探偵災害 悪性令嬢と怪人たちのギリギリな日常と暗躍

鳥木木鳥

文字の大きさ
42 / 60
虚ろな探偵を満たすもの

怪人との再会

しおりを挟む

「・・・・・・・・・・・・・・嫌なこと思い出しちゃった」
 最近昔の夢を見ないようになったのに。やっぱり仲間と思ってた人に後ろから刺されたのは、思ったよりもストレスだったのかも。
 こういうのは、後から響くっていうし。
「まあ、それにしても今更感はあるけどねぇ・・・」
 やっぱりズレてるな、わたしって。
 とにかく・・・切り替えよう。今は目の前のことだ。
 えっと、ここは病室で、なんでわたしがここにいるかというと、確か戦っていて・・・・・・・・・・・・・
「目を覚ましたのかい、ヒルメ」
 扉が開いてフシメ兄さんが入ってきた・・・なんかデジャビュ。
「全身の打撲は一通り治療済み。脳の方も念入りに検査した結果後遺症などはみられなかった」
「脳・・・」
 あ~完全に記憶が戻ってきた。
 わたしはあの蜻蛉にしがみついて、そのまま意識を失ったんだ。
「危ないところだったけど、鏃くんが助けてくれたそうだよ」
「鏃が・・・そうだ、彼はどうしてるんです?」
「・・・治療中だ。残念ながら当分は面会出来ないと思う」
「負傷したってこと?」
「ああ・・・かなりの傷を負っている。幸い命に別状はないけど・・・左腕を斬り落とされた」
 ・・・・わたしのせい?
 いや、そういうのは思い上がりだって、カキネ兄さんなら言うかな・・・なんて、昔のこと思い出したりして。
「治療しながら聞ける範囲で彼から何があったかは聞かせてもらった」
「はい・・・わたしの知ってる怪人とは少し違うけど、蜻蛉のような奴に襲われて」

「『耳蜻蛉』」

 耳?
「それって」
「はっきり接触したのは一度だけだけど、おそらくこれまで僕たちが対応してきた事件・・・希望するなら後で資料を見せるけど、それらの裏で暗躍していた『土蜘蛛』のひとりだ」
 土蜘蛛・・・今回の作戦の目標。勢戸街周辺地域に巣くう怪人の群れ。
「ここまで直接的に攻撃してくるとは、予想外だった。こちらのミスで、ヒルメと鏃くんを危険に晒してしまった」
 本当に申し訳ない・・・とフシメ兄さんは頭を下げた。
「ちょ・・・止めてって。わたしがそういうの苦手だって兄さんは知ってるでしょ!」
 あ、でも3年前から実家に寄り付かなくなってたから、わたしの性格忘れられてるかも。
「今は、今後のことを考えないと。鏃はもう作戦に加われない。だったらそれを補わないと・・・どうしたのフシメ兄さん、驚いた顔して」
「いや。ヒルメってそんな前向きな性格だったかな、と思って」
「そうかな?」
 言われてみれば昔は身内に無能呼ばわりされてもウジウジしてたような。
 そんな性格が変わったのならその原因は・・・

「だめだ~もうダメ、こんなん絶対間に合わないから!」
「あ~なんでいっつも人が真面目にやってる時に余計な仕事はいるかな、私に怨みでもあんのか!」
「私は無能だ・・・もうお終いだわ・・・終わった・・・・・・・・・・・・・・」

 身近に躁鬱気味に気分が乱降下する人がいたから、かな?

 あとついでに信じてた上司に裏切られた後、敵と組んでそいつを陥れた経験のせいとか。

 ・・・・結構えげつないイベントを乗り越えてきたな、わたしって。

「ま、まあ迦楼羅街で色々なことがあったから」
 そうとしか言いようがない。
「・・・そっか。きみを第19探偵団に送ったのは、いい判断だったようだね」

 そうなんだろうか?
 確かにあのまま家で腐っていたら、アキラやムナ、それにヒフミさんとは出会わなかったって考えると、まあそうかもね。
 そのひとりには手ひどく裏切られたけどね。

