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沈船村楽園神殿
方舟の村
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「っきろ・・・起きろ、庚」
「ふえ? あ、宮上さん」
気が付くと私の顔を宮上さんがぺシぺシと叩いていた。何で私は彼寝込みを襲われているんだろう・・・?
「目を覚ましたか。お前が最後だ」
目を・・・あ、そうだ。私あの沈船の「体内」にいたんだった。
「来て早々お前たちをここまで運ぶのは骨が折れた」
ここは・・・宿屋、私たちの部屋だ。
「えっと宮上さんは何時この村に」
「昨日の夜。検査やらなんやらが終わって速攻で駆けつけたから」
そうなんだ。後輩の為にそこまで・・・
「いや、お前と宇羅がこれ以上迷惑を掛けると、うちの評判が地底深くまで沈んでしまうから早く行けって所長が急かすから」
「あ、そうですか」
「俺はお前と宇羅は放っておいても、好き勝手やって何だかんだ上手くやるって言ったんだけど」
「それはそれで冷たいですね」
確かに好き勝手した結果、あなたの実家は壊れちゃったけど・・・ん?
「昨日の夜って、今何時ですか?」
「もう午後4時になるくらい」
「丸一日寝込んでたってことですか・・・」
最近忙しかったから・・・
「いい加減起きないと裏内の奴が騒ぐし、何よりも人手が足りない」
「それは・・・まあそうでしょうね」
園村さんの失踪に祠の神体、沈船鱗、巨大なナメクジに変じた沈船屋敷。報告すべき事柄は無数にある。私たちがこの村に来て僅かな時間で立て続けにこれだけのことが起きたんだから、藪蛇体質は絶好調・・・全く嬉しくない。
「そんな訳で試しにぺシぺシしたら起きた」
「起きましたか」結構痛かったですよ。
「ちなみに裏内は俺が着いた時にはもう動きまわってた。俺と一緒にお前たちを運んだのはアイツな」
タフだな人外。あの大立ち回りといい、ふとした拍子にうっかりこっちの骨を折ったりとかしないよね・・・?
「そうだ、それで園村さんは」
「お前といっしょに伸びてるのを見つけたよ」
「何か、その、彼ケガとかしてませんでしたか?」
私の力で「神様」を無理に引き剥がしたんだから、肉体にかなり負担を掛けたはず。
「一応ざっと見た感じ目立つ外傷はなかった。ただ話を聞く限りだと、この村に来た後の記憶がすぽっと抜け落ちてるみたいだ」
「・・・そうですか」
神に憑かれた男。沈船村という場がその混合のきっかけになったというなら、やはりここは彼にとって相性が良すぎたんだろう。
祓い師にとっては、良すぎる相性も危険だから。
まあ、諸々本心とかいろいろ目にしちゃったけど、ややこしくなるから宮上さんと所長には黙っていよう。
私も人の人格どうこう言える程立派な人間じゃないんだよ。
「沈船邸はどうなりました」
「瓦礫の山だよ。祠とやらも、あの様子じゃ掘り出すのは無理だろうな」
「じゃあ祠の中身は。あの肉塊は」
「? 何言ってんだ?」
宮上さんはポカンとした表情を浮かべた。
「あそこには沈船の屋敷の残骸や中の家具しかない。生き物なんて影も形もなかったよ」
・・・影も形も、か。
「幸いお前たちが村長含め使用人とか内部の人を全員屋敷から退避させていたおかげで、人死は出なかった」
「それはよかった・・・ちなみに宇羅は何かいってましたか?」
「いや、別に何も聞いてないぞ」
宇羅は何も言わなかった。
つまりそういうことなんだろう。
幻想の神体は、幻に・・・取り込まれた人が誰も戻ってこなかったのは残念だけど。
いや、もしかしたら・・・
「・・・おい、聞いてるか、庚游理」
「へ。あ、すみません」
「全く・・・落ち着いたら所長に電話しろよ」
「所長に?」
「仕事が終わったら事後報告は基本だろうが。一応心配してたから早く声を聞かせてやれよ」
「そ、そうですね」戦闘狂の宮上さんがまともに見える・・・
「・・・お前ってたまに失礼なこと考えてないか?」
「そんなことはありませんよ?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「まあいいや。庚游理」
「何ですか?」
「よくやった。お前たちのおかげで園村、それにここの人間を助けることが出来た」
