今は、明日葉明日香と桐島園加が同一人物だったって、その情報さえ確認出来れば十分だろう。それ以上のことは、こんなところで、ましてや本人のお墓の前でなんて言い合うべきじゃない。そうだろう?」
「……うん、まあそうね。癪だけど、零の言う通りだわ」
村雨は僕の言うことに頷き、明日葉明日香に背を向けた。まだ内には怒りの感情が残っているようだが、ここで言い争うことの不毛さを理解したようだ。明日葉明日香はその背中をじっと見るだけで、何も言おうとはしない。
数秒の気まずい間。その後。
背を向けたまま、村雨は宣言するように、僕らに言葉を投げかけた。
「――あなたのその間違った生き方、絶対に私が正してあげる。覚悟しておきなさい」
それは実に悲痛な叫びだった。村雨は目に涙をいっぱいに浮かべ、悔しそうな、悲しそうな声を上げている。彼女のことを本気で考えて、桐島園加という人間の気持ちに寄り添ったからこそ出てくる、その言葉たち。自分という人間に確かな芯を持って生きている村雨にとって、彼女の生き方は許せなかったのだろう。
目の前でそれを受けた明日葉明日香は、歯をぎしりと鳴らして、今までにない苦しそうな表情をした。
「私だって……私だって、こんなのおかしいと思ってる! 明日葉明日香という人間はとっくにもうこの世にはいないってことも、十分に分かってる! でも、それでも私は、明日葉明日香に為らなくちゃいけないの。そうしないと、私は、彼女は、この世から忘れられてしまう。明日葉明日香という素晴らしい人がいたことを、みんな覚えていなくなってしまう。それが嫌だったの! 私が為ることでその存在を覚えておけるのなら、記憶に留めておけるのなら、その人生をまた続けられるのなら――私は、私を犠牲にも出来る。そう決めたの。そうでなくちゃいけないの!」
「……」
僕はなんと声をかけてよいか分からない。もはや彼女の言葉は支離滅裂だった。明日葉明日香の人格と桐島園加の人格が混ざり合い、どちらがそれを言っているのか、どちらの主観から物事が見られているのかが分からなくなる。
彼女の言う『私』とは誰のことだ? 明日葉明日香? 桐島園加? それとも、二人?
「誰かを生かすために誰かが死ぬなんて、そんなの意味のないことよ。どうしてそれが分からないの? それに、あなたは明日葉明日香には決してなれない。真似することは出来でも、甦らせることなんて出来るわけがない。いい加減、目を覚ましなさいよ」
「だから、そんなの分かってる! それでも、やらないよりはマシでしょう? 明日葉明日香という人間に、私は為りたかった。為ってみたかった。そうすることで、私は私を手に入れたの。桐島園加では言えないことも、明日葉明日香では言える。桐島園加では感じられないことも、明日葉明日香でなら感じることが出来る。それの何が悪いというの?」
「それはあなたがそう思い込んでいるだけよ。明日葉明日香という人物を、あなたは自分の中で神格化し過ぎているだけ。相対的に、桐島園加の価値を低く見ているだけなの。そうじゃないでしょ。あなたは桐島園加という人間として生まれて、桐島園加という人間として明日葉明日香に憧れた。ということは、そこには確かに、桐島園加としての感情が存在しているじゃない。それさえも忘れてしまうのは、とても悲しいことでしょう?」
「違うの、私、私は……」
「二人とも、そこまでにしておくんだ」
議論に収拾がつかなくなってきたので、僕は間に割って入った。二人とも目に涙を浮かべ、今にも掴みかからんとする勢いで感情を高ぶらせている。こうなっては、後は水掛け論になるばかりだ。どちらもお互いの言うことが耳に入らなくなってしまう。そんな言い合いに、意味などない。
僕は二人に手を広げ、ため息を一つ吐いた。こんな予定ではなかったのだが、村雨が来るとどうにもこうなってしまうらしい。いいことなのか、悪いことなのか。どちらにせよ、村雨らしいとも言える。
「落ち着いて。それ以上言い争ったところで答えなんて出ないはずだ。今は、明日葉明日香と桐島園加が同一人物だったって、その情報さえ確認出来れば十分だろう。それ以上のことは、こんなところで、ましてや本人のお墓の前でなんて言い合うべきじゃない。そうだろう?」
「……うん、まあそうね。癪だけど、零の言う通りだわ」
村雨は僕の言うことに頷き、明日葉明日香に背を向けた。まだ内には怒りの感情が残っているようだが、ここで言い争うことの不毛さを理解したようだ。明日葉明日香はその背中をじっと見るだけで、何も言おうとはしない。
数秒の気まずい間。その後。
背を向けたまま、村雨は宣言するように、僕らに言葉を投げかけた。
「――あなたのその間違った生き方、絶対に私が正してあげる。覚悟しておきなさい」
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