21 / 43
本編
第19話 アリスの心配事
しおりを挟む
「他の子供たちも、シスターも一緒だったし、そんなにさみしくなかった。でもね、やっぱりすんごい貧乏だったんだよね、うちの孤児院」
院長先生がいい人でさ、とアリスは続けた。
「どんな子どもも引き取るの。だからいつも孤児院は人でいっぱい。でもお金は全然ないの」
ロザリアは自分とは全く違う境遇の、それでもどこか自分と似ている部分を持つ少女の話に耳を傾けた。
「だから私ね、将来魔導士になって、いっぱいお金を稼ぐんだ! それでお金持ちになるのが夢なの! 魔導士って、女性でも活躍できる職業だからさ!」
そしたら、孤児院の人たちにももっといい環境を用意してあげられるし! と意気込んでいう。
「お金を稼げるなら、ちょっとくらい辛いことがあったって、頑張れる。お金のため! って思ったら、力も湧いてくるわけ!」
意外なアリスの告白に、ロザリアは目を丸くした。
「……なんて、やっぱり不純すぎるよね」
えへへ、とアリスは頬をかいて笑った。
「……ううん、そんなことない」
ロザリアは首を振った。
「私なんかより、ずっと立派だわ。アリスは……アリスはすごいわ」
ロザリアは心から思った。
この子は、なんて強い子なのだろう、と。
アリスは照れたように笑った。
「えっと、それでね、私が何を言いたいかっていうと……別に目的がなんだろうが、それは個人のかってというか、好きにすればいいんじゃないかなって」
アリスはそういって笑った。
「幸いなことに、この学園に逃げ込んだら、六年はでられないからさ。時間なんていくらでもあるし。悩む時間だけなら、いっぱいあるよ」
「きゅん!」
「ほら、真白も言ってる」
子犬は何も知らずに、しっぽを振り回して、ロザリアの頬をなめた。
「っくすぐったい……」
ロザリアはアリスの話を聞いて、少しだけ元気が出た。
「それに、あんなひどい人たちのことで悩むなんて、時間の無駄! もっと楽しいこと考えよう」
そういってアリスは笑った。
ロザリアも、こくんと頷いた。
「ありがとう、アリスちゃん。ちょっと元気でたよ」
「……そっか。ならよかったよ」
ほっぺを舐めてくるもふもふ犬を引き離して、ふとつぶやく。
「それにしても……この犬、なんだか変じゃない?」
ロザリアがそうつぶやくと、アリスはぎく、と身を強張らせた。
「手足が大きいし、前よりかなり大きくなってるような……?」
そうなのだ。
前回みたときよりも、明らかに真白の体が大きくなっている。
子犬の成長は早いといえども、なんだかこの成長スピードはおかしい。
だって、もう子犬とは思えないほどに大きくなっているのだ。
しかも足が大きくて、爪も鋭いような……。
顔も狼みたいに鋭くなってきたし……。
「それに、なんだか背中がおかし……」
ロザリアはぎょっとしてしまった。
真白の背中がなんだかぼこっとしているな、と思っていたら、その部分に翼のようなものが生えていたからだ。
「え!? なんか生えてる!?」
ロザリアが驚いていうと、アリスがきまづそうに指と指を突き合わせた。
「それが……なんだかこの子、成長スピード異常だし、背中に翼があるしで、なんか普通の犬じゃないっぽいんだよね……」
確かに、犬に翼は生えない。
ロザリアは重くなった真白を抱きながら、なんとも言えない気持ちになった。
「もしかしてこの子って……」
この先は言いたくない。
アリスも同じようだった。
「まあ、もうちょっと大きくなってから考えようかな、なんて……」
はは、と乾いた笑みをこぼす。
「魔獣、なんじゃ」
「言わないで~!」
アリスは耳を塞いでぶんぶん頭を振る。
「でも魔獣だったら、早く先生に言わないと」
「だって、そんなことしたら処分されちゃうかもだよ……」
「確かに」
魔獣というのは、普通の獣よりも知能や攻撃力が高い獣のことだ。人々が魔力を持つように、動物たちの中にも生れながらにして魔力が高いものがいる。そういう動物は、大抵はずる賢くなり、人を襲って食べ物などを奪おうとする。
調教次第では、人の良きパートナーになることもあるので、魔獣が出たらまずは魔獣管理局に報告しなければならないのだ。
そこから処分するかどうか決まるらしい。
「なんとか隠して、休みの日にどこか遠くへ逃がしにいく……?」
「そ、そうだよね」
アリスは真白と離れるのがよほど辛いらしく涙目になっている。
「きゅぅううん?」
真白はしっぽを振って、首を傾げていた。
「ま、まあ、また今度考えよう」
ロザリアは慰めるようにアリスにそういった。
「そだね……」
ロザリアに、また心配事が増えてしまったのだった。
院長先生がいい人でさ、とアリスは続けた。
「どんな子どもも引き取るの。だからいつも孤児院は人でいっぱい。でもお金は全然ないの」
ロザリアは自分とは全く違う境遇の、それでもどこか自分と似ている部分を持つ少女の話に耳を傾けた。
「だから私ね、将来魔導士になって、いっぱいお金を稼ぐんだ! それでお金持ちになるのが夢なの! 魔導士って、女性でも活躍できる職業だからさ!」
そしたら、孤児院の人たちにももっといい環境を用意してあげられるし! と意気込んでいう。
「お金を稼げるなら、ちょっとくらい辛いことがあったって、頑張れる。お金のため! って思ったら、力も湧いてくるわけ!」
意外なアリスの告白に、ロザリアは目を丸くした。
「……なんて、やっぱり不純すぎるよね」
えへへ、とアリスは頬をかいて笑った。
「……ううん、そんなことない」
ロザリアは首を振った。
「私なんかより、ずっと立派だわ。アリスは……アリスはすごいわ」
ロザリアは心から思った。
この子は、なんて強い子なのだろう、と。
アリスは照れたように笑った。
「えっと、それでね、私が何を言いたいかっていうと……別に目的がなんだろうが、それは個人のかってというか、好きにすればいいんじゃないかなって」
アリスはそういって笑った。
「幸いなことに、この学園に逃げ込んだら、六年はでられないからさ。時間なんていくらでもあるし。悩む時間だけなら、いっぱいあるよ」
「きゅん!」
「ほら、真白も言ってる」
子犬は何も知らずに、しっぽを振り回して、ロザリアの頬をなめた。