「・・・ありがとうございます」
初めて宮上さんに褒められた。
・・・うん。これだけでも苦労した甲斐はあったかも。
「・・・もしもし、庚くん?」
「はい所長、私です」
「良かった、無事だったんだね。心配してたんだ」
「そうですか。ご心配お掛けしました・・・それで園村さんについてですが」
「うん、彼については宮上くんから報告が上がってて、本人とも話した。記憶の混濁があるみたいだから、それも含めて戻ったら検査に廻す予定だよ」
「・・・私や宇羅のこと、何か言ってました?」
「いや、別に」
「そうですか」
止む負えない状況だったとは言え、私たちがボカスカ殴ったこと、憶えてなくて助かった・・・
あれだけやり合って「目立った外傷はない」んだから、あの人も大概化け物じみてるって思ったのは秘密にしとこ。
「それで、宇羅の方からも聞いたんだけど今回も『幽霊屋敷』に遭遇したって」
「ええ」
「そろそろ旅行する度に幽霊屋敷に遭遇する領域に到達しつつあるね」
「嫌です、どこの名探偵ですかそれ」
真剣に私の身体がもたないから。宇羅はどうか知らないけど。
「そうだ、所長。『汚染禍』ですが」
「ああ、それもついでにきみに探るよう頼んでたんだったね」
「あれからそれとなく岬さん・・・村長とかに聞いてみたんですけど、そんな言葉は聞いたこともないそうで」
「まあ、先に言った通りマイナーな専門用語みたいなもんだから」
よかった。なら私が知らなかったのも問題ないな! ・・・・なんて思ってませんよ?
「私だってそう簡単に見つかるとは思ってないよ。ごめんね、わざわざ手間をかけさせたみたいだ」
「いえ・・・」
結局「汚染禍」とはどういうものなのか、教えるつもりはないんだろうか?
「『蔵記様』なんて如何にもな神を奉るから、もしかしてと思ってたんだけどな~」
「・・・何だかいろいろ事情がありそうですね」
「聞いてくれる?」
「あ、あのすみません。この村に来てから神関連でいろんな情報詰め込まれたんで。またの機会に」
「あ、そうなんだ・・・ただひとつだけ言っとこうか、庚くん。これは私の推測で、今回の依頼には直接関係のないことだから黙っていたんだけど」
口調を微妙に変えて、所長は話を続けた。
「沈船村、沈船鱗の手で『蔵記様』の眠る亥頃湖の畔に建てられた、神を奉る村。そこの本来の姿は」
「方舟ですよね?」
「・・・・・・・どうしてそう思うの?」
「別にはっきり論理的な証拠があった訳じゃないです」
ただ船という字が含まれていたり、大雨で氾濫が起きるのを心配する私に岬さんがいった言葉。
ー「この村にいる限り、世界が滅びても皆さんはきっと大丈夫です」-
その程度の根拠で思いついたことを言っただけだ。
「それに、教団の開祖が共同体を拓いたっていう村の来歴も、元からそういうものとして使うつもりだったんじゃないかなって」
「だとすればひどい名前だよね『沈む船の村』だなんて。ブラックジョークにしても笑えない」
「昔は魔除けの為、子供にわざと悪い名前をつけることがあったと聞いたことがあります。案外それと同じ考えで命名したんじゃないんですかね?」
沈船鱗も岬さんも、村全体をまるでひとつの生命のように考えてる節があった。生き物。自分が生んだ子供。
「沈船鱗の開いた教団についての資料は、混乱期で多くが失われた。でも現存するものもいくつかある。それによれば彼は間もなく世界が終わる。自分たちはそれを生き延びると側近に言っていたそうだよ」
「そのままのこと言ってたんですね、あの人」
「まあこれ自体よくある終末論の亜種と片付ければ済む話だけどね」
実際今の世界は怨霊が跋扈し、異界の神が絶えず現実を浸食している。
「末法の世」
鱗は正しくそれを予見していたのかも・・・
「まあ、今となってはわからないよね」
「・・・・そうですね」
「もうちょっと詳しいことは帰ってから聞かせてもらうよ」
「わかりました、報告書の文面は考えておきます」
上手くまとめられるか、正直自信がない。隠しといた方がいいこともあるし。
「じゃあ改めてお疲れ様、庚游理」
・・・はい、今回は本当に疲れました・・・
「ふえ? あ、宮上さん」
気が付くと私の顔を宮上さんがぺシぺシと叩いていた。何で私は彼寝込みを襲われているんだろう・・・?
