悪役令嬢と七つの大罪

美雨音ハル

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プロローグ

モノクロの少女①

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「オルガレム公爵令嬢ロザリア=リンド、今日この時この場を持って、お前には学園を退学してもらおう!」
 
 真夜中。

 とある魔導学校の戦闘訓練場に響く、威風堂々とした少年の声。
 少年は訓練場の中央に立ち、一人の少女に向かって指を突きつけていた。

 一方、指を突きつけられた少女──オルガレム公爵令嬢ロザリア=リンドは、無表情で少年を見つめていた。

 腰まで届く白の髪に灰色の瞳をした血の気のないその少女は、漆黒のバトルドレスのせいもあってか、人形のように不気味に見えた。
 
 ロザリアの背後には、怪我をした一匹の大きな白い狼がいる。
 狼はくぅん、と不安げな声をあげて、ロザリアを見上げていた。
 ロザリアはその白い狼を守るように、ただ静かにそこに立つ。

 少年のそばには、おどおどとした金色の髪の少女が立っていて、不安そうな様子で二人を交互に見ていた。
 訓練場に立つ三人の少年少女たちと、一匹の白い狼。
 訓練場の観客席から、大勢の生徒たちが好奇の眼差しを向けていた。

「平民が邪魔だからといって、このアリスに危害を加えようとしたそうだな」

 アリスと呼ばれた少女はびく、と肩を震わせて、少年の影に隠れた。

「アリス、そうなんだよな?」

「っわ、わたし……」

 アリスの澄んだ青い瞳には、涙がたまっている。
 否定も肯定もしなかったが、ふるふると震えるその姿は、それを肯定しているかのようにも見て取れた。
 
 観客席にいた生徒の中には、アリスに哀れみの視線を向けるものもいた。
 反対に、怒りを込めてロザリアを睨みつける生徒もいる。

「いつも一人でいるお前を気にかけて面倒を見ようとしたアリスに、お前は平民だからという理由で数々のいじめをし、さらにはその狼の魔獣でアリスを襲おうとした!」

「……」

「この仕打ちのなんたることか! お前という女には、道徳心のかけらもないのか!?」

「……」

 ロザリアは無表情にその話を聞いていた。
 石のように動かぬ彼女にしびれを切らしたのか、少年は眉をひそめて言う。

「なんの申し開きもないということは、アリスいじめを認めるのだな?」

 ロザリアはアリスに視線を向けた。
 アリスはびく、とふるえ、うつむく。

「……もういい。アリスがかわいそうだ。アリス、下がってろ」

 少年はアリスと呼ばれた少女にそう声をかけると、アリスの背をぐい、と押して、訓練場から出した。階段を降りたアリスは、不安げに訓練場を見上げた。

「お前がかばう魔獣が何よりの証拠だ。学園にそのようなものを侵入させるなど、正気の沙汰ではない。観念してそいつを引き渡せ。そして学園から去るがいい」

 それから少年は暗い笑みを浮かべた。

「兄二人を殺してまで、公爵家当主になりたかったようだが、残念だったな。蓋を開けてみれば、お前は『武具』の召喚もできない、ただの無能だった。神はよく人を見ておられるよ」

 初めてロザリアは眉を動かした。
 血のように赤い唇が、小さく開きかけた時。
 ロザリアの反論を封じるかのように、訓練場の外から何かが飛んできた。
 それはロザリアはこめかみに勢いよくぶつかる。

「ッ」

 ロザリアはよろめいた。
 ひどい痛みを感じてこめかみに手を当てれば、ぬるりとした感触。
 みれば、血が出ていた。
 地面にごろりと転がり落ちたそれは、手のひらサイズの石だった。

「この人殺し!」

 甲高い罵倒の声。
 こめかみを押さえたまま、ロザリアは石が飛んできた方向を見る。
 そこには幾人かの女性たちが固まっていて、ロザリアに憎悪の眼差しを向けていた。

「ユーイン様は、ユーイン様はあんたのせいで……!」

 中でも、ロザリアをきつく睨んでいたのは、茶色の髪の女生徒だった。
 きっと彼女が石を投げたのだろう。

「あんたなんか、死んじゃえばいいんだ!」

「あなたのお兄様は、あんなに心根が美しかった人たちだったのに!」

「グレン様、もっとこの女に罰を!」

 その罵倒を聞いて、ロザリアの後ろにいた狼が、グルル、と牙をむいた。ロザリアはそれをそっとなだめる。
 少年──グレンは、頷いて、ロザリアを見つめた。

「王子であるこの僕、グレン・バルハザードの前で、悪事は許さん。お前には学園を退去してもらうと同時に、王宮での取り調べを受けてもらおう」

 一言も発さないロザリアを見て、グレンは鼻で笑った。

「それとも何か。お前が無実だというのなら、ここで僕と戦うか? そうだな、お前が勝ったら、無実を認めてやってもいいが」

 失笑が起こった。
 その場にいる誰もが、ロザリアの負けを信じて疑わないようだった。
 それは、蔑むという言葉が一番ピッタリな笑い声だろう。

「『武具』の召喚もできない君には、ここに立つ資格もない。さあ、マリア、ディーナ! その化け物ともども、ロザリアを捕らえろ!」

 グレンがそう告げた瞬間、先ほどロザリアを罵倒してきた女生徒のうち、二人がふわりと観客席から飛び降りて、こちらへとやってきた。
 そして女生徒たちはロザリアの腕をそれぞれひねり上げると、華奢なその体を地面にねじ伏せる。

 ロザリアは強く顔を地面に押さえつけられたまま、唇を噛んだ。
 地面に押さえつけられるロザリアの前で、グレンが言った。

「やはり、公爵の血が入っているとはいえ、所詮は妾腹の子か」

 押さえつけられながら、ロザリアは思わず顔を上げた。

「一体どんな恥知らずな母親だったのか……」

 マリアと呼ばれた女生徒が吐き捨てるように言った。

「汚らわしい、売女の子どもが、ユーイン様の代わりになんてなれるわけないじゃない」

「ッ」

 その言葉は、ひどくロザリアを傷つけた。



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