「話を戻そう。いま鏃くんは外れると言ったけど、彼自身は後方で支援に回ってもらう」
「支援・・・出来るの? さすがに四肢欠損は気合とかで乗り切れるもんじゃないのに」
「第8ではこの程度のケガはしょっちゅうらしい」
 どれだけ修羅場なんだ。
「だからそこに帰ればいくらでも回復出来るらしいから、大丈夫だって」
 本当にいけるんだろうか・・・?
「きみの方はどうだい、蛇宮ヒルメ。治療は終わった、後はきみ自身の意思だ」
「決まってる」
 身体は動く。頭もすっきりしてる。
 何よりも、わたしを助ける為に仲間が傷を負ったという事実がある。

 だったら、戦わない理由はない。

「探偵として、『土蜘蛛』へのに攻勢に参加するよ、予定通りにね」

「・・・わかった」
 そう言ってフシメ兄さんは笑う。
 この人はわたしがこう答えるってわかってたんじゃないだろうか? 特に根拠はないけど、そう思った。

「あ、そうだ。これを渡しておかないと」
 兄さんはカバンから何か本を取り出す。
「これって・・・」
「うちの受付にこの街にある書店の人が来てね」
 書店?
「問い合わせの品、店にないって言ったけど、後から探したらあったとかで」
 問い合わせ? この街の書店に行ったことなんてないのに。
「どうせ他に買う人もいないから、ヒルメに引き取って欲しいって預かってたんだ。もちろん代金はいらないって」

 何、その怪し過ぎる話は。
 全く心当たりがない。誰か別の人と勘違いしてるんじゃ・・・
 そう思いながら手渡された本を見る。

「官能小説ー教会告解室シチュオンリーーエロ成分当社比4000倍」

 ・・・何ぞこれは。

「・・・あまりそういうのを身内に届けさせるのは、兄としてどうかと思う、ぞ?」
「ちがっ・・・・・」
 何だ、何なんだよこれ。これは誰かの陰謀だから!
 ・・・ん・・・教会・・・この嫌がらせとしか思えないやり方。
 まさか。


「やっと会えた。せい・・・じゃなくて鏃、ケガの具合はどう?」
「見ての通りきれいに切断されてるよ。あの蜻蛉女、手打ちがどうこうひとりで納得して好き勝手しやがって・・・」

 あの後。ヒフミさんたちと一旦別れた僕は何とか適当な医務班の人間の姿を借り、病室に潜り込めた。
 もちろん本物は予めうその呼び出しを個人あてに送っておいて、当分ここに戻ってくることはない。これなら後になってもどっかの事務の不手際で話は終わりになる。
 でも、そんな方法だからそれほど時間は稼げない。

 だからさっさと本題に入らないと。
「上の人はなんて言ってる?」
「後方に回すそうだ。一応やる気はあるって言っといたから」
「その腕じゃ足手まといにしかならないでしょうに」
「忘れたか? 狙撃は探偵としての俺の専売特許だ。射程ギリギリから突入する奴・・・ああ、いい忘れてたけどヒルメと組むことになったんだが、あいつの支援をするだけでだいぶ楽になる」
「そうか?」
「少なくともここの頭はそう思ってるみたいだ」
 頭、蛇宮フシメか。ヒフミさんが言ってた通りやたら楽観的な人なんだな。
「それで、そっちの頭はどうなんだ? あの人に言われてきたんだろう」
「ああ、ヒフミさんからの伝言です。『無理せず全力で私の援護をしてくれ』」
「いきなり矛盾してるな」
「『お前のケガの落とし前は必ずつけるから。今は探偵としてそこで一連の行動に参加して』・・・以上」
「いちいち声帯を模写して言う必要はないぞ」
 折角ライブ感を出そうとしたのに。擬態を解かずに声帯だけいじるの結構気を遣うんだぞ。
「・・・とにかく、このまま大人しくしてればいいんだな」
「さすがにその状態であれこれ無茶はさせれられないよ。戻ったら鍵織のふたりに速攻でその腕の再生をしてもらうから」
「またあいつらが勝手に人の身体に触手や角やマシンガンを生やさないか見張りながら手術を受けるのか・・・」
 マシンガンは初めて聞いたな。詳しいことを知りたいとは思わないけど・・・発想は馬鹿で子供じみてるのに、扱う技術が世界最高峰って真剣に質が悪い。
 今更だけど。
「そろそろ、人も来るか・・・じゃあもう行くから」
「わかった。そうだ、最後にひとつ。残りのふたりはどうしてんだ」