「目を覚ましたか。お前が最後だ」
目を・・・あ、そうだ。私あの沈船の「体内」にいたんだった。
「来て早々お前たちをここまで運ぶのは骨が折れた」
ここは・・・宿屋、私たちの部屋だ。
「えっと宮上さんは何時この村に」
「昨日の夜。検査やらなんやらが終わって速攻で駆けつけたから」
そうなんだ。後輩の為にそこまで・・・
「いや、お前と宇羅がこれ以上迷惑を掛けると、うちの評判が地底深くまで沈んでしまうから早く行けって所長が急かすから」
「あ、そうですか」
「俺はお前と宇羅は放っておいても、好き勝手やって何だかんだ上手くやるって言ったんだけど」
「それはそれで冷たいですね」
確かに好き勝手した結果、あなたの実家は壊れちゃったけど・・・ん?
「昨日の夜って、今何時ですか?」
「もう午後4時になるくらい」
「丸一日寝込んでたってことですか・・・」
最近忙しかったから・・・
「いい加減起きないと裏内の奴が騒ぐし、何よりも人手が足りない」
「それは・・・まあそうでしょうね」
園村さんの失踪に祠の神体、沈船鱗、巨大なナメクジに変じた沈船屋敷。報告すべき事柄は無数にある。私たちがこの村に来て僅かな時間で立て続けにこれだけのことが起きたんだから、藪蛇体質は絶好調・・・全く嬉しくない。
「そんな訳で試しにぺシぺシしたら起きた」
「起きましたか」結構痛かったですよ。
「ちなみに裏内は俺が着いた時にはもう動きまわってた。俺と一緒にお前たちを運んだのはアイツな」
タフだな人外。あの大立ち回りといい、ふとした拍子にうっかりこっちの骨を折ったりとかしないよね・・・?
「そうだ、それで園村さんは」
「お前といっしょに伸びてるのを見つけたよ」
「何か、その、彼ケガとかしてませんでしたか?」
私の力で「神様」を無理に引き剥がしたんだから、肉体にかなり負担を掛けたはず。
「一応ざっと見た感じ目立つ外傷はなかった。ただ話を聞く限りだと、この村に来た後の記憶がすぽっと抜け落ちてるみたいだ」
「・・・そうですか」
神に憑かれた男。沈船村という場がその混合のきっかけになったというなら、やはりここは彼にとって相性が良すぎたんだろう。
祓い師にとっては、良すぎる相性も危険だから。
まあ、諸々本心とかいろいろ目にしちゃったけど、ややこしくなるから宮上さんと所長には黙っていよう。
私も人の人格どうこう言える程立派な人間じゃないんだよ。
「沈船邸はどうなりました」
「瓦礫の山だよ。祠とやらも、あの様子じゃ掘り出すのは無理だろうな」
「じゃあ祠の中身は。あの肉塊は」
「? 何言ってんだ?」
宮上さんはポカンとした表情を浮かべた。
「あそこには沈船の屋敷の残骸や中の家具しかない。生き物なんて影も形もなかったよ」
・・・影も形も、か。
「幸いお前たちが村長含め使用人とか内部の人を全員屋敷から退避させていたおかげで、人死は出なかった」
「それはよかった・・・ちなみに宇羅は何かいってましたか?」
「いや、別に何も聞いてないぞ」
宇羅は何も言わなかった。
つまりそういうことなんだろう。
幻想の神体は、幻に・・・取り込まれた人が誰も戻ってこなかったのは残念だけど。
いや、もしかしたら・・・
「・・・おい、聞いてるか、庚游理」
「へ。あ、すみません」
「全く・・・落ち着いたら所長に電話しろよ」
「所長に?」
「仕事が終わったら事後報告は基本だろうが。一応心配してたから早く声を聞かせてやれよ」
「そ、そうですね」戦闘狂の宮上さんがまともに見える・・・
「・・・お前ってたまに失礼なこと考えてないか?」
「そんなことはありませんよ?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「まあいいや。庚游理」
「何ですか?」
「よくやった。お前たちのおかげで園村、それにここの人間を助けることが出来た」
「・・・ありがとうございます」
初めて宮上さんに褒められた。
・・・うん。これだけでも苦労した甲斐はあったかも。