「っくすぐったい……」
ロザリアはアリスの話を聞いて、少しだけ元気が出た。
「それに、あんなひどい人たちのことで悩むなんて、時間の無駄! もっと楽しいこと考えよう」
そういってアリスは笑った。
ロザリアも、こくんと頷いた。
「ありがとう、アリスちゃん。ちょっと元気でたよ」
「……そっか。ならよかったよ」
ほっぺを舐めてくるもふもふ犬を引き離して、ふとつぶやく。
「それにしても……この犬、なんだか変じゃない?」
ロザリアがそうつぶやくと、アリスはぎく、と身を強張らせた。
「手足が大きいし、前よりかなり大きくなってるような……?」
そうなのだ。
前回みたときよりも、明らかに真白の体が大きくなっている。
子犬の成長は早いといえども、なんだかこの成長スピードはおかしい。
だって、もう子犬とは思えないほどに大きくなっているのだ。
しかも足が大きくて、爪も鋭いような……。
顔も狼みたいに鋭くなってきたし……。
「それに、なんだか背中がおかし……」
ロザリアはぎょっとしてしまった。
真白の背中がなんだかぼこっとしているな、と思っていたら、その部分に翼のようなものが生えていたからだ。
「え!? なんか生えてる!?」
ロザリアが驚いていうと、アリスがきまづそうに指と指を突き合わせた。
「それが……なんだかこの子、成長スピード異常だし、背中に翼があるしで、なんか普通の犬じゃないっぽいんだよね……」
確かに、犬に翼は生えない。
ロザリアは重くなった真白を抱きながら、なんとも言えない気持ちになった。
「もしかしてこの子って……」
この先は言いたくない。
アリスも同じようだった。
「まあ、もうちょっと大きくなってから考えようかな、なんて……」
はは、と乾いた笑みをこぼす。
「魔獣、なんじゃ」
「言わないで~!」
アリスは耳を塞いでぶんぶん頭を振る。
「でも魔獣だったら、早く先生に言わないと」
「だって、そんなことしたら処分されちゃうかもだよ……」
「確かに」
魔獣というのは、普通の獣よりも知能や攻撃力が高い獣のことだ。人々が魔力を持つように、動物たちの中にも生れながらにして魔力が高いものがいる。そういう動物は、大抵はずる賢くなり、人を襲って食べ物などを奪おうとする。
調教次第では、人の良きパートナーになることもあるので、魔獣が出たらまずは魔獣管理局に報告しなければならないのだ。
そこから処分するかどうか決まるらしい。
「なんとか隠して、休みの日にどこか遠くへ逃がしにいく……?」
「そ、そうだよね」
アリスは真白と離れるのがよほど辛いらしく涙目になっている。
「きゅぅううん?」
真白はしっぽを振って、首を傾げていた。
「ま、まあ、また今度考えよう」
ロザリアは慰めるようにアリスにそういった。
「そだね……」
ロザリアに、また心配事が増えてしまったのだった。
5
あなたにおすすめの小説
婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです
藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。
家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。
その“褒賞”として押しつけられたのは――
魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。
けれど私は、絶望しなかった。
むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。
そして、予想外の出来事が起きる。
――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。
「君をひとりで行かせるわけがない」
そう言って微笑む勇者レオン。
村を守るため剣を抜く騎士。
魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。
物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。
彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。
気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き――
いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。
もう、誰にも振り回されない。
ここが私の新しい居場所。
そして、隣には――かつての仲間たちがいる。
捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。
これは、そんな私の第二の人生の物語。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
悪役令嬢の私、計画通り追放されました ~無能な婚約者と傾国の未来を捨てて、隣国で大商人になります~
希羽
恋愛
「ええ、喜んで国を去りましょう。――全て、私の計算通りですわ」
才色兼備と謳われた公爵令嬢セラフィーナは、卒業パーティーの場で、婚約者である王子から婚約破棄を突きつけられる。聖女を虐げた「悪役令嬢」として、満座の中で断罪される彼女。
しかし、その顔に悲壮感はない。むしろ、彼女は内心でほくそ笑んでいた――『計画通り』と。
無能な婚約者と、沈みゆく国の未来をとうに見限っていた彼女にとって、自ら悪役の汚名を着て国を追われることこそが、完璧なシナリオだったのだ。
莫大な手切れ金を手に、自由都市で商人『セーラ』として第二の人生を歩み始めた彼女。その類まれなる才覚は、やがて大陸の経済を揺るがすほどの渦を巻き起こしていく。
一方、有能な彼女を失った祖国は坂道を転がるように没落。愚かな元婚約者たちが、彼女の真価に気づき後悔した時、物語は最高のカタルシスを迎える――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる