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沈船村楽園神殿
神前神楽
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「宇羅、わかることは?」
「この塩ですか? 塩と言えば浄化の象徴。祠を祓った時に游理さんも使ってましたよね」
「そうだけど、あれは市販のもので、自分の身体から塩や金粉を出すなんて出来ないよ」
「金粉?」
ありゃ、通じなかった。
「まあそれはあくまでメジャーな神話に限った話で、この神様がどんな権能を持ってるかなんて皆目わからない。
そういうことは教えといてよ、園村さん。ちょっとは布教しておかないと。私は入信とかしないけど。
「【hうぃいwjf】!」
声を上げた彼の周囲の塩が、風もないのにその場で吹き上がった。
どんどん積み重なって、私の背丈よりも高くなる。一か所だけじゃなく3、4と同じ現象が起きる
やがて形成されたのは塩の柱。天井を突き破る程の高さの円柱がゆっくりと動き出す。
「游理さん、警戒して下さい」
「わかってる。これは触れたらまずい」
単なる塩の塊じゃない、多分何かの式が組み込まれてる。向かってくるってことは接触がトリガーになるんだろうか?
速度が遅くても、囲まれたら逃げられない。
だからその前に操作してる本人を潰す。
呪符を飛ばすと同時に宇羅が駆け、園村さんに傘を振りかざす。喰らったら正気に戻っても大けがじゃ済まないんじゃ・・・
「!」
飛び退いて呪符を躱す。同時に塩の一柱を移動させ、宇羅に触れさせようとしてる。
「宇羅、退いて!」
「このままだと距離を取られます。塩の量がどんどん増えてる、これ以上が絶対に危険です!」
その言葉の通り、園村さんの身体中から噴き出る塩は勢いを増し、岬さんの広い部屋全体に雪のように積もっていた。
絶対これ私口の中に入ってる・・・何もしなければ無害だって信じたいけど。
「神だろうと何だろうと、依り代の意識が無くなってもまだ立てますかっ!?」
一切の躊躇なく、白い風景の中を疾走する幽霊屋敷。
「一気に行きますんで、じっとしてて下さいよ先輩!」
そう言って宇羅は傘を開く。
開いた勢いで周りの塩が舞い上がり、相対するふたりの姿が一瞬だけ掻き消えた。
向こうがそれに戸惑った刹那。
「これで、終いです」
そう決めると、前に向かって無茶苦茶に傘を振り回す。
まともな型も何もない。子供のように突き出し、薙ぎ払い、そして叩く。
優雅さとは程遠い無様で不格好な動作をひたすら重ねる。
当たり前だろう、武道の心得なんて初めから彼女は持ち合わせていないのだから。
車を運転するのと同じように、宇羅はただ直観的に道具を扱うことに長けているだけ。
だからこそ読めない。
面と向かって接近戦をする園村・・・いや***? 彼の人格に混じった「何か」と戦う際、剣術などまともな型では相手にならないはずだった。
何故ならそれらは人間が最適な動きを行う為、人が人のために発展させてきた術だから。
かつては教団で人に崇められていた「それ」にとって信仰も決まりきった儀式、術のであった。
だからそれを突き詰めた教団が生んだ園村砂とそれに憑いたものにとって、決まった型のある術を理解するのは容易い。
だけど宇羅は違う。無茶苦茶な車の運転で窮地を脱したようにひたすら武器を振り回す。
人間の身体能力を逸脱した動きで行使される、予測不能のデタラメな攻撃は、園村砂によって信仰の型に縛られた***にとっては理解の外の所作。
だから権能で実体化させた「塩の柱」をぶつけようとするも、それすら無茶な動きで回避される。
塩の柱が象徴するのは浄化。
不浄の一切を消し去る、信仰の潔癖さの体現。
怨嗟怨霊で形成された不浄の塊である幽霊屋敷は僅かに触れただけで致命傷を負うはずだった。
だけど当たらない。どれだけの汚濁を消し去ろうとしても、ひたすら不格好に動き続ける、諦めない宇羅を捕えられない。
「がっと!」
一撃、傘の殴打が園村さんの頭部を抉った。
「・・・・・!?」
「声も出ない程動揺するなんて、精神力弱いんじゃないんですか?」
煽りつつ容赦なく次を狙う宇羅を、猶も塩で清めようとする。
だけど当たらない。かすっただけで不可逆的に浄化をもたらすはずの白の柱は、迫る人外を掠ることすら出来ない。
「この私が。神隠しの幽霊屋敷『裏内屋敷』が塩程度で清められると、まさか本気で信じているんですか?」
2発目の殴打が、胸を突いた。
「少なくともあの人ならそんな呑気なことは思わなかったでしょうね」
「あの人」それが誰を指すのか。そんなことを考える前に、円柱を構成して眼前の脅威を排除しようとするも。
「ああ、園村砂なら私たちこんな醜態は晒さなかった」
その背後から私はスプレーを彼の顔面に浴びせた。
「・・・・・・・・・」
「あなたは、園村さんよりも弱いってことです、神様」
その直後、スプレーを浴びた肉体に異変が起きた。
成長を促進する「庚游理」の能力は神の巣くう肉体、その中で神に属する要素に深刻な変異を次々と引き起こす。
人間の肉体には全く無害の成分も、神にとっては異界の猛毒。
「【いwwjふぁfn】がはっ!?」
結果、急激に成長した神の所有する部分は園村さんの肉体から乖離し始める。
塩のように流れ出る。
園村砂が自分だけの神と崇めた存在***が唯一の信者から切り離される。
流れて、流れて。
そしてやがてその流出も停止した。
「・・・・・・・・・・」
「これで終いです、神様」
宇羅が傘を振りかぶる。
「その状態でも、わたしや游理さんには倒す術はない」
人の手で神を消すことは出来ない。
出来るのは封じることのみ。
宇羅の横に立って私は口を開く
「でもあなたはもう動けない。少なくともこの『沈船』が消えるまでは」
元の依り代から無茶な手段で切り離された、塩のような姿の***本体。
「あなたにはこれでも悪かったと思ってるんですよ」
我ながら白々しいとは思うけど、一応は本心だから言っておかないと。
「結局最初から最後まで人の信仰やら意地に付き合わされたあなたのことは気の毒・・・ってのも変な言い方ですが」
私も周りに振り回されてるから結構親近感・・・・何だよ宇羅。
「いえ、游理さんも十分人をトラブルに巻き込むタイプだと思います」
あ、そうですか。
「どっちにしろここで終わり。天上なり地の底、宇宙の果てなり、元居た場所に還って下さい」
***、塩の姿の神。
そう言えば塩は鉱物。鉱物を司る神もいたっけ。
園村さんは結局元の神様の情報を好き勝手に改竄して自分だけのものにした。
もし本当の名前を呼べば、元の神格に戻るんだろうか?
最後だし、やってみるか。
「さようなら、【くしゃすら】」
私の読んだ名前が正しいのか。きっとわかることはない。
神は人の声に応えない。
・・・まあ、そういうものだよね。
「游理さん、宇羅さん」
寝台の方から声がした。
「岬さん、無理に動くと駄目です。園村さん・・・はもうあなたに危害を加えないので」
私の言葉に彼女は弱々しく微笑んだ。
「どのみち、ここでお別れです」
ああ、そっか。
「沈船」
心臓を失ってもなお駆動していた幽霊屋敷が、ようやくその動きを止めようとしていた。
塩の積もった床、窓の外に広がる村やそこに居た人々、世界の全てが霞んで行く。
もちろん岬さんも。
「・・・何と言うか」こういう場面でどう言えばいいんだろ。
「游理さん」
いつものように私があれこれ悩んでる間に岬さんの方から話しかけてきた。
「そちらの私はどうでした?」
そちら。現実の沈船村、沈船岬。
「村のことを愛していましたか?」
彼女のことはわからない。
庚游理が沈船岬、村は自分だという彼女の言葉が、単純な我執なのか、もっと別の何かなのか。その真意を知ることはたぶんない。
今までもそしてこれからも園村砂のことが理解出来ないように、岬さんが結局どういう人間なのか。完全にわかることはない。
コミュニケーション苦手なんだよ私は。
でも、わかることはある。
霧が出て来た。
全てがゆっくりと霞んで行く中で、私は沈船岬さんをしっかり見つめて言った。
「はい。私の世界の沈船岬さんもあなたと同じくらい沈船村を愛しています」
その言葉に微笑んだ彼女の顔も霧の向こうに消えて見えなくなった。
「游理さん」
深海の船のように、何もかもが沈んでいく世界で。
私は右手に体温を感じた。
「うん。戻ろう。宇羅」
幽霊屋敷「沈船」 消失。
「この塩ですか? 塩と言えば浄化の象徴。祠を祓った時に游理さんも使ってましたよね」
「そうだけど、あれは市販のもので、自分の身体から塩や金粉を出すなんて出来ないよ」
「金粉?」
ありゃ、通じなかった。
「まあそれはあくまでメジャーな神話に限った話で、この神様がどんな権能を持ってるかなんて皆目わからない。
そういうことは教えといてよ、園村さん。ちょっとは布教しておかないと。私は入信とかしないけど。
「【hうぃいwjf】!」
声を上げた彼の周囲の塩が、風もないのにその場で吹き上がった。
どんどん積み重なって、私の背丈よりも高くなる。一か所だけじゃなく3、4と同じ現象が起きる
やがて形成されたのは塩の柱。天井を突き破る程の高さの円柱がゆっくりと動き出す。
「游理さん、警戒して下さい」
「わかってる。これは触れたらまずい」
単なる塩の塊じゃない、多分何かの式が組み込まれてる。向かってくるってことは接触がトリガーになるんだろうか?
