幽霊屋敷で押しつぶす

鳥木木鳥

文字の大きさ
3 / 34
「裏内屋敷」対「乾森学園」 

血と鉄塊

しおりを挟む
「ぐぇ。が、ああ」
 首に触れる。
 大丈夫、大丈夫、しっかりついてる。だったらあれは夢だ。
 いや今も私は夢の中、そうに違いない!

「夢じゃないですよ、先生、いえ庚游理さん」

「うるさい、夢の中のキャラがペラペラ喋るな!」
「さっきまで仲良くやってたじゃないですか」
「その前に人の首ねじ切っておいて、そう言えるおまえは何様だよ!」
「おまえじゃないですよ、ちゃんと呼んでくれたじゃないですか、わたしの名前」

 そう言って
 黒髪の少女は優雅に一礼した。
「改めまして、わたしの名は『裏内宇羅うらないうら』幽霊屋敷『裏内うらない』の化身」

 そのまま流れるように誓約の言葉を続ける。
「そしてあなたは祓いの八家、『庚』に連なる『庚游理』、我が屋敷の心臓。
 共に千の死を超え、千の死を与えましょう」

 言葉が終わると同時に空気が変わった。

 血。

 生徒も教師も、この校舎の中にいない。
 生きている人間はいない。

 血。

「23年前、都内私立校にて複数名の死亡者が発生」
 壁も床も一面に赤く染まり。

「犠牲者数『333名』」
 あたりに漂うのは腐臭。屍のにおい。

「驚くべきことに被害者の『死因は不明』自殺他殺事故死いずれによっても説明不能」
 血の赤の中で黒い屍が蠢く。
 窓の外にも、廊下にも。
 動くはずのない足を動かし、何も見ていない目と何も聞こえない耳を持つ屍が動く。

「理不尽な惨劇に唯一当てはまる公式見解として発表されたのは、さらに常識を外れたものでした」
 蠢く死人の群れは、意思を感じさせないまま彷徨う。
 あの格好、制服なのか? 学校。制服。
 こんなに近くにいるのに誰も私たちに気付かないほど死に果てた屍。
 ここにいるのはそれだけだ。

「『祟り』、学園の333名は祟り殺された」
 そして、宇羅はその名前を言った。

「『乾森学園いぬいもりがくえん』、333名の命を喰らったこの学園は、今もこうして怨嗟を世界に放ち続けています」

「さっきからペラペラ気持ちよく長セリフを言ってる所悪いけど」
「はい、どんな質問にも答えますよ…うぎゃん」
 ぶっ叩いた。
「何すんで、ぐご!?」
 息もつかせぬ連打で、目の前の黒髪制服女を殴る。殴る。
無駄にバカみたいな修羅場を潜ったOL舐めんなよ!
「さっさと戻せよ、戻せよ! 私は明日も仕事があるんだ!」
「ちょ、こっちの話もう少し聞いてくださいよ! わたしが消えたらあなたは学園に完全に喰われるんですよ!」
「うっさい、問答無用だ!」
「なんで普段はコミュ障陰キャなのに変なところでキレてドッカンドッカン来るんですか、あなたは!?」
「おまえが私の何を知ってんだ、おら、まだまだ行くぞ!?」
「知ってるに決まってますよ、あの家で見てましたから!」
「デタラメ言うな、おまえなんて知らない」 
少なくとも私の狭い交友関係にこんな外面清楚系少女はいないし。
「…とにかくそろそろあの生徒さんたちがこっちに気付いてやってきて、いがみ合ってるわたしたちをスプラッタな目に遭わせようと集まる頃です、一旦教室に入って迎撃しますよ」
…それもそうですね、はい。

 しばらくして。
 血の匂いがする教室の真ん中で私は住居侵入不審者少女(仮称)と向かい合って話をしていた。さすがにもう落ち着きましたよ、うん。社会人だからね。
「それでえっと、裏内さん?」
「宇羅でいいですよ、游理さん。フレンドリーに友好的に」
「裏内さん」
 すねるな、命を狙ってきた相手に、最低限の礼儀をもって接する社会人の良識に感謝しろ。
「あんたの言葉にはおかしな点がある」
 いつものように相手を見据えて、
「乾森学園? そんな学校聞いたこともない」
 服装は、いつものスーツ姿。だけどいつもの道具がないのは致命的だ。まああれはあったらあったで何が起きるかわからないんだが。

 大事なのは体力よりも胆力
 仕方ない、逃げの一手。
「そんな大量怪死事件があったなら、今の世界で知らずにいることは不可能だろう」

 動く屍から、いつも通りに逃走しながら話を続ける。
「ただでさえ祟りなんてありふれてるんだから、そんな重要事案、速攻で解体されるだろ」

 そう言い終わるタイミングに合わせたように、ドアがゆっくり開いて、
 この世界ではよくある怪異、蠢く死者の群れが教室に入り込んできた。

 くそ、こいつら映画やいつもの現場みたいに知能はないのに、数が多い。
 こいつの話を信じるなら300名以上!? さすがに逃げ切れないかも、いや宮上さんがいるならまだしも私は無理だなこれ。

「まあ、世の中がこんなバカげた状態になってるのも、今の状況と関係があるんですがね」

 一振り
 群れに腕を一振り。
「『北塀』」

 次の瞬間、蠢く無数の屍は、
 何の変哲もないコンクリートの塊で潰されていた。

「…ええ…何これ」
「何って、わたしたちの家の『塀』をちょっと見繕って射出しただけですよ」
「当然のことのように話さないで。真面目に祓おうと考えてたこっちがおかしいみたいになる」
 コンクリートによる物理的除霊。
 新機軸すぎる。
「しつこいのが一旦片付いたんで説明に戻りますよ?」
「は、はい」
 あんまりな暴力を目にして思わず敬語になってしまった…

