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第3章 赤髪のルーチェ、襲来

ワイバーン

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「……っ!?」

 ショコラは驚いて息をのんだ。

「な、に……これ……!」

 立ち止まったショコラは、その巨大な生き物を見上げた。

「グルゥウウ」

 そこにいたのは、ルビーのように輝く鱗を持った、巨大なドラゴンのような生き物だった。
 しっぽまで含めれば、全長五メートル以上、高さは三メートルほどはある。

「ひっ……」

 ショコラは一歩一歩、後ろに下がった。
 そしてそのまま、しりもちをつく。
 こんな生き物は、人間界では見たことがなかった。

「どう? すごいでしょ、あたしのプライベート・ワイバーンは」

「わい……ばーん……?」

「竜の小型種よ。竜よりも俊敏で、小回りに長けているの。ちゃんと躾ければ、ペットとしても優秀なのよ」

 ルーチェは余裕そうにそう言って、真紅のワイバーンに近づいた。

「まだ、ちょっと言うこと聞かなくて、勝手にどっかいっちゃうときもあるけど」

「!」

 混乱する頭の中で、ショコラはここへ来たばかりのことを思い出していた。
 確かあのとき、リリィが野生のワイバーンが、里を荒らしている言っていた。
 そしてヤマトはそのワイバーンに噛まれて、怪我をしたのだと。
 最近、そのワイバーンのおかげか、モンスターが減ってきている。
 その代わり、畑の作物などが荒らされていて……。

「じゃあ、もしかして、最近この辺りを荒らしてるっていうワイバーンは……」

 気づいたショコラは真っ青になってしまった。

「あら、よく気づいたわね」

 ルーチェが鼻で笑った。

「そうよ。全部この子『チビ』がやったの」

(ぜ、全然チビじゃありません!)

 むしろデカです! とショコラは震え上がった。

「最初はね、ラグを連れて都に帰ろうと思ったの。でも、ラグってば、全然捕まってくれないんだもの。間違えて料理人の方を捕まえようとして、怪我させちゃったわけ」

「っ」

 ショコラは息をのんだ。

「ひ、ひどいです! ヤマトさん、二週間以上入院する、大怪我だったんですよ!」

「暴れるからよ」

 ふん、とルーチェは笑った。
 それから腰を抜かすショコラの横を突っ切って、巨大なワイバーンの頭を撫でる。

「この国で一番いい、血統書付きの子を、パパに買ってもらったの。だからこの子は、一番優秀な──」

「ガルゥウウッ」

「うひゃあっ!?」

 ルーチェの言葉を遮って、突然チビがその巨大な顎を大きく開けた。
 そしてルーチェに向かって、がぶりと噛み付く動作をする。
 間一髪のところで、ルーチェは飛び退いた。

「ちょ、チビ、何やって……」

 素人のショコラでもわかった。
 今のは明らかに、アマガミなんてものじゃないことを。

「グルゥウウ……」

 チビは低く唸り声を上げると、ドスンと音を鳴らして、一歩前に出た。
 ルーチェは顔を引きつらせながら、一歩、二歩と下がる。
 そしてショコラと並んだ。

「な、なんでチビ。あたしよ、ルーチェよ!」

「ガルゥぅっ」

「きゃああっ」

 固まるルーチェの手をショコラが引いた。
 再び間一髪のところで、ルーチェは地面に倒れる。
 ショコラは震えながら言った。

「さ、最近はモンスターもあらかた食べ尽くされたってききました……」

「……」

「この子、もしかして何も食べてないんじゃ……」

 ルーチェは真っ青になった。

「て、テレビで言ってたんです。どんなにかわいがっても、動物はお腹を減らしたら豹変するって……!」

 二人は顔を見合わせた。
 それと同時に、チビが咆哮を上げた。
 二人は死に物狂いで立ち上がり、林の外へ向かって、駆け始める。

「ひぃいっ! そんな、聞いてないわよぉっ!」

「し、自然の摂理ってやつですっ……」

「うぎゃああ!」

 ルーチェの長い髪が一瞬チビの歯をかすめたらしい。
 ルーチェは泣きじゃくりながら必死にかけた。
 が、もともと運動神経はそれほどよくなかったらしい。

 ショコラの後ろを必死に走るが、だんだんとスピードが落ちていく。
 顔も美人はどこへやら、涙やら鼻水やらよだれやら、いろんな液体を撒き散らして、大変なことになっている。
 ショコラもショコラで、逃げるので必死だった。

(せっかく……せっかく新しい生活に慣れてきたのに、こんなところで死ぬなんて嫌です!)

 ショコラの視界が涙で歪んだ。

(助けて、ご主人様……!)

 すると、ショコラの薬指にあった指輪が、じんわりと熱を帯びたような気がした。ショコラは気づいていなかったが、指輪は金色の光に包まれていた。

「待ちなさいよぉッッ」

「ぐひゃあっ!?」

 突然肩を掴まれ、ショコラは盛大に転ぶ。
 遅れを感じたルーチェが、ショコラの肩を強く掴んだのである。
 そしてルーチェもそれに巻き込まれ、二人はゴロゴロともみくちゃになって転がった。
 ショコラの意識は、ぱったりとそこで途絶えてしまったのだった。

 ◆

「いた……何すんのよあんたっ!」

 起き上がってルーチェが怒鳴っても、ショコラの反応はない。
 見れば、ショコラは地面に頭をぶつけて、完全に目を回していた。

「ふにゃ……」

「ちょっとーーッ!?」

 気を失ってしまったショコラに、ルーチェは絶望する。
 振り返れば、もうチビは目の前にまで迫っていた。

「何気絶してんのよぉ! 私の盾になりなさいよッ!」

 何を叫んでも、ショコラは目を覚まさない。
 そしてついに、その凶暴な生き物は、二人に襲い掛かった。

「いやああああああ!」



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