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虚ろな探偵を満たすもの
蜘蛛と怪人
しおりを挟む「なんか、私たち馬鹿みたいじゃない?」
「ちょっとは言葉を選んでください」
だって日が沈んだ後、大の大人がこんな何もない所に突っ立ってるんだから。
私は一応、コートのフードを被ってで顔を隠してる。熱遮断コート、念の為持ってきててよかった。
「仕方ないとはいえ、その服装怪しさの塊ですね」
「あなたの言い方の方がひどいなっ!?」
そんなしょうもない会話をしてる内にも、時間は過ぎていく。
「この辺り、本当に人の気配がないんだ」
「酒場とかは西の方に多いですから。東門は倉庫くらいありませんからね」
だから、相手はここを指定したってことだろうけど。それだったらついでに時間をはっきりさせといて欲しかった。
「どのくらい待ってればいいんだろ」
「気が早い・・・まああんまり待たされるようだったら、一旦ヤマメさんに合流しましょうか」
「下手に私が出歩いてると、ここの探偵の関係者に見られるかもしれないからね。『土蜘蛛』もそれは望んでないだろうし」
「気にかけてくれるとはありがたいの」
「私らのせいで尻尾掴まれるようなことになった、なんて余計な言いがかりはされたくないから」
「そこまでさもしい真似はせんが」
「そういうもんかな」
「ヒフミさん、誰と話してるんです?」
え。
「ようやく気付いたか。このまま会話が続いとったら、どうしょうかと思ったわ」
その声は真後ろから聞こえた。
慌てて振り返ると、そこに小柄な影がいた。
いくら適当に駄弁ってたからって、ここまで接近されるまで気付かないなんて。
「初めまして、『拾人形怪人団』の『カオトバシ』そして『タンテイクライ』」
大仰にお辞儀をする少女。年下・・・にしては何だか変な感じがする。石の表面に、無理やり皮膚を貼り付けて人間の外見にしているような歪さ。
「ワレは糸追ジキ。探偵そして汝らが『土蜘蛛』と呼ぶ一群のひとりじゃ。よろしくな」
そう言って長い青髪をかき上げニカっと笑った。
「分量が多い・・・それにやたら細かい」
部屋でひとりさっき渡された冊子。ただでさえ状況毎の対応を書いてる上に、ひとつの事にやたら脚注とか付けてるから滅茶苦茶読みにくい、というか読む側のこと1ミリも考えてない。
「これだったら、黄色矢さんがまとめたっていう箇所だけで良くない?」
作戦の大まかな流れをわかりやすくしたって言ってたけど、他が壊滅的かつ破滅的に煩雑なこの書類群の中でその箇所だけがまともに理解出来る。
優秀な探偵ならこれをパパっと理解するんだろうか。そういうのは普通の人間にわかりやすくしないと駄目でしょ。
わたしも知らない専門用語もある・・・
行動開始は今から一週間後。そんなに時間がある訳じゃあないのに、変な所で内輪のノリを押し付けてくるのは迷惑だろうに。
「ま、わたしの能力不足ってわかってるけどさ」
はぁ・・・こんなことならヒフミさんといっしょに帰れば良かった、なんてことも思っちゃったり。
今更そんなこと言うのも情けないけど。
取り合えず、当日の襲撃場所、作戦開始時刻に目標を発見した場合の対処はさすがに頭に入れたけど。
あとは、そう『土蜘蛛』について。
「『奴らは勢戸街の周辺地域におよそ百年の長きに渡って存在している集団である・・・』」
「そんで、その歴史の中で、『堕ち神』の権能を利用して来たんじゃな」
見た目に似合わず、落ち着いた達観したような口調でジキは私とケラに説明を続けた。
「依り代を介したそれらとの意思疎通、シャーマニズム型憑依固定等の利用、まあ口で言ってもわからんか」
何だか知らない単語があるな。鍵織の兄妹に聞けばわかるだろうか?
