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第3章 赤髪のルーチェ、襲来
消えたパジャマ
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「あれ……?」
一日の仕事を終え、ショコラは自室に戻って、お風呂の準備をしようとしていた。
「パジャマがなくなってる……」
もふもふパジャマは昨晩洗濯して、お昼頃にたたんでベッドの上に置いておいたはずだ。それなのに、ベッドの上には何もなかった。
「おかしいなぁ。またミルとメルがどこかにやったのかなぁ?」
ミルとメルは、よく人のものを隠したり、反対に邪魔なものを持ってきたりする。ショコラの場合、隠されるというよりも、部屋にいろんなものを勝手に持ち込まれることの方が多かった。ベッドの上のぬいぐるみたちがその例だ。ショコラの部屋であると同時に、ミルメルの部屋でもあるようなものなのだった。
「今日はもふもふじゃない方のパジャマをきよう……」
仕方なくそう呟くと、ショコラはお風呂に向かったのだった。
◆
次の日の朝。
ショコラが目を覚まして、ベッドを降りると、今度はもこもこスリッパがなくなっていた。
「……?」
目をこすって裸足で床に降りたショコラは、さらにいつも使っている仕事用の靴がなくなっていることにも気づいた。
「あれ……」
さすがに変だと思ったショコラは、朝食の席でミルメルに聞くことにした。
◆
「えー、パジャマ?」
「スリッパ?」
運良く、今朝は朝から朝食の席にミルとメルが揃っていた。
そこで二人に聞くと、二人は目玉焼きを食べながら、話半分な感じで首をかしげた。
「無くなったのは昨日の夜と今日の朝なんですけど……ショコラの大事なものなので、返して欲しいです」
そう告げると、二人は顔を見合わせた。
「えー、ミルやったっけ?」
「メルもしらない……やった?」
「ヤマトのパンツを隠したのは覚えてる」
「リリィの高級クリームを隠したのも」
「「うーん、忘れちゃった!」」
てへ、と舌を出す二人に、リリィとヤマトがカンカンに怒ったのは言うまでもない。
二人が怒っている間に、ショコラはうーんと首を傾げていた。
そこへシュロが、心配そうに声をかけてくる。
「ショコラさん」
「はい?」
「最近、おかしなことが続いていますから、しばらく外のお掃除はやめにしましょう」
「おかしなこと……」
思い当たるのは、差し出し人のない郵便物のこと。
(そう言われてみれば、やっぱりおかしいのかもしれない)
「それに、またヤマトを襲ったというワイバーンが目撃されたそうですから、しばらくは館の中で静かに暮らしましょう。外も寒いですし」
「……そうですね」
ショコラは素直に頷いた。
◆
朝食後、ショコラはラグナルを起こすまでに少し時間が空いていたので、自分の部屋に戻った。
パジャマはどこへいってしまったのかと、クローゼットをゴソゴソ漁る。
「!」
ショコラは驚いた。
「あれ? なんだか、まだ服が減ってるような……」
いつも着ている下着や、靴下、ワンピースがなくなっているではないか。
(……)
部屋に、誰かが入っていた、ということだろうか。
なんだか気味が悪いと思うような状況だ。
けれどショコラは、館の誰かがそんなことをするなんて思えなかった。
「もしかして、ショコラの頭がおかしくなっちゃった……?」
ショコラは口元を押さえた。
この間、テレビで若い人でもそういう病気になることがあると言っていたのだ。
「どうしよう……」
病院とかにいった方がいいのだろうか。
ショコラは不安そうにおろおろしながらも、結局解決策が見つからなくて、仕事へ戻ったのだった。
◆
「ふふふっ。ようやく気付いたかしら? まったく本当におバカなんだから」
ショコラの部屋のそばの木から中を覗いていた少女は、おかしそうにクスクスと笑った。
少女の考える「嫌がらせ」は地味すぎたが、ようやく効果が現れてきたようだった。
「まあ、ちょっと動揺の仕方が変だけど。あいつ……頭が弱いのかしら?」
暗い笑みを浮かべる少女。
「まあいいわ。仕上げはここからよ。『チビ』も戻ってきたことだし、強制退去させてやるんだから」
「グルゥウ」
そばで何か、大きな生き物が唸る声が聞こえてきた。
「あっ、あんたまた畑荒らしたの?」
「グルゥ!」
「きゃっ! ちょ、ちょっと、待て! 待てよ! チビ!」
がちん!