「勧誘活動」

「・・・・」
 ポカンとした顔を向けてきた。
 しょうがないだろ。そうとしか言えないんだから。


「久しぶり。会いたかった」
 夜。
「指定された」時間に、人気のない公園に赴いたわたしの前にあの怪人が現れた。

「うるさい、あれはあんた一流の嫌がらせか・・・もう、本当いい加減にしてよぉ」
 でかでかと書かれた「教会」という単語が気になって、やむなくあのふざけた本を全文通読した。
 おかげで何とも言えない気分になった・・・ことはおいておく。
 重要なのはページのあちこちに意味不明な記号が書き込まれていたということ。
 それらは単体では無意味だけど、小説本文と照らし合わせることで「時刻」と「場所」が浮かび上がってくる。探偵なら誰でも解ける暗号とも言えない種類のもの。
 まあ予め「そういうもの」があるとわかった上で読まないとそもそも存在自体に気付かれないけど。

 ・・・まるで必ずメッセージが伝わると、わたしを信頼しているみたいじゃない。
「こいつ」にそう思われても、悍ましいとしか感想が湧かないけど。

 わたしの前に立つのは、あの日と同じ、白い華のような優美な姿。
 だけど一皮むけば、その本性は捕食者以外の何物でもない。

 それを表す彼女の名は「タンテイクライ」
 探偵を喰らう上位の魔性。

「大体、何であんたがここにいるのぉ、帰って」
「再会して早々それはひどくない」
 ・・・メンタルに来る、とかぼそぼそ呟いた気がするけど、知るか。
 即座に刃で斬りかからないだけ温情があるでしょ。
「ひどい・・・いっしょに戦った仲じゃない」
「あれは成り行きで、たまたま利害が一致したから」
「一度そうなったらもう仲間・・・じゃないの?」
「そこで疑問形で聞いてこないでよ、こっちが悪いみたいじゃない」
 もしかしてこいつ、単純に距離感がバグってるタイプなのか?
 だとしたらめんどくさい・・・やっぱりあの時始末しとくべきだった?
 いやいや。さすがにそれは・・・・倫理的に抵抗があるというか・・・
 それにこいつ、一応それなりに強いし。

 何よりも、わたしが探偵であり続けるために、こいつらの「記憶操作」の力が必要だった。

 あれ? これ字面だけなら、我が身可愛さに思いっきり道を踏み外してない?

「みたいじゃなくて、割と保身に走ってたと思うよ、お姉さんは」
「うるさい、怪人なのにいきなり正論でならないで」
 ここで罪悪感がぶり返してくるから。止めて欲しい。
 あと突然のキャラづくりも。

「・・・感謝はしてるんだよ? あの『記憶の操作』について、きみが誰にも話さないでいてくれたことにさ」
 えっ・・・どうしてそれを知ってるんだろう?
「・・・・・・秘密」
「・・・・・・心底うざいよぉ、あんた」
「辛辣!」

 いちいち煽ってるように感じるのは、冷静さが足りないからかな~?
 それにしてもこいつの顔見てると心がざわざわしてくるんだよねぇ~!


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

『床下に札束を隠す金髪悪女は、毎朝赤いマットの上で黒の下着姿で股を開く』〜ストレッチが、私の金脈〜

まさき
恋愛
毎朝六時。 黒の下着姿で、赤いヨガマットの上に脚を開く。 それが橘麗奈、二十八歳の朝の儀式。 ストレッチが終わったら、絨毯をめくる。 床下収納を開けて、封筒の束を確認する。 まだある。今日も、負けていない。 儚く見える目と、計算された貧しさで男の「守りたい」を引き出し、感情を売らずに金だけを回収してきた。 愛は演技。体は商売道具。金は成果。 ブリーチで傷んだ金髪も、柔らかく整えた体も、全部武器だ。 完璧だったはずの計算が、同じマンションに住む地味な男——青木奏の登場で、狂い始める。 奢らない。 触れない。 欲しがらない。 それでも、去らない。 武器が全部外れる相手に、麗奈は初めて「演じない自分」を見られてしまう。 赤いマットの上で、もう脚を開けなくなる朝が来るまでの話。

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる

まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」 父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。 清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。 なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。 学校では誰もが憧れる高嶺の花。 家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。 しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。 「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」 秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。 彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。 「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」 これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。 完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。 『著者より』 もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。 https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858

処理中です...