でも見るからに系統というか、分野が違ってる感じなんよね。
「・・・昨日僕に話しかけてきたのはその権能を使ったってことですか?」
ジッと話を聞いていたケラが確認した。
「ああ、あの時は失礼したの。直結させてもろた。その方が何かと早かったんでな」
「直結?」
怪訝な顔を向けるケラ。
「うちのお家芸みたいなもんじゃ。あんたらの『胞子』と同じ根を持つ技術ちゅうたら伝わるか?」
「『胞子』・・・『百眼』のこと」
百眼。脳に寄生し外部からの操作で記憶と思考を操作する技術。
「ああ、そう言えばそういう名前じゃったの」
「・・・ケラ。怪しい薬飲んだり、触覚に触ったりしたの?」
「そんなことする訳ないでしょう。街に来てすぐにそんなことするなんて、どれだけドジですかそれ」
・・・うっかりやっちゃうかも。ケラってたまに抜けてる所があるし。
「あなたがそれ言いますか・・・」
「まあ、仕込みも業のひとつ。安心せい。汝の脳を傷つけたりはせんかったからな」
そうか。なら取り合えず。
「よし、ケラ。あなたの脳を一度洗浄しよう」
「いきなり何を言ってんだあんた!?」
「いや、まあおかしなことは言ってないよ」
あ~鍵織を呼ばなきゃな。肉体丸ごと分解して組みなおせるあのふたりなら何とかするでしょ。あるいはバララの胞子で上書きするとか。
「脳に何か仕込まれたからそれを洗い落とす・・これが本当の洗脳ってか」
「笑えないから!」
「一応言っとくが、そのケラとかいうのから、こちらの針は抜いとるよ」
ジキが口を挟んだ。その表情はドン引きしてるように見える。そんな態度を取られたら、こっちの感覚がおかしいみたいじゃない。
「針? それは受信機みたいなもの?」
「敵対するつもりはないからな。何なら検査すればわかるじゃろ」
・・・そこまで言うからには、本当なんだろうな。
でもその「針」とやらがいつでも刺せるなら、厄介なことに変わりはないけど。
「・・・そんで話を進めていいか、『拾人形』の頭殿」
勝ち誇ったように、ジキは私の名前を言った。
「そこまでわかってるなら私の正体も」
「ああ、わかる範囲でな。あんたも色々複雑な事情があるようやんな」
訳知り顔で頷くのは、正直気に障るけど。
「・・・誰だってそうだよ」
もう顔を隠してても意味はない。フードを取りながら私はそう言った、
「そうか? しかしそうして顔を晒してくれたっちゅうことは、こちらを信用したってことかいな」
「・・・まあ、そうでしょうね」
「含みのある言い方じゃな」
まあええ。
そう言うと場を仕切りなおすようにジキは頭を振った。
「そんでそろそろ本題に入らせてもらおう、ええかえ?」
完全に主導権を握ったと確信してるんだろうな。
しかし、この人、ジキと言ったっけ。第一印象もそうだけど、口調もまるで複数のものが混ざったみたいで一貫してないし。
掴みどころがない。
「この街の第11探偵団が大規模な攻撃を計画しとるのは知っとるよな」
「正確にはちょうど1週間後、4カ所を探偵率いる集団で制圧し『蜘蛛の親』と呼ばれる敵集団の脳を破壊する」
「さすがにそこまでは掴んどるか」
・・・わざわざ探偵として入り込んでおいて、その程度しかわかっていないって意味じゃないよね。穿ち過ぎかもしれないけど、さっきからちょくちょく上から目線に語られてるのを感じるし。
「それで、ジキさんは私たちに何をさせたいので? あなた方からこのケラに接触したのはそういうことでしょう」
「まあな。本来なら相手がどれだけ徒党を組もうと、ワレ含め2,3人で十分戦えるんじゃが、今回は外部から『恩寵持ち』を呼んできおった」
「恩寵持ち」? 確か探偵のことをそう呼んでた時代があったと芦間の家で教わったような。
「本物の『来訪者』、ああ確か今はあいつらの自称した『名探偵』と呼ばれとるんか。それ程の強さはないにせよ集まって厄介なんは変わりない」
それにフシメは複数個所を潰すと言っていた。つまり本命の「親」を守っても、どうしても被害は出るということ。
「それじゃったら、こちらも数を揃える。単純で手っ取り早い話じゃ」
「わかりますけど」
策を弄する必要はない。素直に迎え撃つ、簡単な話。
問題は真正面から戦うことを前提としているということ。
「そうじゃが?」
「例えひとりであろうと、この世界で探偵が驚異的な力を持つのはわかってるでしょう、それこそ精霊やらが束になってもかなわない程に」
「うむ」
「・・・ちなみに罠を仕掛けたりなどは」
「『黄色矢』とかいうのがおってな。下手な仕掛けはすぐに看破されてしまう」
・・・あの時の探偵か。
「それじゃあ、本当に生身と能力で探偵を迎撃しろと」
「それに問題が?」
まるで意味が分からないと、まつろわぬ民のひとりは言った。
「真っ向勝負で戦えば、異形・・・怪人と汝らはいっとったか。それが探偵に負けるはずがないじゃろ」
・・・会話の端々から何となく感じていた違和感の正体がわかった。
土蜘蛛。ジキ含め能力持ちはそれなりにいるんだろうけど、私たちと根本的に認識が異なる。
私たちにとって怪人の力は搦め手をもって力で勝る敵と戦う為のもの。
ジキたちにとって異能は探偵と決闘のようにさしで戦い組み伏せる為のもの。
こちらが暗殺者のように行動しているなら、土蜘蛛は兵士。
情報を掌握した上で、武力でねじ伏せる。
この人たちが求めているのは、盗賊にナイフ一本で武人の真似事をさせるようなものだろう。
「そこまで卑下する必要はないと思うんじゃが。現に汝らはあの『井草』たちを葬ったんじゃし」
「それも策・・・とその場の勢いで何とか上手く行っただけです」
怪人は探偵に敵わない。
だからこそ、徹頭徹尾相手の土俵に上がらない。
それを曲げなかったからこそケラにヤマメさん、そして私はあの修羅場を生き残ることが出来た。
本当に、ギリギリ掴み取ったのがあの勝利なのだから。
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