格言パラドックス

kacang

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事件を整理

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 放課後、一組理科委員はトノと飼育委員の話し合いに勝手に参加することにした。理科委員の活動と題したので、居残りすることに関しては尾場先生に許可を取った。
「香蓮、今日は理科委員の活動で、ちょっと残るね」
「何するの?」
「ラテと真犯人探し」
「真犯人ってことは、仮にでも犯人がいるの?」
「トノが容疑者にされてるんだって」
「トノが、なんで?」
「夢の講演会の時間、つまりウサギ失踪時刻に、トノがウサギ小屋の方に行くところを見た人がいる」 
 わたしは刑事のノリでそれっぽい口調で言った。
「え? わたしその時間のちょっと前に、反対方向に行くトノを見たよ」
「どういういこと?」
「体育館に行くの三組からだったじゃん。廊下に並んでる時、窓から外見たらトノが中庭を歩いてた。それで何か見つけたみたいで、校門の方に走ってたよ」
 廊下の教室から見える中庭は、昇降口を挟んでウサギ小屋と反対方向。ウサギ小屋に行く人がその道をわざわざ通らない。そして校門に走っていった?
 仮にその後にウサギ小屋に向かったとしても、教室に戻ってわたしらと一緒に講演会に参加してた宇野君が、トノが行くところをなんで見られるの? 有島君から聞いた時は何の疑問にも思わなかったけど、いろいろおかしいことに気づいた。
「犯人捜し、香蓮も一緒に参加して」
「いいの?」
「宇野君の証言より信用できる」

 有力な証言者を連れて二組の教室に向かうと、飼育委員の三人と隅田先生がいた。
 トノは来るのか確認しようとすると先に聞かれた。
「仲井さん、卜野君、見なかった?」
「いえ」
「逃げられたわ」
「俺の気が向かなかったんですか、ね」
 隅田先生は眉間にしわを寄せてうなずいた。
 トノがいない方が逆に都合がいい気がしてきした。取引できる。
「あの、明日、絶対トノを連れてきますから、今の時点で分かってること、この一組理科委員に教えてくれませんか」
「別にいいけど、どうして?」
「理科委員の活動として、ウサギの捜索を手伝いたいんです」
「理科委員、とくに活動することがないので手伝わせてください」
「ウサギは生物、理科の範囲ですよね」
 有島君と真姫ちゃんが、もっともらしいことを付け加えてくれた。
「絶対連れてくるって、花凪ちゃんってトノ君と付き合ってるの?」
 菜奈ちゃんがものすごい勘違い質問を飛ばしてきた。
「は? 違うよ」
「じゃあ、なんで連れてこれるんだよ」
 宇野君が冷やかすように言ってきた。
「トノが仲井さんのこと好きだからか。自分のお願いなら聞くと思ってる」
 井口君がさらにわけのわからないこと言う。
 男子二人は、ヒューヒューとか言ってカップルを冷やかすノリで笑ってる。
 ムカつく。バカ小学生男子。
 同じ年の男女で仲がいいと「好きなのか」とかすぐ言う、おじさんおばさんみたい。なんでそんな狭い世界で決めちゃうのよ。
 ってか、トノと付き合うって。
 ないないないないないないない。
「バカじゃないの」
 わたしが反論する前に真姫ちゃんが言い放った。本当にこういうの嫌なんだけどという顔している。その視線に男子は黙った。
 ちょっとスッキリした。ありがとう真姫ちゃん。
「あのね、ただの幼なじみだけど、トノのお姉ちゃんに信頼されてるの。トノの扱い方が上手いって」
「そうね。じゃあ、卜野君のことは仲井さんにお願いしましょう」
 トノを扱い方の難しい動物かのように言うと、みんななぜか納得した。トノの世話係みたいな時期もあったからなあ。何度忘れ物を届けてあげたか。
「お任せ下さい。なので、教えて下さい。ウサギがいなくなった事に関して」
 机を三つずつ向かい合わせにして座った。
 なんか飼育委員vs理科委員みたいな配置になってしまった。
 隅田先生は、蟹江先生から聞いたという話を整理しながら説明した。
 2時間目が終わった休み時間に一組の飼育委員が餌やりに来て、3、4時間目は体育館で講演会があった。そのあと給食で昼休み。おそらくラテがいなくなったのは講演会から給食の時間ではないかと思われる。でも給食の時間外に出てる人はいなかった。と。
「それで、ひとつ考えられるのが、カギが開いてたから、ラテが自分で出ていちゃったんじゃないかって」
「それって、おれらがカギをきちんと閉めなかったせいってことですか」
 宇野君が怖い顔で聞く。
「可能性として」
「おれ、ちゃんと閉めたよ。なあ」
 宇野君が井口君と菜奈ちゃんに同意を求める。
「ああ」
「う、うん」
 菜奈ちゃんはいなかたくせに。とお腹の中でつぶやきつつ真姫ちゃんを見た。
 真姫ちゃんは宇野君を鋭い視線で見ていた。
「それにさ、見たよな。トノがウサギ小屋行くところ、な」
「見た、うん。見た」
「うん・・・・・・」
 なんか二人は見ていないような反応。
「それ、何時くらい? 香蓮も見たんだよね?」
 わたしは台本でもあるかのように、香蓮に証言させるような台詞を言った。
「うん。3時間目始まったぐらいに廊下の窓から、中庭歩いてるトノ見たよ」
「あ、じゃあその前だよ。昇降口の所で見たんだ」
「昇降口じゃ、ウサギ小屋に行くかどうかまだ分からないよね」
 有島君がマジメにツッコむ。
「でも、トノがウサギ小屋に行ってみるみたいなことって言ったんだ」
「どうして?」
「知らねーよ」
 宇野君は有島君に怒った。
 確かに知らないよね。でも、そんなに怒らなくても。
 でもトノ、そんな犯人っぽい言葉を残してたの? なんで。
「あ。オレは、どうだろう。あ、言われてみればトノは中庭の方に行ったかも。宇野より先に昇降口行ったし、オレはトノの声聞いてない」
 井口君は意見を変え、香蓮を見た。香蓮の意見に賛成しているような感じになり、宇野君は裏切られたかのような表情をした。
「あたしは、えっと、多分、トノ君がウサギ小屋に行ったと思う」
 菜奈ちゃんはきっとウソをついてるからか、ハッキリ「見た」とは言わない。正直、ここで菜奈ちゃんの意見は無視していいと思ったから詳しく聞くのはやめた。
「そうなんだ」
 真姫ちゃんが納得したように言った。
何に対して「そうなのか」わたしには分からない。
「それで卜野君に確認したかったんだけどね。別に疑ってる訳じゃないのに、脱走したこと怒られると思ってるのよね」 
 隅田先生がため息をつきながら言う。
 いや、何か真実が隠れている気がする。
「分かりました。じゃあ、これをトノに伝えてちゃんと説明しろって言っておきます」
 わたしはトノの弁護人のような気持ちで言った。
 みんな何かを隠しているようだった。
 でも一番隠しているのはトノなので、とりあえずトノに話を聞いてからじゃないと始まらないのかなと思う。
 ラテは今日も見つからない。
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