歯と歯が合わさる音。
少女はびっくりして、再び木から落ちてしまった。
「いったぁーい! あにすんのよ、このバカっ!」
チビと呼ばれた生き物は、不機嫌そうに鼻を鳴らすだけだった。
「……まあいいわ、あの駄犬をおびき寄せて、遠くへやってしまいましょう。バカそうだから、きっと戻っては来られないわ」
少女はお尻をさすって、立ち上がる。
「行くわよ!」
「ぐるぅ!」
大きな羽音が空に響いた。
◆
「それでね、ショコラ」
珍しく、ラグナルが真剣な眼差しでショコラを見つめていた。
机の上で手を組んだラグナルは、まるで部下に指令を与える上司のようだった。机の前できょとんと立っていたのは、ショコラなのだが。
「すごく基本的なことなんだけど」
「? はい」
「たとえば、差出人不明の手紙や、郵便物は、受け取らないか、受け取ったとしても僕のところに持ってきてほしい。たとえ君宛てだったとしても」
一昨日から続く不審な郵便物のことを言っているのだと、ショコラは目を瞬かせた。ヤマトやシュロも、同じことを言っていた。
「あと、知らない人についていくのも絶対にダメだよ。それが女でも男でも」
「はい」
「館から一人で離れるのも、ダメ。危ないから」
「分かりました」
ショコラは素直に頷いた。
一瞬、郵便物を勝手に開けたことをなどを叱れられるのかな、と思ったが、ラグナルは特に何も言わなかった。
それに、ショコラの持ち物がなくなったりと、なんだか変なことも続いているし、気をつけたほうがいいのかもしれない。
先ほどそのことについて相談したときも、ラグナルは眉を潜めていた。
「僕のせいで、ごめんね」
なくなったパジャマのことを考えていると、ラグナルがポツリとそう言った。
「え?」
ショコラはその意味がよくわからなくて、首をかしげた。
「どうしてご主人様が謝るのですか?」
「……ちょっとね」
ラグナルは適当にはぐらかすと、わかったならいいよ、と言って、例のごとくゆるゆるになった。
「お昼寝するから、そばにいて」
「はい」
いつも通り、ショコラはすうすうと寝入るラグナルを見届けてから、館の掃除に戻った。
一日の仕事を終え、ショコラは自室に戻って、お風呂の準備をしようとしていた。
「パジャマがなくなってる……」
もふもふパジャマは昨晩洗濯して、お昼頃にたたんでベッドの上に置いておいたはずだ。それなのに、ベッドの上には何もなかった。
「おかしいなぁ。またミルとメルがどこかにやったのかなぁ?」
ミルとメルは、よく人のものを隠したり、反対に邪魔なものを持ってきたりする。ショコラの場合、隠されるというよりも、部屋にいろんなものを勝手に持ち込まれることの方が多かった。ベッドの上のぬいぐるみたちがその例だ。ショコラの部屋であると同時に、ミルメルの部屋でもあるようなものなのだった。
「今日はもふもふじゃない方のパジャマをきよう……」
仕方なくそう呟くと、ショコラはお風呂に向かったのだった。
◆
次の日の朝。
ショコラが目を覚まして、ベッドを降りると、今度はもこもこスリッパがなくなっていた。
「……?」
目をこすって裸足で床に降りたショコラは、さらにいつも使っている仕事用の靴がなくなっていることにも気づいた。
「あれ……」
さすがに変だと思ったショコラは、朝食の席でミルメルに聞くことにした。
◆
「えー、パジャマ?」
「スリッパ?」
運良く、今朝は朝から朝食の席にミルとメルが揃っていた。
そこで二人に聞くと、二人は目玉焼きを食べながら、話半分な感じで首をかしげた。
「無くなったのは昨日の夜と今日の朝なんですけど……ショコラの大事なものなので、返して欲しいです」
そう告げると、二人は顔を見合わせた。
「えー、ミルやったっけ?」
「メルもしらない……やった?」
「ヤマトのパンツを隠したのは覚えてる」
「リリィの高級クリームを隠したのも」
「「うーん、忘れちゃった!」」
てへ、と舌を出す二人に、リリィとヤマトがカンカンに怒ったのは言うまでもない。
二人が怒っている間に、ショコラはうーんと首を傾げていた。
そこへシュロが、心配そうに声をかけてくる。
「ショコラさん」
「はい?」
「最近、おかしなことが続いていますから、しばらく外のお掃除はやめにしましょう」
「おかしなこと……」
思い当たるのは、差し出し人のない郵便物のこと。
(そう言われてみれば、やっぱりおかしいのかもしれない)
「それに、またヤマトを襲ったというワイバーンが目撃されたそうですから、しばらくは館の中で静かに暮らしましょう。外も寒いですし」
「……そうですね」
ショコラは素直に頷いた。
◆
朝食後、ショコラはラグナルを起こすまでに少し時間が空いていたので、自分の部屋に戻った。
パジャマはどこへいってしまったのかと、クローゼットをゴソゴソ漁る。
「!」
ショコラは驚いた。
「あれ? なんだか、まだ服が減ってるような……」
いつも着ている下着や、靴下、ワンピースがなくなっているではないか。
(……)
部屋に、誰かが入っていた、ということだろうか。
なんだか気味が悪いと思うような状況だ。
けれどショコラは、館の誰かがそんなことをするなんて思えなかった。
「もしかして、ショコラの頭がおかしくなっちゃった……?」
ショコラは口元を押さえた。
この間、テレビで若い人でもそういう病気になることがあると言っていたのだ。
「どうしよう……」
病院とかにいった方がいいのだろうか。
ショコラは不安そうにおろおろしながらも、結局解決策が見つからなくて、仕事へ戻ったのだった。
◆
「ふふふっ。ようやく気付いたかしら? まったく本当におバカなんだから」
ショコラの部屋のそばの木から中を覗いていた少女は、おかしそうにクスクスと笑った。
少女の考える「嫌がらせ」は地味すぎたが、ようやく効果が現れてきたようだった。
「まあ、ちょっと動揺の仕方が変だけど。あいつ……頭が弱いのかしら?」
暗い笑みを浮かべる少女。
「まあいいわ。仕上げはここからよ。『チビ』も戻ってきたことだし、強制退去させてやるんだから」
「グルゥウ」
そばで何か、大きな生き物が唸る声が聞こえてきた。
「あっ、あんたまた畑荒らしたの?」
「グルゥ!」
「きゃっ! ちょ、ちょっと、待て! 待てよ! チビ!」
がちん!
歯と歯が合わさる音。
少女はびっくりして、再び木から落ちてしまった。
「いったぁーい! あにすんのよ、このバカっ!」
チビと呼ばれた生き物は、不機嫌そうに鼻を鳴らすだけだった。
「……まあいいわ、あの駄犬をおびき寄せて、遠くへやってしまいましょう。バカそうだから、きっと戻っては来られないわ」
少女はお尻をさすって、立ち上がる。
「行くわよ!」
「ぐるぅ!」
大きな羽音が空に響いた。
◆
「それでね、ショコラ」
珍しく、ラグナルが真剣な眼差しでショコラを見つめていた。
机の上で手を組んだラグナルは、まるで部下に指令を与える上司のようだった。机の前できょとんと立っていたのは、ショコラなのだが。
「すごく基本的なことなんだけど」
「? はい」
「たとえば、差出人不明の手紙や、郵便物は、受け取らないか、受け取ったとしても僕のところに持ってきてほしい。たとえ君宛てだったとしても」
一昨日から続く不審な郵便物のことを言っているのだと、ショコラは目を瞬かせた。ヤマトやシュロも、同じことを言っていた。
「あと、知らない人についていくのも絶対にダメだよ。それが女でも男でも」
「はい」
「館から一人で離れるのも、ダメ。危ないから」
「分かりました」
ショコラは素直に頷いた。
一瞬、郵便物を勝手に開けたことをなどを叱れられるのかな、と思ったが、ラグナルは特に何も言わなかった。
それに、ショコラの持ち物がなくなったりと、なんだか変なことも続いているし、気をつけたほうがいいのかもしれない。
先ほどそのことについて相談したときも、ラグナルは眉を潜めていた。
「僕のせいで、ごめんね」
なくなったパジャマのことを考えていると、ラグナルがポツリとそう言った。
「え?」
ショコラはその意味がよくわからなくて、首をかしげた。
「どうしてご主人様が謝るのですか?」
「……ちょっとね」
ラグナルは適当にはぐらかすと、わかったならいいよ、と言って、例のごとくゆるゆるになった。
「お昼寝するから、そばにいて」
「はい」
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