「別に政府や国やMIBが隠蔽したわけじゃないですよ、それは逆効果なのは常識です」
「人に祟るのが祟りなら、それを誰も知らなければ祟りは生まれない」そんな考えもあったらしいが。
「不用意に無視すれば、祟りの厄災が大きくなる。何故なら祟りというのは、彼岸からの意思疎通の手段なのだから、それが叶わないとより過激化するのは当然ですよね」

意思疎通。怨み後悔悔いの発露。人を怨む人の遺志。

「ですが、ここは違います。幽霊屋敷っていうのは人に向けての祟りなんかじゃないんです」
「じゃあなんなの」
「幽霊屋敷の目的は生物と同じ、自分の種の繁栄。有り体にいうと繁殖です」
この子何言ってるんだ。
「まるでこの校舎が生き物みたいな」
「ええ、乾森学園は幽霊屋敷という意思を持つ生物です」
わたしがそうであるように。
少女にしか見えない幽霊屋敷はそう言った。

「誕生したての幽霊屋敷が真っ先に取るのは捕食者から隠れます」
捕食者。他の生物。他の幽霊屋敷。
「ものによってはその過程で事件そのものを忘れさせるなんてとんでもない改変を加えるやつもいて。ここはそういうタイプだったってことです」
無意識に働きかける神もどきのように。
「傾向として、生まれた時脆弱な奴ほど、その種の隠蔽に優れているそうで。それで残念ながら、そういった『屋敷』は成長すれば手が付けられなくなるんです。それこそプロの祓い師でも油断すれば取り込まれるほど強くなったり」


「そうして質の悪い奴に目をつけられた結果、わたしたちはここにいるわけです、游理さん」
「あ、やっと戻ってきた」
このままスルーされたらどうしようと思ってた。
「あなたはおそらく数時間前からこの学園に知覚され、先ほどこともあろうにわたしの中で喰われる寸前でした」

トーントーントーン。

さっきから校舎に響くこの音。
そうだ、これはこいつが現れる前から部屋の中に響いていた。

「あのままでは喰われた直後にあなたの意思は奪われ、ゆっくり消化されるだけでした。だから強引にわたしが割り込んでこの校舎に飛び込んだんです」
「割り込んだって、あの首ポキンはそれ!?」
「はい、手っ取り早く同期するには対象を仮死状態にする必要があったので」
それじゃあ。
「私は裏内さんに命を救われたってこと?」
「ええ、まあまだ完全に助かったって言えないのは情けない…って何やってんですか!?」
地面に頭をついて。
「ごめんなさい。また私こういうのに巻き込まれたらついうっかり全力攻撃が身に沁みついちゃってッて、本当にこんな性格だから実家を追い出されて…」
「ストーップ! なんかどんどん心が黒い沼みたいな所に沈んでますよ。情緒がゴンドラ並みに不安定ですねあなた!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

近づいてはならぬ、敬して去るべし

句ノ休(くのやすめ)
ホラー
山中、もしあなたがそれに出会ったら…… 近づいてはいけない。 敬して去るべし。   山を降りろ。   六年勤めた会社を辞めた。お荷物だとはわかっていたし、むしろ清々しくもあった。 28歳のコウイチには、仕事より大切なものがあった。 田舎歩きだ。そこ大事なのが学生のときにかじった民俗学だ。廃集落、古い祠、忘れられた神々——それを訪ねることは、彼のたった一つの愉しみだった。   大学時代、民俗学の講義で准教授はこう言った。「神々は神ではない」。人が畏れ、従い、忖度したものがかみになる。その言葉がコウイチを変えた。 会社の営業で関東のあちこちを歩きまわった。コウイチは仕事よりも土地の古老の話に耳を傾けることに熱中したほどだった。   失業後、ふと見つけた資料にコウイチは目を奪われた。 「名付け得ぬ神」。 東京の西、檜原村の奥深く、コボレザワという場所にその祭祀を担った一族がいたという。山奥には祠があるらしい。だがもう六十年も前に無人になってしまっているようだ。   コウイチは訪ねてみることにする。 道中、奇妙な老人に出会う。一人目は気のいい古書店主。二人目は何かを知りながら口を閉ざす資料館の老人。そして三人目は——   深い山中でコウイチはついに祠を見つけた。巨大な岩を背にした祠は古び、壊れていたが、まだ人が来ている痕跡があった。 不穏な気配にコウイチは振り向くが、なにもない。 日本の中心地・東京。そこからわずかにはずれた山の中に潜む秘密をめぐる奇譚。

【完結】『霧原村』~少女達の遊戯が幽の地に潜む怪異を招く~

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ホラー
五月の中旬、昼休中に清水莉子と幸村葵が『こっくりさん』で遊び始めた。俺、月森和也、野風雄二、転校生の神代渉の三人が雑談していると、女子達のキャーという悲鳴が。その翌日から莉子は休み続け、学校中に『こっくりさん』の呪いや祟りの噂が広まる。そのことで和也、斉藤凪紗、雄二、葵、渉の五人が莉子の家を訪れると、彼女の母親は憔悴し、私室いた莉子は憑依された姿になっていた。莉子の家から葵を送り届け、暗い路地を歩く渉は不気味な怪異に遭遇する。それから恐怖の怪奇現象が頻発し、ついに女子達が犠牲に。そして怪異に翻弄されながらも、和也と渉の二人は一つの仮説を立て、思ってもみない結末へ導かれていく。【2025/3/11 完結】

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...