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本編
第39話 謝罪
しおりを挟むグレンたちの処分が決まった。
停学処分だった。
それも一週間や二週間ではない。
一年間だ。
彼らは来年、もう一度三年生としてスタートするらしい。一年留年したのと同じことになる。
ロザリアはあまりにも厳しい対応に驚いてしまったが、全ては決定事項なので覆すことはできないということだった。
あの事件からひと月近くが経ち、ロザリアはもう、心の落ち着きを取り戻しつつあった。
あれからいくつか、いい方向に変わったことがあった。
「おはよう、今日もいい天気だね」
「おはよ~」
ロザリアが寮の部屋から談話室に降りると、そう言って声をかけてくれる黒寮の生徒たち。
「お、おはよう」
ロザリアもせいいっぱい、表情を和らげて返事をする。
あの事件があってからというもの、ロザリアに辛く当たったり、悪い噂を流したりという生徒が一気にへった。
相変わらず、一部の生徒にはなぜか恐れられているようだったが、黒寮の生徒には仲間として迎え入れられた。
あの事件の発端が、赤寮の生徒たちのせいということもあったのだろう。
学園は寮での結束感が強い。
赤寮の生徒たちが束になってロザリアを襲ったことは、やはり黒寮の生徒たちの感に触ったのだろう。
きっかけはそれだったが、少しずつ会話をかわしていくうちに、ロザリアがそう悪い人でもないということに、皆気づいていったようだった。
ただ顔が怖いだけで、ロザリアはただの内気で人見知りな女の子なのだ。別に恐れるものなど、何一つない。
寮の談話室は、ロザリアにとって以前よりもずっと居心地のいい場所になった。別に誰かとべったり一緒にいるわけではないが、ときどき話しかけたり、お菓子をくれたりする人がいる。
勉強を見てくれたり、わからないことを教えてくれる人も。
ロザリアはようやく、寮を居心地のいい場所と思えるようになってきた。
「オルガレム嬢、少しいいだろうか」
「?」
ロザリアがソファに座って本日の授業を確認していると、声をかけてくるものがいた。
銀色の髪に、冷たいアイスブルーの瞳。
そして恐ろしいまでに整った顔立ち。
それは黒寮の談話室でもめったに見かけない、第三王子レイ・リムリス・バルハザードだった。
ロザリアはぎょっとしてしまった。
周りの生徒たちも、レイが珍しく人に話しかけている様子に、興味津々なようだ。
「あの……」
ロザリアが冷や汗をかいていると、手招きされた。
「こちらへ」
王家の者に逆らえるはずもなく。
ロザリアは呼ばれるまま、レイの後をついていった。
◆
「弟が、本当に申し訳ないことをした」
さらさらとした髪が、レイの頬をつたって地面の方へ落ちていく。
レイはロザリアに頭を下げていた。
「あ、あの、やめてください……」
ロザリアは慌ててそれを止める。
身分の高い者に、ましてや事件を起こした張本人でもない人にそんなに謝られたって、こちらが悪い気分になってしまうだけだ。
ロザリアとレイは、寮の裏庭に立っていた。
レイは何を話し出すかと思えば、ロザリアにこのように謝罪し始めたのだ。
「弟は今、城から出られない。父上を怒らせてしまったからだ」
「……」
ロザリアはひ、と息を飲んだ。
父上とはすなわち、オルガレム王のことである。
今回の件に関して、ロザリアは王家から何もお咎めをうけることはなかった。反対に、王家を守護する四大公爵の跡取り娘に危害を加えたとして、グレンはかなり絞られたようだった。
オルガレム公爵は王宮に呼ばれ、謝罪を受けたらしい。
本当はロザリアも呼ばれていたのだが、体調不良だの忙しいだのと理由をつけて、邸には帰らなかった。
公爵の娘という身分が、ロザリアを救ったといえよう。まあ、その身分のせいであのようなトラブルに発展したわけだが。
「本当に、もういいので……」
ロザリアがそういうと、レイはようやく顔を上げた。
薄氷のような凛とした視線が、ロザリアを貫く。
ロザリアはぎく、として、一歩下がった。
「当事者ではないが、やはり血の繋がったものとして、一度謝罪しておきたかった。それだけだ」
なぜかレイはじっとロザリアを見つめていた。
「あの、私は本当に気にしていないので、それじゃあ……」
ロザリアがいそいそと立ち去ろうとすると、ガッと腕を掴まれた。
(えっ)
なぜか引き止められる。
ぎょっとしてレイの顔を見ると、彼はじっとロザリアの瞳を見つめていた。
「……いつも、訓練場の隅にいたな」
「え……」
「たまに、見ていた」
レイが何を言いたいのかがわからなくて、ロザリアは混乱してしまった。
邪魔だったのだろうか?
「す、すみません……」
ロザリアは思わず謝罪してしまった。
「……いや、すまない。違うんだ。俺が勝手に君を見ていた、という意味だ」
「は、はあ」
レイはロザリアの手を離した。
「魂装武具の召喚に手こずっているようだったから、何度か声をかけようとしたんだ」
「あ……」
レイはそういって、眉を寄せた。
「同じ寮の先輩として、声をかけるべきだった」
「い、いえ。大丈夫です。私の問題ですから。それにもう、召喚できるようになったんです」
ロザリアはそういって、少しだけ嬉しそうに笑った。
「! そうだったのか」
「はい」
レイは相変わらず何を考えているのかわからないよう目で、ロザリアを見つめた。
「弟が犯した過ちの分、君に幸せが訪れるように」
「?」
レイは何かをロザリアの手に握らせる。
「……時間をとらせてすまなかった。それじゃあ」
「え、あの……」
ロザリアの引き止める声も聞かず、レイは去っていしまった。
その背中をぽかんと眺めてから、ロザリアは自分の手元に目を落とす。
「!」
ロザリアの手にあったのは、可愛らしい白い巾着だった。
キラキラとした刺繍で、花や猫の柄が描かれている。
中を開けると、コロコロとしたキャンディが入っていた。
「……」
ロザリアはほっと息をついた。
なんだかよくわからないが、レイは悪い人じゃなさそうだ。
今度、もう一度話しかけてみよう、とロザリアは思ったのだった。
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