悪役令嬢と七つの大罪

美雨音ハル

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本編

第37話 助けを求めるものの声

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「特になし、だ」

 その言葉に、ロザリアははっと顔を上げた。

「え……?」

 思わず、二人は間抜けな声を上げる。

「事情は大体把握している。お前の部屋にあったこれも押収済みだ」

 ロイルは石に巻かれた手紙を机においた。
 それはロザリアを訓練場におびきよせるために使われた、あの手紙だった。

「せ、先生、私の話を信じてくださるのですか?」

 アリスは事前に事情聴取を受けていたらしい。
 信じられないといったように、ロイルを見る。

「それだけではない。ほかの生徒からもあらかた事情は聞いている」

 そういえば、あの場には多くの生徒がいたのだった。

「あまりにも、グレン・バルハザードの行いは浅はかで愚かだった」

 ロイルはため息をつく。

「この学園では、権力も、何もかもが通用しない……無論、在学中は、だが」

 卒業してからは知らぬ、ということである。
 もちろん公的には、卒業後も学園内でのことを持ち出して脅迫などに使うことは禁じられている。

「私の目の届く範囲までだ」

 ロイルはぽつりと呟いた。

「私の目の届く範囲までは、生徒をできる限り守ろう」

 その憂いを帯びた視線は、何か言いたげにロザリアを捉える。

「……?」

「……お前の破壊した訓練場については、一部の修復紋を再修正すれば直ることになっている」

「!」

 ロザリアは驚いた。

「直るのですか!」

「当たり前だ。お前のような無茶をするものがこの学園には多くいるからな」

 若干嫌味の混じったその言葉にう、となりつつも、ロザリアはほっとした。
 実家に請求が行くわけでもないらしい。

「グレン・バルハザードとその他の赤寮のものについては、現在処分を検討中だ。退学もありうる」

「!」

 退学。
 ロザリアではなく、グレンたちが。

「彼らは学園で最も恥ずべき行いをした」

 根拠のない噂を信じ、正義の名の下へ私刑を下そうとした第四王子。
 そしてそれを支持した令嬢たち。
 彼らはあまりにも愚かだった。

「この学園では、身分など関係ない」

 ロイルははっきりとそう言った。

「以上だ。私は疲れた。追って連絡事項はあるだろうが、今日はここまでとする」

 ロイルはそれだけいうと、ため息を吐いた。

「ロザリア・オルガレム以外は下がれ」

(え……)

 ロザリアは固まった。
 アリスは心配そうにロザリアを見たが、ほかの教師に促されて校長室を去った。
 ロザリアはロイルと二人になる。

「ひとつだけ、言いたいことがあった」

「え?」

 ロイルは突然そう切り出した。

「助けを求めるものの声に、私は、そしてこの学園は耳を傾けるだろう」

「……」

「例えば、そう……お前の中にいるもののように」

「!」

 ロザリアは目を見開いた。

 どうして、それを。

「案外、お前の味方は近くにいるのだということは覚えておきなさい」

「私……」

「それは見えないだけでそばにいるかもしれない。これから出会うのかも。だから、諦めるな」

 ロザリアは言葉をなくしてしまった。
 ショックを受けたというよりも、この少年に全てを見透かされて、少し安心したのだ。

「私はあくまでこの学園の代表だ。だから生徒の家庭の事情に突っ込むようなことはできない。だがもしも助けを求める声があれば、そのときはその声に耳を傾けるだろう」

 ロイルはそう言って、微笑んだ。
 どうしてかロザリアは泣きそうになって、顔を歪めた。
 それからこく、と頷いて、少し目元をこする。
 最近、泣いてばかりだ。

「もう行ってよろしい」

「はい」

 ロザリアは頭をぺこりと下げると、部屋を出た。
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