速度が遅くても、囲まれたら逃げられない。
だからその前に操作してる本人を潰す。
呪符を飛ばすと同時に宇羅が駆け、園村さんに傘を振りかざす。喰らったら正気に戻っても大けがじゃ済まないんじゃ・・・
「!」
飛び退いて呪符を躱す。同時に塩の一柱を移動させ、宇羅に触れさせようとしてる。
「宇羅、退いて!」
「このままだと距離を取られます。塩の量がどんどん増えてる、これ以上が絶対に危険です!」
その言葉の通り、園村さんの身体中から噴き出る塩は勢いを増し、岬さんの広い部屋全体に雪のように積もっていた。
絶対これ私口の中に入ってる・・・何もしなければ無害だって信じたいけど。
「神だろうと何だろうと、依り代の意識が無くなってもまだ立てますかっ!?」
一切の躊躇なく、白い風景の中を疾走する幽霊屋敷。
「一気に行きますんで、じっとしてて下さいよ先輩!」
そう言って宇羅は傘を開く。
開いた勢いで周りの塩が舞い上がり、相対するふたりの姿が一瞬だけ掻き消えた。
向こうがそれに戸惑った刹那。
「これで、終いです」
そう決めると、前に向かって無茶苦茶に傘を振り回す。
まともな型も何もない。子供のように突き出し、薙ぎ払い、そして叩く。
優雅さとは程遠い無様で不格好な動作をひたすら重ねる。
当たり前だろう、武道の心得なんて初めから彼女は持ち合わせていないのだから。
車を運転するのと同じように、宇羅はただ直観的に道具を扱うことに長けているだけ。
だからこそ読めない。
面と向かって接近戦をする園村・・・いや***? 彼の人格に混じった「何か」と戦う際、剣術などまともな型では相手にならないはずだった。
何故ならそれらは人間が最適な動きを行う為、人が人のために発展させてきた術だから。
かつては教団で人に崇められていた「それ」にとって信仰も決まりきった儀式、術のであった。
だからそれを突き詰めた教団が生んだ園村砂とそれに憑いたものにとって、決まった型のある術を理解するのは容易い。
だけど宇羅は違う。無茶苦茶な車の運転で窮地を脱したようにひたすら武器を振り回す。
人間の身体能力を逸脱した動きで行使される、予測不能のデタラメな攻撃は、園村砂によって信仰の型に縛られた***にとっては理解の外の所作。
だから権能で実体化させた「塩の柱」をぶつけようとするも、それすら無茶な動きで回避される。
塩の柱が象徴するのは浄化。
不浄の一切を消し去る、信仰の潔癖さの体現。
怨嗟怨霊で形成された不浄の塊である幽霊屋敷は僅かに触れただけで致命傷を負うはずだった。
だけど当たらない。どれだけの汚濁を消し去ろうとしても、ひたすら不格好に動き続ける、諦めない宇羅を捕えられない。
「がっと!」
一撃、傘の殴打が園村さんの頭部を抉った。
「・・・・・!?」
「声も出ない程動揺するなんて、精神力弱いんじゃないんですか?」
煽りつつ容赦なく次を狙う宇羅を、猶も塩で清めようとする。
だけど当たらない。かすっただけで不可逆的に浄化をもたらすはずの白の柱は、迫る人外を掠ることすら出来ない。
「この私が。神隠しの幽霊屋敷『裏内屋敷』が塩程度で清められると、まさか本気で信じているんですか?」
2発目の殴打が、胸を突いた。
「少なくともあの人ならそんな呑気なことは思わなかったでしょうね」
「あの人」それが誰を指すのか。そんなことを考える前に、円柱を構成して眼前の脅威を排除しようとするも。
「ああ、園村砂なら私たちこんな醜態は晒さなかった」
その背後から私はスプレーを彼の顔面に浴びせた。
「・・・・・・・・・」
「あなたは、園村さんよりも弱いってことです、神様」