「・・・もしもし、庚くん?」
「はい所長、私です」
「良かった、無事だったんだね。心配してたんだ」
「そうですか。ご心配お掛けしました・・・それで園村さんについてですが」
「うん、彼については宮上くんから報告が上がってて、本人とも話した。記憶の混濁があるみたいだから、それも含めて戻ったら検査に廻す予定だよ」
「・・・私や宇羅のこと、何か言ってました?」
「いや、別に」
「そうですか」
止む負えない状況だったとは言え、私たちがボカスカ殴ったこと、憶えてなくて助かった・・・
あれだけやり合って「目立った外傷はない」んだから、あの人も大概化け物じみてるって思ったのは秘密にしとこ。
「それで、宇羅の方からも聞いたんだけど今回も『幽霊屋敷』に遭遇したって」
「ええ」
「そろそろ旅行する度に幽霊屋敷に遭遇する領域に到達しつつあるね」
「嫌です、どこの名探偵ですかそれ」
真剣に私の身体がもたないから。宇羅はどうか知らないけど。
「そうだ、所長。『汚染禍』ですが」
「ああ、それもついでにきみに探るよう頼んでたんだったね」
「あれからそれとなく岬さん・・・村長とかに聞いてみたんですけど、そんな言葉は聞いたこともないそうで」
「まあ、先に言った通りマイナーな専門用語みたいなもんだから」
よかった。なら私が知らなかったのも問題ないな! ・・・・なんて思ってませんよ?
「私だってそう簡単に見つかるとは思ってないよ。ごめんね、わざわざ手間をかけさせたみたいだ」
「いえ・・・」
結局「汚染禍」とはどういうものなのか、教えるつもりはないんだろうか?
「『蔵記様』なんて如何にもな神を奉るから、もしかしてと思ってたんだけどな~」
「・・・何だかいろいろ事情がありそうですね」
「聞いてくれる?」
「あ、あのすみません。この村に来てから神関連でいろんな情報詰め込まれたんで。またの機会に」
「あ、そうなんだ・・・ただひとつだけ言っとこうか、庚くん。これは私の推測で、今回の依頼には直接関係のないことだから黙っていたんだけど」
口調を微妙に変えて、所長は話を続けた。
「沈船村、沈船鱗の手で『蔵記様』の眠る亥頃湖の畔に建てられた、神を奉る村。そこの本来の姿は」
「方舟ですよね?」
「・・・・・・・どうしてそう思うの?」
「別にはっきり論理的な証拠があった訳じゃないです」
ただ船という字が含まれていたり、大雨で氾濫が起きるのを心配する私に岬さんがいった言葉。
ー「この村にいる限り、世界が滅びても皆さんはきっと大丈夫です」-
その程度の根拠で思いついたことを言っただけだ。
「それに、教団の開祖が共同体を拓いたっていう村の来歴も、元からそういうものとして使うつもりだったんじゃないかなって」
「だとすればひどい名前だよね『沈む船の村』だなんて。ブラックジョークにしても笑えない」
「昔は魔除けの為、子供にわざと悪い名前をつけることがあったと聞いたことがあります。案外それと同じ考えで命名したんじゃないんですかね?」
沈船鱗も岬さんも、村全体をまるでひとつの生命のように考えてる節があった。生き物。自分が生んだ子供。
「沈船鱗の開いた教団についての資料は、混乱期で多くが失われた。でも現存するものもいくつかある。それによれば彼は間もなく世界が終わる。自分たちはそれを生き延びると側近に言っていたそうだよ」
「そのままのこと言ってたんですね、あの人」
「まあこれ自体よくある終末論の亜種と片付ければ済む話だけどね」
実際今の世界は怨霊が跋扈し、異界の神が絶えず現実を浸食している。
「末法の世」
鱗は正しくそれを予見していたのかも・・・
「まあ、今となってはわからないよね」
「・・・・そうですね」
「もうちょっと詳しいことは帰ってから聞かせてもらうよ」
「わかりました、報告書の文面は考えておきます」
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