探偵災害 悪性令嬢と怪人たちのギリギリな日常と暗躍

鳥木木鳥

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虚ろな探偵を満たすもの

英雄化

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「まあ、そうなるか。なら無理強いは出来んな」
 ジキはあっさりと引き下がった。もっとごねられるかと思ってたけど。
「汝らがいなくともワレらが探偵にそうそう敗北することはないぞ」
 ああそうですか。その自信はうらやましいな。
「ほんで、ここからが本題なんじゃが」
「何ですか、急に改まって」・・・嫌な予感がひしひしとするな。
「話を聞かせて欲しいんじゃ。タンテイクライ、いや芦間ヒフミ」
 私の名前をはっきり言うと土蜘蛛のひとりは話を続ける。

「芦間ムナ。彼が『英雄ジークフリート』に変異した経緯について仔細教えて欲しいんじゃ」

「・・・どうしてそれを」
 私たち以外にあの現象のことは誰も知らないはずなのに。
「ああ。汝らはあれが世界で初めて起きたもんと思っとるだろうが、そうではなくてな」
 トントン。溜めるように言葉を区切り耳にかけたヘッドフォンを叩く。

「あの変貌を引き起こす『儀式』はうちの組織が確立した術式なんじゃから」


 英雄化。
「迦楼羅街事件」の最中第19探偵団団長、芦間ムナが名探偵の身体の抜け殻を介して変貌した英雄は探偵とも怪人とも異なる力を発揮していた。
 最終的にヒフミの手で自滅に近い形で倒され、記憶を操作された後は再びそれが起こることはなかった。
 何故ムナがこのような突拍子もない儀式を知っていたのかは、最後までわからなかった。

 ヒフミさんは何やら心当たりがあるようだけど・・・確証がないとかであまり話してくれない。
 その話になると、やけに嫌がってる。何でだろう。
 そんな訳の分からない魔法のようなあれの起源が「土蜘蛛」の技術?
「魔法ではなく術式。伝承の登場人物の型を集合無意識から決定し、その物語をこちらで模倣することで顕現させる方法・・・」
「待って。専門用語を一気に話されても、ついていけませんから」
 すごい早口では言うし、常識なんだろうか。
「・・・・・・」
 ヒフミさんは・・・わかってないな。
 僕もさっぱり理解出来ないけど。
「そうか?」
 この程度のことがわからないのか、と言いたげな視線を向けないでくれ。神経に触るから。
 鍵織のふたりなら今の話わかるんだろうか?
 あんまりこういうのにあの兄妹を会わせたくないな。あのマッド振り切り科学者たちは事ある毎に僕たちの身体で新しい技術を実験しようとするんだから。
「まあ簡単にまとめて言うと、芦間ムナはこの世界で4番目に生まれた、いや再現された英雄っちゅう話じゃ」
「それはあんなのが他に3人いるってこと?」
 ヒフミさん滅茶苦茶嫌そうな顔で言ってる。何だか私怨混じってないか?
 まあ、あれをひとりで倒したのは彼女だから、その強さも理解してるってことか。
 この人、さっきはガチンコの戦闘は出来ないって言ってたけど、実際にはそれをやってんだよな。
 まあ、詳しくは知らないけど、実際にはえげつない煽りとかで相手を嵌め殺したであろうと考えれば、まともな戦いじゃなかったんだろうけど。
 ヒフミさん含め、時々自分たちが強いのか弱いのか、わからなくなる。

「今この世界にはあの存在はふたりいるの。まあ何かの拍子に芦間ムナが再び変異すれば3人じゃが」
「縁起でもないこと、冗談でも言わないで下さい」
「すまんの。ほんでその片割れがうちらの頭、と言えば事情はわかるじゃろ」
「・・・あなたたちって私たち怪人とはやっぱり違う存在なんですね」

 旧世界の技術を用いて、異能を有する異形に人を改造するのが怪人。芦間で研究されていた「令嬢」を基にした存在。
 なら「土蜘蛛」の頭が「英雄」であるということは。

「この世界で2番目に英雄に変異した『加羅からザザ』を起源とする戦闘集団、それがワレら『土蜘蛛』じゃ」


 暗闇の中、男はふと顔を上げた。視線の先には何もない。
 しかし彼には全てがわかっていた。全身の感覚に「眼」を持つからこそ、地の外に居ながら外界の状況を十全に把握出来る。
 それが英雄「加羅ザザ」の力の一端だった。
「ジキ」
 その名前を呼ぶ。遠い街にいる彼女に、確かに届くと知っているから。
 本来糸追ジキの「耳」が音を捉える範囲は街の一区画程である。
 ただし親であるザザが「直に」話しかけられれば、どれほど離れていようとその意は伝わる。