その直後、スプレーを浴びた肉体に異変が起きた。
成長を促進する「庚游理」の能力は神の巣くう肉体、その中で神に属する要素に深刻な変異を次々と引き起こす。
人間の肉体には全く無害の成分も、神にとっては異界の猛毒。
「【いwwjふぁfn】がはっ!?」
結果、急激に成長した神の所有する部分は園村さんの肉体から乖離し始める。
塩のように流れ出る。
園村砂が自分だけの神と崇めた存在***が唯一の信者から切り離される。
流れて、流れて。
そしてやがてその流出も停止した。
「・・・・・・・・・・」
「これで終いです、神様」
宇羅が傘を振りかぶる。
「その状態でも、わたしや游理さんには倒す術はない」
人の手で神を消すことは出来ない。
出来るのは封じることのみ。
宇羅の横に立って私は口を開く
「でもあなたはもう動けない。少なくともこの『沈船』が消えるまでは」
元の依り代から無茶な手段で切り離された、塩のような姿の***本体。
「あなたにはこれでも悪かったと思ってるんですよ」
我ながら白々しいとは思うけど、一応は本心だから言っておかないと。
「結局最初から最後まで人の信仰やら意地に付き合わされたあなたのことは気の毒・・・ってのも変な言い方ですが」
私も周りに振り回されてるから結構親近感・・・・何だよ宇羅。
「いえ、游理さんも十分人をトラブルに巻き込むタイプだと思います」
あ、そうですか。
「どっちにしろここで終わり。天上なり地の底、宇宙の果てなり、元居た場所に還って下さい」
***、塩の姿の神。
そう言えば塩は鉱物。鉱物を司る神もいたっけ。
園村さんは結局元の神様の情報を好き勝手に改竄して自分だけのものにした。
もし本当の名前を呼べば、元の神格に戻るんだろうか?
最後だし、やってみるか。
「さようなら、【くしゃすら】」
私の読んだ名前が正しいのか。きっとわかることはない。
神は人の声に応えない。
・・・まあ、そういうものだよね。
「游理さん、宇羅さん」
寝台の方から声がした。
「岬さん、無理に動くと駄目です。園村さん・・・はもうあなたに危害を加えないので」
私の言葉に彼女は弱々しく微笑んだ。
「どのみち、ここでお別れです」
ああ、そっか。
「沈船」
心臓を失ってもなお駆動していた幽霊屋敷が、ようやくその動きを止めようとしていた。
塩の積もった床、窓の外に広がる村やそこに居た人々、世界の全てが霞んで行く。
もちろん岬さんも。
「・・・何と言うか」こういう場面でどう言えばいいんだろ。
「游理さん」
いつものように私があれこれ悩んでる間に岬さんの方から話しかけてきた。
「そちらの私はどうでした?」
そちら。現実の沈船村、沈船岬。
「村のことを愛していましたか?」
彼女のことはわからない。
庚游理が沈船岬、村は自分だという彼女の言葉が、単純な我執なのか、もっと別の何かなのか。その真意を知ることはたぶんない。
今までもそしてこれからも園村砂のことが理解出来ないように、岬さんが結局どういう人間なのか。完全にわかることはない。
コミュニケーション苦手なんだよ私は。
でも、わかることはある。
霧が出て来た。
全てがゆっくりと霞んで行く中で、私は沈船岬さんをしっかり見つめて言った。
「はい。私の世界の沈船岬さんもあなたと同じくらい沈船村を愛しています」
その言葉に微笑んだ彼女の顔も霧の向こうに消えて見えなくなった。
「游理さん」
深海の船のように、何もかもが沈んでいく世界で。
私は右手に体温を感じた。
「うん。戻ろう。宇羅」
幽霊屋敷「沈船」 消失。
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