 あの時のように。


 巨大な猿が目の前に座っていた。

「・・・・・・・・」
「あんじゃわれ? 幻にしちゃ形ととのっとる?」
「・・・・・・・・」
 あ~これは駄目やね。右手右足壊死。左手重度の火傷、ついでに内臓もいくつか摘出されとう。
 傷ひとつつけずに中身を抜き取るなんて、あやつらの力、大概でたらめじゃね?
「・・・・・・・」
「あ~口ひらくんも、正直キツイんじゃ」
 痛みは・・・・さっき切ったから感じん。そのおかげで辛うじて今意識を失わずに済んどる。
 まあ、目の前にこんな怪物が見えるようじゃ、半分以上は夢の世界にいっとるようじゃな。
 いや、この場合はあの世か。どっちも大して違いはないな。

 元からあちこち弄った脳みそが、ここに来て限界向かえたようじゃな。

「・・・・・・・」
「何何なんじゃさっきから、から黙って。ばけもんならばけもんらしいこと言わんかか」
 自分の言葉も思考も、さっきから変調しとる・・・そうバラバラに・・・

 その声は頭ん中に響いた。
「なんじゃ。こりゃ『てれぱし』とかいうもんか?」
「何だ? てれぱし?」

 ワレの前にいる猿、いや違う。大きさだけじゃなく、手足も胴体も、別の生き物にしか見えない。
「ワレもしらん、北の方の国でやっとう魔法、いや技術っちゅうんか?」
「魔法、技術。何だそれは」
「・・・さっきから『何だ、何だ』と一方的じゃな」
 ふと、何となく。あんまりに相手の形がデタラメだったせいなのか、自分でも思いもよらない言葉が出た。

「人に尋ねる前に、汝のことを聞かせい。それが筋っちゅうもんじゃろ」

 ・・・何をやっとんじゃろな、ワレは。
 幻だかあの世の住民かは知らんけど、こんなアホみたいな怪物にモノの道理を説くなんてな。

「****」

 それは意味のある単語のようだった。音として聞き取れても、頭で理解が出来ない。
 そんな奇妙な言葉だった。
「何じゃそれ、わからん」

「か・・・らぎ・・・ぎ」
 再び猿が口にしたもののうち、いくつか言葉が聞き取れた
「からぎぎ、か?」
「そうだと思う」
「はっきりせんの」
「・・・・・・・」
「ま、ええわ。名乗られたからにはこちらの名前も教えんとな」
 そろそろ意識が飛びそうじゃ。何でワレはこんな状況で、こいつ相手に無駄な時間を過ごしとるんじゃろ。
 ワレは・・・

「糸追ジキ。それがワレの名じゃよ、バケモン」


「わかっとう、な、ええ、そうじゃな」
「何です? いきなりひとりで、誰と話してるんです?」
「ああ、すまんすまん、上からな。うん」
 そう言われて理解出来ない。もっと丁寧に説明して欲しいな・・・
「まあ、ほんでこっちが言ってることはわかってもらえたかいの?」
「私たちが芦間ムナ、及び彼の英雄化現象について得ている情報を、そちらと共有すると」
「ほんで、こちらはその見返りに汝ら『拾人形』に『英雄』に関する技術を提供、っちゅうか諸々のことを教える。それなりに有益なもんを」
「英雄化の儀式」について、丸々とはいかないけど、それなりに武器として使える程度の情報を与えてくる。大まかに言ってそういうことか。
 技術・・・私やケラに言われても困るな。鍵織を連れてこないと・・・またあの変態科学者の玩具が増えるのか・・・
「念の為に言っときますが、私もあの現象について、それ程知ってる訳じゃないです」
「ほうか?」
「私がムナに勝てたのも、ほとんどまぐれで危うい綱渡りを渡り切ったからでして」
 いつもそうだけど。
「だから、そちらの参考になるようなことは教えられないんで」
「それでもええよ? 何が起きたかだけ知りたいんで。背後の諸々を考察すんはこっちの仕事じゃし」

 ・・・まるで探偵みたいな言い草だ。

「だから、どんな些細なことでも教えてくれたらその礼はきっとする」
「それだとそちらには損でしかならないでしょう。私たちだけ得をするのは、どうにも気が引けます」
「汝、変な所で真面目なんじゃな」
 いつだって真面目に仕事をしてるつもりだけど。

「まあ、そう言ってくれるんなら、もうちょっと『お願い』を聞いてくれるか」
 ・・・最初からそう言いたかったんだろうな。
「さっき怪人は真正面から戦っても、探偵に敵わないと言っとったな」
 それは歴然たる事実。
「なら、こちらで汝ら向けに罠なりを用意すれば、勝てるんじゃないか?」
「・・・・何を言いたいかわかりませんが、例えどんな罠があろうと、あれだけの数を一気に相手は出来ません」
 こちらも手足の1、2本・・・どころか彼女のように身体のほとんどを失う覚悟をして、辛うじて勝利した。
 よその組織相手に仲間にそこまで危険な真似はさせられない。

「ひとりだけ。芦間ヒフミとその部下は、ひとりの探偵だけ相手してくれればいい」
 はっきりとジキはそう断言する。

「黄色矢リカ」

 こちらの反応を待たずに蜘蛛はその名を言った。

「あらゆる手を尽くして奴を葬れよ、怪人。ワレらはその為に汝らを選んだんじゃから」
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